第1話 難攻不落の元担任
全42回完結済みです。
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「先生っっ好きなんです!!」
もう思い切りいいました。
鏑木紫陽は5月29日、二十歳の誕生日を迎えた。迎えたその日に高校まで出向き、元担任の高橋是也に告白をしたのである。
この高橋是也という男は
真面目が服を着ている
と言われるくらい真面目であった。未成年とは『死んでも』付き合わない男であった。そこでカブラギは成年に達するその日まで、実に4年弱もこの男に告白するのを待ったのである。
元担任の国語教師。現在37歳になる(はず)のタカハシはあぜんとしてカブラギの言葉を聞いた。
「え? カブラギ? 今なんて?」
カブラギは身を乗り出して一言一言ハッキリ発音した。
「先生が、入学式の時から、好き、だったんです!! 結婚を前提としたお付き合いをしてくださいっっっ」
タカハシが完全に固まってしまった。
◇
タカハシとカブラギは校庭のベンチに座っていた。
目の前で陸上部の面々が「ファイオー! ファイオー!」と言いながらトラックの上をマラソンしている。準備運動だろう。
5月の風が優しく吹いて枝葉を同方向になびかせた。陽光はきらめき、遠くのカフェテリアで女子高生たちが何か話しているのが見える。
カブラギはタカハシの返答を待った。
もっと言うとタカハシが『ガッ』とカブラギの両手をつかんで『カブラギッ嬉しいぞ!! 結婚しようっっ』と言ってくれるのを待った。
そう言われるはずなのである。
だって、4年余りもそのことばかり考えて生きてきたのである。この人ただ1人が運命の人と思い定めてきたのである。答えは『YES』以外はないはずなのであった。
が。
タカハシの返答……返答なのか? は違った。
「カブラギ……お前……大学、ちゃんと通っているのか?」と言われてしまったのだ。
目が完全にカブラギを心配している。
「は? 大学? ちゃんと通ってます。ちゃんと同機社大の2年ですよ。先生の母校でがんばってます」
「え? それで大学生活は充実してるの?」
「してますよ! してますけど今それ関係なくないですか!? 私先生に告白してるんですけど!?」
「そうか。忘れてやるから帰りなさい」
「はぁ!?」
「今日が誕生日と言ってたな」
「言いました! 今日で私成人なんですっ。自由意志で結婚もできるんですっ。結婚してくださいっっ!!」
タカハシが完全にあきれた顔になった。
「先生は選挙も行ったことないようなお子さまとは付き合いませんっっ。ましてや結婚しませんっっ。さようなら!」
と言うが早いかスクッと立ってすたすたすたーと校舎に向かって歩き始めてしまったのである。
あとは茫然としたカブラギが赤いベンチに取り残されていた。
おかしい。そんなはずはない。カブラギ4年弱の思いが一刀に切り捨てられた感があるがそんなわけはない。
カブラギはあの高橋是也と付き合うのだ。そんで21歳になる前に結婚して『ハタチ妻』になるのだ。
カブラギはギューっと自分のバックの取っ手を握りしめた。バックの中にはカブラギの聖書与謝野晶子の『みだれ髪』が入っている。彼女はその中の短歌を思い出した。
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消えむものか歌よむ人の夢とそはそは夢ならむさて消えむものか
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この恋は絶対に消さない! 与謝野晶子が師である与謝野鉄幹と結婚したように、カブラギだって元担任の高橋是也と結婚するのだ!!
その子、ハタチ。闘いの火ぶたは切られたのである。
 




