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告白できますが。

大変長らくお待たせいたしました。

一気に最後まで書き上げました。

長文ですみません。

どうぞよろしくお願いいたします


 バタン、ドアが閉まる。

「大丈夫?待たせてごめんね、寒かっただろう?」

 ミヤが気遣い、イトに声を掛けた。


「ほんの少し遅れただけよ、大丈夫。でも、早朝は寒いのね。もっと厚着してくればよかった。」

 イトが身を震わせながら会話を続ける。


「ごめん、こんなに天気が崩れると分かっていたなら、別の日に変更したのに。うーん、おかしいな??夕方の天気予報では、傘マーク無かったのになあ?これも奴の仕業なのか?」

 ミヤが首を捻っている。


「違うと思うわ。さっき見た天気予報では不安定だから急激に変化するかもと言っていたもの。それよりも、急いだほうがいいんじゃない?」

 イトがミヤを急がせる。


 現代の車らしく静かなエンジン音が鳴り、スゥッと出発した。


 何処へ向かっているかと言うと海だ。


 先日、イトに学校で会った時に相談した。


 数日前のこと。

「呪いではなくて、縛りであったとはどういうこと?」

 イトは静かに自分の推論を聞いてくれた。


「そう、では、私も一緒に行っていいのね!!ミヤを手伝えるのね!!」

 自分の長い推論の後に、イトは嬉しそうにそう返してきた。

 お寺で呪われていると聞かされた時に、何も知らされていなかったに結構ショックを受けたのだそうだ。

 さらに自分には何も出来ないのだと分かり、喪失感でいっぱいであった。

 でも、今回は自分も何かしら、ミヤの役に立つことが出来るのだと、嬉しそうに笑う。


 心強い味方がこんなに近くに居てくれるなんて、ミヤは胸いっぱいになった。


「決行は来週の日曜日、その前日に俺は信次郎さんの所へ行ってくる。先にやらなければならないことがあるから。」

 そう言ったのが先週の月曜日。

 そして、昨日信次郎さんの家を訪問したミヤは、自宅に帰ることが出来なかった。


   ***


「健太郎、いらっしゃい。」

 信次郎さんは温かくミヤを出迎えてくれた。


 呪いに話をしてから、ずっとミヤを気に掛けてくれいて、情報を得る手伝いをしてくれていた。


 ソファに腰を下ろすなり、信次郎が質問してくる。


「何か、あったのかい?」

 とても心配そうだ。


「実は…」

 これまでの事を信次郎に話し、自分の推理を聞かせた。

 信次郎は時々目を見開き驚いた表情を見せたが、どこか、やはりなという想いがあったのか、それは一瞬で、すぐに落ち着いた表情へと戻り、静かに話しを聞いていた。


「……という事で、後ろに居る修二さんに協力を仰ぎたいんだ。俺には修二さんを認識する術がないから、信次郎さんにその役目をお願いしたい。」


 役目を果たせるか分からないがいいぞと、信次郎は快く引き受けてくれた。


「修二さん、俺に協力して。まず、イトの安全を確保したいんだ。」

 そう、ミヤは一番にイトの安全を約束させたくて、ここへ来たのだ。


「俺が青木久子を焚付けることによって、イトに危険が生じると思うから。この前の木が倒れたような危険に彼女を巻き込みたくない。だから、何があっても、あいつの力からイトを守ってくれるよう修二さんに頼みに来た。なあ、聞いているのだろう?もとはと言えば、修二さんの行いからこうなっているのだから、協力してくれよ!」


 沈黙が流れる。


 信次郎はミヤの背後をジッと見つめている。


「おっ、いいそうだ。修二さんが頷いているぞ。ミヤ、良かったな。」

 信次郎は修二の返答に案著し、心からそう言葉にした。


「うん、本当に良かった。あとは、あの人次第だ。」

 ミヤは真剣な顔つきで、答える。


 そして、その後、宮若本家で奥さまの美味しい手作り夕飯が振舞われ、お酒へと移行していく…いつの間にか、ミヤは客間でぐっすり眠ってしまっていた。


 連日の気疲れと、寝不足が原因でお酒の周りが早かったのだろう。


 もうすでに、夢の中である。


 ***


 翌日の早朝に、何かによって頭を小突かれてミヤは目覚めた。


 目を凝らして見て見ると、ぶつかった物の正体は、信次郎の腕であったようだ。

 二人は並べられた布団に寝かされていて、彼の長くない腕が、ミヤの方へと伸びていた。


“信次郎さんめぇ……”

 と思いながら腕を追いやり、再び眠りにつこうとしていたミヤだが、フッと自分が今どんな状況であるのかが思い出せないことに気が付く。

 思わず、飛び起きた。


 眠気眼に、情報を整理する。


 そうだ、昨日、信次郎さんの助力を依頼し、修二さんに約束を取り付けたはいいが、その後、宴会となり…記憶が途切れている。


 一杯飲んで、少し寝てから、明け方には帰る予定だったんだけどな。

 そもそも、飲むつもりなど無かったのに、信次郎さんが幻の日本酒だって持ち出してきたお酒が前から飲んでみたかったものだったから、ここと割れなかったんだ。

 一杯だけと思ったら、油断した。


 顔を洗いに洗面所まで行く廊下で、声を掛けられた。


「あら、早かったわね。」

 信次郎さんの妻だ。


 朝餉を用意するから顔を洗っておいでと言われたので、すぐさま終えて、ダイニングテーブルへと腰を下ろした。


 席に着くと、奥さんが焼き魚に卵焼き、御新香に御味噌汁、ごはんをよそってくれる。

 どれも美味そうだと眺めていると、奥さんが向かい側の椅子を引き、そこへ座る。


「最近、あの人がとても楽しそうにしているの。あなたに会った日からよ。これまでは淡々と、この家を切盛りする為、それだけの生活をしてきたから、あなたと会ってから、何か自分の為の目的が出来たようで、生きる気力がみなぎっているの。あの人、とても楽しそうなのよ。ありがとう。」

