学園祭はトラブル続き2
学園祭はトラブル続きで1からの続きとなります。
手が繋がれたままであったので、イトは戸惑っていたが、半歩斜め前を歩くミヤは気が付かない。
その後ろをヤヒコが続いて歩く。
三人は中庭の丸い花壇へ向かっていた。
レンガ作りの花壇内には様々な色とりどりの花が職人の手によって植えられている。
その花壇の前に周りをキョロキョロと見回しながら立っている小柄な女性を見える。
「アン!!」
イトがその女性に向かって片手を挙げ、名を呼ぶ。
ミヤは振り返り、自分が手を繋ぎっぱなしであったことに漸く気が付き、手を離す。
そのタイミングで、イトはアンへと駆け寄った。
残されたヤヒコとミヤも小走りで追いかける。
「ごめんね、アン。バス停まで迎えに行けなくなっちゃって。迷わなかった?」
イトが約束を果たせなかったことを詫びる。
「全く問題なかったよ。あっ、イト、ミスコンに出たんだってね!?動画見たよ。もっと早く言ってよ。分かっていたなら急いで駆け付けたのに~生で見たかったな。」
古賀は口を突き出し、悔しがっている。
「いやはや、笑いものになるかもしれないと思うと誰にも言えなかったのよ。」
イトが頬を指で掻き、苦笑いをする。
「俺達も知らされていなかったんだぜ。後輩から聞いて急いで駆け付けたんだ。イトの順番が終わってなくて本当によかったよ。」
「ああ、結構ギリギリだった。」
ミヤが言うと、ヤヒコは相槌を打つ。
二人も知らされていなかったのかと納得した声を上げた古賀であったが、眉間に少し皺を寄せている。
「古賀、どうかしたのか?」
ミヤがその表情を察して、柔らかく聞くと、
「うん、三人は同じ大学なのだな~て寂しく感じて。私もいつでも駆け付けられる距離にいたかったなって。うん、みんなと同じが良かったな。ちょっと羨ましくなっただけよ。」
と、古賀はボソッと答えた。
「それは、まあ、そうだろうが。違うのだからそれは仕方がない事だ。だが、古賀は糸島の一番の親友なのだろう。そこは特別なのだから、自信を持つがいい。君達の親しい関係に、それには叶わんのだと、いつもミヤが愚痴っているぞ!!」
「なっ、ヤヒコっ…」
ヤヒコの急な暴露に、ミヤは顔を赤く染め、何も言えずに親友の名だけを呼ぶ。
「そうなの??」
古賀が、ミヤの方へ振り向き追及してくる。
ミヤはどもりながら、
「そそ、そうだよ!悪いか!!お前が羨ましいぞ。」
と言い返していた。
その答えに、古賀は、
「うん、悪くない。」
と言いながら笑い、白い歯を見せる。
イトは古賀と向き合うように、ミヤと同じ方向に体を向け立っているので、ミヤから表情が見えていないのだが、その時のイトは顔をミヤと同じく赤く染めていた。
それを確認することが出来たのは、親友のアンだけである。
アンはイトの顔を見て微笑ましくてフッと笑い、気を晒せようとヤヒコへ話を振った。
「ねえ、これからどうするの?」
「ああ、少し体験コーナーを回ったあと、模擬店で食べ物を買って腹ごしらえしよう。午後からは、ミヤがマジックショーの手伝いがあって抜けるから、ああ、そうだった。糸島もだったな。」
「ええ、そうなの、急遽、マジックショーのアシスタントを頼まれてしまって。だから…アン…どうしましょうか?」
イトがヤヒコと2人になる古賀を不安気に見て問う。
「いいよ、私は八幡君とマジックショーを見ているから。それでいいかな?」
「いいぞ。」
古賀がヤヒコに問いかけ、スムーズにまとまった。
これまで四人で出掛けても、この2人が、2人きりで話したり行動したりと言う事はあまりなかったように認識している。
2人きりになってしまう事に少しばかり気を揉んだのだが、杞憂であったようだ。
むしろ、意外にも気が合のかもしれないと、今のやり取りから思えてくる。
それから、体験コーナーで的当てや輪投げ、ヨーヨー釣りなどを楽しんだ。
占いサークルによる占いの館はミヤが拒否したので、イトたちだけで入った。
模擬店の並ぶ方へ向かい、それぞれ食べたいものを購入し、野外用のテーブルセットが用意されている広場で落ち合う事にした。
ミヤが焼きそばとホッとドック2つとカレーライスを持ってそこへと向かう。
