解呪~お寺へ行こう2
1からの続きです。
その日の夕食後、ミヤは阿久根に呼び出されていた。
場所は本堂の前である。
なぜこんな所に呼び出されたのか分からないが、2人で話をするチャンスだとミヤは思った。
境内は年代ものの大きな木が植えられており、敷地は根や幹に面積を取られ、若干狭く感じる。
参道から伸びた本堂の前は常香炉が置かれ、開かれたスペースとなっていた。
常香炉後ろには階段があり、上った先から本堂へと上がれる。
だが、この時間なので扉は閉められていた。
ミヤが先につき、階段に腰かけて、阿久根を待つ。
東北の冬はかなり寒く、厚めのズボンとインナーは大目に着込み、その上にダウンを羽織ってきたが寒さは厳しい。
顔に容赦なく風が当たり、頬がビキビキと固まるような感覚になり、マフラーを頬まで上げて顔半分を覆う。
幽霊に初めて会って、呪われた時も、寒さの応える今くらいの次期であったなと、ふと思い出す。
そうこうしているうちに、阿久根がやって来た。
温かな耳当て付毛糸帽を被っていて、モコモコのコートに寒さ対策は大丈夫そうだ。
「すみません、遅れました。」
「いや、さっき来たばかりだ。それよりも、話しをするのなら寒いし、何処か屋内へ移ろうか?」
ミヤが提案すると、
「いいえ、ここの方が良いかと思いまして、ここへ呼び出したのです。」
と、阿久根は答えた。
「本当はあの人が出てくるためにお墓の方がよいかもとは思ったのですが、想いを打ち明ける場所にお墓はちょっとなぁとためらいまして、一歩譲って、本堂前にしました。ここならば、大きな被害は出ないでしょう。」
阿久根はハキハキと白い息を吐きだしながら、答えた。
「想いを打ち明ける?」
ミヤは聞き返す。
「はい、私、聞いてしまったんです。ケンさんの呪いには私が関係しているって…私のご先祖が、私の気持ちを知って、ケンさんが私に気持ちを伝えられないようにしているんですよね?先祖の事も出水から詳しく聞きました。」
直球で放たれた言葉に、ミヤさえも少し戸惑った。
だが、そうだと頷き、短く答える。
「はあ、それを聞いて、またあなたに迷惑を掛けてしまったのかと、ショックでした。私はケンさんに好きな人が居ることは知っていたので、想いを伝えてもすぐにフラれるだけなのも知っていましたから、それならば今はまだしないで、意識してもらえるように努力しようと作戦を立てたんです。でも、意識どころか自分本位で暴走し迷惑を掛けて嫌な思いを沢山させてしまいました。さらには呪いまで…それを聞いて、例え、あなたに好きな人がいようとも、今の気持ちをきちんと聞いてもらおうと決心したのです。」
真剣な表情でミヤを見つめ、阿久根は言い切った。
真剣な眼差しに目を奪われ、ミヤは息を飲み込み、黙ったままだ。
静寂の中、阿久根の凛とした声が響いた。
「私、ケンさんが好きです。」
一瞬、境内に静けさが張り詰める。
がだそれを嫌うかのように、空白ほぼ作らずに、阿久根が早口で捲し立て始めた。
「出会った瞬間からビビビッと来て好きになっていました。」
「ケンさん、見た目がチョーカッコいいし、さらに優しくて、自分の理想にピッタリな人がここに居たって、舞い上がりました。」
「夢中になって追いかけて、迷惑を掛けてしまいましたが、本当に本当に好きで…」
一息入れて、
「でも、好きな人が居ることは知っています。だから、返事は直ぐにしないでください。」
「私の事もよく知って欲しいから、それでもダメならば、ちゃんと諦めます…」
最後の方は声の音量と速度が少し落ちていく。
ミヤはこの言葉に答えようと決意する。
自分の気持ちもきちんと伝えなければと、答えはまだしてほしくないと言うが、今の自分の気持ちは伝えるべきだと判断した。
「阿久根、俺はイトが好きな―――」
そう言いかけた時に、参道から強風が吹き抜けた。
2人の間を通り抜ける。
強い風に、ミヤと阿久根は顔を覆い、目を瞑った。
目を開けると、参道に人影がある。
目を凝らし、何かと確認すると徐々にはハッキリと見えてきた。
赤い着物の幽霊が、そこにいた。
「青木久子…」
ミヤは名を無意識に呼んだ。
目元は暗くて伺えない。
確認できる幽霊の口元が、口角を上げてニヤリと笑う。
ミヤと阿久根は恐怖に震えた。
縮こまっていた体に気合を入れ、質問しようとミヤが声を張り上げようとした瞬間、阿久根が一歩前に出て、幽霊に叫んでいた。
「私の邪魔をしないで、伝えたくて伝えられなかった苦しみは、貴女が一番分かっているはずよ!どうか、もう、これ以上は呪わないで。」
阿久根は必死に訴えた。
幽霊の正体とその生涯の話を出水から聞かされたのだろう。
