drive~期待を裏切らないミヤ
いつもありがとうございます。
約束の週末。
「おはよう。」
「「おはよう。」」
地元の駅前ロータリーに集合で、俺が言った時には女子二人既に待っていた。
山に行くと言ってあったので、2人は動きやすい服装だ。
「俺が最後か?」
周りを見回しながら俺が質問すると、
「ううん、私達も来たばかりだし、まだ八幡君も着いていないわ。」
イトが答える。
「そうか、それならよかった。」
自分が最後ではないという事を聞き、ホッとする。
「あっ、八幡君が来たみたい。あれ、よね?」
青く光るスポーツカーがロータリー内へ入り、俺達の目の前で停車した。
「これだな。おじさんの車だ。やっぱりカッコいいな~。」
俺はスポーツカーに興奮して言葉が漏れていたようだ。
「ミヤもああいう感じの車が好きなの?」
イトに聞かれる。
無意識に発していた言葉を聞かれていたのかと照れながら、
「そりゃあ、スポーツカーは運転してみたいと男なら一度は考えるはずだ。」
と、スポーツカーにハシャグ自分を子供っぽいと思われたくなくて適当に答えた。
実はミヤ、幼少期から車が大好き。
トミカコレクションをいまだにしていることは内緒である。
ヤヒコの車が止まり、助手席のドアが開く。
運転席から顔を出し、ヤヒコが声を掛ける。
「待たせてごめん。いつもの四駆を親父に乗って行かれてしまって、来る前に少し揉めた。母親の楽器の演奏会が今日でさ、使う楽器を運ぶ人が体調不良とかで来られなくなったらしく、急遽、親父が運ぶことになったけれど、コレだと運べないとかで勝手に俺の乗って行ったんだ。狭いだろうけど、我慢してくれ。」
窓越しに車の中を覗いている古賀が質問する。
「この車で運べないような楽器ってなんだろう?」
「ハープだ。」
ヤヒコの母の予想外な趣味に、驚く一行。
「さすが、ヤヒコマムの選ぶ楽器。」
「だね~。」
それでその会話は完結した。
「それより、親父さんの車、カッコいいな~これはMTか?」
「いいや、これはATだ。お前も運転できるぞ。」
「じゃあ、させて。」
「お前、一人の時ならいいぞ。死にたくない。さあ皆乗って、出発しよう。」
「チッ。」
ヤヒコの言葉におのおのドアを開け、意気揚々と車に乗り込んだ。
俺だけ不貞腐れながらだったが。
大抵、俺が助手席、後ろに女子となる。
出来たら俺はイトの隣に乗りたいのだが、あまりヤヒコと接点のない古賀を助手席にするのはヤヒコが気まずそうだし、イトに間違えて俺が告ったら大変だからと、イトの隣には座らせてはもらえない。
はあぁ、残念だが仕方ない。
誤作動も多いしな。
「私、今日のドライブに合いそうな曲を選んで来たの。」
古賀が音楽プレーヤーを取り出した。
「おっ、いいね!この車、ヘビメタしか見つからないからさ。古賀、気が利くな!」
俺はケーブルを設置しながら、古賀を褒めた。
「おい、これは俺の趣味じゃなくて親父の趣味だからな。」
ヤヒコが面白くないとむくれる。
「へぇ~、八幡君のお父さん、ヘビメタ好きなの?お医者様だからクラシックとか聞くのかと、勝手に想像してた。」
イトが言うと、
「馬鹿か、医者だって人だ。ヘビメタ好きも居ればキモいオタドクもいるんだよ。よりによって俺の親父は両方だけどな。」
ヤヒコがやけくそ気味に発する。
「ヘビメタオタドク…キャラ濃い。」
ボソッと古賀が呟いた。
車は呪いの言葉に気を付けていたので順調に進み、まずは、牧場に寄って馬とソフトクリームを満喫し、さらに進んで、外観のよさげな飲食店で昼食を取ったりしながら、最終目的地である寺院へと着実に近づいていった。
だがその前に、地図を見ていた古賀が通り道沿いにある滝への寄り道を提案する。
いい天気でこの季節にしては気温が高かったので丁度いいと、マイナスイオンを浴びることとなった。
駐車場が満車だったので、ヤヒコは皆を下ろし駐車スペースを探すといい、俺たちを車から降した。
とりあえず車を降ろされた付近でヤヒコを待つ。
周囲は青い若い葉がキラキラ光る木々に囲まれており、空気が澄んでいる。
待っている間に、古賀が駐車場の横に設置されている売店のトイレに行くと言いだし、一人で行ってしまった。
駐車場の木枠に寄り掛かり、俺達は2人を待つことになった。
そう、今は俺とイトが2人きりだ。
これは、またとないチャンスなのでは!?
