ゲレンデで呪われていても恋したい1
お読みくださり、ありがとうございます。
長期休暇を使い、お馴染みの四人は、N県の某スキー場近くにあるペンションへときていた。
ここは、ヤヒコの叔母夫婦が営んでいるペンションである。
ヤヒコの母の姉の夫が早期退職をし、余生を人とのふれあいで豊かなものにしたいと願い始めた宿であったが、どうやら閑古鳥が鳴いているらしく、一度、泊まってみて若者視点からの感想が欲しいと、ヤヒコに相談してきたのだ。
到着して見上げると、叔母さんの趣味だと言う雪で埋もれ、春であったならば素晴らしいであろう木々が植えられた庭園に、薔薇でアーチが作られると言う開花している時期であればとてつもなく綺麗だったろうゲートを潜りぬけ、見えてきた英国風の建物へと足を運ぶ。
ここまでは冬でない時期にもう一度訪れてみたいなと思われる外観であった。
中に入ると、ここまでかと言うほど、メルヘンな置物や可愛らしいアンティーク家具で埋め尽くされていた。
客室は花柄やピンク、フリルにレースの編み物が所かしこから視界に飛び込んでくる。
木目調のベットにフリルのついた花柄の布団が掛かり、枕は細かい刺繍のカバーで包まれている。
アンティーク調のテーブルセット、ここでも、可愛らしいと陶器の小物やクマのぬいぐるみ、薔薇(造花)がふんだんに飾られていた。
本をゆったり読めるようにと、ロココ調のカウチソファも置かれていた。
叔母さんはアーティフィシャルフラワーを習っているらしい。
花も目に入る場所全てに飾られている。
フランス人形が置かれていないという事が、呪いや幽霊に敏感のミヤには救いであった。
ミヤとヤヒコは何とも言えない雰囲気にのまれ呆気にとられている。
対照的にイトとアンは目を輝かせていた。
ホラー好きとスポコン思考の女子大生二人であるが、こういう系も割と好きであったのかと意外な面を見たと男衆は感じていた。
それから、ヤヒコの叔母に案内されて、叔父は本棟よりもそこにいる方が多いという裏手の建物へと移動した。
雪が弁慶あたりまで積もっているので、踏み固められた小道に沿って歩く。
周りは小さな畑があるようだが、今は雪に覆われており、真っ白に敷き詰められていた。
辿り着いた先には、築50年以上だろう純和風の古民家がポツンと建っていた。
雪景色の似合う風情ある建物である。
今までとのギャップに少し戸惑い立ち尽くす。
しばし眺めた後、叔母から声が掛かり、入り口へと近づく。
重たい引き戸を動かして中にぞろぞろと入ると、広い玄関土間があった。
そこで靴に着いた雪を払う。
目の前の少し高さのある段差を、よっこいしょと言いながら上がる。
そこは板張りとなっていて、中央に囲炉裏が設置されていた。
奥からヤヒコの叔父が盆にお茶菓子と御新香、湯飲みを盆にのせて現れた。
囲炉裏の囲むように置かれた丸い敷物にそれぞれ腰を下ろし、叔父と挨拶を交わす。
そこで、暫しの歓談をした。
話しのネタもそぞろになった頃、席をたつ。
その際に、この隣にスキーやスノーボードを立てかけられ、履き替えられる小屋があるそうで、そこで用具を揃えるよう言われる。
明日、スキーをしに行くのならば、ゲレンデまで車で送るからその際は声を掛けてくれと去り際に伝えてきたのであった。
ペンションへと戻った一行は、先程の叔父の話でスキー場へは明日行くことが決まった。
では今の空き時間をどう過ごすかが、軽く話し合われる。
一先ずペンション周辺を昼食がてら見て回ろうとまとまった。
今シーズンは降雪量が多いらしく、歩道の半分を寄せた雪が占領していた。
そこを一列になりながら歩いていく。
雪が無ければ風情のある歴史ある神社や町民の通う郵便局を素通りし、目に飛び込んできた商店へと足を運んだ。
観光客向けのお土産や地元民が買うであろうちょっとした日用品などが置かれている看板の大きな店であった。
「あ、私、シャンプー買っていく。」
杏がそこで目にしたシャンプーとコンディショナーのミニサイズのボトルセットを手に取って購入した。
「さっきお風呂場を覗いたのだけれど、○○○○のリンスインシャンプーだったのよね。あれだと髪がごわごわになっちゃうから。」
そう言っていた。
自分は何も気にせずに洗えればいいと家でも親の買ってきたシャンプーを使っているので、そういう要望もあるのかと話を聞き学ぶ。
ちなみに、メルヘンなペンションの大浴場は、檜風呂である。
此処だけ、叔父さんの趣味を貫いたらしい。
叔父さん、なぜそこだけ頑張った?