昼近いのでそれぞれの店で少し並んだ。
するとすでにイトはテーブル席に座っていた。
ミヤを見ると手を挙げ、招いている。
急いで向かうと、イトの隣にパンケーキが置かれていた。
「アンは飲み物を買い忘れて自販機にいったの。」
ミヤの視線に気づいて、イトが答える。
「俺も!!」
自分も忘れたとミヤは声を出し、再び椅子から立ち上がろうとする。
「だと思って、ほらっ、勝ってきたぞ。」
横からにゅっと手が出てきて、目の前に赤い缶が差し出された。
その缶を持つ手を辿り、見上げるとヤヒコの顔がある。
ニカッと白い歯を光らせ笑うのだ。
「(いつも)ありがと、ヤヒコ。」
と言って、ミヤは受け取る。
どういたしましてと、ミヤの隣に座ろうとするヤヒコの後ろから古賀が顔を出し、イトの隣席へと戻った。
「2人は一緒だったの?」
イトが聞くと、アンが答える。
「自販機を探していたら、八幡君に声かけられて。自販機まで案内してくれたの。どうせ、宮若君も忘れているだろうからってそれを買っていたわ。」
「……」
ミヤは複雑な顔をする。
ヤヒコはエスパーなのかも知れないと時々恐ろしく感じるのだ。
恐ろしいことなど全くない。
ただ単に、ヤヒコはミヤの性格から予測をしているだけなのだ。
この時も、おそらく買っていないだろうという勘だけで案内がてら購入し、もし買っていたならば自分が飲めばいいと思って、お節介を焼いただけであった。
結構な確率でヤヒコのミヤへの勘は当たるので、ミヤは恐怖に感じるまでとなっている。
つまりは、ミヤはヤヒコからしてよく理解されてしまっている強固な大親友という事なのだろう。
それはさておき、午後のマジックショーの手順や詳しい説明をイトにしておかなければいけない。
観客になる2人を前に、最後の大仕掛けのマジックの説明をするのは申し訳ないが、声を潜めて、ミヤはイトに教えた。
なんてことない、平凡なマジックである。
1つ前のマジックで出現させた鳩を、マジシャンが足元の箱にしまうと、遠く離れた場所にある箱に転送されるというような、どこにでもよくあるマジック。
実はその箱からは、鳩ではなく、イトが出てくると言う仕掛けになっている。
「上蓋が開いたら、パッと飛び上がって立ち上がり、ポーズをして、川内さんが合図をしたら箱から出しきてほしいんだ。」
ミヤが一通り説明する。
「私は台の上に中腰で座っていて、蓋が開いたら勢いよくとび上がって、箱から姿を現せばいいのね。」
イトがもう一度確認する。
「ああそうだ。イトは箱の中でじっとしていてくれれば、下に居るサポートメンバーが手動で台を壇上に上げるまでしてくれるから、あとはさっきの手順通りに。箱から出たら、お辞儀でもして、あとはサッサとはけるだけだ。」
その言葉に分かったとイトが頷き、マジックショーの確認を終えた。
マジックショーの行われるのは午後2時から。
その一時間前となり、そろそろ会場入りする時間が迫っていた。
会場内のセットへの装飾などは、前日に全て終えていて、荷物運びも残りをマジシャン自身が行うのみとなっている。
全体での最終確認を残すのみなので、一時間くらい前に集合とされていた。
ヤヒコと古賀は後から会場に行くとのことだったので、ミヤとイトだけで野外ステージへと移動した。
この時、イトとミヤを見送る2人の胸に、一瞬、一抹の不安が過ったらしい。
恐らくそれは、少し離れた場所から、強く嫌な視線が2人に向けて放たれていたからではなかろうか…。
***
会場前まで移動してきたミヤとイトは、野外ステージのある芝生広場に足を踏み入れた。
その瞬間、聞き覚えのある激声が耳に届く。
二人は声のするステージを見つめた。
1人の男がマジシャンに詰め寄り、話の内容からして熱心に彼を説得している様子が目に飛び込んできた。
詰め寄っていたのは、五島だ。
マジシャンの男は押し負けたようで、五島ははち切れんばかりの笑顔で彼の手をギュッと握り、上下に揺らして握手する。
丁度その時に、2人と目が合い、五島はミヤに不敵な笑みを向けてきた。
まるで、これで俺の勝ちだと言っているかのような、そんな顔をしたのだ。
何だったのか??
