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もう一つの呪い

ゆっくり過ぎる投稿速度の本作を、とてつもなく気長に読んでくださっている優しい方々、誠にありがとうございます。


あの五島騒動から一週間は経った。

我々は穏やかな日々を過ごして…いない。


我々のイト防衛隊の努力により接触の頻度は減ってはいる。

だが、相変わらず、五島はイトに付きまとっている様だ。

イトにアイツが近づくのは気に正直食わないが、委員会の仕事があるので全く会わせないという訳にはいかず、悶々とする。


まあ、五島の幼馴染だと言う菊池先輩が委員会の間は目を光らせくれているようで、2人の間に入り、きちんと対処をしてくれているのだそうで、とても助かっているのだとイトから聞かされた。

少しだけ安心した。


そんなイトラブを拗らせた俺も、実は困っていることがある。

あの時の皆のアドバイス通りに例のアプリ攻撃してくる携帯代金を折半した女性に“困る”と伝えてみたのだが、返信が無くても自分は気にしないと言いだして、アプリ攻撃は変わらなかった…いいや、むしろ助長したのではとさえ思えた。


俺は、俺の頭がおかしくならないうちにと、気は進まなかったがブロックしてみたこともあった。


だが、その俺の考えは甘かった。

あの人は…俺のバイト先に押しかけてきたのだ。


「手違いでブロックになっていただけだからーーーー!!」

と、店内で俺に迫り、喚く彼女のあまりの気迫に押されて、思わず俺がそう咄嗟に誤魔化し叫ぶほどの騒動があった。

アイツのご乱心ぶりに危機感を強く抱くこととなった最初の出来事だ。


あの時の俺の神経を抉るような恐怖心は、俺を再び同じ行動へと突きたてることはなく。

絶対にブロックはしてはならないと、トラウマを植え付けられていた。

あれ以来ブロックは出来ず、あのアプリも定期的に既読にするということが義務付けられた。


俺は、携帯を握り絞め、時間が空けばその作業を日々繰り返している。

常に、マナーモードのサイレント…通知音が怖いのだ。


回想を終えて、俺は大きく息を吐きだす。


スマホのアプリ通知が今日も光を放ち続けている。

ここに来る前に送られてきた分だと思う。


「どうした?大きな溜息なんかついて。とうとう失恋でもしたか!?」

ミヤの親友のヤヒコが優しい笑顔を向けてくる。


「告白も出来やしないのに失恋出来るかよ!?」

俺が失恋したらこんなちょっとの溜息吐くだけでは済まないと分かっていてお前はそう言っているのだろうと俺は投げ捨てる様に言い返す。


言われたヤヒコは、返答することなく、俯いて小刻みに体を震わせていた。

これは…笑っている…思い描いた通りの反応が返っていてツボったようだ。


くそっ、コイツは昔から俺をおちょくるのが心底好きな男だな。


ミヤは内心暴れ捲っている感情を表に出さぬように顔面の筋肉が動かぬように心がけ、テーブルの上に置かれたコーラにバニラアイス入りのグラスを手に取ると、ストローで勢い吸い尽くした。

