1世界は終わります
連載小説は今作で9作目です!
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紙ナプキンで口を拭い、意味もなく天井を見ていた。
昭和後期に建てられたらしいこの大衆食堂の木製の天井はどこそこに汚れが付いていてお世辞にもデートや友人とのランチに向くような風貌では無い。
実際平日休日問わずスーツやくたびれたスウェットを着たおっさん達が客の大半を占める。
接客も愛想はなく疲れた顔の老夫婦が店を切り盛りしており、飯も特別美味いという訳では無いので専ら同じような価格で華やかさがある近くのファミリーレストランに人は集まる。
そんな店だが独り身の俺にはちょうど良かった。
夕時なのに空いていてこうして食べ終えてもボーッとした時間を過ごせるのも良い。
視線を落とし食べ終えたカツ丼の空の器をぼんやり見る。
最後の晩餐だというのに味気ないな。
子供の頃からカツ丼が好物で、死ぬ前に最後に食べたいと思っていたのに、いざその瞬間が訪れて実際に食べた後も嬉しさも幸せな気持ちも、何も無い。
深く息を吐く。
外では相変わらず鳴き声や叫び声が響いていた。
『世界は終わります』。
そう宣言されたのは凡そ6時間ほど前だ。
数日前から宇宙のどこかから隕石が地球に近づいて来ているのが確認されていてニュースはその話題でもちきりだったが数時間前、その隕石がもはや回避不可能な軌道にあるということが判明した。
衝突前に破壊することも不可能。
地球はその隕石が衝突すると同時に全壊する。
今日は日曜日で普段仕事が休みの日は家でネットサーフィンしている俺は今日も今日とて何も無い休日を堪能していた。
優雅に昼まで寝て眠気まなこを擦りながらテレビを付けーー目を疑った。
対策本部が立てられたらしいが意味は無いだろう。
回避不能と言っているのだから。
隕石が地球に衝突する具体的な日にちは未だ分からず遅くとも1年、早くて明日とも言われている。
明日世界が終わるかもしれない。
不思議と恐怖はなかった。
1度は捨てようとした命を拾い、ダラダラと生き延びてしまって早7年。俺ももう23になった。
例えば。
生まれたばかりの子ならまだまだ人生これからなのにと親は嘆くだろう。
それが、小学生なら、中学生なら、高校生なら、大学生なら、はたまた俺と同じような社会人ならーー
人生まだまだこれからだと思う人もいれば、もうここまで生きたんだからまあいいかと思う人もいる。
人生に楽しさや幸せを見出す人もいれば、既に諦めている人もいる。
俺は圧倒的に後者だった。
ああ、そうか。
ようやく神様が人生終わっていいよという選択をくれたんだ。
そう思えるほどに。
ぼんやりした思考でネットニュースを見て、それに飽きてスマホを切ったとき。
初めに思い浮かんだのは飯だった。
明日死ぬかもしれない。
それなら最後くらい、好きな物を、健康なんか気にせず思いっきり食べよう。
そう思って近場のここに来たのだ。
古びた店も食べた瞬間「うん、カツ丼だな」と思う何の変哲もない夕食もくたびれた自分にはお似合いだ。
最後に1人、くたびれ野郎のまま価値ない人生を終える。
こんな世界の終わりも悪くない。