学園祭はトラブル続き4
学園祭編はこれで最後です。
ちょっと長めとなりました。
所変わって、舞台袖。
ミヤは、大きく息を吐き、安堵の表情を浮かべていた。
今は、Mr.SHUの名で活動するYoooTuberとして、舞台上にあがり、マジックをやり終えた川内が、今はYoooTuberとしてトークタイムを展開している。
スタッフが少しだけ、落ち着ける時間である。
ふと、観客席の方に目が行く。
観客席の後方で、立ち上がり、飛び跳ね、腕を大きく振っている人物がいることに気が付いた。
その人物と目が合うと、相手もミヤが気づいたことが分かったようで、大きく手招きの動作へと変化した。
「ん?出水か?」
アピールしている人物が誰かを認識し、名を声に出した。
その時、背後が少し騒がしくなる。
言い争う声がしていた。
嫌な予感が過る。
舞台下から、横川が眉間に皺を寄せて、こちらに小走りに戻ってきた。
今は、舞台上で川内は質疑応答コーナー中なので、先程の騒ぎの種である女性に詰問できない。
手が空く横川が代わりに動くと川内に進言していた。
それなので、あの箱に入っていた女性について戻って早々、横川が聞き取りに行っていたはずなのだが。
ミヤは阿久根が誰であるか知っていたので、詰問に向かう前に少し事情だげを横川に話し、自分とは知り合いであるのだが顔を合わせるのは遠慮したいと願い出て、自分は付き添わず、横川一人で聴取に行ってもらっていた。
「おい、ミヤ。あの女、ヤベーぞ。」
帰ってきた横川のかん口一番がそれだった。
「あ、うん…」
ミヤは何を言っても分かってもらえない、投げかける言葉はことごとく避け切られてしまう状態の阿久根を思い浮かべる。
「なんでも、あの箱に糸島さんが入る予定だったのを彼女が強引に交代させたみたいだ。喚いていた。それをした理由なのだが、舞台上でお前に公開告白をして、逃げられないようにし、自身を受け入れさせるのが目的だったらしい。下の舞台スタッフには、糸島さんは体調不良で来られなくなったから自分が代役をするって伝えて、舞台上へ上げてもらったらしく、あんな騒動になって彼女に騙されたと今、下で揉めているんだ。阿久根は直ぐにでも、お前の所へ来たがっているから、来たらきたでまたここで騒ぎが起きかねない。よって、お前はしばらく、ここから逃げろ。あいつの事が片付いたら、携帯に連絡を入れるから。そうしたら、とっとと戻って来い。」
そう言い終えた一気に疲れた顔に変わっていた横川にそう言われ、ミヤはここを離れることにした。
舞台階段から静かに観客席の方へ降りていき、ミヤは先程からアピールしてきて気になっていた出水の方へと足を向けた。
「出水?どうした?」
ミヤが近づくと、出水は自ら近づいてきた。
目の前に来てそうミヤは尋ねる。
「あのですね、実は、糸島さんが大変な目にあって…」
そう出水が語った時に、ミヤは後悔の念を抱いた。
先程、横川が話をしている時に、こう言っていた。
阿久根は糸島さんと強引に交代したと…。
阿久根は非力だ。
まさか、傷つける様な真似はしていないだろうと、高を括っていたのだ。
何故、もっと早く考えなかったのだろうか…イトが傷つけられているのではないのかという可能性を…先程の会話や、いいや、もっと前に、イトが箱から姿を現さなかった時点で、いいや、先輩からの呼び出しから、戻っていないと聞いた時点で、気が付くべきであった。
どうして探しに行かなかったのか!!と、強く後悔する。
「どこだ!!イトは何処にいる!!!!」
思わず、声に力が入り、大きめの声で出水に詰め寄って両肩を掴む。
近くの観客が、揉めているのか?とこちらをチラチラ見ている。
出水はそれに気が付き、ミヤを宥める。
「せ、先輩、声を抑えてください。落ち着いて。直ぐに糸島先輩の所に案内しますから。」
観客席から見えたのか、ミヤの所に、ヤヒコと古賀も移動してきた。
ミヤのただならぬ雰囲気に速足で近づき、問いかける。
「どうした?何かあったのか?」
