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解呪できそうですか?

続きをお読みくださり、ありがとうございます。


本日の講義が終わり、ミヤはキャンパス内をふらふらと歩いている。

此処三日間、院生たちと共に教授は学会関連のイベントへ出かけているので、研究室内へ学生は勝手に立ち入れない。

その為、時間を持て余し、ヤヒコの家へ行くことになったので、ヤヒコの講義が終わるのを今か今かと待っているところだ。

 やることもなく、とても暇だったので、中庭へとふらりと出てきたところで、五島と出くわした。


 五島とは、あの事故以来、会っていなかった。

 それを幸いと考えていたのだが…


 あの事故の騒ぎを本人前にしてぶり返すのは気まずかったし、ミヤはイトからあの日に五島から告白され、振ったことを打ち明けられていたので、かなり複雑な想いを抱いていたのだ。

 彼に対して優越感もあり、哀れみも、そして、後ろめたさもある。

 それを目の前にして悟られるのは、嫌であったのだ。


 だが、今、バッタリと出くわしていた。


 五島が先に声を掛けてくる。

 あまりにも明るく、爽やかに話すので、ミヤは拍子抜けとなった。


 あの出来事は無かったかの如く、いつもの明るい人気者の五島の振舞いだ。

 イトにまとわりつくようなしつこい性格の五島は微塵も居なくなっていた。

 ミントのように清々しく爽やかな姿である。

 自分だけがやたらと考え、気にしていたのだと、ミヤは恥ずかしく感じた。


「やあ、久しぶりだね。少し話をしないかい?」

 五島はミヤと話したいと声を弾ませ、誘ってくる。


 ミヤも、少し疑心暗鬼になりながらも承諾しついて行った。

 近くの自販機横のベンチへと2人は移動した。


 先程まで、五島は菊池と宮崎と一緒に居たそうだが、ミヤを見つけた五島が、2人で話がしたいからと、その場に2人を置いてきたらしい。

 ミヤは偶然バッタリだと思っていたのだが、五島がミヤを見掛けて、後を追ってくれていた

のだ。

 ちなみに、置いてきたと言っていた2人は、少し離れた建物の影からチラチラと不安そうに覗き見しているのを確認済みだ。

 ミヤが2人分の飲み物を自販機で購入している際に、彼らとはバッチリ目が合っている。


 飲み物を五島に手渡して、ミヤも隣に腰かけた。


 何を話すのだろう、もしや殴られたりはしないよな?と思い浮かべながら、声が掛けられるのを待つ。

 ほんの一瞬の沈黙後、五島が口を開いた。


「聞いたと思うけれど、俺、桜ちゃんに告白して振られた。」

 ポツリと話し出し、淡々と語り出した。


 ミヤはイトからその話は聞いていた。

 病院で五島に告白され、すぐに断ったのだと伝えてくれていた。


「わざわざ、桜ちゃん、お前にこのことを話してもいいかって聞いてきたんだよ。彼氏にこう言った隠し事はしたくない。でも、だからって人の傷心体験を許可なくペラペラ話すのはよくないからって。本当によくできた()だよね。」

 遠くを眺めて五島はイトの事を口にする。


「いや、はい、俺には勿体ないくらい素敵な女性です。」

 ミヤが返答する。


 五島は缶を開けると一口飲み込んだ。


「うわっ、これなんだ?え、ボッス?」

 五島は飲み物が何か知らずに口に運んだようだ。

 中身が想像していたモノと違ったらしく、缶のラベルを確認している。


「甘いモノが好きじゃないって言っていたので、オニオンスープです。コーヒーの無糖が無かったので。」

 真剣な顔つきのミヤが答える。


「え?彼女にちょっかい出したから、その仕返しじゃないよね??ボッス缶だから、コーヒーだと思って口に運んじゃったよ。飲んだら全然違う味がするからビックリしたじゃん。」

