解呪~お寺へ行こう1
ようやく続きが書けました。
読んでくださり、ありがとうございます!
本日、ミヤは東北の山の中にあるお寺へと来ていた。
遂に自分が呪われていると言う事実が母親にバレてしまったからだ。
正月に祖父たちと話をしていた時にウッカリ聞かれてしまったのである。
ミヤの母は、青森の強い霊能力を持つ巫女を輩出する家系の出身らしく母の姉がかなりの能力者で、嫁ぎ先がその界隈では有名な寺だと言う話を初めて聞かされた。
有無を言わせず、寺へ行けとあっという間に手筈が整えられ、ミヤはやって来ていた。
一緒に来たメンバーは、ミヤの御守り役ヤヒコと当事者のイト、その付き添いに杏、幽霊の縁者と思われる阿久根と出水である。
呪いに関係していそうな者たちは全員連れていけと母親からの指示なので、このメンバーで向かう運びとなった。
ヤヒコや出水は呪いの事をすでに伝えているが、その他のメンバーを誘うのに少し苦労した。
自分が呪われたので、自分の近くに居た人も心配だからお祓いに行こうと誘導し、着いて来てもらったのだ。
嘘をついたことが恨めしく、伝える時は終始挙動不審であっただろう。
そうして、寺への連泊が始まった。
そして、今、俺はこの真冬の凍るような空の下、体へと触れる水が刺さるように冷たい滝に打たれていた。
「……ッ。」
神様、もうダメ助けて…としか言葉が浮かばなかった。
神頼みをする程、疲労が蓄積し、自分で体を動かす気力もない。
何とか踏ん張って立っているのが精一杯であった。
滝に流されてきた小さな木の実がミヤの首裏にコツンと当たる。
その瞬間、すべての音が消え、視界が歪んだ。
***
いつの間にか、自分の寝泊まりしている部屋の布団の上で目を覚ました。
目線を彷徨わせていると、視界にイトの顔が入ってくる。
「て…天使?俺は死んだのか?」
ミヤはそう呟いていた。
「ミヤ??気がついたのね。良かった。ここはお寺よ、あなたの泊まっている部屋。今、住職を呼んでくるわね。」
目を潤ませて、イトがそう話した。
「俺は助かったのか?」
ミヤが天井を見て言うと、
「ええ、助かったわ。無事で良かった。」
と、イトは優しく答えた。
どうやら、あの滝修行の最中に、俺は堪え切れず失神したらしい。
軟弱だ…
同じ言葉を部屋に入ってきたヤヒコにモノ一番に投げつけられた。
「連日の体の酷使、居眠りも多くなっていたのに、大丈夫だと甘く見ていた当然の結果だな。最近は運動もしていないし、体が弱っているのだ。人様に迷惑を掛けぬよう鍛えろ。」
その粗い口調の傍ら、表情は必死さが滲み出て居た。
彼なりの心配をしてくれているようだ。
人様に迷惑を掛けるなと言ったら、ミヤに掛けられた呪いなのだが、現役は引退しているが霊能力は未だピカ一と言い張る90歳の前住職が色々と試してくれたのだ。
それでもミヤの呪いが消えることは無かった。
滝行も失敗に終わり、手は尽くしたといい肩をガックリと落とす前住職に、幽霊は高笑いを浴びせているような気がしてくる。
「こんなに根強いのは久々じゃ。」
と、前住職は諦めきれないのか、払う手段はもうないのかと寺の倉庫に山積みとなっている古い文献を籠って探しているそうだ。
払えるとしても肉体的な苦痛の伴う手段のものは見付からないといいなと、ミヤは少しだけ思ってしまったりする。
穢れが染みついているのかもしれないと、常に体を清めるために一日一回の冷水浴びと写経をやらされているミヤはそれだけでも心労である。
「健太郎君、大丈夫ですか?」
室内に湯気の立ったおかゆを盆に乗せ、そう声を掛けながら入室して来たのは、住職の息子、母の姉の夫である佐藤彰さんだ。
「八幡君から聞いたよ。体調が万全ではない所を祖父が無理をさせてしまったようで、申し訳ないね。コレを食べてゆっくり休んで欲しい。」
