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修二さんが憑いているよ1

お久しぶりでございます。

読んでくださっている方々、心より感謝いたします。


 翌日、俺はヤヒコのマンションに呼び出されていた。


 部屋に着くや否や、正座させられている。

 向かいには腕を組んだヤヒコが、もう数十分程黙ったまま不機嫌な顔を向けていた。


「あの~、何か喋ってくれませんかね?」

 堪えかねて、ミヤが声を掛ける。


「俺は、大層複雑な気分を味わっている。お前を叱りつけたいが、お前の所為ではないという認識もあり、叱りにしかれないのだ。それでも、俺はお前に腹が立って仕方がない。」

 そうヤヒコが胸の内を語る。

 怖い顔をして…。


「呪いの事は、すまないと思っている。だが、昨日の事件は呪いの所為というよりも、俺達の運だったのではないのかと俺は思うのだが……あ、いや、すまん。あれも呪いが悪い。俺は不可抗力だ。」

 人の所為にしようとしたが、ヤヒコが一段と表情を険しくさせそうだったので、呪いの所為に戻した。


「昨日のことも、あれが呪いで無かったとお前は思いたいのだろうが、水族館での立てこもりなんてそうそう起こる事ではない、しかも俺達を大きく巻き込んだ事件だなんて、平凡な俺達には起こり得ない事案なのだ。これはどう考えたって呪いの所為だろう。」

「まあ、そうですよね…」


 沈黙が流れる。


「昨日は運が良かったんだ。俺がこのウォッチを着けて行っていたからな。」

 ヤヒコが腕時計を見せる。


「あ、親父さんから誕生日に貰ったスマートウォッチ。」

「これ使って、古賀や外部の警察と連携していたんだ。古賀たちは、あの部屋から出た館内側でない通路に通用口を見つけて、犯人に見つかることなく外に出た。その後、警察官に事情を話して俺と連携し、内部の情報をこれから流し続けていた。その甲斐あって犯人を易々と確保できたってわけ。運が良かった。とまあ、このまま、呪いの所為で危険なことが増えて行くようならば、お前を糸島と会わせる事を考え直さなくてはならなくなるぞ。」

