俺のトモダチ
続きを読んでくださり、ありがとうございます。
「すみません…あなたの携帯を壊してしました。」
事務員が近寄り謝ってきた。
「ああ、構いません。慣れているので。」
つい、ハキハキした明るい声でヘラヘラと答えてしまう。
事務員が俺の言葉を不思議に思い、首を傾げているのが伺える。
それに気づいた俺は、しまったと思い、言いなおす。
「ああ、よくミスして壊すって意味です。だからそんなに気にしないでください。慣れていますので大丈夫ですから。」
俺の呪いに巻き込んでしまってすみませんという思いを胸に、俺は粉々のスマホを拾う。
背筋が冷やりとする。
先にぶつかった女性も近づいてきて会話に加わり、申し訳ないと謝り倒してくる。
女性と台車で完全にスマホを破壊した事務員に挟まれ、俺は謝られていた。
その後、2人がお互いに自分が弁償すると主張したので、弁償代は2人で折半するという形でまとまった。
新機種購入後に事務員さんを通して対応していくで決着する。
もとはと言えば俺の呪いの所為なので胸がチクリと痛む。
巻き込んでごめんなさいと心の中で謝罪しながら2人と別れ、食堂へと急いで向かった。
食堂の奥の席に居るという話であったので遠くを見渡すと、奥の窓際の席に、黒髪ロングを1つに束ねキレイ系カジュアルな服を着た健康的な女性がスマホを弄っている。
イトだ。
その彼女の向かいの席より右に一つずらし座って本を読んでいる短髪で銀縁眼鏡を掛けがっしりした体格でポロシャツを着た男がヤヒコである。
ようやく広い食堂から2人を見つけることが出来た。
その時、イトが俺に気がつき、手を振った。
俺は手を挙げて、小走りで近づいて行く。
「すまん、遅くなった。」
俺は着くなり両手を前に合わせ謝った。
さっきの通話終了から少々時間が経っていたからだ。
急がないと昼休憩が終わってしまう。
俺は直ぐにイトの正面へ腰を下ろした。
「遅いぞ、ミヤ。次の講義、俺はあるんだ。早く決めないと間に合わなくなる。」
ヤヒコが本をパタンと閉じ、眉間に皺を寄せながら俺に向かって話す。
「ああ、少しトラブルがあって、それは、まあ後で話すよ。早く決めよう。次の日曜だったな、何か良い案はあるのか?」
俺が遅れたせいで、皆と遊ぶ予定が決められなくなってしまう。
少しでも話を進めないといけない。
「アンは水族館に行きたいって言っていたわ。私は特に行きたいところは無いかな。」
イトの高校からの親友である 古賀 杏奈の意見をイトが述べる。
古賀は俺達とは違う大学で、この大学の最寄り駅から電車に乗り5つ目の駅で降りた土地にある女子大に通っている。
古賀の見た目は小動物の様で可愛らしい女子なのだが、イトの親友と言うだけあって、物事をズバズバ指摘し、結構気が強い小柄な女性だ。
誰が言いだしたわけでもないが、高校卒業後、休日は古賀を含めこの四人で集まり、出かけることが多くなった。
「俺は景色の良いところにドライブに行きたい。水族館は室内だから、梅雨時期や夏の暑い時とかにした方がいいと思う。今週末は晴れる予報だから、自然を楽しみたい。ドライブに行かないか?」
ヤヒコが提案する。
「俺も、ヤヒコの案に賛成だ。」
憂鬱な呪いを吹き飛ばすような気分転換がしたい。
マイナスイオンを浴びたい。
「アンから返事きた。ドライブでいいって。」
もう古賀に連絡してくれていたのかとイトの気遣いと行動の速さに感心する。
「そうか、じゃあ、車はいつも通り俺が出すよ。あっ、まずい、もう時間がない。じゃあ、続きはスマホで。あ!?ミヤ、お前またスマホ壊しただろう?」
車を出してくれるとは、なんて素敵な殿方なのかしら~キャピキャピ♪と乙女バージョンで崇め奉っている時に、ヤヒコが嫌な所をつっついてきたのでふざけるのを辞めた。
「え、なんで分かったの?エスパーか?」
俺は思わず、口を引き攣り返事をする。
「さっき糸島から電話が途切れたって聞いたからだ。また例のノロ…それは後だ…詳細はアプリで決めるのだから、お前、今日中に携帯会社へ行って来い。それでその帰りにうちに来い。アプリメンバーの再登録をしないといけないだろう。」