ヤヒコが心配し、聞いてきた。
「あっと…」
ミヤはどう説明するべきか困り、止まる。
出水がそれに被せる様に、言葉を発した。
「とりあえず、いったん会場を出ましょう。案内しますから!!」
悪目立ちを恐れ、出水を先頭に足早に会場を出る。
ミヤの余裕のない表情に、異常事態を感じ取ったヤヒコと古賀は、黙って出水の後を追うミヤについて行った。
案内されたのは、文科系サークルが活動の際に使用している畳のある部屋の前であった。
ドアを開けると、数人の女性がドア付近に立っており、奥の畳の上に、人が横たわっている。
頭に白いタオルを乗せているけれど、あれは、イトである。
「イト!!!!」
大きな声で名を呼び、ミヤは駆け寄った。
寝転ぶイトの横に膝をつき、行き場のない手を宙に浮かせたまま、イトを心配そうに見つめる。
「何が…」
とミヤが小さく呟き、覗き込む。
すると、イトがピクリと動く。
イトはミヤの声が聞こえたので状況を目で確認しようと目の上に置かれたタオルを少し押し上げる。
タオルの数センチの隙間から、今にも泣きそうな心配顔のミヤが、鼻先のくっつきそうな距離で覗き込んでいた。
あまりにも近づきすぎる距離にイトは驚き、咄嗟に両手でミヤを突き飛ばしてしまう。
そして、一瞬でやってしまったと後悔し、タオルを払いのけ、勢いよく体を起こした。
「え、え?皆、どうしたの?ああ、ミヤ、ごめん。突き飛ばしちゃって、ごめん。」
動揺したイトは、周りをキョロキョロ見回しながら、ミヤに謝る。
「あっ、すまん。驚かせたよな。それよりも、イト、大丈夫なのか?何かされたか?怪我は?傷つけられるようなことはなかったか?あ、あっあー!!おでこ、おでこどうしたんだ!?赤く腫れているじゃないかー!!」
体勢を素早く直したミヤは、イトのおでこに目をやり、狼狽えている。
「だ、大丈夫よ。えっと、これは…」
イトが言いかけたが、ミヤは聞いていない。
「誰にやられた!?阿久根か!?阿久根なのか??アイツ、とうとうそこまで…」
ミヤは頭を抱えている。
「違います。サチではありません!」
「そうです。あの子はそこまでする子ではありません。」
「私達が悪いんです。」
そう、ドア付近に立っていた女性達が、阿久根をかばい発言した。
ミヤはあ?と低い声を出し、ヤンキーのような形相を彼女達に向けていた。
ミヤが女の子達に詰め寄りそうな勢いであったので、出水が慌てて、彼女達の間に入り、こう言った。
「先輩、俺がちゃんと説明しますから、いったん落ち着いてください。ほらっ、糸島先輩が見ています。」
ドードーと、馬を鎮めるかのように出水は汗だくで、ミヤを宥める。
出水の必死な様子と、糸島先輩が見ているというワードに、ミヤは我に返り心を整え、話を聞く姿勢となった。
***
出水がミヤの所に来る前に、ここにいるメンバーに聴取し、まとめた内容をミヤが荒ぶることのないように抑揚をつけずに淡々と話してくれた。
まずは、糸島先輩が言うには…から話は始まった。
イトがマジックショーに出るために舞台下でスタッフから詳しい説明を受け、舞台装置についてのレクチャーを受けた。
その後、あとは待つだけとなったイトは時間を持て余していたのだが、その時にミスコンの参加者である阿久根幸子に声を掛けられたのだと言う。
その時に彼女とは初めて喋ったそうだが、同じミスコンに参加したと言う親近感と信頼する菊池先輩の名が出たこと、それから彼女の性格が人懐っこく飛び切りの笑顔で話すので、可愛い後輩だなと何も疑うことなく、先輩からの呼び出しがあると言うお言葉で跡をついて行ってしまったというのだ。
連れて来られたのがこの部屋であった。
部屋に入ると、そこに居る三人は、畳前に置かれた長テーブルを取り囲む椅子に座っていた。
その三人に迎えられ、彼女達に挟まれるように椅子に座らされ、菊池を呼びに行ってくると言い残し、阿久根は部屋を出た。
阿久根が居なくなると、彼女達に話を振られ、お茶とお菓子を勧められたのだという。