 ニコニコと話し掛けてきた。


「俺は、信次郎さんに迷惑ばかりかけているのだと思っていました。こんな俺でも、お役に立てているのであれば、嬉しいです。」

 ミヤは照れ笑い、目の前の美味しいご飯をかきこんだ。


 まあまあと言いながら、奥さんは笑い、喉に詰まらせないでねと、嬉しそうに大食いの俺が食べる姿を見て笑っていた。

 その後、二杯ほどご飯をお代わりした頃に、信次郎さんが起きてきたので、この後、例の場所へ向かう事を告げた。


 信次郎さん夫妻に見送りされ、出発したのがお昼近く、少しのんびりしてしまった。


 それから一度家により、準備を整えて、イトの元へと向かった。


 同じ市内であるが、中学校の校区でいう端と端に位置する為、車でもそこそこかかる。

 正午に、イトの家の地くにあるコンビニ前で待ち合わせていた。


 車が到着すると、すでにコンビニの店内にイトの姿がある。

 お菓子の棚を険しい表情で見つめ、悩んでいる様子であった。


 車から降り、店内へ入ると、イトの近くへ行く。

 イトがミヤの気配に気が付き、顔を向ける。


「待たせてごめんね。」

 と即座に声を掛ける。


「そんなに待っていないわよ。ねえ、ミヤはこの味とこの味、どっちが好き?」

 イトが手にしたお菓子を見せながら聞いてくる。


「俺はこっちの方がっ!?ああっと…こっち、こっちだ。」

 危機一髪だった。


「うん、こっちが好きね。了解!」

 イトはニッコリ笑い、ミヤの指さしたお菓子をたくさん買い込んでいる籠へ納めて、レジへと向かった。


「さあ、では、例の言葉に気を付けながら行きましょう!!」

 イトがそう言いながら助手席に乗り込む。


「ああ、そうしよう。」

 ミヤは横に座るイトを見て胸いっぱいになりながら、エンジンをかけて、車を走らせた。


 ***


 あれから2時間ほど、ドライブを満喫した。

 途中、高速道路のサービスエリアに寄って思いのほか楽しんでしまったり、昼食を取ったりしていたので、目的地付近へと着いたのは、夕方となってしまっていた。


「着いた~!!」

 車から降りたイトがそう叫ぶ。


 ここは、戦前、まあまあ大きな病院が経っていた場所だ。

 空気がきれいで病室からの景色もよく、病院の施設もその当時では最先端であったので、金持ち御用達の静養病院と言われていたとか。


 患者に金持ちが多いだけに、腕の良い医者も多かったのだとか。

 それは、戦前の話で、戦後は焼け野原となり、何もなくなった地は、別荘地へと変貌していた。

 富裕層が居るという点は共通しているようだ。


 この地に来たのは、確かめるためだ。

 ここは、修二さんが務め、青木久子が訪れていた病院跡地だ。


 そして、ここから見えるあの海岸、あそこが本当の目的地であるので、寄ったのだ。


「あそこだ。今からあそこへ向かう。」

 ミヤは少しばかり緊張が増す。


「わかった…それにしても、綺麗な海ね。ここからの景色は素敵だわ。」

 イトはそう遠くない浜とそこへ押し寄せているキラキラと光る波を見て、感想を述べた。


「ああ、だから、あの当時の病院でしか会うことの出来なかった二人は、ここで、あの海にいつか行こうと誓いを立てたらしい。」

 ミヤがそう説明した。


 イトに行こうと声を掛け、再び車に乗り込んで、あの砂浜目掛けて移動を始める。


 砂浜に到着した時には、すでに日は落ち始めていた。

 砂浜から見える大海原を眺め、綺麗だねーとありきたりな会話をする。

 語彙力が乏しくなる程に感動し、海を見ていたのだ。


「お日様が沈んでいくね。」

「うん、冬は昼が短すぎるよ。」

 そんな会話をした後で、日の沈んでいくグラデーションがキレイな海を2人は砂浜との境にあるコンクリートの段差に腰かけて、ジッと眺めていた。


 完全に日が沈み、では、始めようかとミヤは立ち上がった。


   ***


「おい、居るんだろう!!久子、出て来い!!!」

 乱暴な言葉で怒鳴るようにミヤは周囲に向けて声を張り上げる。

 当たり散らして、今までの鬱憤を晴らしているようだ。


 叫ぶが何も起きず、ミヤは一旦黙った。

 心の中はかなり焦っていたのだが、その時、ぼんやりと少し離れた場所の頭上が歪んだ気がした。

 何かが現れたのだろうか?


