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呪いの女再登場

お読みいただきありがとうございます

 

 前にも言った通り、俺は大学に入り、月日が経つにつれ自身の恋心を自覚し、同時に焦り始めた。


 そして、2年になり周りも付き合う者が増えりにつれて不安が募り、俺は遂にイトに告白しようと決意する。

 そして、サークルの飲み会の日に決行したのだ。

 というか、お酒の勢いで告っちゃった!?みたいな感じになったのだ……。


 その時の状況はこうである。

 サークルの飲み会後、そのまま二次会に流れる奴がほとんどであったが帰る者も居て、電車やバス、車の代行と、それぞれバラバラであった。


 一次会の店から駅までは少し距離があった。

 俺とイトは電車で帰宅組であったので、イトはまだ誕生日が来ていないから酒が飲めないので素面で、俺は結構いい感じに飲まされて酔っていた。

 電車に乗る前に、少し酔いを冷まそうと店から駅までふたりで歩くことにした。


 その日はヤヒコが家の用事で参加できなかったから、2人きりだった。

 想いを自覚してから機会があればいつでもとは考えていたのだが……今が絶好のチャンスだと意識していた。


 帰り道は夜の所為か人気もまばら、外套の照らす歩道を歩き、いい雰囲気で話す2人。

 俺は最大のチャンスが今ここに巡ってきていると確信し、俺の内側で盛り上がる秘めていた想いを今ここで爆発させる決心をしたのだ。


 振られてもいい、彼女に気持ちを伝える前に誰かに取られるくらいならば。

 後悔はしたくない!!


 よっしゃあー当たって砕けろだ!!

 とね、酒が回っていたし、ぶっちゃけ、よくわからんけど今チャンスだから言っちまえ‼だったのよ。



 横断歩道を渡り切った所で歩みを止め、俺は彼女を呼び止めた。


「イト!」

 俺の声にイトが振り返る。


「あのさ、こんなこと今更って思うかもしれないけど…………俺、イトのことが―」


 ここまで言って、こっちを向いていたイトの顔が恐怖へと変わった。

 その瞬間、俺の記憶は途切れた。


 俺はこの時の出来事を覚えていない。

 その後の記憶があるのはおそらく救急車の中なのだろう、その車内で俺の名前を呼ぶ声が横でずっとしていた場面を薄っすら記憶している。

 俺はその声がする方へ顔を向けられず、天井をぼんやり見ていた記憶の断片が途切れ途切れである。


 そして、病院に着いたのだろう。

 暗い空と月なのだろうかボンヤリと明るく光り見えた。

 その後からだが浮く、おそらく病院のストレッチャーに移し替えられた。

 そして急いで暗闇から天井に電灯のある場所へ運ばれた。

 バタバタと小走りする足音とストレッチャー音と共に、電灯の光が流れていく。

 俺の名前を呼ぶ声が遠のいていった。


 どこかへ運んでいる際に声掛けをする看護師さん達のボンヤリとしか見えない顔が覗き込む。

 その隙間から、唯一見える天井を無の心中で見続けていた。

 その時、見たのだ。

 アレが…浮いていた。


「やった!やっとやってやったぞ!漸くこの時が来たのだ。待ち望んだぞ!!お前を幸せにはさせぬ。絶対に幸せにしてなるものかーー!呪いは終わらない、まだまだ続くのだ。覚悟しておけ。ヒャーハハハッ、ヒャーハハハハ、ヒャーハハハハー。」


 一瞬しか見えなかったが、宙に浮く茜色の打掛の女が、天井から俺を見下ろし、俺に向かってそう言い放つ。

 そして、打掛を大きく揺らしながら、甲高い声で笑い狂っていた。

 まるで欲しかった玩具を手に入れた幼い子供が、嬉しさでその場を駆けずり回るように騒ぎ立てていた。


 その声には、聞き覚えがあった。

 それは、これまで綺麗サッパリ忘れていた、あの恐ろしい高3の冬の記憶の中で聞いたものだった。

 全てを思い出した。


 なぜ、今まであんな恐ろしいものを忘れていられたのであろうか…。


 後で聞いて分かったことだが、初めてイトに告白をした瞬間に、俺はうとうとと居眠り運転のスクーターに肩を引っかけられていた。


 接触はハンドル部分と左肩であったが、俺は激しく体を地面に打ち付けたようで、脳が揺られ意識が朦朧としていた様だ。

 だが幸い、脳に後遺症も残らず左腕骨折と全身打撲だけで済んだ。


 とまあ、これが、呪いが始まった最初の出来事なんだけど…もう本当に勘弁してほしい。

 こんなことをしている間に、イトが誰かに掻っ攫われてしまう。


 あれから、何度も告白を試みてはいるが、御存じの通り失敗に終わっているし、呪いの女はあれから一度も姿を現さない。


 何で俺がバカみたいに何度も告白を繰り返すのかって?

