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初詣に行こう

いつも読んでくださり、誠にありがとうございます



 何としてでも今年のクリスマスはイトと過ごしたい!!と願っていたミヤであったが、イトは年末のバイトの予定が24日から31日までぎっしりと入っていた。


 年末商戦でガッポガッポ金儲けが店長の口癖らしい職場で、クリスマスイブから一週間は休みなく働くらしい。

 そんな中で、25日の夕食の時間を一時間だけでもとミヤに会えるように、イトは時間の調節をしてくれていた。


 それにもかかわらず、ミヤはインフルエンザに掛かるという失態をおかし、今年のクリスマスにイトと会うという願いは、叶わなかった。


 クリスマスの数日後、全回復したミヤが最速でしたことは、|インフルエンザをうつしたヤヒコのもとへ向かい、大暴れして泣きじゃくったことだった。



 そして大晦日。


 集合場所であるファミレスでは31日の昼頃に漸く仕事納めとなり、帰宅し泥のように眠り体力を回復したイトとミヤは対面した。

 先に来てテーブルに着いていたミヤが速攻でテーブルに頭を打ち付けるようにして謝罪する場面から始まったのだ。


「本当にごめん。」

「もういいから。私も忙しすぎて正直体力がギリギリだったから、あの時、休息が取れてかえってよかったのよ。そうじゃなければ、あの日に倒れていたかもしれなかったし。」

「そんな環境だったのに、俺にあってくれようとしただなんて!?イト、ス――」

 またミヤが好き蟻と言うように告ろうとしたのだが、やはり邪魔が入る。


「ちょっとーーー店員!!コーヒーの機械が動かないわよ!!早く直して。私は食後にエスプレッソがないと落ち着かないのよ。早くーーー。」

 おばさん客が大声で店員へ文句をつけている。

 その強烈な声にかき消された。


「ミヤ…お前、軽率過ぎるぞ。」

 ヤヒコがミヤの顎を掴み、睨みつけてくる。


「分かっているよ。でも、ああもう、何でなんだろう??」

 つい口が動いてしまい自制がきかなくなるのを反省し、ミヤは悔しくて嘆く。


「とりあえず、全員揃った事だし、店を出ましょう。」

 杏がそう言うと、他の3人は頷き、腰を上げ、店を出た。


 ファミレスから歩いて15分ほどにある地元では有名な寺へと向かう。


「去年はここまで混んでいなかったのに、なんで人がこんなに増えているんだ?」

 参拝へと並ぶ列に驚き言葉を漏らす。


「ああ、確か少し前の昼番組で、関東でも有名なパワースポットのある寺院ってテレビで紹介されたからじゃない?あの木の逸話とかそこの灯篭のハートマークとかレポートしていたよ。初詣ついでに見に来ている人が多いんじゃないかな?ほら写真撮っている。」


 そう杏が話しながら指さす方へ顔を向けると、パシャパシャと音をたててスマホで撮影する参拝客をぼんやり見つめる。


「なるほどね。チッ、余計なことを。」

 とヤヒコがぼやく。


 この寺は地元民ならば初詣はここに参拝するというくらい有名な寺で、通年でも多くの人出となっているのだが、今年はそれを上回る賑わいを見せていた。

 境内の外まで長蛇の列が出来ている。


「どうする?参拝の列に並ぶ組と参道脇に出ている出店に回る組に分かれて行動するか?その方が効率的だ。」

「いいよ、じゃんけんしよう。」

「グッパーね。」

「オッケー!」


「「「「せーの、グットッパー」」」」


 ヤヒコと杏がグー、ミヤとイトがパーをだし、ペアに決まった。

 ヤヒコが待っている間は筆談だとか大人しくして居ろとかミヤに小言を言う。

 去り際も何か言いたげであったが、杏が背中をグイグイと押して、時間がないからと屋台の方へとヤヒコを引きずっていった。


 ミヤとイトは待っている間は周囲が騒がしいのもあり、距離を近づけ会話をしていたのだが、内容はクリスマスの件の謝罪から始まり、イトは何度も謝られることにいたたまれない感じがして、自分のバイトの話を語り始めた。