 ミヤはそれが現れて案著した。

 そして、こうしては居られないと、すぐにイトの手を引き、それが現れた場所へと接近する。


 得体のしれない歪んだモノの正体は、ミヤが高校受験の際に電信柱の影で見かけた黒い靄であった。

 暗闇の中に黒い靄なので認識しづらい。


 ミヤは、ヤッタ!!と心の中で大喜びしつつ、気持ちが高ぶり、またもや喧嘩腰で声を掛ける。

「おい、お前!久子だな!?俺の話を聞け!!」


 その時、近くで小さな破裂音がした。

 ミヤはそれにより興奮していた状態から一気に引く。


 どうやら修二さんが落ち着けと言っているようだと悟ったミヤは、冷静を取り戻す。


 そして、目の前のそれをじっくり観察した。


 黒い靄の中に目玉が二つこちらを見ている。

 あの時と同じで、不気味である。

 少しだけ、後ずさりをしてしまう。


 そんなミヤの手をイトが少し強めにギュッと握る。


 その感触にイトが傍に居てくれると感じ、力が湧いた。

 ああ、先程の強気の態度は、恐怖心からの精一杯の虚勢であったのかと、確信する。

 イトの温かな心は、ミヤに余裕を与えた。

 そして、自分がイトを守るという気持ちが、彼を奮い立たせた。


「俺は、自分の身に起こるイトへ伝えられないという呪縛を解いてほしくて、ここへ来ている。久子、いいや、久子さん、あなたに話を聞いてほしい。」

 ミヤは靄に向かってそう言った。


 すると、靄は形を成していく。

 赤い着物を着た今までに見た中で一番身綺麗な久子であった。


 思わず見とれてしまう程、久子は和風美人であった。


 ミヤは思う、修二さんは面食いだったのだなと。


 そんなことよりも久子である。

 漸く目の前に姿を現したのだ。

 よし、やるっきゃない!!!


「久子さん、思い出してほしい。ここは、君が亡くなった後、修二さんと千代さんと一度来ている場所だ。そしてここで、君は、呪縛霊となってしまった。」

 その言葉を聞いて、久子が目を見開いた。


「千代さんのメモには、こう書かれていた。【夫は戦時前、将来を誓い合った相手がいて、その人と愛し合っていたのだと義理妹さんから教えられた。お前はお金の為に結婚しただけで愛されていないとも言われ、悔しかった】と、そして【チャコに自分も愛していると言われみたいと愚痴る】や【チャコは私の願いを叶えようとしている】とあった。その言葉はこの場所を訪れた際に気持ちが高ぶって、あなたに話してしまったのだとメモから読み取った。」


 こんな感動する景色な中で感極まって、肉体的にも精神的にもギリギリであった千代さんは、修二には見えていない秘密の友、チャコこと久子に本音が零れてしまったのだろう。


 その言葉に久子は反応し、呪縛へと変わったのだ。


「そんな……私はただ、恥ずかしくて言えなかっただけなのに。」

 突然の声と共に、修二の姿が鮮明に表れた。


 ミヤは驚きを隠しきれず、口をあんぐりと開け、固まっている。


 イトは、いきなり知らない人が現れて混乱していた。


「ミヤ、あの人は誰!?!?」

 イトの声により、ミヤは引き戻されて、冷静に心を整え、答える。


「俺の守護霊、修二さんで。一連の元凶だ。」

 震えそうになる声を抑えつけ、そう伝えた。


「なっ!?……まあ、そうだな……」

 修二も肩を落とし、それを認めた。


「それよりも、恥ずかしくて言えなかっただけって、どういうことですか?」

 ミヤが聞く。


 すると、修二は、

「そのままだよ。あの時代、恋だの愛だのと浮かれている時代ではなかったのだ。だから、面と向かって愛しているというやつなんて、スケコマシくらいしか言わない言葉で、口にする事が憚られたのだ。」

 と答えた。


 時代錯誤と言う言葉があるが、これは考えもしなかった。


“愛している”が恥ずかしい言葉となりうるなんて…どんだけ純粋よ!?


「でも、“好き”はよく言ってくれていたと、千代さんのメモには書かれていましたが…」

 ミヤは思い出し、そう尋ねる。


「ああ、それは…戦争前に出会った初恋の人に、その事を伝えられないいまま別れることになったから、今度はそう言う人が出来たら絶対に言おうと頑張って練習したのだ。スとキの二文字だからな!」

 修二は照れくさそうに、そして得意げにそう語った。


 沈黙が仕事をする。


 その時、声がした。

「う、嘘でしょ!?」


 その声のした方向へ目をやると、儚げな和風美人が立っていた。


  ***


 千代さんかとミヤが声を掛けようとする前に、修二が大きな声を上げ、名を呼びながら駆け寄り、千代を命一杯抱きしめていた。


 イトが、

「あららっ」

 と思わず口走っている。


「あなた、ソレ、本当なの??」

 ずっと冷静であった千代さんが、修二さんを引き離して、そう聞いた。


「それって?」

 離されて不服な修二が不機嫌そうに答える。


「照れて言えないでいたって事よ!!!」

 強めの口調でそう言われ、少したじろぎつつ、修二は答える。


「ああ、本当だよ。あの当時、私もまだ若かったし、あの時代はそう言うセリフを簡単に口にするのは、男気がないような風潮だっただろう…女性はそういう言い方がより好ましくあったみたいだが、昔の私は、恥ずかしくて恥ずかしくて、到底言えなかったよ。」

 と白状した。


「そんな…」

 千代はショックを隠し切れない。


 そんなショック状態の千代を引っ張り、自身の元に手繰り寄せたのは、久子であった。

 まるで、彼女を守っているかの様である。


「チャコちゃん…」

 腹部へと回された腕にそっと手を添えて、千代は名を呼んだ。

 呼ばれた久子は褒めて~と、嬉しそうである。


「これは…」

 ミヤも困惑気味だ。


「ただの勘違いなのね!?」

 イトが代わりに突っ込んだ。


 ここに居る全員の流れる空気がピタッと止まった。


「そう、全てが勘違いだった。だから、もう呪縛を解いてくれ。」

 ミヤがいち早く気力を戻し、久子へ向けて大声で懇願した。


 その言葉で、修二と千代の思考が動き出す。


 こんなことで、親族に迷惑を掛けてしまっていたのかと、羞恥心が押し寄せてきたと同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 そして、目の前にいる実弟の孫と、久子を見て、酷く罪悪感を抱いた。