五島が去った後、ミヤはイトを引連れて、マジシャンの元へ駆け寄る。
「川内さん、何かありましたか?」
そうマジシャン川内に声を掛けた。
「う~ん…実はさ、さっきまで、学園祭の副委員長さんが来ていたのだけれど、あの人、あの大仕掛けの合間に自作の歌を披露したいと言いだしてね。本格的な物ではないから明日やる軽音サークルのようなステージには立てないからって、ここでちょこっとだけ披露させてくれっていうのよ…あまりにも熱心に頼むから、ついオッケーを出してしまったの。まあ、マジックから気を逸らしてくれるし、盛り上げてくれるようだから、いいかなと、ね…急な予定変更で申し訳ないのだけれど、頼むわね…皆にも話をしなくちゃ。」
頬に手を当て、申し訳なさそうにマジシャンはミヤに頼んできた。
五島が何を企んでいるのかは分からないが、ミヤはこの時、硬く誓った。
イトを、五島から絶対に守る!!!と。
そう誓ったはずなのに…誓ったはずなのに…
***
ミヤは横川と共に、ステージ上の最終調整を行っていた。
そこに、五島が小走りでやって来る。
もうあと15分程ですぐステージが始まるので、最終打ち合わせに来たらしい。
横川の親戚であるマジシャンが皆に、ちょっといいかしらと声を掛け、ステージを手伝う人たちを一か所に集め説明を始めた。
「え~と、さっき報告したように、急遽、こちらにいる学園祭副委員長の五島さんが途中で歌を披露する事になりました。」
そう紹介されて、五島は頭を軽く下げる。
集まったメンバーを見渡して、イトが居ないことに気が付いたようだ。
「あれ?桜ちゃんいないね。」
「菊池先輩に呼ばれたとかで、今はいませんよ。すぐに戻るそうでーす。」
ミヤが自分はイトの事ならなんでも知っているといったドヤ顔でそう言った。
「そう、それならば丁度良かった。皆さん、はじめまして学園祭副委員長の五島と申します。私に歌う機会を与えてくださり、ありがとうございます。御迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
ミヤを無視して五島は皆に颯爽と挨拶をした。
「その~五島さんが歌う箇所だけど、彼と話し合って、最後の大仕掛けの転送の間という事になりました。」
「先生、私からはなしても?」
マジシャンを先生と呼ぶ五島が、マジシャン川内の話に割り込み、話し始める。
「実は、午後のステージで、午前中に開催したミスコンの優勝者を発表する手筈でしたが、スケジュールが押され、ステージの開いている時間が確保できなかったために、ここで、発表をさせてもらおうと、唐突で不躾ながら先生にお願いした次第です。最後の大仕掛けの箱の中から出てくる人物が、今年のミスコン優勝者となっています。その為にノリの良い音楽を鳴らし、快くに迎え入れたいのです。」
そう、説明しだしたのだ。
ミヤは驚きを隠せなかった。
つまりは、イトがミスキャンパスという事になるのだ。
彼女はそんなことを望まないだろう…自分も、そう言う目立ち方を、イトにはしてほしくないなと、考えてしまう。
だが、彼女は美しい。
それは紛れもない事実であろう。
俺の目に狂いはないのだからミスに選ばれるのはよくわかる。
だが、同担は望まぬ!!
