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うきうき☆サークル合宿1

お付き合いくださりありがとうございます。

あの車での遠出から俺は反省し、休日の街でのショッピングや映画などでイトに会う際には、口数を少なくするなどして、しばらくの間は大人しくしていた。


だが、このイベントの季節がやってきてしまった。

サークル夏合宿である。


サークルの合宿は関東近郊の山間にある避暑地にて毎年行われるサークル内のイベントで普段の活動にあまり参加していない者も多く参加する。

これまで話をしてこなかったような上下の垣根を超えた交流から、思わぬカップルが生まれることもある。

そうハイエナ野郎にイトが狙われる危険が高いのだ。


そして、今回はヤヒコが参加しない。

俺の最強の右腕、ヤヒコがいないのだ。

 ヤヒコは親父さんとアメリカへ行っている。

 何でも、ヘビメタを歌う日本人の女の子グループが念願の海外進出を果たし、全米ツアーにヤヒコの父親が追っかけていくらしい。

 それに強引に同行させられるとのこと。


 一緒に来てくれないと学費と家賃を祓わないぞと脅されていたようだ。

 毎日掛かってくる電話で脅されているのを横で聞いていた。

 頑張れ、ヤヒコ!負けるな、ヤヒコ!!

 俺には助け出す手立てがない…不甲斐ない親友ですまん。


 という事で、イトは俺が守るしかない。

 俺だけ…俺しかいない!

 やる気はあるが、不安しかないいは言い切れない。


「はーい、着きました。ここが今日と明日、俺達の泊まるコテージになります。1年の出水(いずみ)君の御厚意で格安で借りられました。はい、みんなお礼の拍手!!」


 パチパチパチと、出水と紹介された人に向かって、皆が一斉にありがとうと言いながら拍手した。

 その彼は、何と、食堂で俺に味噌汁を頭からぶっかけた性格の良い青年だったのだ。


 あいつ、一緒のサークルだったのか…。

 おっと、目が合ってしまった。

 俺に気付いたようで、慌ててお辞儀をしてきた。

 俺も軽く返しておいた。


「では、後ろの大きなコテージには男子たちが、ここから左へ少し歩いたところにあるこれより少し小振りの二棟のコテージを女子が二手に分かれて使います。それぞれの部屋割りは副長に聞いてください。まあ、男子はだいたい雑魚寝です。それではこの後、夕食の為の買い出しとバーベキュー準備班に分けるので、指示に従ってください。」

 サークル代表が話し終えた。


 買い物には、サークル代表と2、3年の女子たち数人、それから車の運転手の2人が選ばれ、運転手の中には出水も居る。

 デカい外車乗ってきてたからな。

 残った者達はバーベキュー準備班だ。

 男子が泊まるコテージから少し歩いた所にキャンプも出来る広場があり、借りたアウトドアテーブルとイスを手早く広げ設置していく。

 さらに炊事場で調理器具を洗い、バーベキューを行うべく機材を用意していく。


 あ~あ、イトと別れちゃったな…う~む、心配だ。

 三年生女子は人数が少なく、イトは三年生に可愛がられているので自然と買い出し班に入れられていた。


「ミィーヤ、お前、もう研究室の配属決めた?」

 炭を運んでいる時に話し掛けてきたのは、二年で同じ学部の横川だ。

 その隣にいるのが横川の友達の栗野、無口な奴である。


「お前、こんな時まで勉強の話とは、さては、お前は秀才君だな。」

 と俺は茶化して返した。


「いやいやいや、俺がバカなのはお前も知っているだろうが、単位ヤバいんだって!留年まじかなの~。」

 この世の終わりというような大袈裟なリアクションを横川はよくしてくる。


「お前、それ堂々と言うなよ~それよりさっきの話、入る研究室か…秋には仮配だったな。お前はもう決めたの?」

「いや~迷っているんだよねぇ。人気のある所は倍率高くて優秀な人が優先じゃん。圧力半端ない。か弱い俺には無理。出来たら仲いい奴が居る所がいいなあって思って。だって知り合いなら頼れるじゃ~ん。」

「頼るのが前提かよ~あれ、栗野は?一緒じゃないのか?」

 栗野と栗野は仲が良い、よく喋る横川に聞き上手な栗野は相性が良いのだろう。

 だから、研究室の同じにするものだと思っていたのだが…。

 