 五島は目を見開いて、まじまじと缶のラベルを眺め、スープの絵を見て、はあと息を吐きだしていた。


 その横でミヤも缶を開け飲み始める。

 缶のラベルを見た五島は首を傾げた。

「お前、トマトジュースって…」


「イトが甘いモノばかりじゃ体に悪い、健康に気を遣えと言うから買ったのですが…うっ、まずい。本当はおしるこ缶が飲みたかった…」

 悲しそうに、トマトジュースを眺め、そう話すミヤの肩に五島は手を置き、


「俺の前では好きな物をたらふく飲め。それと俺、コーヒーは甘くても飲めるから。」

 と、優しく気遣った。


「ありがとうございます。その、色々と気遣ってくれて。」

 ミヤは心から感謝した。

 五島が自分に自然に接してくれ、気を使ってくれることがヒシヒシと伝わっていた。

 五島はその言葉に気づかれていたかと照れ笑う。


 思う事は沢山あるのだろうが、それは敢えて触れずにいてくれる。


「そういや、付き合えたって事は、呪いは解けたのか?」

 照れて話を変えた五島が、ミヤにはチクッとする質問を投げかけてくる。


「いいえ…未だに解けていません。付き合ったのも、イトの方からきっかけをくれて。好きという言葉は言えていません。それでも気持ちは通じてお互い好きだって分かったから…付き合おうってことになって。」

 ミヤは浮かない顔で話す。


「どうした?好きな子と付き合えた奴の面してないぞ?」

 根が優しい五島がつい悩みを聞く。


「やっぱり、好きってちゃんと言えていないのが情けなくて…彼女の方から動いてくれて、やっとこ付き合えたって感じがして。俺、すげぇ情けないなって。」

 ミヤは肩を落とし、五島に相談する。


「まあ、でもそれは呪いがあるのだから、告白できないのは仕方がないよ。それでもお互い好きだって通じて付き合えたんだから、良かったじゃないか!奇跡だ。想いが強く結びついていた証拠じゃないか。すげえ事だぞ!それ程お互いに想い合っているってことだろう。そんな2人っていうなら、俺も、すんなりと諦めがつくってもんだ。」

 その五島の言葉に、ミヤは目をパチパチさせる。

 そうだ、彼は俺の恋人にフラれたのだと、再確認させられる。


「五島先輩…ありがとうございます。自信が湧きました。」

 えらく感動したミヤはあれほど嫌悪していた五島を尊敬する先輩へとランクアップさせた。


「ハハッ、フラれた女の彼氏になった奴にアドバイスって、俺もお人好しだよな~」

 自虐的に言う五島に、ミヤがハキハキと言い返す。

「マジでいい人です。」


「じゃあ、桜ちゃんちょうだい。」

 調子に乗って五島が言うと、

「それはダメです。渡せません。」

 ミヤは一刀両断でそこは断った。


「ハハッ、やっぱりダメか~」

 そう情けなく五島が声に出した後、2人は笑い合った。


「じゃあ、俺行くわ。アイツら待っているから。あ、そうだ。スキーまた行こうぜ!今度は素直に心から楽しめそうだし!!」

 五島がチラッと建物の影に目線を示したあと、椅子から立ち上がる。

 すると、ミヤは五島の腕を即座に掴む。


「行きましょう!!絶対に社交辞令じゃなく、俺、五島さんと一緒にもっと遊びに行きたいです。あの、今さらですが…連絡先を教えてください。あと、下の名前も。さん付けで名を呼びたいです。」

