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第31話 カブラギ、パンツについて聞く

 初詣の帰り、縁日を冷やかしながらカブラギはタカハシに聞いた。


「あの……それで……どうしてその彼女と結婚できなかったんですか?」


 腰に手を回されて人混みの中いきなりキスされた。


 !?


 参詣者がみなカブラギとタカハシを驚いて見つめる。

「ママー。あの人たちちゅーしてるよー」と小さな子の声が聞こえた「まーくんいいからっ」という母親らしき声も聞こえた。


 しばらくそのままだった。


 唇を離されてカブラギはどもってしまった。


「え……え……あの……いきなりなんですか」


 タカハシはニッコリした。


「うん。カブラギには『そんなこと聞いてどうするの?』が通じないからね。新しい作戦を考えたんだ」


 カブラギはぼーーっとしてしまった。


 ◇


 カブラギは張り切った!


 なんとかタカハシから『そんなこと聞いてどうするの?』を引き出せば良いのだ!


 かといって本当に困る質問はダメなのだ!!


 考えて、考えて次のデートでタカハシに会うなり言った!


「先生っ。今日のパンツの色は何色ですかっっ!?」 


 タカハシは心底あきれた。


「そんなこと聞いてどうするの?」


 ◇


 その日のデートは動物園で。動物園といっても半分遊園地みたいなところだった。


「きゃぁぁぁぁーーー!!!」


 芋虫型のジェットコースターに乗った子ども達の歓声が聞こえる。

 お土産店の前には大きなソフトクリームのオブジェ。『ミルクソフト』のノボリがはためいていた。


 園内をミニSLが通っていて『カーンカンカーン』という踏切の音が規則的に聴こえる。


 少し離れた『動物園ゾーン』を2人で歩く。


「あ! 先生ペンギンの群れです!」


 半円形の展示場にやはり半円の柵がしてあった。ゴツゴツした岩山があって、手前に水場。水の中は地下部分にあった。反対側に回り込めば地下に降りる階段がある。階段下に水槽があって水の中を泳ぐペンギンが見られる仕組みだ。


 カブラギ達は建物の外部分にいたので、柵とその下の白いコンクリートしか見えなかった。


 雑多なペンギンたちが「ギョエーギョエー」と叫ぶ。

 群れで『チョコチョコチョコチョコ』歩くもの。水場に飛び込むもの。ボンヤリいるもの。様々だ。


「冬なのに水遊びなんて寒くないんですかねぇ!」

「寒い場所の生き物だからね」


「先生!『皇帝ペンギン』ですよ!』と1匹のペンギンを指差した。「あれは『イワトビペンギン』!」

「詳しいんだね」


「『マウンテンズ』のアバターだからわかるんです。『皇帝ペンギン』がボーカルのマサヤ。『イワトビペンギン』がツインボーカルのアキヒト。『フンボルトペンギン』がギターのウェポン『マゼランペンギン』がドラムのささっちです」


「うん。ごめんね。全く意味わからなかった」


 しばらくペンギンのヨチヨチ歩きを楽しんでいると、人がきれて誰もいなくなった。


 ペンギンの『ギョエー! ギョエー!』という鳴き声だけが響き渡る。


 カブラギとタカハシは柵のてっぺんに指を乗せてペンギンを見ていたが、ふと、タカハシとキスしたくなった。


 夕飯を食べ終わったらキスしてくれるとわかっているけど、今すぐこの人の唇が欲しい。


 でも「キスしてください」とは言えなかった。


 恋人じゃなかったときは叶わない可能性もあったキスが、今じゃ100パーセント叶う。


 こうなるとかえって緊張してしまう。


 カブラギはタカハシの袖を親指と人差し指でつまみ、ちょんちょん、ちょんちょんと引いた。


「何?」恋人が甘い笑顔を向けてくれる。 


「あの……先生……パンツ……」


 タカハシの「え?」って顔。


「あの…………だから……パンツの色ですよ」


『ぷっ』タカハシが右手を口に当てて吹き出した。


「もしかしてキスして欲しいの?」

「はぁ。まあ。そんなところです」


『クックック』とタカハシの笑い声がした。

「じゃあ。キスしたいと言えばいいじゃない?」

「キ……キスしたいです」指先をモジモジさせた。指先を見つめる顔が赤くなる。


「承知致しました」右手を胸に当ててタカハシがかしこまった。


 カブラギの両腕にそっと自分の手のひらを添えると、カブラギに顔を近づけた。


 あと1ミリでカブラギの唇……というところまできた時ふいにタカハシが


『ブッッ』と盛大に吹いた。


「ハハハハハ! カブラギ! 『パンツ』て。ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「ちょっ。笑いすぎですよっ!!」


「だって『パンツ』てカブラギ!!」


 タカハシはしゃがみこんでしまった。両手をお腹に当てて苦しそうに笑っている。 


「ハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「笑いすぎじゃないですかっっ」

 カ〜〜ッと赤くなる。


「ハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「ちょっとっタカハシ失礼だよっっ」


 カブラギはしゃがみ込んだタカハシの背中に覆い被さった。


「コレヤッッ!!! 笑うのヤメロッ」


 もう止まらない。タカハシはカブラギを背負ったまま無限に笑い続けた。


 『なんだなんだ』と言う感じで2人のところにワラワラペンギンが集まってくる


 地面に冬の木漏れ日が落ちていた。


 ◇


 付き合ってみるとタカハシは可愛い人であった。


 1番可愛いのがキスするとき。夕ご飯が終わると2人でブラブラそこら辺を散歩する。


 人影のないベンチなどを見つけるとタカハシがカブラギの手をギュッと握るのである。


 最初は合図かと思ったが、本人どうも無意識に手を握ってしまうらしいのだ。


 カブラギが気を利かせて「あっ。先生っ。私歩き疲れましたっ。どこか座りたい!!」と騒ぐ。


 するとニッコリ微笑んで「じゃあ。休もうか……」と言ってベンチを探すフリをするのだ。


「あ……あそこなんかいいかも」指差す。


 いやあなたとっくに見つけてますよね!!


 カブラギは内心おかしくてたまらなかった。

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