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第36話 サトルッ! 怒涛の攻撃ッ!

 その夜カブラギは後悔にさいなまれた。


 お茶したとか、NINTENDO switchをしたとかは浮気じゃないけど。これ間違いなく浮気じゃね? 私浮気しちゃったんじゃね? あそこは拒むべきだったんじゃね?


 罪悪感でタカハシにLINEできなかった。


『もうダメだ。同じ過ちを犯さないようにしよう。サトルとは距離をおこう』


 何より自分が怖かった。このままサトルにホテルにでも誘われたら行ってたんじゃないかと思ったからだ。

 そのくらいサトルは盛り上げてくれたし、ああもう正直言っちゃうけどサトルがだいぶ好きだ。


 カブラギは高校時代を思い出した。


 ◇


 明日が中間試験だという高校2年生。カブラギは学校帰りにバスに乗り、ある駅についた。


『これを食べるとテストの点がよくなる』という験担ぎの和菓子があるのだ。入試の前にも食べたやつ。


 買ったところで男の声がした。


「あ〜!? てめぇ何言ってんだ!! 化粧とかどうでもいいから早く来いよバカ! 30分で来い! 人待たせてんじゃねえよ!!」


 どこの『オラオラ営業』のホスト……と思って振り返ったら久保悟だったのである。


 サトル!! お前ほんとホストっぽい!


 タカハシもホストっぽいけどあいつは『新宿朝7時を「今日もお客がつかなかった」と思いながらカラスと一緒にトボトボあるく売れないオジサンホスト』でありコイツは『年間売り上げNo.1のオラオラ営業ホスト』である。


 見えるわー。こいつの前にシャンパンタワー見えるわー。


 目が合ってしまった。


「カブラギッてめぇっ。明日試験だっていうのにこんなとこでどうしたっ」


 いや。お前こそ明日試験監督なのにこんなとこで女と待ち合わせかよ。


「はっ。あのっ。買い物です。久保先生」

「サトルだっ。今度その丁寧語使いやがったらぶっ飛ばすぞてめえっ」


 ガチで、ほんとに、コイツを教員試験に合格させた試験官誰だよ。お前の目は節穴かよ。


 ズカズカとやってきて「コンビニ行くぞ」と言われた。は? 

 そのままコンビニで『うす焼きクッキー』と『オレンジジュース』と『ペットボトルのカフェラテ』を買われた。


「そこのベンチ」指差される。


「あの。え? 何?」

「オレの連れがくるまでお前オレとしゃべってろ」

「はぁ!? 明日私テストなんですけど」

「オレもだバーカ!!」


 何が怖いってこの『うす焼きクッキー』も『カフェラテ』もカブラギが好きなやつで、学校で年中食べているのである。サトル。お前まさか全生徒の『好きなお菓子』記憶してんじゃねぇだろうな。どうかしちゃってるよ。


 そのままベンチで40分。サトルと話した。気づくと『今一番メンタルがヤバい女子生徒』について話していた。


「チズルじゃーん? あいつ手ひどく彼氏にフラれたらしくて『手首切る』って言ってたよー」

「『手首切るような彼氏』と付き合うなバーカ」

「チズルにいいなよー」


「で、お前まだタカハシ好きなの?」ぶっ。カブラギはカフェラテを吹いてしまった。


「な……なぜなぜなぜなぜそのことを。だっ誰にも言ってないのに」

「見てりゃわかるんだよバーカ」


 サトルがオレンジジュースを飲みながらニヤニヤした。


「お前ほんと入学したころからタカハシ好きだよなー」

「だからなんでそのことを!」

「お前だけだぞ。あの鬼太郎を憧れた目で見てんの。目を覚ませよ。鬼太郎だぞあいつ」


 そこにサトルの『連れ』が到着したのである。


 読者モデルの『HARUMI』じゃん!!!