 あの幽霊に屈するのがムカつくし、アレも油断している時があるかもしれないじゃないか、俺は失敗を恐れないのだ!!

 可能性がある限り、告白し続ける。

 後悔はしないように、全力で挑んでいくのが俺なんだ。


 …と思うようにしている。


 思うようにして居るというのには理由がある。

 実は、なぜ挑んでしまうのかは自分でも俺にも分からないのだ。


 俺もこの場で挑まなければいいのにと思う時もある。

 だが、可笑しなことに、なぜだか挑んでしまう。

 本当に変な話なのだ。


 ***


「呪い女については何か手掛かりになりそうなことは分かったのか?」

 ヤヒコが聞いてくる。


「いいや、祖父の兄、修二さんについて親父たちに聞いてみたんだけど、呪い女に繋がるようなことはサッパリだった。手がかりが赤い着物の女だけじゃなあ。」

「そうか…お前の親族だし、悪く言いたくはないが、女癖が悪かったという事ではないか?」

「女に恨まれているからというのもあるのかもなぁ?まあ、今度、修二さんについてよく知っていそうな親族に話が聞けそうだから、詳しく聞いてみるよ。」

「そうか、何か分かるといいな。」


 俺は呪いが自分に掛かっているって分かって、いくつかお祓いや神社に相談をしてみたのだが試したが効果がなかったり、学生には高額だったりで、呪いが解けるまで何軒も回るという事はしなかった。

 それなので仕方なく、自分で解く方法を模索し始めた。


 ヤヒコはこんな嘘みたいな話を馬鹿にしないで聞いてくれて、相談に乗ってくれている。

 滅茶苦茶いい奴だ!!


 それは置いといて、とりあえず呪いを探るためにまず家族に修二さんの事を聞いてみた話をしよう。

 呪いの女から発せられた情報から修二さんが関わっているのは分かっていたので、女の正体を突き止めようと考えたのだ。


 父さんからは修二さんとは幼少期に会ったことがあるらしいという曖昧なものだけで、あまり記憶にないという話しか聞けなかった。


祖父(じい)ちゃんからはそれなりに話が聞けた。

 修二さんは土地持ちで金貸しを営んでいた若宮家の次男で、若宮家の五代目当主だったそうだ。

 長男は戦死したらしい。

 ちなみに健伍、名前通りの俺の祖父は五男だ。

 修二さんとは10以上も年齢が離れているらしい。


 修二さんには子に恵まれなかったらしく、六代目は三男の子供の信次郎を修二さんの養子に入れて家を継いだという。

 修二さんと13歳ほど年の離れていた曽祖父も結婚して本家を出たのだが、修二さんが産まれた祖父さんを可愛がってくれて、幼少の頃に何度も彼の家へ招かれていたそうだ。

 実家からほど近い川向こうの黒川町にある祖父ちゃんの甥、信次郎おじさんが住む大きな家が修二さんが住んでいた家である。


 修二さんもそのお嫁さんもとても優しくて、自分に良くしてくれていた。

 お嫁さんは40歳で亡くなってしまったが、修二さんは後妻を取ることもなかった。

 お嫁さんの事が忘れられないのだろうなどと噂されるほど夫婦仲はとても良かったのだと祖父さんは話してくれた。


 祖父からはそんな感じの話しか聞けなかったので、信次郎おじさんに話を聞きに行けるように父さんが連絡してくれたのだ。


 そしてさっき母親から返答があったと聞かされた。

 呪いの解決へ一歩前進できるかもしれない。


「それより、先に言っておく。今度のドライブ中に糸島に告ろうだなんて、絶対に考えるなよ。」

 ヤヒコが苦言を呈した。


「何でだよ。」

「今回は車だからな、下手したら命に係わる事が起きるかもしれない。危険は回避したいに決まっているだろう。何事もなく皆で楽しみたいからな。」

「…ああ分かった。誓うよ。」


 とまあ、この時はこんなことを簡単に口約束していたのだが、俺はまたやらかしてしまうのである。







次回、ミヤは期待を裏切りません。

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