今日のミスコンでステージに上がり、可愛い様子を皆に知られてしまい、これまで見つめて来なかった者までがイトを知ることになってしまった。
さらにミスキャンパスとなってしまえばどうなるのか。
自分が知るイトではなくなってしまいそうで、腹の底が黒く渦を巻くのだ。
目の前にいるこの男は、それをよしとしているのだろう。
何故、それが出来る?
何故、それが耐えられるのか?
いや、そんな状況になったとしても、自分がイトに選ばれると言う確固たる自信を持っていると言うのか?
もしや!?イトは、コイツと何かあるのか!?
もうすでに!?!?
いやいやいや、聞いていないし……俺のいない所で何かがとか…聞いてないし!!
え……無いよな??
グルグルと考え込んでいると、肩をポンと叩かれる。
ハッとして悩み俯いていた顔を上げると、マジシャン川内が自分の方を向いて、困った顔をしていた。
隣にいて肩を叩いた横川が、教えてくれた。
「ミヤ、修が何度も呼んでいるぞ。何、ボーっとしているんだ。」
それを聞いて、ミヤは慌てて、川内に謝った。
「すみません、考え事をしておりました。」
「ウフッ、青いわね。いいわ、そう言う時もあるわよ。それじゃあ、今からちゃんと話を聞いてね。さっき、副委員長さんが話した通り、ミスコン発表を兼ねるそうだから、宮若くんの女の子が出てくる箱の蓋を開ける役目を、副委員長さんがする事になったのよ。」
「えっ…」
マジシャン川内の言葉に驚き、言葉が出ない。
自分が舞台上でイトを迎えられると思っていたのに。
安心しろとイトに大口を叩いているのに。
マジシャン川内の隣にいる五島が勝ち誇ったようなニヤニヤした表情をこちらに向けていることにも苛立つ。
ミヤは奥歯をギリッと噛んだ。
そうこうしているうちに、5分前となり、マジシャン川内が声を掛ける。
「5分前になったので、皆、位置について。一緒に良いステージにしましようね!」
皆はオオーと一斉に声を出し、気合を入れて指示されている位置へと戻って行った。
ミヤも、胸に不安を残し、自身の指示されている持ち場へと行く。
お客さんはすでに席を埋め尽くしていた。
ヤヒコと古賀も、ちゃんと見に来てくれているのをミヤは舞台袖から確認が出来た。
ステージ中央がマジックを披露するスペースだ。
ステージ両脇は少し狭ませて壁のようなものを設置している。
そこにマジックの道具が置かれ、それを出し入れするスペースを確保しているのだ。
横川は、川内の助手で、彼の斜め後ろに立って手伝いをする。
ミヤの持ち場はステージ袖で、助手が道具を出し入れするのを袖から手伝い、時には舞台上で進行の手伝いもしたりする役割を担っていた。
女性の入った箱の蓋を開ける役目もその一つであった。
その為、舞台下の事は、ステージが始まってしまってからは、ミヤは自分の事で忙しいので見に行くことも出来ず、完全に把握できずにいた。
舞台下で、今この時にイトがどうなっていたかを知らずにいたのだ。
そして、ついにあの時が訪れる。
川内は段取り通り、テーブルマジックから始まり、様々なマジックをこなして行く。
そして、鳩を帽子からひょこっと取り出してみせるマジックが披露され、会場から拍手が湧き起こっていた。
ここから、最終演目へと入っていく。
手の上に乗せた鳩を川内は目の前の箱へと入れ、蓋をする。
そして、この中に入った鳩が、あちらの箱に移動しま~す!と説明を観客に終えると、ギターの音が鳴り始めた。
3に続きます。