「分かった。私が久子を説得してみよう。」

 修二が声を上げてくれた。


 それに対して、なぜか、千代が食って掛かった。

「ちょっと、なんであなたがチャコちゃんを説得するのよ!」


 ミヤは思わず驚いた。

 病弱であったことや時代的な錯誤、そして見た目から勝手に推測し、お淑やかで口を出さないような静かなタイプの人なのかと思っていたからだ。

 今、目の前で、修二に対して喧嘩腰で話し、自分が久子と話すからしゃしゃり出るなと言っている。

 それに対して修二も自分が原因だからと言ってはいるが、かなり腰が引けている。


 千代と修二は元々そんな関係の夫婦あったのかもしれない。


「そもそもお前は日頃からだな、何かと俺の事を――」

「今、お前って言った!?お前って言ったよね!!病弱な私にお前ですって!?」

 と、全く関係のない小競り合いが、しばし続いている。


「あの、口を挟むようで申し訳ないのですが、この呪縛を解いてしまうのはどうでしょうか?」

 イトが恐る恐る挙手して発言した。

 こんな所も真面目で可愛い。


 ピタッと言い合いが止まり、2人は話を聞くようだ。


「呪縛を解く方法が分かったのか?」

 ミヤがイトへ聞く。


「ええ、さっき言っていたでしょう?修二さんに好きではなく、愛していると言って欲しいと。つまり、言えばいいのではないでしょうか?」

 元気な声でイトが提案する。


 なるほど!と、皆が思わず手を叩く。


  ***


 ミヤはイトと向き合っていた。

「何だか、自分が提案しておいてなんだけれど、催促したようで恥ずかしいわ。」

 イトが羞恥を隠し切れず、顔を赤く染めている。

 可愛い!!


 待てぬ…と、ミヤは動き出した。

「では、いきます!!」


「イト、俺は、お前の全てを愛している!!」

 漫画だったらドドン!と背景に効果音が大きく描かれたであろう。

 かなりの気合と気持ちを込めて、ミヤは言い放った。


 キャーッというし小さな声と、ヒューっと口笛を吹き囃し立てるような音が微かに後ろから聞こえたが、完全に無視だ。


 すると、変化があった。


「フフフフフフフフフッ。ヒャハハハハハ、アハッハハハー」

 高が外れたように笑い、久子が空中をグルグルと飛び回っている。


「ヤッタ、ヤッタワ!!ついにやり遂げたのよー!!!!!!ヒャッハッー!!」

 嬉しさが爆発していた。

 それはしばらくの間続いていた。

 その様子を2人と幽霊2体は何が起きているのかと、黙ったまま見上げている。


「もうよくないか!?」

 我慢に限界に来たミヤが、大声で久子へ叫ぶ。


 久子もハッと正気が戻り、今の状況を確認して、地上へと恐る恐る降りていた。


「これは、どういう状況なのかな?ちーちゃん教えて。」

 久子が千代へと尋ねる。


 その言葉に、勝った!?というかのような表情を千代は浮かべて修二へ向ける。

 修二は悟った、自分が先程まで妻と張り合っていたことはとても無意味で無価値であったということを。


 この後、千代が一連の話を掻い摘んで話したのだが、これに対して久子が千代へ語ったことが衝撃であった。


 あの日、3人で…正確には人間2人、幽霊1人でこの砂浜へ遊びに来た。

 私は心残りだったこの海岸へ来ることが出来て心が満たされていたのに、反対に千代が酷く落ち込んでいるのを聞いて、自分に何か出来ないかと強く思ったら、修二に愛していると言わせるという事が呪縛となってしまったのだという。


 だが、修二は愛しているとは一切言おうとしない…それなのに、好きだ好きだと言うばかりで段々と腹がたってきて、好きだと言うたびに妨害し続けてきたのだという。


 そうしている間に、千代が病で亡くなってしまった。


 この呪縛、修二が愛していると言わないでいたら、どんどん精神を蝕んでいったのだという。

 そして、修二も亡くなってしまった。

 すると、久子の記憶や意識は曖昧になり、呪縛の部分だけが残ってしまった。


「なんか、最初調べた時は、修二さんがとんでもない浮気性のクズ男で、久子さんが元彼を忘れられないヒステリーなヤバイ女だって思っていたのだけれど、誤解が解けて本当に良かったと思う。俺の守護霊だからね。」

 ミヤがそう言う。


「旦那様の件は、あながち間違っていないのではなくて?」

 千代が毒を吐く。

「そんな~」

 と悲しそうな声を修二が上げる。


「ねえ、私は修二さんの事はそれほど引きずっていなかったわよ。」

 割って入ったのは久子だ。


「結婚してからあの家に入って、直ぐに気持ちを切り替えたし。結婚は家の為にっていう家だったから。でも、あの妄想クズ亭とそのクソ家族は最低過ぎて、本当にうんざりだったわ。でも、息子が生まれて幸せだった。息子さえ居てくれれば私はそれでよかったのよ…なのに、お世話になった菓子屋のご夫婦が店を畳むと言うから会いに行ったら、事故に巻き込まれてしまって、そのまま死んでしまうなんて。それをあの女狐にいい様に利用されて…息子が追い出されたことだけは悔しかった。本当に許せなかったわ。まあ、復讐は遂げているけれどね。」

 ニヤッとここまで話して、久子はいい笑顔を浮かべた。


「好きじゃなかったのですか!?」

 ミヤがそう口走った瞬間、ミヤはハタと、動きを止めた。

 そして、嬉しさが爆発した!!