ズゾゾゾゾと音を立て、氷とアイスだけとなった音がする。


ここは最近、雑誌に取り上げられ人気を集めているハンバーグが美味いと評判の店だ。

ヤヒコと俺、男二人でランチをしにきていると言う訳ではない。


「すみません、お待たせしました。」

そう言って、ミヤの隣席へと腰を下ろしたのは、阿久根幸子だ。

たった今、誰からかの電話で席を外していて、テーブルへと戻ってきた。


なぜ、阿久根と俺らがハンバーグの評判のお店に一緒に居るのかと言うと、いくつかの要因が重なったからである。


まず、1つは、阿久根からのあまりにも多いお誘い攻撃にミヤは言い訳が見付からず追い込まれ、断れない状況に陥ったから。

2つ目は、思いもよらない不思議な事象が起こるので、ヤヒコにヘルプを頼んだのだ。

これらの為に、三人は、この店のこのテーブルに、ランチタイムの1時から座って話をしていた。


今は、ランチタイムなどとうに越え、夕方の4時も越えようとする頃合いだ。

その合間に、様々なことが起こっていた。

ヤヒコにヘルプを頼んだ不思議な事象の事だ。

実は、呪いの一環ではないかとミヤは考えていたので、ヤヒコに相談したのだ。


最初は、阿久根の攻撃に耐えかねて、告白をされていないのにも関わらず、彼女の気持ちを決めつけた上で拒絶し、言葉にして伝えようとしたのだ。


アプリで関係を断つ文を送って終わらせてしまおうと考え即座に文を作成し、あとは送るだけとなった途端に携帯会社の通信障害が起こって送れなくなった。

まあ、こんなことは偶然でも起こり得る事だ。

だが、なかなか通信障害は治らず、その時は諦めた。


その後も幾度かチャレンジしたのだ。

その度に、自分が告白をするときのような、謎の妨害が起こった。


流石になんだかおかしいぞと、考え始めてヤヒコに相談した。

すると、直接検証してみたいとヤヒコが言い出したので本日の運びとなったのだ。


今日、午後1時から入店してから5度ほど、例のチャレンジをしてみたのだが、全て失敗に終わっている。

1度目は食事がウエイターにより運ばれてきてしまい失敗。

2度目は近くの親子ずれの母親による子を叱る声にかき消され失敗。

3度目はウエイターが少し離れた位置でカップを落とし大きな音で失敗。

4度目はラーメン屋のバイト仲間とその彼女に偶然会い、声をかけられ失敗。

5度目は先程の電話だった。


“君とのアプリでの会話…というか一方的な報告は迷惑だからもうしてほしくないし、これから学校で会っても知らん顔をするつもりだ。もう関わりたくない”と、そう彼女に告げるつもりでいたのだ。


ハッキリした拒絶。


それがお互いの為になると結論づけたのだが、告白の呪いのように事が起こり、なぜかその言葉を伝えられないでいる。


「これからどうしますか?カラオケにでも行きますか?」

阿久根が割引券をバックから取り出してチラつかせる。


「俺、音痴だからカラオケはいいや…」

微笑を浮かべてやんわりと断りながらヤヒコをチラッと見るが、助け船は出す気はないようだ。

綺麗なすまし顔である。


「では、映画はどうですか?私、優待券持っているので。」

と言って、阿久根はバックから優待券を2枚取り出しテーブルの上に置いた。

その券をヤヒコはまじまじと見つめている。


「ええっと、俺、この後、友人と野暮用で会う約束があるから、本当にごめん。そろそろ出ないと。」

そう言ってすぐさま席を立ち上がろうとしたミヤに、阿久根はまだ食らいつく。


「ご友人と会うのは、何の用ですか?私も一緒ではダメですか?」

阿久根が腕を掴んでそう言うので、

「打ち合わせなんだよ。学園祭にマジシャンが呼ばれているんだけど、それが俺の友人の従兄で。あ、ほら、YoooTubeでバズッたオネエ口調のマジシャン。その人の手伝いをする事になったからその打ち合わせ。な、ヤヒコ!」

急に振られて巻き込まれたヤヒコだが、顔色一つ変えずに、大きく頷きミヤの話を肯定した。


ちなみに、本当にゼミ仲間から従兄だと言うマジシャンの助手の手伝いを頼まれている。

偶然だ。

だが、この後に打ち合わせの予定は入っていない。


もう帰りたいのだ…帰らせてくれ…。


「ならば、私も手伝います。お手伝い、一緒にやらせてください!」

元気いっぱいの軽やかな声で阿久根はニコニコとそう返答する。


どうしてグイグイくるのか…と、ミヤは心底困ってしまう。

すると、漸くヤヒコが分け入った。


「ダメだよ。マジシャンの人は門外不出のネタとかあるし、俺達を信用して手伝いをお願いしてきているから。全く知り合いでもない君がいきなりきて手伝いますってのは、相手が困るだろうから、ついて来るのは止めて欲しい。俺達も、少しバイト代を貰う事になっているし、これはビジネスなんだ。」