 目を疑った。


「サトルゥー。ひどいよー」とか言って肩をたたいている。顔ちっさ顔ちっさ顔ちっさ。


 カブラギはその読者モデルに完無視された。『歯牙にも掛けない』とはこのことだと身をもって知った。


「いこうよー。サトルゥ」


 立ち上がったサトルがカブラギをピタッと見つめた。ニコッと微笑む。


「カブラギ。世話になったな。楽しかった」


 そして2人でどこかに行ってしまったのだ。


『読者モデル』を差し置いて一瞬でも自分に声を掛けた……。

 サトルがどうしてこんなに人気者なのかわかる気がした。


 翌日からしばらくサトルがチズルに張り付いているのがわかった。チズルの顔が明るい。カブラギに気づくと『よぉ〜』って感じでサトルが右手を上げた。


 ◇


 あの人は『アリ地獄』みたいな人だ。気づくと落ちてる。気づくと好きになってる。


 カブラギは首をブルブル振った。


 サトルと恋愛してもいいことないっ! あいつは『読者モデル』を40分で呼びつける男っ。『好きだ』って言葉31日あったら31人に言ってる! 7人と同時に付き合える男っ。


 タカハシッ。私が好きなのはタカハシッ。


 ◇


 で、翌日朝起きて2階の自室から1階のダイニングに降りたらサトルがいたのである。


「!? !!! ? !?」


 口がパクパクしてしまう。

「起きるのおっせえぞカブラギッ」


 なんで卵かけご飯食べてんのひとん家でなんで?


「学校に遅刻すんだろうが。早く飯食って早く支度しろ」

「私の大学は今日2時からです」

「オレの学校だよっ!」


 お前かーーい。


「いや。バイトは9時からだから」

「店長に言って前倒ししといだぞ」


 勝手に人のシフト変えんなっ。あと店長も本人に確認しろっ。親も怒れよこんな時間に来られてっ。


 サトルに押されて一緒の電車に乗った。


 ◇


 駅についたらなぜだか腕を組まされたので、なんとなくそのまま歩いた。あと少しで学校というところでサトルが


「おーい! タカハシー!!」


 と手を振った。


『あっタカハシッ』と思った瞬間にサトルがカブラギのおでこに『ちゅっ』とした。


 ぎえっ。


 タカハシが目に入った。棒立ちになっている。


「またな。カブラギ」微笑むとパッと腕を離し「タカハシー! お前時計みたいに毎日おんなじ時刻でくるよなー」と彼に走り寄った。


 え? え? まるで『朝帰りした男女』みたいに見えたんじゃない!?


 言い訳っ。言い訳っさせてっと思ったがすでに2人は校門の中だった。


 ◇


 さらにさらにである。


 夕方カブラギが大学から帰ったらサトルが家にいた。どうゆーこと。どうゆーこと。どうゆーことっ!?


 サトルに突っかかる。

「サトルゥー!! アンッタ冗談じゃないよっ。朝の何だっ。タカハシに謝れっ。まずタカハシに謝れっ」


 母親と何やら親しく話していたサトルはニヤニヤして「おっ。やっと帰ってきたな」と言った。


 で、そのまま怒りに震えるカブラギを素通りした。

「帰りまーす」


「はぁっ!? アンタさぁ。説明しろよ説明っ。どういうつもりであんな……」


 知らん顔して靴を履きトントンするとカブラギの方を振り返った。


「カブラギ」

「何よっ」

「嫁に、来ないか」


 瞬間怒りを全て忘れポカーンとしてしまった。


「シヨウのお母さん!!」

「はいっ」


 母親を見ると口に両手を当てて『まぁ〜』のポーズで止まっている。


「シヨウ。貰っていいっすか?」カブラギを親指で差した。


 母親が何も言わずブンブン縦にうなずいちゃってるよ!?


「おかーさんの許可も取れたし。お前オレの嫁に来い。じゃあな」


 バタンッ


 そのまま消えた。


 ◇


 もう泣きながらタカハシに電話した。

「違います誤解ですサトルにはめられたんです」


 ペンギンのぬいぐるみボッコボコに殴る。


「落ち着いて……落ち着いてカブラギ……」


「あいつっ。プロポーズとかしやがって何考えてんだ殺すぞっ」


「だから落ち着いてカブラギ」


「親も承諾しちゃって殺すっっ」


「カブラギ。どんな時もそんな汚い言葉を使ってはいけない」


「タカハシも怒れよっ。さとしてんじゃねえよっっっ。悟りを開いた高僧かタカハシッッッ」


 ワアワア泣くカブラギ。困り切るタカハシ。


 夜はふけていくのであった。

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