小さな机をミヤの寝る布団の横に出し、その上に粥の器を置く。
グゥっとミヤの腹の音が鳴る。
「彰さん、申し訳ないのですが、粥だけだとミヤは飢えてまた倒れます。先程皆が頂いたカレーライスを大盛りで彼に用意してもらえませんか?」
ヤヒコが言う。
「え、カレー食べられるの?も、持ってくるね。大盛り…」
彰はミヤを見て、目をしばたたきながら立ち上がり、部屋をそそくさと後にした。
お盆の上に大盛りカレーを手にして帰ってきた彰は、先程用意した小さな机の上の粥が綺麗に食べられていることを確認し、器をカレー皿と取り換える。
ミヤがカレーのいい匂いに鼻をひくひくさせると、腹の音が再び鳴った。
クスっと彰は笑い。
「おあがり。」
と優しく声を掛けた。
皿を持ち上げて、ミヤはカレーを食べ始める。
五分もしないうちに皿から消えていく。
彰は口をポカンと開け、それを眺めていた。
食事はその後、直ぐに終わり、体力も少し寝たので取り戻したとミヤは言い、布団から起き上がった。
折角の機会なので、真剣に呪いについて立ち向かおうと考えた。
皆を集めて、話し合い、全員から意見をもらうことにしたのだ。
もちろん、ミヤがイトの事を好きだの何だの云々は巧妙に省く。
彰さんも何かアドバイスがしてあげられるかもと、話に参加してくれた。
ミヤは幽霊と遭遇し、呪われたという経緯や幽霊と自分との関係性、呪いについて語った。
自分に降りかかる呪いは、キーワードがありそれを言葉にしてしまうと発動し、ミヤの発言や行動が妨害されるというものなのだと説明する。
自分の先祖の修二が幽霊と何らかの関わりがあり、その幽霊は阿久根の先祖だという事もここで話す。
阿久根は初耳であった為、かなり驚いた様子であった。
阿久根が幽霊の素性を知りたがるので、出水から恋愛絡みの所は抜きにして幽霊の事をあとで詳しく話して聞かせやってくれとお願いする。
出水は了解し、阿久根を抑え、話しを続けるよう促す。
ミヤは話を続けた。
最近、二つ目の呪いが始まったことも伝えた。
それは最初とは違うワードだが伝えようとすると何かが起きて妨害されるという事は一緒であると説明する。
だが、こちらの妨害は、幽霊の個人的な想いからやっているのではと、出水の親戚への聞き取り調査から予測していると伝えた。
ただ、その事が分かっても、どうやってその呪いを解けばよいのかは全く分からない。
皆で一緒に考えて欲しいと頼み、ミヤは頭を下げた。
「幽霊の想いから起こしている事ならば、無理矢理お祓いを行うよりも、幽霊と対話が出来ればいいのに。」
そう、古賀がそう意見を言う。
それに対して、彰さんが、幽霊と対話を行うにはかなりの鍛錬が必要なのだと話す。
下手すると、鍛錬しても一生対話が出来ない可能性もあり、即座に解呪したいと言うのであれば、そのやり方は現実的ではないと否定した。
ただ、今までの話を聞いてみて、ミヤと幽霊は何度か会っているから、再び会う機会があるのならば、会話を試みるのも不可能とは言い難いのではないかとも言っていた。
幽霊と会話するか…
まずは幽霊に会わないといけないってことだよな…
アレに対峙するという恐怖から、ミヤの体に悪寒が走る。
「幽霊に会うにはどうしたらよいのだろう?そうじゃないと話せないよな…」
ミヤが怯え交じりに小さく呟く。
「うーん、霊を呼び出す儀式をやってみるかい?守護霊が来てしまうかもしれないけれど。」
彰さんが言う。
「守護霊…修二さんが来てもなぁ…」
ミヤは首を傾げる。
「なあ、それをやらなくても、ミヤの言動を幽霊は聞いているのではないか?そうでなければ呪いの発動はできないだろう?だから聞いている前提で、一方的に語り掛けてみるのはどうだろうか?何らかの反応はあるかもしれない。やってみる価値はある。」
ヤヒコが語る。
「そうか…では、その話す内容をまずは一人で考えてみるよ。」
