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第25話 友達になってください

 自分の部屋のベッドでうたた寝したらしい。目が覚めたら午後2時を回っていた。


 『つまりアレだ』とカブラギは思った『タカハシはこう考えていたわけだ』


 1.カブラギのことは好き(好きというか『大好き』)

 2.しかしカブラギとは結婚できない。つきあえない。

 3.自分はつきあってない人とはキスしない。

 4.つまりカブラギとはキスできない。


 この4段論法だったわけだ〜〜〜。


 タカハシ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。


 ふざけるな〜〜〜〜〜。


 真面目も大概にしろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。


 ◇


 なんだあの理屈。『子供が中学入ったときには自分はもう定年』て知るかバカ。そんなのそんとき考えりゃいいだろうがクッソ理屈クッソ理屈クッソ理屈。


 カブラギの体にステーキ1000枚分のパワーがわいてきた。心の穴が全部埋まった。

『打倒タカハシ』の意を新たにした。


 落ち着け。あいつは蜃気楼。普通に押してもダメだ。策略を練るんだ。


 カブラギはベッドの上で考え続けた。


 ◇


 夜の8時にカブラギはタカハシのLINEにメッセージを送った『今から電話します』


『既読』がついた瞬間に電話した。


「……高橋です」

 タカハシが出た。

「先生。今先生のスマホに出ている私の番号。登録しておいてくださいね」と言った。


「カブラギ……。お母さんに俺の番号を聞いたの?」

「そうです。これでさらにつながりますね。私たち」


 ふふふふ。タカハシの笑い声。


「次は自宅住所ですよ」

「怖いなぁ。カブラギは」タカハシが笑っている。


「昨日は本当にありがとうございました。電話を掛けたのは先生にお願いがあるからです」

「……………………何?」

「私と友達になってください」


 ◇


「友達って?」明らかに戸惑っている。


「具体的には1日3回程LINEを送らせてください。内容は『おはようございます』と『おやすみなさい』とまあお昼ご飯の写真くらいです」


「………………そんなことしてどうするの?」


「先生! 私は昨日とても良い夢を見ました!」


 タカハシは黙った。ものすごい地雷を投げられている気がする。下手な返事をすればとんでもない事態に発展する気がする。


「しかし、それは夢です。現実には私は先生との恋愛をあきらめなければなりません! プロポーズも断られてますしね」


「あ……いや……カブラギ…………」


「LINEを送るのは大学卒業までです。その後はぜひ私をブロックしてください」


「いや。でもカブラギ。大げさじゃないかな?」


「いえ。是非そうしてください。それで。『友達』ですので先生は婚活してください! 私も彼活します!」

「カレカツ?」

「合コンなどに積極的にでます。LINEの返事はしなくていいです。未読でも構わない」


 タカハシの戸惑いはさらに大きくなった。カブラギの意図がつかめない。


「そうすれば私の気が済むんです。よろしくお願いします!」


 電話を切った。


 ◇


 その日、寝る前に『おやすみなさい』とLINEした。

 既読無視かなと覚悟していたが『おやすみ』と返ってきた。


 やったぁぁぁーーー!!!


 翌朝は『おはようございます』やはり『おはよう』と返ってきた。


 嬉しいーーー!!!


 しばらくこのやり取りを続けて、1週間後に『ランチです』とお弁当の写真をあげた。


 夕方まで音沙汰なかったが、それはタカハシの勤務先がスマホの電源を落とすルールになっているからだ。サトルが守っているのただの1度も見たことないが。


 6時ごろ『おいしそうだね』と返ってきた。


 いやったぁぁぁぁ!!!これアレだぞ。帰りの電車に乗ったな!?


