ゲレンデで呪われていても恋したい4
ゲレンデ編最後です。
やはり降りるスピードが違うので、“お先に失礼”を何度繰り返し追い抜いた。
幾度目かの時、中間地の斜面の端で休んでいる出水たちを見かけ、ミヤとイトと古賀は寄っていく。
「休憩?」
イトが聞くと、
「はい、さっき転んでしまって、ちょっと背中を強く打ち付けたようで。俺は大丈夫だって言ったのですが、八幡さんに休めと言われまして。」
出水が答えたが、それを聞いて、当然だという顔をしたヤヒコが睨みつける。
「少し雪がちらついてきたわね。」
古賀が会話に入ってくる。
その後ろで、イトがしゃがんで休憩を取り始めた。
イトの後ろにヤヒコのスキー板が横置きになっている。
出水を介抱するのにとりあえずと置いたのだろう。
「イト、後ろ、スキー板が」
ミヤが言いかけた瞬間、背中に何かが体当たりして体が押され、イトの上に覆いかぶさる形になった。
運の悪いことに、イトは中腰であったので、ヤヒコのスキー板の上にボスンと座ってしまう。
バランスを崩したミヤとイトはスキー板の滑りも加わり、背後の斜面へと導かれて行く。
先程、背にしていた斜面へとネットの隙間から通り抜け、2人は転げ落ちてしまった。
ズザザザザザーーという音と共に、斜面を滑り落ちる。
急な崖ではなかったので、少し長い坂を滑り降りた感じで途中、細い枝に引っかけたりしたものの、巨木にぶつかることもなく、斜面下まで到達した。
「大丈夫か!?」
という焦りの混じるヤヒコの声に、ミヤは周囲を確認し、
「皆、無事だ!」
と答えた。
見回した時に分かった。
ミヤとイトの他にも、人が居た。
五島だ。
どうやら三人で落ちてしまったようだ。
擦り傷と少しの打撲のみで済んでいて、一安心したのちどうするかと思案する。
「そこを動くなよ。本部に連絡してくる。」
と上からヤヒコが言ったので、三人は大人しく座って話をした。
どうやら五島は止まるにもとまり切れず勢いのままミヤに突っ込んでしまったらしい。
素直に謝られる。
イトが足首を痛めている事を聞き、五島はヤヒコの言葉を無視して、自分が原因だからと休める所がないか周辺を見てくると言い出し、行ってしまった。
話しをしているうちについうっかりまたもやスキという単語が口から漏れ出てしまいミスをする。
雪が激しくなる。
チラチラと優しく振っていた雪が細かな雪となり強風と共に顔に打ち付けてくるようになっていた。
イトと話し、ミヤたちも雪が凌げそうな場所を探すことにした。
斜面上の落下地点で待機していてくれた出水にこの場を離れることと、出水もヤヒコと合流するように声を掛け、雪が避けられそうな場所を探しにでた。
イトを支えながら軽自動車一台分が通れる幅の雪道を歩いた。
10分ほど歩いたところで、小さな小屋があるとイトが指をさした。
その方向に目をやると確かにログハウスのような小屋がある。
すぐさまそこへと行ける道を探し、膝程の低木の間に道を見つけ、小屋へと向かった。
小屋には鍵が掛かっていなかったので扉を開け中に入る。
誰も居ない。
中央にストーブが、その周りにパイプ椅子が置かれた殺風景な待機所のような場所であった。
緊急避難であったので、一先ずここに居させてもらおうと、無断ではあったが中に入ることにした。
部屋は冷え切っており寒かったが、持主がいないのにストーブを勝手に使う事はよろしくないので、入り口付近に2人は膝を抱えて座り、雪が止むのが先か、人が来るのが先かと、待つことにした。
部屋は強風が窓を叩きカタカタカタという音が鳴り響くだけで、静かであった。
気を紛らわせるためにイトと会話を始める。
二人きりになると、何故か告白をしたくなるのがミヤの悪い癖だ。
信次郎さんには、修二さんがミヤには背後霊で憑いていると言われていた。
幽霊が告白を妨害することと、告白をしたくなってしまうことは、何か関係があるのかもしれないと考えた事もある。
またもや、イトに“スキ”と言いかけた瞬間、動物の“グゥルル”という低い唸り声が自分たちの背後のドアから聞こえたような気がして、振り返る。
すると、ドアにダン!!と何かが体当たりするような衝撃と音がした。
「オーイ、オーイ。」
と叫ぶような声がする。
「人か!?」
と、ドアを見つめ、ミヤは緊張しながらドアのカギを開けようと扉へと近づこうとした。
ウエアーの背中の布をツンと引っ張られ、イトに止められる。
「聞いたことがあるの、子熊は叔父さんのような声でオーイって鳴くって。もしかして、熊なんじゃない!?」
そうイトが顔を真っ青にして言うので動きを止める。
「オーイオーイ…」
再び声が聞こえる。
2人で顔を見合せ、同時に静かにドアの方へ向き直り、見つめた。
「熊がそう鳴くのか?」
「うん、テレビで見た…」
そうこうしていると、ドン、ドン!!と激しく叩く音が鳴り響く。
何度かその行動が繰り返された後、ドアの外は一気に静かになった。
ガサガサ、ガサガサと葉や細木の擦れる音、強風の窓をうつ音とは明らかに違う、何者かが起こしている音。
草木か雑草をかき分けて踏み鳴らす様な、何かかが発する音が小屋の周りを移動する。
“何かが、いる!!!!!”