 殆どイトが一方的に話をしていたために、ミヤがイトに告白するタイミングは全くない。


 そうこうしているうちに、交代だと杏がクレープに、りんご飴とフリフリポテト、わたあめを両手に持ち現れる。

 その横で大判焼にフランクフルトと焼きそばを持ったヤヒコが不貞腐れた顔で立っていた。

 うまい具合に乗せられて、杏にあれこれと買わされたのかもしれない。


 ミヤとイトは屋台へと向かう。


「何を食べようか?」

 イトがミヤに聞くと、

「焼きそば、タコ焼き、フランクフルト、から揚げ、じゃがバター、イカ焼き、チョコバナナにクレープ、ベビーカステラ、いやかき氷も食べたいな…ブツブツ。」


「そ、そんなに食べるの?」

 イトは驚いた。

「ああ、俺は屋台では食べたいものには金を惜しまないと決めているんだ。さあ、遠慮はいらない、順番に並ぼうか!」


 ここでのふたりの間には、告白のこの字も見当たらなかった。

 そして、言葉通りミヤの勢いは凄かった。

 屋台に並ぶ、買う、食べる、の高速ローテーション。


 目星をつけた屋台への移動も何のその、人混みの合間をスイスイ進んでいく。

 イトも頑張ってついて行っていたのだが、タコ焼きの屋台への移動中、イトは向かいから来た人と肩が接触し、よろけて立ち止まる。

 すぐさま、ぶつかった相手に謝罪し、相手も同じく謝罪した。


 そうこうしている間に、ミヤはどんどん進んでいる。


「ミヤ…待って!!」

 声を上げるも、騒々しい人混みの中でかき消されてしまった。


 イトは肩を落とす。

 置いてきぼりにされてしまったと、酷く落ち込んだ。

 立ちすくみ、少し落ち込んで足元を見る。


 すると、ふと視界に見慣れた運動靴が現れる。

 顔を上げると、そこにはミヤがいた。


 イトが居ないことに気が付いて急いで戻ってきてくれたようだ。

 肩で息をしている。


「おい、イト、俺の傍を離れるなよ。振り向いたら居ないからスゲー焦っただろう!!」

 額の汗を拭いながら、ミヤが言う。


「ごめん、人が多くて…」

 イトはミヤが急いで戻ってきてくれたことに感動していた。

 ミヤをジッと見つめてしまう。


 視線がずっと合っていたのだが、ミヤの方が先に、羞恥に負けて顔を横へと背けた。


「ほら、手!」

 そう声を発しながら、ミヤがイトへと手を差し伸べる。

 イトは首を傾げる。


「ま、迷子にならないようにだ!」

 ミヤはそう言いながら、イトの手をパッと掴み、手を引き、歩き出す。

 先程よりも歩幅を縮めてスピードもゆっくりに進む。


 イトはミヤの背中を見つめていた。


 背、私よりも高い…


 そう考えながら視線を下に動かすと、ふと、ミヤの耳が目に入る。

 少し赤く色がついているのを見つけて、イトはなんだが嬉しくなった。


 もしかして手を繋いでいるから照れているのかな?