 そう話し、最後は小さな声で耳を赤くして呟いた。


 ライバルだった男から、好きな人の彼氏へとなったこの男のこういうところは嫌いではないし、むしろ気に入っている。

 彼女もこういう一面に落とされたのだろうと、五島は思わずブハっと噴き出した。


「いいぞ。名は(ゆずる)だ。だが、俺の事はジョーさんと呼べ。」


 そう五島が言った後、嬉しそうに“はい、ジョーさん”と返事をする笑顔のミヤに、これならば負けても仕方がないかと思ってしまう五島であった。


  ***


「集まってくれてありがとう。」

 その話は、ミヤの一言から始まった。


 報告があるとして、ヤヒコの家に呼び出された出水は、テーブルの上に広げられた大皿料理に目を輝かせ、手を出しながら、その言葉を聞いた。

 ヤヒコの家に来る家事手伝いの東さんが、今日の為にと用意してくれた料理の数々で、それはそれは大量で全てが上手そうな品々が並んでいた。


 話す前に食べたいと言うのが出水の本音だ。

 一度ここに来て、東さんの料理だと出された品を食べてから、虜になっていたのだ。


 お預けを食らうのか?と、妬ましさを出しそうになった出水に対し、ヤヒコが言う、

「おいミヤ、意地悪はやめろ。」


「分かっている。俺だって、先に飯を食べたいだから、そう言おうとしただけだ。先に飯にしようぜ!」

 ミヤはすでに取り皿に山盛りに乗せている。


「賛成です。」

 出水は止めていた手を再び動かし、自分の皿へと料理を乗せた。


 “いただきます”の合図で、一斉に食べ進める。


 空になった皿を片付けるヤヒコの横で、冷凍庫から取り出した菓子パンをオーブントースターで焼き、頬張るミヤを目にし、あれだけ食べたのにと出水は驚いている。

 いつもの光景らしく、ヤヒコは反応が薄い。


 ヤヒコがコーヒーを入れて、出水の元へ戻ってきた。

 後ろからついてきたミヤの手には、大量の焼き菓子が抱えられていた。


 席に着き、では始めるかと切り出す。

 市松模様のクッキーを頬張りながら、ミヤは話し始めた。


「俺のこれ、呪いではないらしい。」

 ミヤがそう言う。


「は?じゃあ、何だってんだ?」

 ヤヒコが返す。


「だって、そう書いてあったんだ。ほら、このノート。漸く解読し終えた。昔の言葉や若宮家の隠語とかあって、じっちゃんと信二郎さんに協力してもらいながらだったから、えらい時間かかったけど。これ、俺の呪いとよんでいたものは、幽霊が修二さんにある言葉を言わせるための【縛り】だったと判った。」

 ミヤはこのことを早く2人に伝えたかったのか、興奮しながら話した。


「話しがすっ飛ばされ過ぎて、よく分からないから、順を追って教えてくれ。」

 ヤヒコが冷静にミヤを落ち着かせる。


 出馬前に興奮する馬を落ち着かせるジョッキーの様だなと、横で見ている出水は淹れたてのコーヒーをフーフーしながら考えていた。


「わかった、最初から話すぞ。」

 ミヤが話し出した。


 日記というか、若宮修二の奥さん、千代のメモ書きノートは、様々なことが書かれている。

 日付、天気、来訪者、学んだこと、料理のレシピ、その日あったこと、忘れてはいけないことなど、彼方此方に単語や文が散布し、豆粒のような小さな字でびっしりとメモ書きされている。

 それを読み解き、箇条書きにして、分かりやすく組み立て、重要な箇所を抜粋するなどして、内容を把握していった。


 日付から見て、修二さんと結婚してから数年は経っているところから、このノートは始めっている。

亡くなる直前まで書かれたこのノートは自分の記録を残すために大事に書き続けた物であったのだろう。


「このノートにはチャコという者が登場する。結構最初の方から出てきているんだ。最初は今日もいるとか、また来た、見ているとかだったんだけど、だんだん会いに来てくれたとか、笑ったとかになって、後半部分では、かなり親しい間柄になっていたんだ。最初は野良猫でも手なずけたのかと勘違いしたけど、読み解いて行くと、どうやら人の様だと感じて、その近くに書かれた文章を詳しく解読していったら、動物でも人でもない存在だった。」