視線を向けると、三人の女性達は頷いていた。
目を泳がせながら、その中の1人がこう言った。
「サチに頼まれたのよ。告白したい人が居るけど、邪魔をする人が居る。その女がずっと告白したい相手から離れないでいるから、協力してほしいって。ここにその女を連れて来るから、自分が告白している間、彼女をここで足止めしていてほしいって。」
両脇にいる2人も頷いている。
この人達は、阿久根の入っているフラメンコサークルの友人のようだ。
「正直、こんな騒ぎになるなら引き受けなければよかったと思う。」
と、愚痴を零す者もいる。
賛同して話し始めた彼女達をミヤが制する。
「おい、後でにしろ。出水、続きを。」
ミヤが先を促す。
糸島先輩もショーの時間があるから、五分前にはこの部屋を出ようと考えていて、時計が自分の座った場所から丁度見えるあそこに置かれていたので、会話の合間にチラチラと確認しながら、話をしていたようだ。
何度も確認をしているうちに、糸島先輩は気が付いた。
あの時計が止まっていることに…。
急いで自分のポケットに手を入れ、スマホを立ち上げた。
時間を確認するためだ。
だが、その瞬間、スマホを奪われてしまったのだと言う。
返してもらおうと、必死でくらいついただ、三人の連係プレーに苦戦したと言う。
漸く隙をついて、スマホを奪還することが出来たのだが、時間を確認すると、すでに開演から30分も過ぎてしまっていた。
急いで会場に戻るために部屋を出ようと扉へ向かうが、扉の前を塞がれて出られない。
そこでも押し問答になり、刻々と時間が過ぎていったのだという。
「マジックショーに出なければいけないと何度も伝えたのに、聞き入れてもらえなくて。」
と、イトは悔しそうに涙を浮かべて話す。
「私達はそういう言い訳を彼女がしてくるから、絶対にその言葉を信用しないでとサチに言われていたから…彼女がここを出たいがために嘘をついているのだと思って。」
ボソッと自分達は知らなかったのだと、女性達は弁解する。
「はあ、確かに、阿久根の登場ともう一つの理由で、マジックショーは一時、危機に陥ったけれど、流石プロだよね、川内さんが何とか流れを戻して、きちんとやり遂げてくれたよ。だから、大丈夫。安心して。」
会場へ駆けつけられず、役目を果たせなかったことで、酷く落ち込むイトへ、優しくミヤが声を掛けた。
その言葉に、聞いていた三人の女性達もホッと胸を撫でおろしていた。
一応、真実を教えてもらってから、自分たちのしでかしたことで迷惑がかかったという事に、少しは責任を感じていたようだ。
「それで、どうしてイトはおでこにコブを作っている訳?」
ミヤがイトのおでこにかかっている前髪を持ち上げながら、問う。
「実は…」
と出水が言いづらそうに、目を逸らしながら、話し出した。
出水は、野外ステージ近くで友人達と飲み食いしながら話していたそうなのだが、ふと、何かを感じ、周囲に目をやると阿久根が糸島と歩いているのが見えた。
その組み合わせがとても違和感のある印象を持った。
その日の朝の出来事もあるので、不安が沸き上がった。
でも、その時は友人達との会話が大盛り上がりしており、そこまで自分が気にするのも変かと、目で追うだけとなってしまった。
暫くして、なぜか、阿久根だけが、野外ステージへと戻ってきたのが見えた。
確か、糸島先輩がマジックショーに出るとミヤ先輩が嬉しそうに話していたな~と脳裏に過る。
時間があったら見に来いとすれ違った時に誘われたのだ。
不安を覚えていたので、野外ステージの方へと足を運んだ。
とりあえず、念のために確認だけしておこうと思ったのだ。
開演5分前、壇上はまだ、誰も居なかった。
裏手に回ると、数人が心配そうに見渡して何かを探している。
「やっぱり来ないのか…」
と、1人が呟き、悲しそうな表情を浮かべていた。
悪い予感がして、その人に出水は話し掛ける。
「何かあったのか?」