「イト、俺、言えたよ!!!!!俺はイトが好き!イトが好きで好きで好きで堪らないよ!!イトが好きだ―――――!」

 海に向かって走りでして、叫んだ。


 そう、ミヤが呪縛から完全に開放された瞬間であった。


  ***


 後日。

 今、居るのは、信次郎さんの家である。


 呪縛が解けた報告に来たのではなく、問題が生じたのだ。


 実は、あの日以来、三人が俺の守護霊となってしまったのだ。

 しかも、一度チャンネルが合い、見えるようになり、声も聞こえる様になったからか、それも持続中なのである…本当に、恐ろしい。


 四六時中、彼らの意味のない雑談と痴話げんかが近距離で繰り広げられているのだ。


 落ち着きたい時に落ち着けないし、イトと2人きりにもなれない事態だ。

 まあ、正確には2人きりにはなれるのだが、幽霊も居るという状況がたまらなくキツイ。

 ラブラブも出来やしないので、イトとミヤは未だにプラトニックの関係のままである。


 それに、幽霊が居てセルフプレイも出来ないミヤは、かなりの欲求不満に陥っていた。

 イライラが目に見えて分かる状況に、ヤヒコが信次郎さんに相談してみては?とアドバイスをくれたのだ。


 流石、親友。

 的確な情報をいつも返してくれる。

 という事で、本日は宮若家本家を訪れていた。


 信次郎さんに会った時に、開口一番に言われた言葉が

「増えておる…」

 だった。


 そして、増えた者の中に千代さんを見つけて、嬉しそうに話し掛けていた。


 声はやっぱり聞こえない様だが、ミヤが分かるので、間に入って会話を成立させた。

 信次郎が満足した頃には、ミヤは披露し、修二は不貞腐れ、久子はプカプカと昼寝をしていた。


 信次郎はその様子に謝罪を述べ、ミヤが訪れてきた事情を聴いてくれた。


 未だに修二が、自分が居ることに気づいた時とは違い過ぎると怒っているが、もうこれ以上時間を無駄には出来ないので、無視である。


「つまり、呪縛を解くのに久子さんを呼び出したら、千代さんも現れ、三人とも健太郎の守護霊と化したと…そして、想いが通じ合い波長が合ったからか、会話が成立するようになったと…たまげたな!」

「本当にそうです。」

 ミヤは深く頷いた。


「俺もだけれど、実はイトにも彼らの会話が聞こえるんです。2人きりで過ごしていても、見えるし、聞こえるから、もう、見張られているみたいで…頭がおかしくなりそうなんですよ。どうにかなりませんかね??」

 切実に訴え、相談した。


 すると、

「無いな~」

 と返されてしまう。


 仕方がないので、川の向こう側にある自宅に帰ろうと、バイクへ跨ろうとしたところ、携帯から軽やかな音楽が流れる。


「もしもしヤヒコ?今から?いいよ。」

 電話の相手はヤヒコで、今から自分の家に来ないかと言う誘いであった。


 イトと古賀も来るというので、二つ返事で行くこととした。


 バイクを降りて、自宅近くの駅から電車に乗り込み、ヤヒコの家へと向かう。


 ヤヒコの家に向かう前に、駅の近くにある美味しいパン屋さんで買い物をして行こうと、歩いていると、知っている二人組をウインドウ越しに発見してしまった。

 そして、そのうちの一人とバッチリ目が合い、その人物が席を立ち、店の外に居る俺の許へと走ってやって来たのだ。


「ケンさん!!ここで何しているのですか?」

 イヌっこのように愛嬌のある後輩、出水である。


 そこに、彼の連れある阿久根が店先へと顔を出し、あれよあれよと2人の力で、店の中へと入らされ、いつの間にやら出水の横へ座らされていた。

 飲み物をオーダーしようと、店員へ出水が声を掛けた時に、ミヤはやっと我に返り、出水の店員を呼ぶためにあげようとしていた手を阻止した。


「ケンさん、飲み物いらないんですか?」

 何て、いつものペースで聞いてくるので、ミヤはこれから人と会うから時間が無いのだと説明した。


「誰に?」

 と尋問を2人に受けてしまい、揃った二人からの圧に耐え切れず、まあいいかと口を滑らせた。

 それが良くなかったのは言うまでもない。


 一緒に行くことにいつの間にか、なっていた。


 道を先頭で歩きながら、ミヤがぼやく。

「お前ら、従兄妹だったんだな。そう言うところは本当にそっくりだ。」

 と、背中から哀愁を匂わせ、呟いた。


 パンを購入し、さらにはコンビニに寄って色々購入し、まるでパーティーかのような量の飲食物の入った袋を下げて、ヤヒコのマンションへとやって来る。


「いらっしゃい。」

 ヤヒコがいつもよりも声が低めでお出迎えした。

 二人を連れてきたことに若干怒っているようだ。

 そりゃそうだろう、ミヤもその行動に驚いているのだ。

 だが、断れなかったのだ。

 背後の守護霊その2が久しぶりに会った血縁者に大興奮で、言う事を聞かないのならば、祟るぞ!と脅されるのである。


 そう、その祟るぞ!が、とても怖いのだ。

 あの呪縛の時と同じようなことが起こる。


 説明しようにも、ヤヒコは出水と阿久津に囲まれ、先程の自分のように部屋の奥へと移動させられ、座らされて、目の前に甘い果実の実は少しだけ度数の高いサワーとおつまみが要され、もてなされていく。

