呪われた瞬間
呪われた回想の所をまるまる投稿し忘れていました。
割り込みでここに入れさせてもらいます。
呪い!?これって何かの祟りじゃないの?
いやいや、俺はアイツに何もしていないし、祟られる謂れがないのよ。
だから祟りじゃない。
あれは、俺が高校三年生の冬、受験勉強真っただ中での出来事だった。
俺は大学受験に向けて日々勉強に励んでいたのだが、もうすぐ押し寄せる試験本番のプレッシャーを前に、その日はどうにも勉強に集中出来ずにいたんだ。
少し気分転換をしようと、深夜のコンビニに漫画雑誌【飛躍】を買いに出かけた。
これだけは、いくら受験生であろうとも断つことは出来ない。
寒空の中歩いて辿り着いたコンビニで雑誌の他にもおでんを購入し、俺は炬燵で少しだけ深夜番組を見ながら大好きなはんぺんを食べるという至福の時間を想像し、ウキウキしながら帰り道を闊歩していた。
公園の横を通り抜け、秋頃には沢山の柿の生る木がある大きな家の横を通り過ぎた。
そのすぐ後に嫌な気配を感じ立ち止まる。
目を凝らすと、角の外灯の光から外れた物影で何かが蠢いていた。
仄暗い闇から、這い出てきているかのようなもがき蠢く何か…。
腰の高さよりの低い黒い影のようなモノがそこには存在した。
それから、途切れ途切れのか細い高い声が冬の冷やされたこの空間へと漏れ聞こえてくる。
これ、すすり泣く声……女の人の声だな。
しかしながら、黒く蠢くあれはいったい何なのだろう?
よく見えないが……滅茶苦茶怖いです!!
あああああ、関わりたくないな~。
絶対に、ヤバいやつじゃん!!
近付くにつれて、その影の輪郭が認識できるようになっていく。
膝を掛けて座り込んだ人のような形だ。
外灯の近くだというのにハッキリと確認は出来ない。
すすり泣く声と共に蠢く何か、その光景は、兎に角、怖かった。
俺は心底ビビっていた。
だから、それを目線に入れないようにして、俺は恐る恐る道の端へと移動し距離を取り、横を通過してしまおうと試みたのだ。
ここを通らないと家に帰れない。
引き返し別の道を行くという選択ももちろんあるのだが、そうすると、かなりの距離になる。
そう、遠回りしていてはコンビニで買ったおでんが冷めてしまうのだ。
家はここを抜ければ二つ目の角を曲がって三軒目、走れば速攻で辿り着けるのである。
幸い、道路の幅は車がすれ違えるくらいはある。
俺はやれる男だ!!
腹は決まり、突進した。
運動部であった俺の脚力を信じろ!いける、いけるぞ!!
おでんを抱えながら道の端を我武者羅に走る。
そして、丁度、謎の影の真横に来た時である。
「そこのお前、待てぇ!!泣いている女を無視するンかぁぁあああーーー!?」
と、雷に打たれたような迫力であれに声を掛けられた!
さっきまでのしおらしくすすり泣く声の女とは思えない程、もの凄い拳の利いたお叱りの声だった。
俺はビクッと驚き、つい立ち止まってしまう。
おでんはしっかり持っていた。
「ん?知った匂い…お前、名は?名は何と言う!?」
影がそう言いながら、一瞬の間に間合いを詰めスッと寄ってきた。
近付いてきたのに気づき、俺の緊張はピークに達した。
足がすくんで動けない。
目を片目だけ開き、口を甘く噛み、首を動かし、その物体の方へそっと目をやった。
その行動は間違えだった。
その暗闇から近づいてくる物体についていた大きな瞳とバッチリ目が合ってしまったのだ。
俺は恐怖に震えた。
気味が悪い…。
俺と目が合ったまま、それは暗闇から自分の方へスッと近寄ってくる。
外灯の下からかなる外れ、暗闇から自分の目の前へと現れたソレは、茜色の打掛を着ている女性であった。
髪型も現代の人はやらないような束髪で結ばれており、若干の乱れが見られる。
真っ白い肌に元の口の輪郭より小さく塗られた真っ赤な口紅が印象的であった。
着物を着ているから江戸時代?いやそれよりももっと後の時代かも?と思わされる風貌。
あああああ、これはやっちまった…あれだ、完全にお化けに間違いない!!