ミヤは、イトたちに目をやり、そう答えた。
大勢の前では言い出しにくい内容であると、汲み取ってくれたのか、皆、ここでいったん話を切り上げることに賛同してくれた。
「皆、こんな現実的ではない疑わしい話なのに、俺に協力してくれてありがとう。」
ミヤは部屋を後にする皆に頭を下げてお礼を言う。
皆、どうってことないと笑って去っていった。
***
寺の濡れ縁に胡坐をかいて座り、ミヤは首を垂れて一人で考え込んでいた。
そこに、事情を詳しく知るヤヒコと出水がやって来る。
あの場では話せなかったこと、語り掛ける内容などを一緒に考えようと来てくれたらしい。
「ケンさん大丈夫ですか?」
ミヤに近づき、出水がそう声を掛ける。
「ああ、もう健康だ。問題ない。」
とミヤは体の事を聞かれたのだと思い、そう答える。
「そうじゃない、出水はお前の精神面を心配しているんだ。色々試してみたが、結局どれもダメだっただろう。落ち込んでいるんじゃないかと聞いているんだ。」
ヤヒコが隣に座りながら言う。
「ああ、そっちか。まあ、それも大丈夫だ…ただ、別の事でちょっとしんどい。」
ミヤは眉根を下げて言う。
「何だ?言ってみろ!」
ヤヒコが聞くと、ミヤは嬉しそうに息をフッと吐き、答えた。
「呪われている俺だけれど、自分の気持ちはやっぱり直接本人に伝えたい。だが、それは相手にとってはどうなのかと考えたんだ。俺はイトが好きだ。それは揺るぎない事実。つまりは、阿久根の気持ちには答えられない。前に、ヤヒコが言っていただろう?阿久根はそれを知っていて、フラれるのを分かっているので直接は告白をしてこないって、幽霊の呪いがなくても、あちらからの告白がないから俺もハッキリと断る事は出来ない。それでも俺は、強引にでも断りたい。彼女は面倒見よくて、頑張り屋さんなのはよく分かっている。だが、俺が阿久根の気持ちを受け入れる事はないから、この時間を無駄にしてほしくない。他にいい人を見つけてほしい。彼女の幸せの為にもそうしてやりたいんだ。」
ミヤはそう語った。
その時、突風か吹き、竹の葉が揺れる。
擦りあう音が静かな境内を駆け巡った。
葉の音が鳴りやむ寸前に、出水が声を上げる。
「ケンさん、それは傲慢ではないですか?アイツが努力している時間を無駄な時間と決めつけないでください。アイツだって分かっています。それでも諦めきれなくて足掻いているんです。ケンさんも呪いが掛けられた中でイト先輩に必死で告白を挑むように、あいつも必死に挑んでいるんです。無駄なんて言葉を勝手に押し付けないでください。」
出水がいつもとは違った険しい表情で、ミヤに食って掛かる。
ミヤはハッと気づかされる。
阿久根も自分と同じなのだと。
「その通りだな、俺も同じだ…俺のイトへ告白するのに頑張るのを無駄だなんて一切思えていない。その考えは押し付けだな。やはり、お互いが自身の言葉を、気持ちを、きちんと向き合い伝えあわなければいけないな…俺は、早く呪いを解かなければならない。自分の為にも、阿久根の為にも。」
ミヤはそう心から思い、力強く言い切った。
「はい、ケンさん。絶対に呪いを解きましょう。ご先祖様がこれ以上、幸子へ関わるのも終わらせてやりたいです。」
そう出水が言い放った瞬間、風が無いのに笹の擦れる音がする。
「なんだ?幽霊か!?」
ヤヒコがブルっと体を震わせた。
***
ミヤが呪いを解く方法を探そうと寺の濡れ縁から立ち上がり、去っていった後、追うように出水もその場を後にする。
その縁から少し離れた竹林の中で、聞き耳を立てていた者がいた。
阿久根だ。
ここに到着したのは、ミヤが話している途中であった。
「……無駄にしてほしくない。他に…を見つけてほしいんだ。彼女の…為にも…してやりたいんだ…」
そう彼の声が聞こえてきて、すぐ近くに居ることが分かり、にんまりと笑う。
見つけた!!
