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第26話 ニヤニヤするサトル

 「先生〜。助けてくださーい」


 カブラギはタカハシに電話した。


「パートさんが間違えてプリン1箱(12個入り)頼むところ10箱頼んじゃったんですぅー。冷蔵庫もないのに明日120個きちゃう!!」


 タカハシは食堂に掛け合ってくれた。急遽プリンが原価で100個売られることになり、結果『弁当屋は廃棄ロスを逃れ』『食堂はお客を呼び込め』『生徒はプリンを大特価で買える』という『全員幸せ』な状況が作られた。


 『レポートが書けません』とLINEに打てば電話で丁寧に指導してくれる。


『資料が見つからない』と泣きつけば、弁当屋まで自分の手持ちの資料を持ってきてくれる。


 いつのまにか弁当屋の弁当も買いに来てくれるようになった。


 『彼女にしてください』『結婚してください』と言えば反発されるのに、『友達』としては本当に良くしてくれた。


 しかしこう。何か突破口が欲しい。『友達』の次は『彼女』だ。なーにが『彼活』だ『お前をカレシにする活動』だよ。覚えとけ。


 カブラギは高橋是也しか要りませんからね!!


 カブラギは心に誓った。


 ◇


 午後4時ごろ弁当屋に『カキフライ弁当』を買いに来たタカハシに言ってみた。


 ちなみになぜタカハシが4時に来たかというと5時過ぎから急に弁当屋が混みだすからだ。サトルは何時だろうが平気で来るし、無意味にカブラギの頭を撫でたりして周りの怒りを買っていた。間違いなくわざと。


 店内には誰もいなかった。厨房は夕飯の仕込みで殺気立ってる。レジはカブラギ1人。


「あのー。先生」


 いつもは気を遣って『お客様』としか呼びかけないが今日は『せんせぇ』と甘えて言った。


「うん。何? カブラギ」タカハシが微笑んだ。


「そろそろ……4番目のミッションどうですかね?」

「もう。ミッションはしないっていったろ?」


 相変わらずつれないタカハシである。


「次は『作家名山手線ゲーム!』どうでしょうか?」

「なんだその。合コンの匂いしかしないゲームは」

「いやですからね? 『山手線ゲーム』ってあるじゃないですか? 山手線の駅名を言って『言えない人負け』『同じ駅名言ったら負け』『山手線の駅名全部言い終わった人以外負け』ってやつ」

「最近合コン行ったろ?」

「行きました」

「それ男の方で共謀して女の子にわざと負けさせて、強い酒飲ませるやつだ。気をつけなさい」

「先生。感想が全て『生徒指導』なのなんとかならないんですか?」

「『先生』だからな!」


 ツーンとしとるわ。なんかねえのかよ。『カブラギが好きだから合コン行かないで』とか。ないか。


「あ。ですからね? その作家版てことで。『作家名言えない人負け』『同じ作家言ったら負け』ってやつで」


「俺が負けるとどうなるの?」

「先生のうちご招待ってことで」

「俺ん家に来たいだけだろ」

「バレたかー」


「カブラギが負けた場合は?」

「先生にキスしますよ」

「どっちもお前の得になるだけだろ!」

「バレたかー」


「よくあるじゃないですか? 友達の家に行ったり来たり」

「そんな下心しかない友達呼びません!」

「下心なんかありません! 合鍵盗んでこようとしてるだけです!」

「それが下心じゃないならなんだ!!」


「サトルには鍵あげて私にはなんでくれないんですかっ」と言ったら「あいつにやった覚えはない! 勝手に持っていったんだ!」と返された。そーでしょーともー。


 タカハシがため息をついた。


「カブラギ悪いけど…………」

「はい」

「そのゲーム俺負ける気しないよ」

「私だって1時間くらいは言えますよ」

「俺は一晩中だって言える」


 その瞬間にである!


 カブラギが『にまーっ』と笑った。


 タカハシはハッとしたがもう遅い。『攻守』が逆転した。


「今『一晩中』って言ったー」


 カブラギはギイっと中扉を開け、レジからタカハシの前に移動した。


「いいですねー。『一晩中』。いい響きです。『一晩中』あれば『山手線ゲーム』以外にも()()()()できそうですしねー」


 体を右横にしならせてタカハシの顔をのぞきこむ。タカハシが目をそらした。


「NINTENDO Switchとか」


 !!!!!!


 タカハシの顔が悔しそうにゆがんだ。タカハシ10打撃!


「あっれー。何想像したのかなー」

「おっ大人をからかうのもいい加減にしなさいっ」

「やだなー。先生冗談ですよ。冗談」

「店員さんっ。お弁当まだですか!」


 カブラギは「お客様大変失礼しました。ただ今お持ちします」と言ってお辞儀をした。


 レジに戻るとすでにビニールに入れた弁当をタカハシに渡した。


「ありがとうございました。ちなみにですが」


 真顔になる。


「冗談は『NINTENDO Switch』の方です」


 !!!!!!!!!!!