ミヤとイトは恐怖に震えた。
「何があっても俺がイトを守るから。」
背中にイトを匿い、ミヤは警戒する。
「大切なんだ。俺が絶対に守る。」
ドクンドクンと言う自身の心臓の音が、車に積んだ大きなスピーカーを使って大音量で流しているかのように耳に反響し、精神に重圧をかけてくる。
イトを守ると言い聞かせるように呟き続けていると、室内が急に暗くなった。
窓からの光が遮断されたのだと思い、窓に目をやると、大きな影が窓を覆っていた。
「オーイ、オーイ。」
とくぐもった声がする。
あれは、何だ!?本当に熊なのか??
熊か!?熊なのか!!
イトを抱えて回している手に、ミヤは思わず力を入れる。
正直怖い…少し顔を伏せ、目を逸らしたい気持ちと葛藤し、薄目で窓を見続ける。
静かに息を潜めていると、窓から影がフッと消える。
やり過ごしたのだとミヤとイトはホッと息を吐いた。
極度の緊張から、息を止めていたらしい。
「俺はホラーも得意じゃないけれど、パニック映画も俺は好きではない。俺は古賀とは違うから、こういうのは本当に勘弁してほしい。」
そう、愚痴を漏らすと、イトが、
「あら?杏もパニック映画は好きではないわ。」
と、サラッと答えてきた!?
「好きじゃないのか?」
と、聞き返そうとスを勢いよく発音した結果、ドンと入り口のドアがまたもや激しく叩かれた。
再び来た!?と、冷汗が流れた。
「オーイ、オーイ、オーイ!!」
先程よりも大きな叫びで激しくドアが叩かれる。
身が縮む。
ガタガタとドアが揺れ、もしかしたら外れてしまうかもと不安が過った。
するとその時、
「ワンワンワンワン」
と、犬の鳴き声が聞こえた。
「オーイ、開けて…」
語尾が細い声で聞き取り辛かったが、拾えた。
「ミヤ、開けてって言っている。人よ。」
イトは目を見張る。
「それにワンって吠えていた。熊じゃない、犬だ。」
ミヤは慌ててドアに駆け寄り、鍵を開けた。
カチャリ。
その瞬間、ドアが勢いよく開き、何かがなだれ込んでくる。
イトとミヤは声にならない驚きを抱え、無言で見つめる。
そこに居たのは、モワモワ毛が付いたフード付きコードを着た2メートル近い背丈の大男であった。
男の両脇から二匹の大きな犬が室内へと飛び込んでくる。
よく見ると、大男は何かを背負って、引きずっていた。
「あっ…五島先輩。」
大男の背中に居たのは、先程単独行動で行ってしまった五島であった。
「せ、先輩!?」
ワタワタしていると、男は五島を降ろし、部屋の奥にあった折り畳み式の簡易ベッドを引きずり出そうとしていた。
「おい、手伝え!!」
大男がミヤに顔を向け、そう命令する。
「あ、はい!」
と、ミヤは返事をすると、ベッドを引っ張り出して組み立てる。
「あの男を運ぶぞ。」
大男は五島の両脇を抱えると、ミヤに足を持つよう指示を出す。
二人で五島をベッドの上へと運び、濡れた物を剥ぎ、毛布を被せて、寝かせた。
大男はすぐさまストーブに火を入れ、部屋を暖める。
「すぐにお前達から話を聞きたいというのが本音だが、ちょっと待っていろ。このままでは体が冷えすぎる。温かい飲み物を用意するから、お前達はそこに座り、上着を脱いでそこにかけ、あそこにあるモーフで体を包み温めろ。」
大男がそう言うので、大人しくいう事を聞く。
温かいカップを渡され、大男が椅子に腰を下ろした。
そのタイミングで、ミヤは謝罪した。
「すみませんでした。勝手にここへ入ったこと、鍵を閉めた事、すぐに開けなかった事。謝罪します。」
頭を下げる。
イトも右に倣えで、頭を下げた。
「コースから外れ、動けずに困っていた所、雪が酷くなってきたので、休める所を探していて、ここを見つけました。雪が止むまでと断りなく入ってしまいました。鍵は、習慣で…ついかけてしまい。鍵を開けなかったのは、く、熊だと思って、怖かったからです。」
ミヤは必死な表情で大男に訴えた。
大男がキョトンとした顔をする。