店を出て数軒隣の古民家を利用したお洒落なカフェへと入り、昼食をとることにした。
ミヤとヤヒコはハンバーグ定食。
イトと杏はお店自慢の焼きチーズナポリタンだ。
観光地ならではの料金設定であったが、拘っているのが伺える味であった。
ゆったりと過ごした後、カフェを出る。
その後も、数軒店にぶらりと立ち寄り、お土産の物色と食べ歩きをする。
その後、カフェの店員に聞いた街に一軒しかないスーパーへと歩いた。
今夜、四人で集まってお酒を嗜むので買い出しをする為だ。
看板が雪に覆われていたので、道順を聞いていなかったら曲がり角で迷っていたと思われる道を歩き続け、目的地に到着する。
皆が皆、好き勝手に自分の好みの食料を確保した。
ミヤとヤヒコは大きい袋を持ち、イトとアンも軽いけど袋を抱えている。
ホクホクした顔を浮かべて、ペンションへの帰路に着いた。
ペンションでの夕食は事前に注文しておいたコース料理で、長年、叔父の家でお手伝いさんをしていたと女性が従業員としてこちらについてきて、腕を振るっているらしく、ヤヒコの家に来る東さん同様に、和洋折衷全ての飯が抜群に上手かった。
その夜、四人はミヤとヤヒコの泊まる部屋に集結し、ペンションの改善、感想を出し合った。
まとめるのはあとでという事で、意見を書き終えると、楽しいお酒とお喋りの時間に突入した。
笑い声を響かせて。
翌朝。
イトは深夜12時を回る頃にはベッドに横になりウトウトしだし、その後ぐっすり寝てしまっていたらしく、すこぶる元気であった。
ミヤは酒をチビチビ飲みながら酒豪の杏に未明まで付き合わされていたために極度の寝不足である。
二日酔いはなかったが、呪いによるスキー場での危険性、いわゆる説教をクドクドとされ、その他にもホラーとスプラッタ談義を聞かされ続け、軽い頭痛が残っていた。
ヤヒコは甘いお酒を少し口にしながら、ミヤとアンの話をほどほど聞いていたのだが、いつの間にかソファーで寝入っていたようだ。
兎に角、スキー場での告白は危険を伴うのでやってはいけないとのこと!!