と、堂々と言い切った。

ちなみに、手伝いをお願いされたのはミヤだけであり、バイト代は出ない。


このヤヒコの一言で、阿久根は引き下がってくれた。

張っていた肩の力が一気に抜けた。


ヤヒコに、

「ここの支払いはお前な!」

そう言われたので、お財布に痛手であったが、頼みを聞いてくれた親友への感謝の気持ちにと、引き受けた。


支払いを済ませ店を出ると、2人が無言で待っていた。


阿久根がまた行きましょうとウドを絡ませて何度も誘い、次の約束を取り付けようと話を終わらせようとしない。

見かねたヤヒコがミヤの腕を引き、強引に阿久根を引き離し、じゃあな!!と言って駆けだし人ごみに紛れた。

一瞬の出来事であった。


***


「風呂サンキュー。」


あれから、2人でヤヒコのマンションに移動した。

話し合いの前に準備を整える。

話ながら食べて飲むようにテーブルの上に食事と酒をセッティングし、そのまま飲み潰れてもいいように風呂に入ったところだ。

食事は帰宅後に待ち構えていた東さんが用意してくれたものだ。

ヤヒコの不摂生を説教するために待ち構えていたらしい。

俺を見ると、ヤヒコにブツクサと御小言を言いながら、とんかつを揚げてくれた。

東さんはその後、ご両親に報告しますと言い残し、颯爽と帰っていった。


「でっ、ハ、ハフッ。どうだった?ハフッ。」

ミヤは口いっぱいに熱々なとんかつを口いっぱいに頬張りながら、ヤヒコに質問する。


「ああ、あれはお前のそれと同じ類のヤツだったな。」

ヤヒコは答え、付け合わせの山盛り千切りキャベツを口に入れ、咀嚼した。


「やっぱり、そうだよな~勘違いではないよな~。あっ、からし取って。」

「はいよ。ミヤ…あの女は何者だ?空気も読まずに暴走するのは人としてどうかとは思うが…まあ、人格どうこうというよりも、どんな人物なのかって方が気になるな。実家とか祖先とか家系図とか…呪いを扱える一族とかなのか?」

眉間に皺を寄せ、ヤヒコが話し、キャベツを再び口に運ぶ。


「俺もこのことで彼女の素性が気になって、少し探りを入れてみたんだが、有意義な情報は得られなかったんだ。」

「そうか…」

二人は黙り込む。


「いや、お節介だとは思ったんだが、お前が会計をしている間に、あの女にくぎを刺したんだ。ミヤは執拗な誘いや連絡に迷惑がっているからやめろって。すまん、勝手に。」

ばつが悪そうに目を合わせずに謝る。


「いいよ。むしろ俺が言えないから有難いよ。」

そうミヤが言うと、ヤヒコはホッとした表情に戻った。

話を続ける。


「そうしたら、あの女、こんな事を言っていた。分かっているのだと。」

一度切り、一息つく。

「分かっている?」

ミヤは思わず不快に顔を歪め、聞き返した。

分かってやっているのならば、嫌がらせの可能性もあるからだ。


「あいつが言うには、知り合いにお前の話を聞いて、お前に凄く好きな想い人が居ることも知っていたらしい。それでも諦めきれないと、自分の出来る限りはやるのだと言い切っていた。そして、やっと誘いにのってくれたと。断られることもまだされていないし。お前は優しいから付け入る隙は必ずあると、鼻息を荒くして言っていたよ。あの女、一筋縄ではいかないぞ。」


「……」

 ヤヒコの話にミヤは複雑な心境に陥った。


「兎にも角にも、彼女には要注意だな。彼女に告白を断ることで事象が起こることから、あいつが能力を使っているのか、はたまた、お前の新たな呪いなのかは、まだ分からない。しっかりと用心しろよ。適切な距離をとれ。」

 厳しい口調でヤヒコが言ってくるので、ミヤは思わず口の中の物を一気に飲み込み、


「おうっ」

 と、返事をしていた。


 ひとまず、学園際まで、“俺は忙しい”その一点張りでやり過ごそうと決めたのだが、彼女に狙われ、一定の距離を保つということがどれだけ難しいことなのかを、学園際で思い知るのであった。


どうぞ来年もよろしくお願いします。

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