彼女の幽霊を見つめる目が酷く悲しげに揺れている。
幽霊の口角が下がった。
ミヤも一歩前へ出て、幽霊に思いをぶつけた。
「俺は、イトの事が好きだ。お前に妨害されるようになり、皮肉にも彼女のことばかり考えるようになった。まるで執着に近い。だが、歪んでいたが好きは恋愛の甘く淡い気持ちを一気に駆け抜け、愛に近い感情へと変化した。俺は今、イトを心から愛している。この気持ちを彼女に直接伝えたい。そして、阿久根にも知っていてもらいたかった。ん!?あれ?言えているぞ??」
阿久根の聞こえる範囲で、イトを好きだと言う言葉が発せられたことに、驚いてしまう。
阿久根に目をやると、分けが分からないと言うような表情をしているので、説明した。
「あ、俺が阿久根の気持ちを拒む言葉や俺が君への気持ちがないと言う、例えばイトの事が好きだからとかそういう言葉を口にしようとすると、今まで、何らかの妨害があったんだ…でも、今、君は聞いている。この場で口にする事が出来た!ってことは、呪いが解けたのか!?!?」
説明しながら、いまだに混乱するミヤ。
「ッ……呪ってなどない……」
そう、幽霊がしゃがれた声で発した。
次の瞬間、またもや突風が吹き、目が開けられなくなる。
顔を覆い、風が止むのを待つ。
目を開くと、そこにはもう、幽霊の姿はなかった。
「あの言葉は…どういう意味だ??」
ミヤは戸惑い、混乱した。
押し黙る…。
「あの、ケンさんは呪いが解けたのですか?」
そう、阿久根に声を掛けられて、考えに耽っていた自分から現実へと戻る。
「そう、なのかな?試してみるか……俺はイトが好きだ。阿久根とは付き合えない。」
……何も起こらなかった。
阿久根と目を合わせ、頷く。
「呪いが解けたのですね!」
喜んでくれる。
「でも、その言葉を聞くのは複雑です。」
顔を曇らせる。
ミヤも、どうこたえようかと口ごもっていると、
「まあ、呪いが無くなったので、これで、私も心意気なくケンさんにアタックし続けられるので、ヨシとしますか。これから本気出していくので覚悟していてくださいね!」
そうであった、彼女は元々、プラス思考で引きずらない思い込みの激しい行動タイプの女性であったと、この言葉を聞き、ミヤは思い出す。
苦笑いを返事とし、寒いからと2人は屋内へ歩みを進ませた。
***
翌朝、幽霊との対面と呪い解除の報告を受けた一行は、帰宅の準備をしていた。
広げていた荷物をそれぞれが持ってきた鞄へと押し込み、朝食を済ませると、お堂へと向かう。
祈祷を施してもらい、安全な帰りを約束された。
そうでなくとも呪いが解かれた今、母への報告をせねばならないミヤにとっては清々しい気持ちで居られる。
だが、それよりも、イトに告白をしたいと言う逸る気持ちを何度も押し戻していた。
「じゃあ、俺達は車を取って来るよ。あそこらへんで待っていて。」
千段はあるといわれる石段を下り終えた所でヤヒコがそう言うと、出水に声を掛け、少し離れた場所にある駐車場へ向かおうと足を運ぶ。
「あ、正太郎!私も行くよ。そのまま乗っていけるでしょう。ケンさん、呪いが解けたからって、焦らずに慎重にでお願いしますよ。アレはまだまだ早いですからね!それじゃあ、また大学で。皆さん、さようなら。」
阿久根が笑顔で言い放つと出水の方へと駆けていく。
出水とヤヒコが足を止め、阿久根が来るのを待つ。
「アレって何よ?」
イトが何だか怒っているような口ぶりで右からずいッと体を寄せて聞いてきたので、ミヤが咄嗟に答える。
「アレってのはだな。それは、えっと、俺がイトの事をス―――」
そう、イトに思わず告白をしようとしたのだ。
だが、呪いの解けたはずのミヤに、悲劇が襲い掛かる。
かなり大きなバキバキッという激しい音と共に木が倒れてきたのだ。
咄嗟に引っ張ったイトのはボディーガードとして優秀であった。
なかなかの大きさの木で、数十センチ左に居たならば、肩や頭を殴打していたかもしれないと、震えてくる。
あまりの驚きに少し時差を経て腰が引けてくる。
音に反応し振り向いたヤヒコたちも駆け付けた。
「大丈夫ですか?」
焦った表情の出水がミヤを抱えて立ち上がらせる。
腰に力が入りづらいので、よれよれと立ち上がり、出水の肩を借りる。
「何があったんだ?」
ヤヒコがミヤに聞くと、ミヤは小さな声で答えた。
「呪い…解かれてなかった…」
その言葉に一同は悟り、どんよりと暗い気持ちのまま、帰路へと着くこととなったのである。
今忙しいので、月1投稿も乱れておりますが、ここまできたので最後まで投稿できるよう頑張ります☆
続きを読んでくださる優しい方々、感謝いたします。