思ってもみなかった反応に、ミヤとイトの時が止まる。
次の瞬間、大男が大笑いを始めた。
ガハハハハと大きな声が部屋中に響き渡る。
「ハハハハ、俺を熊と間違えただと!?いや~笑って許されることじゃないが、これは笑わずにはいられない。」
そう、大男が言いながら笑い続ける。
「俺の勝手な判断で、俺が悪いんです。本当にすみませんでした。」
もう一度、ミヤとイトは謝ると、
大男が無事だったからと、謝罪を受け入れてくれた。
「俺はこのスキー場で働くスタッフで、見回りをしていた。ここは、管理事務所だ。おまえらは、そこのコースから転げ落ちてきたんだな。」
そう聞き取りをすると、大男は本部へと連絡を入れてくれた。
ヤヒコたちと連絡が取れ、無事を伝えられる。
五島は、あの後、道に迷っていたらしく、大男に保護されたらしい。
見知らぬ雪道を歩き回って疲労が限界だったのと、大きな犬に驚き、腰を抜かしたそうだ。
小屋の前までおぶっていたら、いつの間にか気絶?寝ていたそうだ。
寝ている成人男性の体重は重たい。
男は、田舎あるあるでついやってしまうこと、鍵を室内に残し、管理事務所に鍵をかけ忘れて出かけてしまっていた。
それなのに、鍵は掛かっており、扉は開かない。
寝てしまっている無防備な男を背に乗せ扉を精一杯の力でドアを叩いたが返事がなく、どうしたものかと困惑したそうだ。
いったん五島を背から降ろして小屋の周りを確認したが中に入れそうになく、寒さもあり本当に困ったのだと言う。
再び、ミヤたちは謝罪し、五島を保護してくれたことに感謝した。
雪が治まり、小屋の少し離れた位置に止めてある大男の車に乗せてもらい、ミヤたちは下山することとなった。
3人を心配し、待ち構えていた人たちが三種三様の反応を見せる。
イトに駆け寄った杏は心配したと涙を目元に貯めて抱き着いた。
五島の元へ寄っていった宮崎と菊池は、五島はおっちょこちょいだからなと笑って受け入れていた。
ミヤはと言うと、ヤヒコに睨まれ、雪の上に正座させられていた。
その様子を、阿久根と出水が遠巻きにオロオロしながら見ている。
ヤヒコが怖いのだろう、止めに入る事はない。
ミヤは首を垂れ、じっと耐えた。
誰も…助けてくれない…。
ヤヒコの説教の間、ミヤは心の中で悲しみのブルースを歌うのであった。
そんな感じで、スキー旅行は無事に幕を閉じたのである。
***
「あ、久子!そうだ、思い出した!」
親戚の集まりである新年会の最中に、出水は五島の言葉を思い出す。
「何よ!!」
阿久根がいきなり突拍子もない言葉を発した出水に驚き、反応を返す。
「あ、実はさ、ケンさんが青木久子という古い人物を探しているっていうはなしを聞いて、ずっと何かが引っかかっていて、気になっていたんだ。それで思い出した。久子って、お前の母方の先祖にいなかったか?その人は苗字はなんだ?青木か?」
そう尋ねられて阿久根は思いつかない様子であったが、そこに阿久根の母親が会話に加わる。
「いるわよ。早くに亡くなった人だから、私は会ったことはないけれど、青木久子はあなたの曾祖母にあたる人物よ。あなたのお祖父さまは阿久根家のお婿さんなの。戦争で跡取りの長男を亡くしたから、長女の婿に祖父がきたのよ。お祖父さまの母親が青木家の先妻は、久子さんよ。当時の青木家はかなり複雑でね、小間使いだった娘が、旦那様に見初められて愛妾になっていたのだけれど、本妻の久子さんが早くに亡くなってしまって、その時、祖父が幼くて母親がいないのはかわいそうだと旦那様が言いだして、愛妾が後妻に入ったのよ。その女との間に男子が産まれ、その子が青木家を継いだの。信じられないでしょう!?祖父は後妻に追い出されたのよ。」
苦々しく話す阿久根母に、出水はギラギラした瞳を向けた。
「伯母さん、もっと詳しく教えて!!」
出水は大きな声で、そう言い放っていた。
次の行事は正月?
しばしお待ちを。