「こいつ、マロ教授のお気に入りだから選択肢無しだよ。俺はアイツの性格が嫌い。生徒のバックボーン気にしすぎるし、それによって評価は厳しいし、絶対にイヤ。」

「あ~なるほどな……栗野も大変だな。」

 その言葉に栗野は誰もが見てわかるくらい落ち込んだ。


 こいつの親父は某有名薬品メーカー開発勤務のお偉いさんだから、それ系の研究している教授に早くから目をつけられていた。

 見ていて擦り寄りがこれまた凄いんだわ。

 あれで、あそこ以外をこいつが選んだら、理工学部にマロの怒りの嵐が吹きまくり、他の教授が被害を受けると噂されているのだから、強制配属な流れに逆らえない、可哀そうに…。


 それはそうと、俺の進路か~。

 俺、全く考えてなかったわ。


「俺、まだ何も決めてないんだよね。横川は気になる研究あったのか?」

「ああ、宇宙とか?宇宙飛行士目指してる。」

「宇宙飛行士って、お前マジかよ…」

「ブハッ、うそ、そんな研究はうちの学部ないから、知っているでしょ、お前もおバカ。そこは突っ込めよ。てまあ、俺は漠然と機械系かなとは考えている。あ、ほら、さっきの1年、あいつの親の会社が◇◇◇グループの一族らしいぞ。コネ、分けて貰えないかな~。」

「え!?すっげぇ、大手じゃん。だからこんなリゾートホテルのコテージを貧乏学生が借りられたのか。まあ、コネはあってもお前にはやらんだろうけどな~。」

「お前がそれをいうのかよー!」


 横川と話していると、後ろから

「あの~」

 と声がした。


 その噂の一年だった。

 アッと思わず声に出し、横川と目が合う。

 彼をおちょくるような話をしていたので、気まずいと2人は目で会話した。


「あ、えーと…確か、出水君だよね。何か用?」

 横川が冷静を装い聞いた。

 今の会話を聞かれていただろうか?

 すぐに声を掛けられたし完全に聞かれているよね…心臓に毛がもっさり生えているぞ、横川。


「あの、えっと、こちらの先輩に用がありまして。」

 出水の視線と指した指先が俺の方を向く。

 え、俺?俺!?

 コネを分けてくれるの?


「えっ、何?」

「この前の味噌汁の件で、あの時は本当にすみませんでした。あの、これ、受け取ってください。」

 差し出されたのは封筒だった。

 掴んで中を確かめると、万札がひーふーみーよー……30枚。


「はぁ?何コレ、いらないよ!?」

 思わず、出水君の胸に突っ返した。


 出水君が、でもでもと繰り返しているので、

「それは受け取れない。君が俺に申し訳なく想っているのはちゃんと伝わっているし、俺も君の事をすでにあの時に許しているのだから、もうあの問題はお終いでいい。あれしきの事で、そんなものは受け取れない。」

 断っているのに出水がこれでは足りないのかとかか物の方がよかったのかとか、しつこく聞いてくるので、俺は提案した。


「ああもう、君の気が済まないというのなら、お金でも物でもなくて。うーん、そうだ!!お前、車だしだったよな。それならば、これから買い出しだろう?二年に背の高い黒髪ロングの糸島ってのが一緒に行くから、そいつに悪い虫が付かないように見張っといてくれ!」

「糸島先輩?」

 突然の提案にキョトンとする出水。


「おう、糸島先輩だ。」

 いい案が思い浮かんだと俺が満足な顔を浮かべていると、

「ミ~ヤ~、お前、後輩に糸島を監視させる気かよ、粘着ストーカーだぞ。」

 横川が茶々を入れてきた。


「うっさい!イトは綺麗だからナンパとか危険だし、キモいヤローに目を付けられて襲われるかもしれないだろう?危険極まりない。」

「だからってさー後輩に監視命令はないわー。」

 ケラケラと声を出して笑う横川の後ろで、真剣な顔をしている出水が、

「糸島先輩って、えっと、ミヤ先輩の彼女なんですか?」

 と、真顔で聞いてきた。


「ちゃうちゃう、唯の、た~だ~の、同級生だ。」

 横川が即否定する。

「今はだ、今はまだ同級生な。まだ、彼女じゃないだけだ!」

 横川の言葉にムッとしながら出水に返事をする。

「キッモ、ミヤ、キッモ。」

 横川が悪乗りしている。

 その横で、困惑顔の出水君。


「ああ~その、兎に角、出水はイトに近づくような男を徹底的に排除すること、それが俺へのお詫びということで!あっ、それと、出水もだぞ。イトが素敵だからって好きになるなよ!絶対に、絶対にだぞ、分かったな。」

「えっ、あ、はい。」

 出水は慌てて買い出し班の方へ向かっていった。


 出水君が、金を渡そうとしてきたことで、彼が今までにどんな生活を送って来たのかと心配になった。

 それと同時に、金持ちで高身長、そこそこイケメンの出水をイトに近づけさせてしまった事は失敗だったかもと不安になりつつ、彼の背中を見送った。




2へと続きます。




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