 本当は1日50回くらいLINEしたいが、さすがにはばかられるので3回か4回で押さえた。


 ネコがいたとか。アイスを食べているとか。カラオケきましたみたいなささいなことを送りつづける。


 タカハシは律儀に全てのメッセージに返信してくれた。絵文字も、スタンプもない、7文字程度の返信。


 それでいい。もうタカハシのいなくなった穴を泣きながら埋め続ける日々はごめんだった。


 あなたが『つきあえない』というなら友達から始めますよ。少なくとも『先生と生徒』よりは1歩進んだ関係ですからね。


 蜃気楼は走って捕まえようとしてもダメだ。じわじわと距離をつめていくんだ。繋がっていさえすれば必ず突破口はある。


 そしてサトルを呼んだ。


 ◇


「あ!? 相談役になって欲しい? お前と? タカハシの恋愛相談? なんだそれうぜえわー」


 相変わらずチャッライ口調でサトルがパックのオレンジジュースを飲んだ。


 場所はカブラギの部屋である。コイツヘーキで女子の部屋にズカズカ入ってくるからね。


 ベッド下のカーペットに2人で座った。サトルとカブラギの間にペンギンのぬいぐるみを挟んだ。棒状のポテトスナックをくわえてサトルはぶらぶらさせた。


「まずは今までの経緯について話したい」カブラギは真剣な顔で言った。


「その前にどこまで情報を共有していいか確認したい」


「はあ〜?」


 サトルが『クッソめんどくせぇな』という顔をした。ペンギンの頭を左手でバンバン叩いた。

「どうでもいいわな〜? ぺん子〜?」

「ぺん子って名前じゃないわ」

「これ『マウンテンズ』のライブグッズだろ? 好きだねー。お前パンツまで『マウンテンズ』か!」

「えっ。えっ。なんでそれを……」

「そこに干してあるじゃねーか」


 指差した先にパンツとか! ブラジャー とか干してたっ。やべえ。


「今度はいたとこ見る?」

「はいはい見ます見ます。いつでも結構ですよー。なー? ぺん子ー?」


 いつも思うんだけど。コイツとタカハシ。本当に同じ生き物なのだろうか……。


「まずはアンタがどこまでタカハシの家族について知っているか聞きたい」


 あの。サトルが。黙りこんだ。


 ◇


 久保悟という男は。自分のことはなんでもあけすけにしゃべるが、他人のことは口が固い。だからみんなサトルを信用している。タカハシもサトルは信用しているはずだ。


 カブラギもタカハシの『秘密』についてペラペラしゃべりたくない。どこまで話していいのか探りたかった。


「アンタがさあ。もってるタカハシの家の鍵。違和感あんだよ」


「違和感〜?」ニヤニヤした。


「ストラップの『ピーポくん』だよ。なんか古いよね? なんでそんな古いの?」


「知らねぇ」


「最初はさぁ。アンタがタカハシの鍵を上手いこと複製したのかと思ってたんだよ。でもさぁ。そしたらその『ピーポくん』はどっから持ってきた? ってことになるじゃん」


「最初からついてたんだよ」


「だよねぇ。鍵を複製したんじゃない。最初からタカハシの家にある鍵を勝手に持ち出したんだよ。私ネットで調べたんだよ。警察マニアが『歴代ピーポくんグッズ』紹介してるサイト見てさあ。それ。22年前に販売したやつだよね?」


「知るかよ。俺が買ったんじゃねえし」


「サトルが買ったんじゃないんだよ。タカハシのお父さんかお母さんが買ったやつ。でもそしたらサトルは、まあそれお父さんのだったとして、人の鍵を勝手に持ってったってことになるじゃん? 普通苦情くるよね」


「来なかったな」


「来なかったんだよ。だって持ち主は亡くなっているからね。21年前に」


 カブラギはサトルの顔を注意深く見た。そして確信した。この人事情知ってる。ニヤニヤと前を向いて床を見ているこの人。


「タカハシ先生から直接聞きました。お父さんは21年前。お母さんは19年前に癌で亡くなったそうですね。タカハシは約20年孤児として生きてきたんだよね?」


「…………聞いたのは家族のことだけか」

「え?」

「なんでもねぇよ」


 サトルがポテトスナックを1本カブラギの口につっこんだ。


「お前も上手いことタカハシの家から『お袋の遺品』とってこい。親父の方は俺がもらっちゃったからな」


「大学院の話は聞いた?」「聞いた」「お金がなくていけなかったんだよね」「そう」


「大学では首席だったんだよね」

 ふふっ「本人からじゃねぇが聞いた。あいつそういうの自慢するタイプじゃねえから」


「わかった。じゃあ全部話す」


 カブラギは洗いざらい今までの経緯を話した。片目を隠して世界を半分しか見ないようにしていることは話さなかった。

 その『秘密』は守ってやりたかった。


 サトルは最後まで床を見ながらニヤニヤと聞いていたが話終わると「ふーん」と言った。


「すげえな。カブラギ」

「そうかな?」

「すごいわ。タカハシそんな人に心開くタイプじゃねぇからさ。こんな短期間でここまでタカハシの懐に入れたことが驚きだわ。俺だって結構アイツには手こずったのにさぁ」

「あんたが?」

「あいつ『ATフィールド』全開だからなぁ」


 2人で『蜃気楼タカハシ』を思い出してふふふと笑った。


「そんでさぁ。アンタどうやってタカハシとここまで仲良くなれたのよ」

「そりゃあ。アレだ。上手いこと家に押しかけて、上手いこと鍵を奪って、年中泊まりにいってやったのよ」


 さすがだ……。最寄駅すら教えてもらえないカブラギにこの『どうかしちゃったミッキーマウス』は驚異であった。


「あいつ面倒見いいからなぁ。押しかけちまえばゆうメシも朝メシも作ってくれるし、ネクタイも大人しくしめさせてくれるし。懐にどう入るかが勝負のやつね」


「そうだよね。つまりタカハシを攻略するには」


 2人で声を合わせた。


「「とにかく頼る」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『お前をカレシにする活動』 おばちゃんは絶対そう来ると思ってたwwww
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