でも、先程の会話の所々聞き取れた単語がなんだか引っかかった。
無駄にしてほしくない?私の為??
その言葉は阿久根の心へと重い圧力となり食い込んでくる。
さらに次に出水がミヤたちへと放った発言で、自分に関わる話なのだとはっきり認識し、耳を大きくして聞き入った。
そして、彼の呪いと自分の感情が深くかかわっていたことを知る。
「やはり、お互いが自身の言葉を、気持ちを、きちんと向き合い伝えあわなければいけないな…俺は、早く呪いを解かなければならない。自分の為にも、阿久根の為にも。」
その発言が、阿久根に深い打撃を与えた。
ケンの呪いは、自分に対して作用しているのだと会話から勘づいたのだ。
自分のご先祖様が幽霊の正体だと言っていたのを思い出す。
ご先祖様は自分が傷つかないように、彼が自分を振る事を妨害しているという事なのだろうか…
なんだか酷く情けない。
会話が途切れて話し合いは終えたらしい。
彼らはその場から去って行った。
「大きなお世話だって~の!!」
人が周辺から居なくなったのを脳の片隅に置き、阿久根は大きな声で叫んだ。
自分の知らぬところで、自分を心配してのとこなのだろうが、話が勝手に進んでいる。
阿久根はそのことや先祖の所業による悲しみや苛立ちで、胸がモヤモヤしていて爆発した。
すると、
「デカい声だな!」
背後から陽気な声がした。
振り返ると、ヤヒコがいる。
「盗み聞きがバレバレだぞ。」
近くまで着てそう言った。
まさか、人が居るなんてと言う驚きで、思考が大慌てで動く。
聞かれていたし、盗み聞きもバレていた。
いいや、話を誤魔化して知らぬ存ぜぬで押し切るのも有りなのか?と考えを巡らすが、ここに辿り着く。
この先輩には敵わないという気持ちが勝った。
「バレていましたか…すみません。」
正直に謝る事を選択した。
強く非難してくるだろうと構えていたヤヒコは拍子抜けして黙っている。
「先程の話、少し聞いてしまいました。ケンさんの呪いは、私に大きく関係があるのですね。私のご先祖様が、どんな人かは聞きました。自分と同じような境遇の私の気持ちを知って、先輩が私を振ることが無いように妨害していたのですね。それが…呪い。」
悔しそうに、俯き加減で阿久根はヤヒコに尋ねた。
「ご名答。俺はミヤじゃないから呪いは受けないから答えられる。君の考えはあっているよ。アイツの呪いの一つは君の所為だ。」
そう淡々とヤヒコは阿久根に聞かせた。
少し罪悪感を抱かせるような口ぶりであった。
「私の所為…ケンさんに意識はしてほしいけれど迷惑は掛けないと誓ったのに…アプリやマジックショーでやらかしてしまい反省をしましたから…気を付けていたのに。先輩の呪いが自分の所為だったなんて、すごく悔しいです。」
重い沈黙が流れた。
「私、先輩に告白します。」
決意した阿久根は、ヤヒコにそう言った。
「うん、どんなことでも言葉にして伝えるという事は大切なことだ。結論の先は様々だ。そこで諦めて終わりになるかもしれないし、別のスタートになるかもしれない。君次第だな。一応大学の先輩だしな、何かあったら相談にのるよ。声を掛けてくれ。」
ヤヒコはそう阿久根に声を掛けた。
今までのようなミヤの味方全開での対応とは違い、阿久根を後輩として気遣ってくれている優しい先輩としての対応であった。
阿久根はそれに対して、あれは持てるわねと心臓をドキドキさせながら、心の中で密かに考えたのであった。
2に続きます。