口調が厳しい。


「分かっている…俺だって、イトを危険に晒したくない。」

 悔しい、こんなことで大好きなイトに会えなくなるなんて、悔しい。

 口元を歪ませ、俺は拳を握る。


「まあ、会ったとしてもお前がイトに告白をしなければいいって言う話なのだが、お前は、出来るのか?」

 ヤヒコの顔が、出来ないだろうと、決めけた表情で質問してくる。


「あ~それなんだけど、お前、今、俺の事を構わず告白する馬鹿と思っているだろう?違う、違うんだよ、違ったんだよ。それ、俺の所為じゃなかったんだ。」

 あまりにも悔しくて、床を拳で叩きながら力説する。


「夏に、親戚に修二さんの話を聞きに行くって言っただろう?その時に聞いたんだ。」

 俺は、ヤヒコにあの時の事を語った。


  ***


 夏合宿も終わり、ミヤは祖父ちゃんの甥であり、宮若家六代目当主の信次郎さんの家へ、修二さんの話を聞きにやってきていた。

 甥といっても、祖父ちゃんと信次郎さんの年は、ほぼほぼ変わらない。


 ミヤの家のある市からふたつ隣の市に信次郎さんの家はある。

 家を出発し国道をひたすら走り、大きな川にかかる橋を渡る。

 そのまた進んだ先には田舎のよくある寂れた街並み、そこを通り過ぎると畑が広がり、その先に大きな建物が現れた。

 病院のようだ。

 病院を通り過ぎると、だだっ広い駐車場が広がる。

 その向こうに高い塀に囲まれた大きな家と古い門が見えてくる。

 そこが宮若家本家である。


 俺は幼少時にここへ連れられてきたことがあると、祖父ちゃんから聞いたのだが、記憶はほとんどない。

 しかし、この門はなんとなく覚えがある。

 閻魔大王様がこの先に居そうだと想像し震えたほどの巨大な門が昔あったと記憶している。

 今となっては古めかしいだけの門にしか感じなかったのだが、この門が閻魔の門だろう。


 門の横の小さな扉が開いていることを事前連絡で聞いていたので、そこから中へと入っていく。


 小さな扉にもかかわらず厚みがある。

 昔ほどでは無いが相変わらず重いのだなと、無意識にそう考えた。

 その無意識に対して自覚すると、やっぱり自分はここに来たことがあるのだと感じる。

 扉をよっこいしょと、力いっぱい押して中に入る。


 そこには、日本庭園が広がっていた。


 少し苔の着いた石灯籠に、松や犬柘植、梅に山茶花などの木が綺麗に整えられて植えられ、その横に小さな池もある。

 池の中では赤と白と黒の混ざり合った色の鯉や、金の色をした鯉が数匹、スイスイと気持ち良さそうに泳いでいた。


 扉を閉め、門から敷かれている敷石に沿って歩いて行く。

 背より高い木や池を通り過ぎると低い木とリンドウが植えられており、その先には綺麗に手入れされた芝生が広がっていた。


 ここで、誰かとボールで遊んだような、そんな気がする。

 記憶が少しだけ蘇る。

 確か、この芝生を横切った先に離れが経ってきたはず…そこには誰かが…思い出せない…。


 敷石を踏み続けて行くと大きなお屋敷の玄関の前へと案内された。


 覚えがあるようでない引き戸の玄関。

 何故か懐かしさと嬉しい感覚が込み上げる。


 玄関先まで来ると、横にある呼び鈴のボタンを押す。

 昔ながらの黒い凸を押すと音がプーとなるタイプのものだ。

 このボタンを押すとなぜか、してやった感が湧く。


 そんなことを考えていたのだが、待っていても人が出てくる気配が全くない。

 仕方がないので、屋敷に向かって声を張ることにした。


「すみませーーーん、宮若健伍の孫、健太郎でーす。どなたかいらっしゃいませんでしょうかーー。」

山ならば木霊が聞こえそうなほどの大声だ。

 しかし、この広大な敷地では迷惑にはならないだろう。

 むしろ屋敷の奥に届いているのか心配になる。


 少ししてバタバタと人の動く気配があり、暫く待っていると、玄関の引き戸が開いた。

 祖父と同年代くらいの白髪まじりのチャーミングな老婆が顔を出す。

 その老婆の話だと、その呼び鈴は先日から調子が悪いのだとか。


「どうぞ、早う中へ。健伍さんのお孫さんでしょう?懐かしいわね、大きくなって。さあ、あがって。」

 気さくに可愛らしい老婆はそう言った。


 車一台が裕に置けそうな広い玄関で靴を脱ぐと一本の木で作られた段差を上がり、靴を揃えた。

 後ろを振り向き立ち上がると、置かれていたスリッパを指さし、老女が使ってくれと申すので、素直に従い履いた。

 そして長い廊下を案内される。

 ミヤは静かに老婆の後ろをついて行く。

 その間に、老婆は色々話してくれた。


 昔はここら一帯の地主であった宮若家は金貸し業を営んでいたらしいが、時代と共に高利貸しは衰退し、今は賃貸経営などをしているそうだ。

 隣の大きな病院は、修二さんがこれからの時代には金貸しに未来がないと踏ん切りをつけて、開業医をしていた病院を大きくした作ったもので、それを信次郎さんの娘さんが医者の婿を貰い、学友に声を掛け、少しずつ大きくしたものだとか。

 孫も私立の医大に通っているそうだ。

 あとは余った土地で、賃貸経営や駐車場運営をしているという。

 お金持ちは継続中のようであった。


 親父が平凡なサラリーマンの俺の家とは大違いだなと、話を聞きながら比較して虚しくなる。


 話しているうちに、部屋の扉の前までやって来ていた。

 先に中に入って、くつろいでおくようにとミヤは老婆に言われる。

 老婆はお手伝いさんか、はたまた信次郎の家族だろうか、信次郎の名を呼びながら、もと来た通路へと引き返していった。


 仕方なしに扉を開けてミヤは部屋へ足を踏み入れる。

 部屋はとても広かった。

 畳の上に真紅の絨毯が敷かれており、その上に和モダンなソファーと低い一枚板のテーブルが置かれている。

 壁には、風景画や写真や賞状が飾られていた。

 奥には高そうな年代物の家具も置かれ、その上にも高そうな置物やトロフィー、盾が綺麗に置かれている。


 室内をキョロキョロと見渡しながら、ソファーに腰かけようかどうか悩んでいると、扉が開き、人が入ってきた。

 杖を突いている白髪をオールバックに綺麗に固めた老人であった。


 直感的に、この人が信次郎さんだと思ったので、

「ご無沙汰しています。宮若健伍の孫、健太郎です。」

 と、丁寧に腰を折り自己紹介をした。

 金持ちには従順であるべき、それが彼のモットーなのかもしれないと言ったくらいに腰が低い。


 一瞬、信次郎がミヤを見て、目を見開き、体の動きを止めるが、すぐに表情を笑顔に戻し、話し掛けながら近づく。


「おぅおぅ、健太郎、大きくなったな。」

 足を引きずりながら部屋をのそのそと進んでくる。


 老人は一人掛けの上座の椅子のところまで来ると、大きな声でよっこらせと言い、腰を下ろした。


 自分の横の椅子へ腰かけるよう、老人はミヤへ言う。

 ミヤは素直に従った。


「話はお前の父親から聞いているが、儂の義父である修二の話を聞きたいとは、いったい何故だ?」

 そう切り出した途端、信次郎は表情が険しくなった。


 呪われているから、その原因である修二さんの事が知りたいのだと言って、果たしてこの人に信じてくれるのだろうか?

 ミヤが不安に駆られ、正直に話すべきかと考え、黙っていると、信次郎の方から思いがけない言葉か掛けられた。


「もしかして、修二さんが見えているのか?お前に憑いているから、それで知りたいのか?」

 そう聞かれた。


 


続きます。

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