 チャコは後半部に頻繁に登場していた。

 親しい友人のような関係になっている。

 この頃には、千代さんは病気が進み、自分の死期が近いという事もノートに書かれていた。

 修二さんが家にいるときは気丈に振舞い、外出している時は身体を休めていた様だと、推測できるほどの体調の不調がメモ書きで書き殴られていた。

 几帳面で綺麗なびっしりと書かれた小さな字から、震えて形の崩れたものへと変わっていた。

 おそらく、もう外出も厳しい状況であったのだろう。

 そんな中に自分に会いに来る者の存在は、例え幽霊であっても嬉しかったのだろう。

 チャコが来たことはしっかり書いている。


「そして見つけたのが、この文章、修二さんの呪いが始まったとされる頃のメモで【チャコは私の願いを叶えようとしているようだ】もし、このチャコが久子ならば、久子が千代さんの為に何かをし出したと言う文である。では、千代さんの願いとは何だろうかと考え、これ以前の彼女の願いをノートから抜粋し、その中でも修二さんに呪いをかける必要の関連あるものを探した。そして、これかな?と思われるものがあった。【夫は戦時前、将来を誓い合った相手がいて、その人と愛し合っていたのだと義理の姉から教えられた。お前はお金の為に結婚しただけで愛されていないとも言われ、内心悔しかったと、チャコに自分も愛していると言われみたいと愚痴る】これではないかなと。」

 ミヤが指示した先に散り散りだがそう書かれていた。


「あっ、好きじゃなくて、愛していると言わせるためって事ですか?」

 出水が閃いたと言うように勢いよく言うと、


「その通り!!」

 と、ミヤは嬉しそうに答えた。


「まさか…そんなバカげた理由で千代さんを呪い殺したのか?」

 ヤヒコが憤怒する。


「いいや、久子は呪い殺していないよ。千代さんは本当に難病を抱えていたんだ。【今日も昼寝】この昼寝っていうのは床に就いていたって事だと思う。最後の方はほぼ書かれているから…病気が原因で亡くなっている。修二さんや信次郎さんには、そう見えないように彼らの前では気力を振り絞って、健康に見えるよう振舞っていた様だ。【まだ気づかれていない、よかった】何度も書かれている。だが、千代さんの体は着々と病魔に蝕まれていた。その所為で、ある日突然倒れて…という結果に繋がったんだと思う。【体の弱い自分を、憐れんでほしくない】ほら、こことか、【可哀そうじゃない】【申し訳ない】【迷惑をかけたくない】何度も出てくる。呪いの所為で亡くなったんじゃなかったんだ。」

 ミヤは悲しそうに、ノートを見つめていた。


 ヤヒコと出水も、ノートへと視線を下ろす。

 謎を解く道具として考えていたこのノートは、死期を知った女性の残した想いの詰まった貴重な物なのだと、今になって思い知らされていた。


「そんな彼女の最後の願いを叶える為に、久子は修二に【縛り】を放った。好きではなく、愛していると言わせるために。俺はこのことを踏まえて、呪いを解こうと思っている。イトも協力してくれると言ってくれた。」

 ミヤが強い意志でそう告げた。


「大丈夫なのか?俺も何か手伝えることはあるか?」

 ヤヒコが心配そうに尋ねる。

「僕も。」

 出水も続く。


「大丈夫。俺とイトだけでやってくる。きっと縛りを解除してみせる。」

 そう皆の前で宣言し、ミヤは気持ちを奮い立たせた。


 その夜はお酒を飲みながら何度もヤヒコや出水に協力するから連れて行けと説得されたが、頑なにミヤは断り続けた。


 意志は強く、ミヤは断り続けていたが、彼らの気持ちは心から嬉しく、とても感謝していた。


 いよいよ、決戦の舞台へと幕が上がる。




いよいよ、クライマックスです。


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