 イトははにかみながら笑った。


 手を繋いでいる間、ミヤは心配していた。

 自分の早く動き過ぎる心臓の音が、繋いだ手の先から伝わってしまっていないかと…。


 手を繋ぐだけで緊張していることがバレてしまったらと、不安とでドキドキが加速していた。


 でもそれは……お互い様であったようだ。


 そんな、甘い雰囲気はどこへ行ってしまったのか。

 屋台に着いたミヤは通常モードへと戻っていた。


 あっという間に、タコ焼きは跡形もなく消え去っていく…。



「え、クレープ…今、買ったばかりよね?」

 今しがた、イトより先にミヤに手渡されたクレープは、イトが会計を済まして振り向いた時には、姿を消していた。


 こんなことが何度も起こる。

 イトはこの時ばかりは若干ひいていた。


 だが、流石にかき氷の早食いは出来なかったらしい。

 キーンとアイスクリーム頭痛になっている姿を見て、イトは思わず噴き出した。

 ミヤは石段に寄り掛かり、眉根を指で抑えている。

 イトが周囲を見回して甘酒の無料配布を見つけ、取りに行く。


「はい、温かいから。」

 そう言いながら渡してくれた甘酒を受け取る。


 ああ、お嫁さんにしたい…

 ミヤがそう思った時に、いつもの悪い癖がでる。

 受け取る瞬間に、こう口走っていた。


「俺はイトがス――」

 まあ、言い終えることはないのだが…


 花火が打ちあがる。

 ドーーーンと一発上がった。


 年越しの花火である。


「あ、あれ?まだ0時じゃないよね?」

 イトが時計を確認する。


「ああ、0時じゃないな……」

 そう言いうと、ミヤは視線を泳がせて、立ち上がる。


「ベビーカステラ買ったらすぐに戻ろう。多分、また、ヤヒコに怒られる。」

 ミヤは肩を落として、そう言った。


 ヤヒコたちの元へ戻ると、案の定、ミヤはヤヒコに説教された。


「お前、やりやがったな!花火が上がったぞ。」

 ヤヒコがスリーパーホールドを掛けて言うので、ミヤはヤヒコの腕を叩いて抗議した。


 それからミヤはまた技を掛けられるのは嫌だと、口を閉じて大人しくしていた。

 そして無事に0時を迎える。


 今度こそ、正真正銘の年越しを知らせる花火が打ちあがり、年が明けた。


 すると、

「イト、誕生日おめでとう!!」

 杏がいち早くイトにお祝いを送る。


 実は、イトは1月1日生まれだ。


 俺が一番に言いたかったのにと、ミヤが悔しさを滲ませてプルプルしている。


「イト、誕生日おめでとう!ハッピーバースデー!ツーユー!」

 ミヤも伝える。


「フフッ、2人共、年明けよりも先に私の誕生日を祝ってくれてありがとう。」

 イトが返す。


W(ダブル)でおめでとう。」

 ヤヒコが言う。


「八幡君もありがとう。みんな、改めまして、新年あけましておめでとう。」

 イトが嬉しそうに新年の挨拶をする。

 その後に続いて、皆が新年の挨拶を返した。


 参拝も順調に終わった後、寺からの帰り道をトボトボと歩く。

 その最中、ミヤのスマホの通知が鳴る。

 あれから阿久根のスマホのアプリ攻撃も出光の力を借りて、なんとか自制してくれるようになり、怯えることはなくなっていた。


 スマホ画面を見ると、その良き後輩、出水からであった。


 あけおめメールと共にスキー場で話していた幽霊の事で話したいことがあるという内容だ。


 時間を作って欲しいとのことだったので、その場にいたヤヒコと相談し、5日後にヤヒコのマンションで集まることになった。


   ***


 5日後。


「コレ、スッゲー美味いな~」

「母さんが知人からお土産でもらったモノだったんですけど、飲まないって言うから持ってきちゃいました。埼玉北部の酒造メーカーのものらしいですけど。うん、美味いっすね!」


 一升瓶片手に、酒盛りが始まっていた。


「本当に、日本酒なのに水みたいに飲みやすくて、ほんのり甘い。これ、フルーツ入ってないんだよな?甘くて入っているように感じる。これならば、ヤヒコも飲めるんじゃないか?」

 ミヤがヤヒコに勧めると、ヤヒコは渋渋小さな切子のグラスを差し出してくる。


 ミヤも無理強いはしたくないので、3分の1ほど注ぐ。


 どれどれと、ヤヒコは口に運んだ。


「うん、これは俺でも飲めるな。だがやはり日本酒、この量でいい。肝心の話が聞けなくなったら困るからな。」

 チビチビと飲みながら、そうヤヒコは答えた。


「そうでした。肝心な話をし忘れていました。実は、スキー場でケンさんの話を聞いた時に、久子と言う名が、どこかで聞いたことあったなと突っかかっていて、親族の集まりがあった時に、そうだこの会で耳にしたのだと思い出したんです。“久子さん”と昔、伯母が親族との会話で話していたのを聞いたんですよ。それで、この前の集まりでそれを思い出して、幸子とその話しをしていたら、伯母が会話に入ってきて、久子は幸子の曾祖母にあたる人物だって教えてくれたんです。」


 出水が話し始めた内容に驚いていた。

 あんなにも知りたかった情報がこんなに身近な人物からあっさりと得られてしまうものなのかと、ミヤは衝撃を受けていた。


 出水は青木久子という人物が血縁の者であること、久子の息子が幸子の祖父であり、その人物が阿久根家に来た経緯など、伯母から聞いたという話を語ってくれた。


 まず、出水の従兄妹である阿久根幸子の曾祖母が久子という女性であり、その女性は竹内子爵夫人だと分かった。

 夫人は竹内家へ嫁ぐ前は青木性であったという。


 竹内家が戦後に没落し、御家は離散しているため、近年では全くと言っていいほど繋がりがなく、竹内家での事や久子の実家、青木家などの話も出水が親戚から地道に聞き出してかき集めたものなのだそうで、曖昧なものも多いと言う。


 青木久子は戦時中、青木家から竹内家へと嫁ぎ、幸子の祖父を生んだ。

 祖父が物心つくかつかないかの頃に、久子は事故で亡くなった。


 久子の死後、久子の傍使いが竹内家当主に見初められ、子を宿し産んだ。

 彼女は夫人の生前から当主の愛人であったようで、うまく当主に取り入り後妻の座へとつく。

 長男である幸子の祖父は、まだ幼いにも関わず阿久根家の婿へと出し、竹内家の後継に自分の息子を添えたそうだ。


「出水の言うところの久子さんは、幽霊の青木久子とは同一人物か?お前のおじさんが話していた内容とかなり似たところもあるし、俺はそうなのじゃないかと思えるのだが。」

 ヤヒコがそう発言すると、

「恐らくそうだ。この前、青木子爵のお孫さんが親戚へ情報を聞いてくれているって信次郎おじさんが言っていたでしょう。その返答が少し前に来て、信次郎さんが教えてくれたんだ。青木久子さんの嫁ぎ先は竹内子爵家だということが分かったって。親戚の1人が覚えていたらしい。一致している。」