「名探偵だったか…分かった、あとで行くよ。」
俺は素直に従った。
ヤヒコは慌ただしく荷物を掴むと、またあとでと言い残し食堂を去っていった。
「ミヤは?この後、講義は無いの?」
「ああ、今日は一限で終わりだ。イトは?」
「私は4限の講義に出るからこの時間は暇なの。一緒に受けている友達もまだ来ないし。そうだ、行き先の候補を一緒に考えてみようよ。」
「いいよ!じゃあ、まず飯食ってからでいいか?俺、朝飯、食いっぱぐれて腹ペコでさ。」
「うん、いいよ。私もお昼食べたいし。」
イトが鞄の中からサンドウィッチを取り出した。
この前、大学の最寄り駅前のパン屋で出た新商品だ。
イトは蒸し鶏と野菜が混ざったアジアンテイストの味付けが大層気に入ったらしく、最近、こればかり食べている。
それを見て、ついつい
「お前は、好―――」
と、口走ってしまった。
あっ、これヤバいかもと思った時には遅かった。
お前はそれが好きだなと話すつもりだったんだが、言い間違えて呪いのセンサーに引っかかってしまったようだ。
やっちまったー!!!
最近、呪いチェックが厳しくなっていると感じる…フライングや誤作動もちょいちょいあるし。
増えすぎて、いちいち腹立つのも疲れて、ちょっとの事では怒りさえ湧かなくなってきている自分がいるのよ。
ダメだな、俺の呪いに対する諦め癖がついている。
話は戻りますが、もうすでに時すでに遅しなの分かっていますよね。
例の呪いがすでに発動してます。
その時の俺は、頭から味噌汁を被っていた。
「す、す、す、す、すみません。」
どうやら、このかなり戸惑い謝ってきた体格の良いがっしりしたゆるっとパーマの男が味噌汁を零したようだ。
「あ~大丈夫です。着替えはありますから。何とかなりますので、気にしないでください。」
きっと、今、このゆるパー男には、俺が聖人君子のように見えているだろう。
頭から味噌汁を掛けられたら、誰だって普通の感覚を持っていたらブちぎれるはずだ。
だが、俺はこの神対応!!
俺は人とは違う…いいや、もう慣れっこなんだよー!
俺が味噌汁を拭いながら冷静に対応していると、零した人も少し落ち着いたのか、無駄に俺の周りで手をバタつかせて体を右往左往するうっとおしい動きが収まってきた。
それでも何度も赤べこのように謝ってくるので、本当に大丈夫だからと念を押し、隣にいる彼の友達へ目線を送り口パクとジェスチャーでサッサと連れて行ってくれと伝え、強制的に連れてってもらった。
あんなに必死で謝ってくるなんて、気の良い青年なのだろうなぁ。
呪いの所為で巻き込んでしまい、申し訳なかった。
俺は何かあった際は、もうずっとこんな気持ちだ。
「イト、ごめん。お昼一緒に取れそうにない。体育館のシャワー室行ってくるわ。」
俺が申し訳なさそうに言うと。
「分かった。私の事は気にしないでいいから。」
そうイトが、少し寂しそうに微笑んだ。
女神か!?と、気持ち悪い思いを抱く。
俺は横の席に置いてあった鞄を持ち、席を立つ。
良かった、鞄は濡れていない。
じゃあまたあとでと言って名残惜しくイトと別れ、シャワー室のある体育館へと向かった。
うう、臭い…味噌臭い、気持ち悪い。
はぁ、イトともっと話したかったなぁ。
というか、恋人になりた~い。
こんな呪いさえなければ、想いを伝えて恋人へなることが出来るのかな?
何だかんだで、俺達は話も合うし、二人で居ても嫌がられていない、むしろ、悪くない感じの雰囲気、可能性が無くはないと思うのだよ。
呪いさえなければ、一歩、いや百歩前へと進めるはず。
呪い、呪い、呪い……マジ、すげえ腹立つ!くそ腹立ってきた!!
なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!?
本当にアイツはいったいなんなのさーー!!
不定期ですが投稿していきますので、お暇な時に覗きに来てください。