 グイグイっと飲まされたヤヒコは、一先ず落ち着き…少しだけ酔っ払い、無口になった。


 それを確認した出水がにんまりと笑うと、ミヤに向け、キッチンお借りしますと、阿久根と共にいってしまった。

 先程買い込んだモノを冷蔵庫に入れに行ったのだろう。


 ミヤはヤヒコの隣に座ると、自身の持っていた袋から、水のペットボトルを取り出し、ヤヒコへ渡す。

「ほら、飲め。」

 ヤヒコはペットボトルを手にして、口へとゆっくり運ぶ。


 それを横目に、ミヤはお土産で買った有名店のパンを並べ、食べ始めた。

 出水がおごりだというので、もの凄い量のパンを購入した。

 出水は皆で食べる分だと思っているだろうが、知っての通り、ミヤの食べる分である。

 どんどんと、ミヤの胃の中へ、消えていくのであった。


「すみませーん、キッチンに行ったら、イト先輩と古賀の杏姉さまがいたので、少し話し込んでしまい、さらに料理のお手伝いをしてきまして……」

 そこまで出水が話して、目の前の光景に言葉を失った。


 机の上には食べ終えたパンの入っていた袋の山と、口にパンを加えるミヤを見たのだ。

「えっ!?俺達の分は?」

 そう、出水が聞く。


「もうねーよ。」

 ごっくんと最後のパンを飲み込んだミヤが答えた。

 ヤヒコのお返しだ!


「そんなぁ~」

 と悲しそうに出水が嘆くので、背後に隠しておいた彼らの買った分をほらよっと手渡した。


 よかったぁと嬉しそうに出水は袋を受け取る。


 出水は相当食べたかったのか、渡されて中身を素早く確認し、お目当てのものを取り出すと即座に食いついたのであった。


「取らねーよ。」

 ミヤが苦笑しつつそう言うと、パンを咥えたまま、本当に?と疑いの目を向けられる。

 ヤヒコに度数の高い酒を飲ませたから仕返しだと説明した。


 ひとのものまで奪って食べると思われているなんて心外だとミヤが思っていると、背後でクスクスと笑い声がした。


 来たか!?!?と、ミヤはその声の主たちにげんなりする。


 そこへキッチンからイトと杏が出来た料理を持って現れた。


 イトがその部屋の光景を見て、顔を歪める。

 足を止めたイトに杏が尋ねる。

「どうかしたの?」


「あっ、いやね。今、ミヤが大変なことになっているなと、思わず足を止めてガン見しちゃったのよ。」

 イトが説明するが、杏には見えていないし、聞こえてもいない。


 今、イトの見えている目の前の光景はこうである。

 まず、修二が出水家の話を出水から聞き出してほしいと催促している。

 昔、少しだけ親交のあった当時の出水家の次男はまだご存命かなど聞いている。


 次に久子、彼女は阿久根に興味津々だ。

 今の恋はどうなのか、手伝えないかとこれまた聞くよう催促している。


 さらにさらに、千代だ。

 ここはヤヒコの家なので、医学書も多い。

 そして、ヤヒコは医学生なので、自身の患っていた病について現代ではどのようになっているのか知りたいから、調べてくれ、彼に聞いてくれと催促している。


 三人に同時に催促されるミヤを見て、イトは同情した。


 そうこうしているうちに、ミヤがキレた。

「ああもう、うるさあああーい!!」


 横や目の前に座っていたヤヒコや出水、阿久根が驚きの表情でミヤを見る。


「うるさかったか?」

 と思わず声にだし、意見を交換し合う。


「あ、すまん…」

 ミヤがその言葉に、またやってしまったと落ち込んだ。


「今ね、幽霊軍団が同時にミヤに話し掛けていて、大変なことになっていたのよ。」

 イトが進んで、助け船を出した。


「イト~」

 ミヤは感激している。


「ああ、例の…」

 ヤヒコも事情を知っているので、周囲の頭上をキョロキョロと見回す。

 見えることはないのだが。


「何か見えるのですか?」

 阿久根がヤヒコを見習うように頭上を見て、イトへ質問した。

 出水がその横で、体をブルっと震わせて、自分の腕で自分を包む。


「ああ、君達は知らないのだったな。あの後、呪解をするべく、ミヤは挑んだ。守護霊の修二さんの力を借りて、青木久子さんを呼び出した。すると、修二さんの妻の千代さんも大きく関りがあったようで、呼び出されてきた。その際、姿の声も聞こえるようになり、結果的に話し合いで解決にいたったのだ。だが、その後も、彼らはミヤに憑いたままだ。守護霊になってしまった。さらに、言うと、姿や声が聞こえるので、負担が大きいらしい。ちなみに、糸島もあの場に居たからか、彼らの姿と声を確認することが出来る。」