 ミヤがそうヤヒコへ答えた。


「繋がったな。」

「ああ、繋がった。」

 皆は沈黙する。


「なあ、俺、阿久根幸子に対しても呪いが発動する理由に見当ついたんだが、言ってもいいか?」

 ヤヒコが言う。


 ミヤと出水が黙って頷く。


「幽霊はだな、ミヤを修二に、阿久根を久子自身に重ねていて、自分達が叶えられなかった未来、2人の恋愛を成就させたいって思っているのではないか?と思うのだ。だから、ミヤが阿久根を拒絶するのを拒む…安易すぎたかな?」


 それを聞いて、勝手すぎる考えにミヤは絶句した。


「それって、俺の気持ちは無視ってことだよね?幽霊って勝手すぎじゃね…」

 ひとりごとのようにブツブツと呟いた。


 出水も同情したらしく、眉毛をㇵの字にしてミヤを憐れんで見ている。


「それから、先程の出水が持ってきてくれた情報から、幽霊はかなり修二夫婦を憎んでいたのではないかと推察した。」

「伯母さんが怒っている原因の事ですね。」

「そうだ。」

 出水がヤヒコの話に相づちを挟むと、ヤヒコもそれに重ねて肯定した。


 ヤヒコが言うには、幸子の祖父が阿久根家へと婿に出された経緯が問題だという。

 婿に出された理由が、久子がある男に入れ揚げて浮気をしていたと言う話が持ち上がったからだとか。

 竹内家では久子の葬式の際に酷い噂が流れていたのだと言う。


“久子は男に入れ揚げて、駆け落ちをしようとしていた。その最中、事故にあった。自業自得だ”


 久子が事故死した場所が竹内家からかなり離れた町であったことと、とある久子の置手紙から噂され始めたのだとか。


 置手紙の内容は当主やそのご両親が屋敷の者達に緘口令を引いたのだが、それは守られていなかったらしい。

 その内容は、『久には好きな男がおります。その男のもとへ行くので探さないでください』といったものだった。


 その手紙は、朝、当主の書斎机に置かれていたのだが、結局、久子はその日のうちは家に帰ってきたのだそうで、あの手紙は悪戯だったと本人が弁明をしたのだとか。


 その内容を知る者から悪質な噂が流れた。

“事故に遭った日も男に会いに行っていたのではないか”と。


 親族はそれについて陰口を叩き、幼かった祖父の事を本当に当主の子供なのかと不義の疑いを向け、あざ笑う者も現れていた。


 そして、愛人から後妻へ入った女により言葉巧みに当主は丸め込まれ、疑わしくは隠せと、幸子の祖父を当主の学友であった阿久根家へと追いやったのだという。


「これだと久子は好きな男へ会いに行ったが、受け入れられることなく想いは砕け散ったのだろう。もちろん、会いに行った相手は修二さんだ。受け入れられず、自暴自棄にでもなったのか?」

 ヤヒコが推測する。


「受け入れられなかった上に、その噂の所為で、息子が他家へと追いやられているというならば、久子はかなり恨んでいるはずという事か?」

 ミヤがその話に付け加える。


「ああ、そうなるな。」

 ヤヒコが相づちをうった瞬間に、パキンと天井の片隅で、大きな音がした。


「な、何だ!?」

 出水が怯える。


「幽霊?それともお前に憑いている修二さんか?今の話が違ったか?それとも怒っている?信次郎さんがいないと何とも分からんな。」

 ヤヒコが天井を見上げてぼやくが、何も反応は返ってこなかった。


 暫く、静まり返っていたが、ミヤが口を開く。

「あのさ、俺、別口で少し気になっていることがあるんだ。」


 皆がミヤに注目する。

 ミヤは立ち上がり、自分の鞄を開け、中身をゴソゴソと物色し、一冊のノートを散り出した。


「俺、修二さんの奥さん、千代さんの日記を預かっただろう。これなんだけど、実はめちゃめちゃ達筆で、しかも昔の漢字が使われているし、言葉遣いも難しくて解読するのが結構大変で、じっちゃんと信次郎さんに協力して貰っていて、少しずつ読み進めている。これに目を通して考えたんだ。俺、千代さんは久子と接点があったんじゃないかと思っているんだよね。実は、友のような存在だったんじゃないかな?って…そう思うんだ。」