遭難、猛吹雪、雪崩、落雪、リフト落下、スノーモービル暴走、スキーヤーの突進など命に係わる危険性を述べられ、ミヤは恐怖を植え付けられたのであった。
“今日はスキーという単語はNGです”
正月番組の英語禁止な番組の様でおかしな話だと過ったが、スプラッタの良さを淡々と話すアンを思い出し、彼女の忠告は絶対に守らなければならないことなのだと真剣に受け止め直した。
そして、渋いサングラスを掛けた叔父さんと共にメルヘンペンションを出発する。
ヤヒコの叔父さんの愛車ジープに乗せてもらい、ペンションから20分程かけてスキー場にやって来た。
大きなホテルが隣接するスキー場で、かなり広い。
中央に大きなゴンドラのあるメインの中級コースがあり、その他にも上級、中級、初級者用のコースが多数ある。
初心者のイトがいるので、これならば一番手前の緩やかな初心者コースで気兼ねなく指導できそうだとミヤは喜んだ。
「じゃあ、俺は、まずはあそこの初心者用コースでイトにボードを教えるから。ある程度滑れるようになったら中央のコースへ移動すると思う。何かあったら連絡をくれ。ヤヒコと古賀は……(スキーはダメだ)ソレだよな。最初は中級コースから滑るのか?とりあえず何もない場合は正午に麓のレストランに集合な。」
ミヤがスキーを言わないように気を付けて喋る。
「ああ、俺達は滑れるから最初から上のコースでスキーを楽しませてもらうよ。何かあったら連絡を入れる。」
ヤヒコが律儀に約束を守るミヤに対し、笑いそうになり、堪えながら話す。
「ミヤケン、イトを頼んだわよ!あと、サ行に注意よ!!さあ、八幡君、私達はスキーをしに頂上のコースへ張り切って行きましょう。」
杏はそう言うと最後にイトへとエールを送る。
2人は上級者コースのリフトに乗るために中央コース方面へと去っていった。
上級者コースへのリフトは中央の中級者コースの頂上へ行くゴンドラに乗り、そこから少し移動した位置にあるので、乗り換えなくてはならないようだ。
二人を見送り、ミヤとイトは最初なので初心者コースへと歩いて上る。
板を履くところからイトへ教える。
靴の止め方や雪から立ち上がるコツなど手取り足取り丁寧に教え始める。
近い距離で少しボディータッチがあったとしても、御愛嬌という事でと心の中で都合よく片付ける。
もっとこの2人の親密な時間を楽しんでいたいと思っていたが、なにせ、イトは高校までバレーボールをしていたほど身体能力は高く呑み込みが早い。
基本的な姿勢、滑り方とコツを少し教えただけで、スゥーと滑れるようになってしまった。
あっという間であった。
ミヤは心中で残念がった。
少し滑れるようになったのでリフトに乗り、一旦上から滑り降りてみようとなった。
イトは初めてなので、手でボードを持ってリフトに乗る。
リフトは短い間であったが、終始和やかに会話を楽しみながら乗れた。
まるで、本物のカップルの様だとミヤは満足していた。
リフトに並んでいると、二つ前のいる客がギャーギャーと騒いでいる。
男女のカップルで、喧嘩をしているようであった。
彼らの乗るリフトの順番が来て、2人は乗り込み遠ざかっていく。
何だか聞いたことのある声なような気がする…
そう思っていた矢先、リフトを降りる際、騒いでいたカップルの男が上手く降りられずリフトが止まる。
女性の方がそれを見て声を上げてゲラゲラ笑っていた。
ミヤは何だか酷い女性だなと思いながら、リフトが頂上に着いたので、華麗に下りる。
もうすでに、イトも板を履いたまま、スムーズにリフトを下りられるようになっていた。
2人が降りて行くと、ケンカップルの横を通り過ぎる。
バカにしていた女性はいったいどんな人なのかと、興味本位で目をやる。
驚くことに、知った顔であった。
そして、目が合う。
「ケンちゃん!!!!」
ミヤのことをそう呼ぶ女性はあの人しかいない…。
阿久根幸子だ。
「あ、ミヤ先輩に、イト先輩。」
その連れが阿久津の後ろから顔を傾けたので、誰であるのか判別できた。
出水であった。
ああ、この2人ならあのやり取りは通常通りだなと思う。
それよりも、
「お前ら、どうしてここに?」
ミヤは思わず疑問を口にしていた。
少し文字数大目になってしまったので、4つに分けます。
明日、ゲレンデ編2部目を投稿します。
よろしくお願いします。




