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ゲレンデで呪われていても恋したい2

ゲレンデ編続きです。

 

「お前ら、どうしてここに?」


 ミヤの言葉に出水が爽やかに答える。

「年始に親族の集まりがあるので来ました。今年はあのホテルが会場に選ばれたので、それまで滞在しています。」

 そう言い、スキー場から歩いて行ける距離のハイクラスホテルを指さした。


「そんなことよりも、ケンちゃん!この人と2人きりで来ているの!?」

 阿久根が会話に割り込んでくる。


「ケンちゃん??」

 イトがポツリと呟く。


 その呟きに即座に反応したのはミヤだ。

 慌てて否定する。

「ケンちゃんとか恥ずかしい呼び名は止めてくれ。」


「えー、私はケンちゃんの特別になりたいから、下の名前で呼びたいの!いいでしょう?」

 むくれた頬っぺたを作って阿久根はアピールしてくる。


 そんなあざとい従姉を横目で見ながら、出水が言い放つ。

「おい、幸子!先輩に馴れ馴れしくするな。せめて、ケンさんだろうが!?」

 なんだかフォローの仕方が妙だが、ミヤのイトへの気持ちを知っているからか、阿久根に警笛を鳴らす。


「幸子って呼ぶな!」

 と阿久根が出水を睨み、またもや小競り合いが始まった。


「あっ、ケンさんなら悪くないな。昔、部活動の後輩にそう呼ぶ奴はいたし。」

 満更でもないと言った表情で、小さな声でミヤが言うと、出水がその声を拾い、

「じゃあ、俺もそう呼びます。」

 と嬉しそうに出水が言う。


 阿久根もミヤに嫌われるのはいやなので、それ以上強く出られず、呼び名はケンさんで落ち着いた。


 そんな話をしている間に、靴の装着が終えたので、ミヤはイトと2人きりでの滑りを満喫するために、阿久根に邪魔されないように話を切り出す。


「じゃあ、俺達は初心者のイトとレッスンの途中だから、君達は存分に滑ってくれ。」

 そう後輩2人に別行動するように促した。


 じゃあと言って逃げる様に去ろうとすると、


「えっ、それならば一緒に――」

 阿久根が誘ってこようとしたので、声を被せてミヤはイトに少し大きな声で話し掛ける。


「イト、あっちの方は急斜面になっている。ほら、ネットが張られているだろう。あそこ、見て見ろ。誰かが落ちたのかもな。危ないな~」

 イトは指さされた方を見る。


「あ、本当だわ。ネットとネットの間が途切れている。落ちたら怖いわね。」

 怪訝な表情で答える。


「ああ、すき――」

 その時、“隙間”と言いかけたのにも関わらず、幽霊からの厳しいジャッジが下った。


 言った瞬間に、ミヤたちの背後いて、ズザァァァーというけたたましい音と共に、

「痛っ!?」

 という太い悲鳴が聞こえた。


 すぐさま後ろを振り返ると、ヤヒコがスッ転んでいた。


「だ、大丈夫!?ここまで一回も転ばなかったのに、いったいどうして??」

 ヤヒコの後を追って滑っていた古賀が到着し、ヤヒコに手を差し伸べ、疑問を口にした。


「……」

「……」

 ヤヒコは無言でミヤを見ている。

 ミヤはヤヒコと目が合い、瞬時に逸らした。


 視線をヤヒコからイトに移し、

「イト、ネットの間があそことか空いているから、端の方へは行かないように滑ってくれ…」

 と、隙間と言う言葉を避けて、言い掛けになっていた注意事項を教えた。


「分かった。」

 と素直に聞くイトにミヤはひと時の安寧を手に入れる。

 ヤヒコからの突き刺さる視線をさらりと流しながら…。


「あ!八幡先輩も来ていたんですね!」

 無邪気な出水の声に救われる。


「ああ、俺達はスキーだからな、スノボ初心者のイトをミヤが教えるってことで、別行動だった。」

 ヤヒコが出水に答える。


「お前らもこっちで滑るのか?」

 ミヤがヤヒコに聞くと

「ああ、そろそろお昼になるから麓のレストランに行く時間を考えてこっちのコースにお前らがいるだろうって降りてきた。糸島は優秀だったようだな、もう滑れるようになっているのか。」

 と、イトを見ながらヤヒコが言う。


「ああ、もうスイスイと滑れるぞ。」

 ミヤが自分のことのように胸を張る。


「いいな…」

 出水が対照的に沈んだ表情で呟いた。


「どうした出水?」

 ミヤが声を掛ける。


「実は、俺も初心者で。さっきまで幸子に教えてもらっていたのですが、全く進歩がなくて…幸子が業を煮やして、まだ滑れないのに上まで連れて来られたんです。」

 しょんぼりしながら出水は話す。


 だからリフト乗り場であんなに揉めていて、彼はスッ転んでいたのかと合点がいく。


「ならば、ミヤに教わると言い。」

 ヤヒコが出水に言い笑顔で言い放つ。


「え?」

 思わぬ提案にミヤは驚く。

 これからイトと初心者コースで楽しく滑ろうと思っていただけに、その提案は受け入れがたかった。

 だが、否定しようとヤヒコを見た瞬間、言葉を飲み込んだ。


 ヤヒコが自身の腰を叩いて、お前の所為で転んだとアピールしてきていたのだ。

 罪悪感が芽生える。


 ミヤは小さく息を吐きだすと、ヤヒコの思惑を受け入れた。


「分かった。今から昼休憩までの間、出水に教えるよ。」

 口にしていた。


 出水が涙を浮かべて感謝する。

 ミヤは大袈裟だなと思いつつも、頼られることに嬉しさを感じる。


「ちょっと、ケンさんは私と滑るのよ!!」

 と割り込んで言ってきた阿久根であったが、すぐさまヤヒコに引っ張られて傾斜の端に連れられていき、そっと背中を押されて、自然と滑らされていた。


 戻ってこられないように、ヤヒコがちょいちょい監視している。

 どんどん滑り降りて行き、小さくなっている。


 ミヤと出水の横で、イトとアンが嬉しそうに一緒に滑れることを喜んでいる。


「ミヤ、またあとでね。」

 と声を掛けられ、2人は斜面を颯爽と滑り降りて行った。


 2人が去って、取り残されたミヤと出水。

 出水が申し訳なさそうに言葉を口にする。

「ケンさんすみません。折角の糸島先輩との時間を邪魔してしまって。」


「いいんだよ。それにさっきまで2人きりで居られから。今はヤヒコへの償いの時間だから、出水は遠慮なく俺に聞け。さあ、時間がないから始めようか。今どんな感じ?」

 そう笑顔で答えると、出水は安心した様子で頷いた。


 聞くと、基本姿勢も教えてもらえないまま、斜面を滑らされていたらしい。

 直ぐに転ぶので、お尻や肘が痛いと出水が嘆いていた。


 基本姿勢や転び方から始まり、滑り方を教えたら持ち前の頭の良さから続々と吸収し、出水もあっという間にぎこちないが初心者としては上出来なレベルまで滑れるようになった。


 そうこうしているうちに正午になり、お昼休憩となる。


 6人は麓のレストランへと足を運んだ。




明日もよろしくお願いします。

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