 ノートを机の上に出し、ミヤがそう話し始めた。


 その瞬間、部屋の灯りが消えた。


「はっ、て、停電!?今度は何ぃぃ??」

 出水が狼狽える。


「マジか…」

 ミヤが言葉を失った。


「…」

 ヤヒコは無言だ。

 黙って立ち上がり、ブレーカーを見に行こうと動いた瞬間、灯りが戻る。


 ヤヒコが元の位置に戻り、ミヤに尋ねる。

「ミヤ、何でそう思った?」


「ああ、このノートを読み進めて行くうちに、定期的に千代さんの元へ会いに来る人物がいるようだと感じたんだ。」

「感じた?それはどういうことだ?」


「ああ、千代さんって人は几帳面で、来客がある日は、ノートにきちんと書き記していた。こうやって日付と来訪者の名が書かれているだろう。でも、その人物にはそれがない。というか、人なのかも怪しい。俺も最初は飼い猫の名前なのかと勘違いしていた。でも、信次郎さんに聞いたらそんな猫は飼っていなかったし、千代さんが動物と触れ合うところは見かけていないって言うんだ。でも、かなりのペースでそれは書かれている。ほら、この日以降から、“チャコ”ってさ。」


 そう言われて見ていくと、確かに“チャコはかりんとうが好き”だの、“チャコは百合の花が好き”だの、“チャコは可愛い”だのと、頻繁にノートの隅にメモ程度だが登場している。


「俺、コレが久子なんじゃないかって思うんだ。チャコって、久子のあだ名で多いし。それにあいつ、幽霊だろう?千代子さんって、幽霊見える人だったから、なくはないんじゃないかなって思って…違う…かな?」

 ミヤが不安そうに話す。


「無くはないかもしれないけれど、何でチャコが久子だって思ったんだ?確信があるのか?」

 ヤヒコが問う。


「あ、いや…確信と言うか、書かれている内容で…チャコは明るい、話し上手、よく笑う、肌が白い、他にも色々、聞いていた話とピッタリだし、それと、赤が似合うや、ここ、チャコは旦那様好みって…俺の前に現れたあいつは、赤い着物を着ていたし。修二さんはその頃には呪いがすでに始まっていて、千代さんに久子の事を元恋人だったと話していた…書いてある。だから、動物でもないなら、チャコは幽霊の久子であったのはと考えたら、俺の中でピースが嵌ったというか…コレだってなって。」


 ヤヒコと出水が顔を見合せ、それだけでは結論付けられずに困っている。


「あ、いや、まだ、俺の憶測だから。ただ、それだと、千代さんと久子の関係は良好になるから、さっきの恨むってのは逆だなって思って、とりあえず言ってみただけ。あ~だから、日記を読み解いている俺の感覚っていうか、そう考えたってだけだから、まだ参考程度で決定事項とは受けとらないで。」

 と、ミヤは誤魔化した。


 喉が渇き、日本酒の入ったカップをグイっと一気に飲み干す。

 出水が空になったグラスに酒をなみなみと注ぐ。


「まあ、色々な意見や情報は必要だ。曖昧な情報であっても分別していけば真実が見えるかもしれない。うん、何がとっかかりになるか分からんしな。その日記も読みすすめていけば、案外すんなりとチャコの正体が分かるかもしれないし。ミヤ、引き続き解読を頼む。」

 ヤヒコが真剣に言うものだから、ミヤは“おう”と得意げに返して、さらに酒を煽る。


「俺も、久子さんの事や竹内家について分かる人物がいないか探ってみます。」

 出水がミヤに乾杯し、一緒に楽しそうに飲みながら約束する。


「出水、ありがとうな!頼りにしているぞ~」

 ほろ酔いのミヤは思わず、優しい後輩の両手を取って、謝礼を述べていた。


「俺だって色々やっている。」

 ヤヒコがボソッと呟く。


「ヤヒコ!!もちろんお前にもお礼を言うぞ!ありがとうありがとうありがとう~お前が居なかったら、何も進まなかったぞーお前に相談して本当によかった!俺の話を信じてくれてありがとう…クゥ、心の友よ~」


 ミヤがガシッとヤヒコの肩を組み、涙ながらにお礼を言うのでヤヒコは満足した。


 その後のミヤの記憶はなく、翌朝、激しい胸やけが彼を襲ったという。






段々と迫りつつある呪いへの真相。

次は何が分かる?

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