俺の脳内は一目散に逃げることを選択した。
だが、体が言う事をきかない。
瞬時に顔を自宅方面へと向けようとし、全力で走る気持ちで、さっきは精神的に動かなかった足を何とか動かそうと試みた。
しかし、体は違和感だらけ、自分の物ではないみたいだ。
何だこれ!?
体が滅茶苦茶重たい、全く自分の思うように動かせない!!
先程は極度の恐怖のせいで体が縮こまり硬直して動かせなかったのだろうが、それとは違うのだ。
軋むように鳴る体をどうにか気力を奮い立たせ、力を入れて動かそうとするのだが、亀のように遅い。
次の瞬間、左腕を捕まれていた。
「ヒィッ!!」
掴む手を見て、思わず小さいながら声が出た。
恐る恐る手の方へ目線を動かすと、先程の女が鋭い眼光を俺に向け、歯をギリッと小さく鳴らし立っていた。
「何故、私から逃げようとする!?」
「う、うわあー!」
俺は思わず、腕を握る手を強く振り払う。
しかし、振り払えない。
俺の身体が自由に動かせないのもそうだが、この女の力がすさまじく強いのだ。
俺の腕を掴む女の指が、服とすれギシッと音を鳴らす。
ちょ、ちょっと、すげぇー痛いんですけど……。
声は出る様なので、痛い痛いと声を出す。
女はその声を無視し、俺の顔を覗き込んでくる。
「お前のその顔、修……宮若修二……いや、ちぃと違っておる…お前、誰や、修を知っているか!?」
女が俺の顔を見て、目を大きく見開き質問してきた。
「若宮しゅ、修二?宮若、苗字は同じだが…修二……ああ、そう言えば、修二は確か祖父の兄にそんな名の者がいたような。もう死んでいるぞ。」
そう言い放った後、俺の体は動かせるようになり女の掴む力が少し緩んだ。
今だと、それを見逃さず、俺は力を強めて腕から女の手を引きはがし、少し距離を取る。
離れた後、女が鬼気迫る目つきで俺を睨み、ヒュッというか細い呼吸音を立てて息を吐いた。
「ああ、知っているとも。何せ、長い間、私が見張っていたのだからな。お前はアイツの血縁者か?修……修。修が…若宮が憎い、憎い憎い憎い憎い……私から逃げようとした。お前も、お前もなのか!キィィィィーーー!!悔しい、悔しいぞ、憎い、憎い、許さぬぞぉー!!!!おのれーお前も呪ってやるぅぅぅ。」
着物や髪の毛を振り回し、そう喚き散らしながらお化け女はスッと暗闇へと姿を消した。
おそらく、これが俺の呪われた瞬間だ。
その後、俺はダッシュで帰宅し、アレに握られていた腕の服を捲り、そこにアレの手形がくっきりついているのを確認すると、現実であったと恐怖に震えながら布団に入った。
本当に怖い出来事で、脳の中で幾度も途切れ途切れの場面がフラッシュバックしたのだった。
それから俺は呪いを警戒し、怯える日々を送ることとなる。
だがしかし、一晩経って何も起きず、一か月経っても何もなかった。
人間の本能なのか、嫌な記憶は改ざんされ、おのずと怖さも弱まり落ち着いてくる。
そうなってくると、思い出すこともなくなっていく。
時期が受験本番と重なっていたこともあり、いつの間にかあのことを気に掛けることもなくなり、受験が終わる頃には、すっかり忘れてしまっていた。
俺ってかなり単純ヤローである。
とまあ、これがつい最近まで忘れていた謎の幽霊女に俺が呪われた経緯だ。
誰なのか全く分からない謎の幽霊に呪われて、しかもその呪いが告白できないって言う意味不明なものだから、地味に困っている。
幽霊から逃げようとしただけなのに、本当に嫌になっちゃうよ。
先に菓子パン回を読んでしまった方、すみませんでした。