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明日世界が終わります。  作者: 成浅 シナ
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2リストラ

こんな世界の終わりも悪くない。



...なんて思っていたのに次の日はあっさりやって来て、また次の日もやって来て...を繰り返すことはや1ヶ月。


世界終わんないじゃん!



ここで「やっぱり地球が終わるなんて言ったの勘違いでした、てへっ」なんて発表されれば良かったのだがやはりいずれその瞬間は訪れるらしい。


原因も世界が終わる日もはっきりしないまま、ただ混乱や不安が人々を支配する。


今日も今日とてニュースではNASAや宇宙研究関連施設、国会や市役所にいたるあらゆる施設に人が押し寄せ「どうなるんだ」「どうにかしろ」と喚いている。


これから滅ぼそうとしている相手は隕石だし、そもそも人の関与が出来ない宇宙の話だ。


それを人にどうにかしろと言われてもどうしようもない。



詰め寄っている人々も分かっているんだろうが誰かに当たらないと気が済まないのだろう。


バカだなぁ、と思いつつテレビの電源を切る。


そしてまるで世界の終わりなんて他人事のように、俺は1年着続けたくたびれてきたリクルートスーツに袖を通し家を出た。





株式会社三輪商事(かぶしきがいしゃみわしょうじ)


知っている人は知っている程度の中堅企業だ。


家の近くだったからと選んだこの会社に就職して1年。新人と呼ばれる期間も過ぎちょっとずつ仕事にも慣れてきたかなと思ってきたところだった。


この先も無難に成果を上げ、会社を担う中堅所になっていくんだろうなと思っていたのだがこれだ。



この日。

職員用の入口を潜ると普段と違う空気にすぐ気づく。


いつもならこの時間は既に出社している人も多いのだが今日はやけに少なかった。出社している人も二、三人で集まって神妙な面持ちで何やら話をしている。その話題は十中八九アレのことだろう。



「おはようございます」


自分のデスクの傍で話していたその集団にいつも通り挨拶すると何故かビクッと肩を震わせ振り返られた。


「あ、ああ。才原(さいばら)くんか。」


会社の中堅所である去年世話係だった先輩が疲れきったような顔を向けてきた。


「出社して大丈夫だったの?」


先輩の隣にいた女性社員がそう聞いてくる。


その問いに反射的に「えっ」と声を出してしまった。


社畜らしく真面目に出社してきた社員に対してそれはない。


何?来ちゃダメだった?俺もしかしてハブられてる?


...なんて、(ひねく)れた被害妄想をしてしまうくらいのダメージを受けていると



「ほら、こんな時だし...御家族の方と過ごす方が良かったんじゃない?」


その言葉を受け先輩がウンウン頷く


「みんなで話してたんだよ。長くてあと1年...そのくらい贅沢しなけりゃ食い繋げるしそれに先もないのに働く意味ないしさ。今日は念の為出社したもののもう帰ろうかって」


辺りを見渡すと同じような結論に至ったらしい他の社員は鞄を手に早くも退勤していく。


その様子を見ながら立ち尽くす上司も咎めない。



この場にいる全員、平、役職員、管理職全ての人が同じ結論に行き着いている。



「...じゃ、俺らももう行くよ。今までありがとな。俺、お前の世話係やれて良かったよ」


そう言い残して先輩も女子社員も去っていった。



自分のデスクに手を着いたまま動けない。


理解が追いつかず俯いて、気がつけばフロアには俺を残して誰一人いなくなった。



皆、今すぐにも来るかもしれない終焉を、大切な誰かと過ごすために、自分のために使うために向かって行ったのだろう。



「はぁー...」


ため息が漏れる。


無趣味でこれまで贅沢な暮らしをしていた訳ではないため貯金はあるが当面の収入はない。


これから先、死ぬまで質素な暮らしを強いられるのか。明日死ぬなら好きなだけ散財するのだが。


「フッ」と苦い笑いが漏れた。


皆が家族のことや最後の最後まで幸せ求めて足掻いているのにどうやって金を使うか考えてるなんて。



どこまでも俺は孤独だな。

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