 そうヤヒコが説明すると、出水と阿久根は、ミヤの背後とイトの表情を確認し、2人は顔を見合せた。


「大変ですね。」

 と、ミヤに労う言葉を掛ける。


「ああ、スッゲー大変なんだ。それで、今日、午前中に宮若家本家へ行って相談してきたのだけれど、解決方法がみつからなくてさ。その報告と相談をしに、ここに来たんだ。」

 ミヤが眉間に皺を寄せて話す。

 そうとう負担になっているらしい。


「宮若翁でもダメだったのか。」

「ああ、ダメだった。」

 ヤヒコが心配した声で語り掛け、ミヤも返答する。


 その時、またもやあの軽快な音楽が鳴る。

 ミヤは携帯の画面を見て、一度置こうとした。

 ヤヒコに誰からだ?と聞かれ、母親だとどこか恥ずかしそうに答えた。

 早く出るよう促されて、席を立ち、電話に出ながら出口の方のドアへと移動していく。


「もしもし母さん、どうしたの?」

 ミヤが聞くと、母が答える。

「本家から連絡があったの。健太郎が大変なことになっているぞって。幽霊、増えたんですってね……お寺に連絡入れておいたから、来週の連休に行ってきなさい。」

 と、言うのだ。


「は?俺、また滝行しなきゃいけないのかって言うか、守護霊って成仏させられるのか???」

 滝行を思い出し一度気力が底辺まで落ち込んだが、ふと疑問が湧く。


「守護霊?どうかしらね。霊だしいけるんじゃないの?まあ、住職に聞いてみてよ。だから、とりあえず行きなさい。行って滝行でもなんでもやってスッキリしてきなさい。」

 なんていうものだから、立ち止まり、天井を思わず扇いでしまった。


 天所を見上げているのに、視界の端からゆっくりと覗き込んでくる顔がある。

 久子だ…

 目が合うと、笑いながら部屋の天井を飛び回る。

 そして、彼女から聞こえてくる言葉がこれまた恐怖であった。


「私達を除霊したらタダじゃおかない。」

「ふざけんな!やるなら祟るわよ。」

「子供、孫、ひ孫、その後の世代、ずっと憑りついてやる。」


 イトがその言葉に反応し、驚きのあまりしゃっくりが始まってしまった。


 大きく息を吐いて、ミヤは視線を天井から戻すと、まず修二が目に入る。

 何やらかなり怒っている様子だ。

 指さししながら、文句を言い続けている。

 その横に、悲しそうな顔の千代が裾を掴んで立っている。


 何なんだよ!?と、ミヤは少しだけ罪悪感を抱く。

 そして、さらに大きくため息をついた。


「正直、どうしたらいいのか分からないよ。彼らは俺の守護霊な訳だし、悪い霊ってわけではないからね。ただ……本当に…本当に…煩いんだ……」

 ミヤは貯め込んでいた言葉を吐き出した。

 感情が籠っており、皆にヒシヒシと辛さが伝わった。


「分かる。」

 とイトは声を漏らす。

 彼女が一番分かっていることである。


「滝行…あれか~あれをまた俺は受けなきゃいけないのかな~??ああ、イヤだな、本当にあれ、きら―――」

 嫌いとミヤが口走るところで、例の呪縛が発動した。


 イトの前での “嫌い” は、現在NGワードとなっている。

 なかなか言わないのだが、呪縛が激しさを増していると苦情の嵐である。


 今は、スプリンクラーが発動した。


 部屋中、突然の水浸しで、大パニックである。

「キャーー」

「水!?これどうやって止めるの?」

「ヤバいよ、家の中、水浸し…」


「ミヤーーーーーーー!!!!!!!!」

 ヤヒコのお怒りの声が木霊する。


 その様子を、三体の幽霊がケラケラと声を出して笑っていた。


「サッサと、除霊しに行ってこーい!!」

 ヤヒコの普段では聞けない怒号が、部屋中に響いた。


  ***


 あれから2年。


 ミヤは社会人になっていた。

 某携帯会社でお馴染みの会社に勤めている。

 今日は金曜日、一週間ぶりにイトと待ち合わせをしていた。


 自動ドアの扉が開き、店に髪を1つに結んだイトが慌てた様子で入ってくる。

 大学生の時から変わらず清楚で利発なイトは、今日も綺麗だ。


 ミヤは手を挙げて、呼んだ。

「サクラ!」

 付き合って2年、距離は縮まっている。


「健!遅くなってごめん。」

 イトは汗を首筋に滲ませながら席まで来ると謝罪し、向かいの椅子に座った。


「謝らなくてもいいよ。忙しいのに来てくれて、会えるだけで俺は嬉しいから。」

 こんな臭いセリフもすんなり言えちゃうくらい縮まっている。


 金曜日はいつも、イトがミヤの住んでいる会社の独身寮、寮といっても一人暮らし用のアパートなのだが、その部屋へ遊びに来ている。

 だが、今日は明日も特別授業があるという事で、ミヤがイトの元へ会いに来ていた。

 イトは小学校の教諭となっていた。


 イトがサラダとオムライスを注文するのに便乗して、ミヤもナポリタン大盛りを頼んだ。

 店員が驚いていたが、スルーである。

 この店員にオーダーを受けてもらうのはこれで二度目であった。


「あれ?健、いつもより少なくない?」

「ああ、サクラが来る前に少しだけ食べちゃったから。」

 そうミヤが言うので、イトは伝票を見る。

 もうすでに、ハンバーグプレートとライス大盛り、ピザ二種類にサラダが注文されており、ほぼ胃の中へと消えていた。

 残っているのは、ほんの少しだがサラダの欠片だけである。


「やっぱり、ブラックボックスね。」

 と、イトはミヤの腹のあたりを見てそう言った。


 店員が料理を運んでくる。

 注文を受けた店員ではなかったので、料理をイトの方へ全て置こうとしたのだが、ミヤがナポリタンは自分のだと言うと、その店員も驚きの表情を浮かべながらミヤに渡した。


 そう言えば、先程皿を片付けに来た店員だなと思い出す。


 運ばれてきた料理を食べながら、話し始める。


「明日は学校あるけれど、明後日と月曜はお休みだから、会いにいくのに。何かあったの?」

 イトが聞くと、

「コレ、渡すように言われたんだ。まあ、明日でもよかったけれど、やっぱり会いたかったからさ。」