 タカハシは肩を怒らせて店を出て行った。


 1人レジに残されたカブラギはポツンと言った。


「いいんですよ。一晩中作家名言われてても」


 目を伏せた。


「あなたが、一晩中私といてくれるならそれで」


 ◇


 意外な方向に事態が動いた。


 後輩の鈴原美鳥すずはらみどりとお茶をしたときに言われたのである。


「タカハシまたおかしいですよ」

「また?」

「あいつ『天丼』の写真見てため息ついてましたよ」


 はっ!? 天丼?


「先輩。最近タカハシに天丼の写真送りませんでしたか?」

「え? なんで私?」

「あいつ休み時間に校庭の隅でスマホ見てたんですよ」

「まっさかー。あの『歩く就学規則』のタカハシが! 学校内ではスマホの電源入れるの禁止じゃん。在学中1回もスマホ見てるのみたことないよ」

「だから! おかしいって言ってるんですよ! 見てたんです! コソコソ! しかもペンギンのスタンプが押されているやつ!」


 ペンギン……。


「だいたい先輩以外誰もタカハシのLINEアドレスなんか知らないっつーの!」


 それもそうだ。


 カブラギは自分のスマホを取り出してタカハシとの履歴を見た。


「ああ〜。送ってるわー」


 忘れてたわ! 友達と大学近くの天丼屋行ったんだった!


「これ?」スマホ画面を見せる。


「これですよ! これ! あいつここ何日かこの『天丼』見てはため息ついてるんですよ!!」


 カブラギは『天丼の写真』をまじまじ見た。何もおかしなところはない。立派なエビが2本のっているだけだ。


 会話も確認したが「お給料出たので天丼食べにいきました! 美味しかったです」「よかったね」


 以上だ。ミドリと前後の会話も確認した。


「何の嵐も起きてませんね。無風ですね……」と言われただけだった。


 ◇


「さらにですよ! あいつ最近学校近くのカフェに出没するんですよ! 『panda panda』!」


「ああ……。私も大好きだけど。カフェラテ美味しいよね」


「特に何するわけでもなく1時間くらい文庫本読んだら帰るんですよ! 誰とも待ち合わせてないの!」


「タカハシだってコーヒー飲みたいときあるんじゃないの?」

「入学してから1回も見かけてないのに今さらなんで!?」


………………確かになぁ。タカハシって駅のカフェで時間潰すなら家に帰るタイプだよなぁ。


 ◇


 サトルにタカハシの『謎行動』を相談した。タカハシに見られないようわざと学校から1駅離れたカフェで待ち合わせた。


 聞いた瞬間サトルがニヤニヤする。


「『天丼』はなぁ。だいたいわかるけど」

「え? 何?」

「おしえなーい。タカハシに聞けよ。『panda panda』については教えてやる」

「何?」

「そこにタカハシくるの木曜日6時からじゃね?」


 ミドリに確認した。その通りだった。


「カブラギさぁ。木曜日のバイト5時30分までだよなぁ」

「そうだけど?」

「その後はどうしてんの?」

「家に帰るか……たまーに『panda panda』でレポートを…………あっ!」

「タカハシにさぁ。『レポートできない』って泣きつかなかったか? 『panda panda』さぁ。マグカップにパンダと竹の絵が描いてあるよなぁ。LINEで写真送らなかった? 『参考書』とたまたまうつったマグカップの写真」


 慌ててトークルームの履歴を確認した。

『明日までにレポート仕上げないといけないんです。どうしよう』って書いてある。


「確か……夜8時くらいに電話もらって」


 サトルがニヤニヤする。


「私いつも『金曜日』提出のレポートに苦戦してて……」


「これなーんだ」


 いきなりサトルのスマホの写真を見せられた。なんでだ! 『カブラギとタカハシのLINEトークルーム』のスクリーンショットやんけ! 


「日付見ろよ」


「あっ! これ最初にタカハシに『友達になってください』って頼んで『おやすみなさい』って送ったやつ! 何!? アンタこれどうやって」

「タカハシの写真フォルダにあった」


 は!?


「データ盗んできた」


「は? スマホ認証どうしたのよ!?」

「アイツの暗証番号くらい類推できる」


 いや、お前。どーゆーことだ。

 てか前々から思ってたけどコイツ『ナチュラルに犯罪者』だよな! 親の形見盗んだり!


「カブラギさぁ。お前友達と人気の店に行って、フワッフワのパンケーキにフルーツと生クリームてんこ盛り出されたらどうするよ」


「え〜♡ 写真撮るよー! 『今からこれ食べるぞーっ!』ってワクワクして撮るよー」


「だよなぁ」


 その瞬間カブラギは固まってしまったのである。サトルがソファーの背もたれに片腕をかけニヤニヤと店のシャンデリアの辺りを見た。


「タカハシ嬉しかったんだろうなぁ。これから毎日カブラギとLINEできると思ったら」


 そのままコーヒーを美味しそうに飲んだ。


「カブラギさぁ。どうする? 会いたいのに会えない人に会うために、お前ならどうする?」

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