糸島さんがステージに上がる予定だったのだが、急に来られなくなったらしい。
ギリギリで間に合わないかと、様子を見ていた所だと言う。
「来られないとマズいのではないのか?」
と出水が聞くと、
「代わりの人は一応きて居るから…でも…」
と口ごもり答える。
代わりの者は誰かと聞けば、阿久根だと言うので、出水は胸騒ぎが湧き起こる。
開演時間となってしまい。
スタッフの男が慌てて持ち場に戻って行く。
それを聞いて、出水は急いで、糸島の行方を探ったそうのだそうだ。
「痕跡を辿って聞きまわって、ここまで辿り着いたのですが、この部屋の前に来て糸島先輩と誰かが言い争う大きな声がしたので、俺、思いっきりドアをあけてしまったんですよ。そうしたら…」
チラッと、イトを出水が見る。
「タイミング悪く、ドアの前に居た私に開けたドアがぶつかったってわけ。ハハッ。」
イトの口から乾いた笑いが漏れる。
「何度も出水君には謝られたのよ。でも、これはワザとではないし…もういいのよ。」
イトは困った顔を出水に向けている。
ああ、イトも過剰な謝罪、謝礼金攻撃を出水から受けなのかもしれないと、感じ取った。
「出水、自分の罪悪感からくるエゴを強引に押し付けるなよ。イトは金銭を望んでいないぞ。俺の時のように、イトも困った時に味方になるとかで恩を返せ。それが最適解だ。」
その一言に、出水は何故分かったのかと驚きの表情を浮かべていた。
それを見て、ニコッと笑ったミヤは、出水の肩をポンと叩き、
「お前は本当にほっとけないな。」
と出水の髪の毛をクシャクシャとかき乱した。
「まあ、何だかんだで、糸島が無事で良かったな。」
ずっと話を聞いていたヤヒコが言うと、その横に居た古賀が、イトの所へ駆け寄り、抱き着いた。
「桜に何かあったってミヤケンから聞いて、凄く心配した。」
「心配かけてごめん。」
と2人はしみじみと話している。
「本当に、ミヤが過剰反応し過ぎたんだよ。」
ヤヒコがミヤを睨み聞こえるように言う。
「仕方がないだろう。お、俺の大事な人に何かあったと聞かされたんだ。焦るのは当たり前だ!!」
ヤヒコに言い返している。
注意)この声は小声ではありません。
「ああ、本当に。ミヤ先輩は糸島先輩の事が好きっすよね~」
出水が悪気も無く、口走る。
その出水の台詞に、ヤヒコは慌てた。
「おい、その前振りはダメだ!」
ご期待に沿えるように、ミヤがもう発していた。
「ああ、俺はイトの事がス―――」
その瞬間、呪いは発動した。
パンパンパンパンパンパンと窓の外でけたたましい破裂音が鳴り響く。
窓を開けると、どうやら大量の風船がいっぺんに割れたらしい。
作業している人たちが顔面蒼白となっていた。
「半日かかったのにぃぃぃーーーー」
との悲鳴が聞こえてきた。
ミヤは、ごめんと心の中で謝り、そっと窓を閉じた。
それから、横川から直ぐに電話が来て片付けに戻った。
イトはスタッフに事情を説明し、謝った。
だが、皆も阿久根から聞いていたので、イトに対して、同情心を抱き、謝る事はないと、口々に言ってくれていた。
学園祭一日目は終わり、二日目も順調に進む。
イトは、ミスキャンパスとなる事はなかった。
ミスキャンパスは、皮膚が柔らかい人に決まったらしい。
ちなみに阿久津は情熱的なダンスが評価され、観客特別賞をもらったそうだ。
面白いことに、あの後、阿久根の友人達に会った際にミヤはこう言われた。
「私たち、もう絶対に勘違いしないので、邪魔はいたしませんから。」
「目の前で見せつけられれば嫌でも分かるし。」
「本当、お幸せにです。先輩。」
こうして、楽しい学園祭は幕を閉じたのである。
こちらの作品に手を伸ばし読んでくださり、ありがとうございました。
次回は呪いの女に迫る編?
次も、どうぞよろしくお願いします。
ブックマーク、ありがとうございます。
目に見えるリアクションをいただけると、読んでくれている人がいる!!!と、創作威力があがっております。
頑張って、最後まで書いて行こうと思います☆