 そう言って、差し出された手に握られたものをイトが受け取る。


「ああ、封印のブレスレットね。」

 掌に置かれたそれを見て、イトはそう答えた。


 ヤヒコの家スプリンクラー事件の後、ミヤとイトは素直に寺へと向かった。


 あのようなことが起こったので、やはりマズいと考えて、住職に相談することになったのだ。


 だが、すんなりと行かせてはくれなかった。

 寺へ行こうとすると、やはり何かしらのトラブルに巻き込まれ、向かう事が出来なくなるのだ。

 困っていた時にそれは起こった。


 ミヤは学校帰りにいきなりワゴンに押し込まれて、目隠しされて布団のようなもので簀巻きにされるという拉致事件が起こったのだ。


 目隠しを外され、眩しさに打ち勝ち目を見張ると、そこはあの寺であった。


「成功したぞ!」

 と、声がして、わっと声が湧く。

 見回すと、住職を始め寺の人達、それにイト、ヤヒコ、杏、出水に阿久根とお馴染みのメンバーが居たのだ。


 寺に行けないミヤをどうしたら連れて行けるかと皆で作戦会議を重ね、魔よけの札と目くらましのまじないを使い、連れてこられたのだという。


 それからの修行は辛かった…例のあれやら、険しいあれやらで、ミヤの頬は涙が伝い、鼻の下は酷いことになっている。

 だが、顔からあらゆるものが出ている状態になっても、成果は出なかった。


 ミヤは布団の中でもう出まいと包まり、籠城を決行した。


 そして、籠城の中、考えた。


 魔よけの札と目くらましのまじないは効いたのだから、それを使えばいいじゃないかと!!


 それを住職に話すと、あれよあれよと話が進み、完成品一号が出来上がった。

 霊除けの数珠ブレスレットである。

 どう見ても数珠だが、住職がブレスレットだと言い張るので、そうである。


 これを身に着けることにより、霊を見ることは出来なくなるし、言葉も聞こえなくなる。

 以前の状態へと戻ることが出来るのだ。

 魔よけの力もあるので、邪悪な力は鎮められる。


 前は呪縛の敵意無しの力であったので、防ぎようがなかったが、今回は私怨なので、払う事が出来るという。

 よって、大変なトラブルには巻き込まれたりしない。

 これにより、平穏な暮らしを取り戻すことができた。


 だが、これも込められたパワーが落ちるという難点がある。

 定期的に力を補充するか、新たなものに交換する必要があるのであった。

 そうしないと、奴らは再び目の前に現れ、喋り出す。

 積もり積もっているので、とんでもないことになるのだ。


 その交換用の数珠を渡し、イトと楽しくお喋りをして、また明日ねと言って別れ、帰路に着く。


 ミヤはワンルームへと帰ってきた。

 ヤヒコの住んでいるマンションにも割りと近いので、あちらに居ることも多いのだが、今日は明日、イトが来るので、部屋の片づけの為にもこちらへ帰宅した。


 一通り掃除を終えると、ベッドに腰かけて、テーブルにビールとおつまみを置き、酒盛りを始める準備をする。

 その前にと、例の数珠を付け替えてしまおうと箱に手を伸ばした。


 自分の腕から数珠外し、新しい数珠へと手を伸ばした時だ。


 数珠がフワッと浮き上がったのだ。


 その瞬間、しまった!?と、ミヤは焦る。


 そう、数珠は新しいモノを嵌めてから、古いモノを外さなければいけなかったのだ。


「やってしまった…」

 ミヤが後悔してももう遅い…それから三日ほど、奪われた数珠の代わりに新しい数珠がイトの手元へ届き、ミヤの腕に嵌るまで、霊たちは騒ぎ通したらしい。


 今後の人生、何度かこのようなこともあり、時には、自由に開放し、霊たちと話をしたりして、ほどよく付き合い、暮らしていく。


 そんな人生であるが、ミヤはイトが隣にいて、素敵な人生を送るのである。


  ***


 それから数年後。


「おとうしゃーん、おとうしゃんは、ちゅきっていえなかったの?」

 可愛い娘が舌ったらずでそう聞いてくる。


「お母さんから聞いたんだな。ああ、昔、告白できなかったんだ。呪われていたんだよ。怖いだろう。」

 お化けの手のポーズをして娘を脅かす。


「こわいぃ~」

 そう言って抱きついてくる娘が愛らしくて仕方がない。


「ハハッ、大丈夫。今はないよ。」

 ミヤは娘の頭を撫でると、娘は顔を上げて質問する。


「今は?ダジョブ??」

 首を傾げる仕草が可愛すぎる。


「ああ、スキは何回でも言えるぞ。でもな、“キライ”は母さんには言えないんだよ。」

「どして?」



「お父さんが、お母さんを愛している証拠だからさ。キライって言うと、天罰が下るんだ。」

「神様みてりゅの~」


 娘が驚いたといった表情で、そう返すと、頭上をキョロキョロと見回す。

 そんな娘の頭を、ミヤは優しく撫でる。


「ただいま~」

 玄関から、帰宅した妻の声が聞こえた。


「そうだ、おかえりなさいして、一緒にスキって、お母さんに言おうか!」

 いたずらっ子の様な顔で、ミヤが娘にそう言うと、


「しゅりゅ~」

 と、娘は大きな声と笑顔で返してきた。


「よーし、肩車してお出迎えだぁ。」

 娘を肩車して、ミヤはイトの待つ玄関へと向かう。


「おかえりなさい。」

「おかり。」

 二人がだ迎える。


「ただいま。」

 イトは嬉しそうなフニャけた笑顔で答える。


 せーのの合図で、

「お母さん、スキー。」

「おかしゃん、ちゅきー。」


 いつまでも続く日常を、すっかり大人しくなった守護霊たちが、微笑ましい表情を浮かべて見守っていたのであった。



   ***END***



これまで読んでくださり、ありがとうございました。

途中、投稿が止まってしまい、申し訳ありませんでした。

無事に完成できて感無量です。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。感謝☆☆☆

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