まさか、こんな場所にまで、お化けは憑いてきていないはず!?
空気もほら、こんなに澄んでるし~
という訳で、いっちょやってみましょうよ!!
俺の中の謎の積極的野郎が祭り囃子を鳴らしてくる。
俺の中のヤル気メーターが急激に上昇した!!
野山に囲まれた大自然の空間にイトと2人きり…イケル。
よーし、これは、いくっきゃないでしょ!!
「イト、俺、聞いてくれ。ずっとお前の事がス――」
その瞬間、ザーーーーーーーーという激しい音と共に雨が降り出した。
これまた滝の様な土砂降りである。
チッ、幽霊女はこんな所までついてきている…ストーカーだな。
それより、今は雨を対処しないと。
俺は背負っていたバッグから折り畳み傘を直ぐに取り出し、イトの身体を寄せて相合傘をした。
フッ、俺が傘を持っていないとでも思ったのか?
持っているとも、幽霊女め!!
こんなこともあろうかと常備済みだ!ハーハッハッハッハー。
そして、続けてキマシタ相合傘チャレンジ!!
スムーズに体を近づけて、一気に全身がドキドキする。
むしろ腕が触れちゃっているし、近すぎてマジでヤバイ。
これって神様からのご褒美かな?
あれ?これって、セカンドチャンスじゃねぇか!!
よし、さっきの続きを…近い距離だから小声で挑戦。
「イト、俺はお前が――」
日が差す。
「あ、雨やんだね。」
「……うん。」
一瞬で雨やんだわ。
俺は静かに傘の水滴を祓い、綺麗に折りたたむと鞄へとそっとしまった。
やっぱり今日の告白は無理かなぁ~。
いや、まだ2人は帰って来てはいない。
まだいける、言っちまえよ、俺!!
「あのさ、イトのこと、ス――」
キィィイィイーというけたたましい雄たけびと共にそれは現れた。
何だ!?
後ろを振り返ると、俺に向かって猿の群れが突進してくる。
「マジか!?」
俺は、イトに逃げろと言って俺の側から押し退けた。
「さあ、俺のもとへ来い!!」
そう言って手を大きく広げ、猿たちの気を引いた。
そして、俺はそのまま猿たちに囲まれ群がられた。
……こんなことってある?
イタッ、肩を蹴っ飛ばすの辞めて~頭のてっぺんには乗れないよ、だってもう居るじゃん。
顔の前、毛、毛ーーーマジで、クセーよ。
暫くしたのち、パァアンと言う大きな破裂音がした。
猿がその音を聞くと、一斉に俺から離れ引き上げていった。
イトは大丈夫だったのかと、周りを見回すと、イトが手に破れたビニール袋を持って立っていた。
あの音を鳴らしてくれたのは、イトだったようだ。
ホッとして、ようやく声が出る。
「た、助かった。イト、ありがとう。」
イトが近くに来て、怪我は無いかと心配して、俺を気づかってくれた。
遠くから惨事を見かけたヤヒコと古賀が、急いで駆け寄ってくる。
「ちょっと、宮若君、大丈夫?」
「お前…やったな?」
俺はというと、鞄の中身が荒らされ、髪もクチャクチャで服もデロデロ、けもの臭く、ボロ雑巾のような風貌へとなっていた。
マジで、こんな所まで、呪いは発動するのかよ…。
あの幽霊女、俺のストーカーなのか!?
呪いの女の汚い笑い声が背後で聞こえたような気がした。
それから途中の日帰り温泉の売店で洋服を調達し、獣の匂いを消した。
温泉から出てきたら、服を着替えた俺を見て、皆は顔を覆い隠し小刻みに震えていた。
服は短い派手な柄のパンツに、謎のご当地萌えキャラクターTシャツだ。
これでもましな方だった。
観光地ってのは、なぜこうなのか?
幽霊女、絶対に許さない!!
一話が長くなったので、二つに分けました。
次は続きです。少し短いです。