愛される妹を演じる私
誤字脱字報告ありがとうございます!
私達双子は見た目がそっくりで、黙っていれば両親も分からないくらいだ。姉の私、アメリアと妹のシャーロット。シャーロットは明るく愛嬌があり、皆んなから愛されている。私といえば人見知りで言いたいことも言えない気弱な性格をしている。
そうなるとシャーロットを両親は可愛がり、私はそれを見ていることしか出来なかった。
今日は両親とシャーロットは三人で演劇に出かけてしまった。私も行きたかったのだが、アメリアは人見知りだから行かなくてもいいと言われてしまい、庭の温室でポロポロと涙を流して膝を抱えていた。
すると、使用人に通され幼なじみである公爵子息であるテオドールがやって来た。偶に連絡も寄越さず私達伯爵家を訪ねてくる間柄だ。
「アメリア、また泣いているのか?」
「お母様達がシャーロットだけを連れて演劇を見に行ってしまったの。私は必要ないの……シャーロットだけがいればお母様達は私なんて見向きもしない……」
「そんな事はない。少なくとも俺にはアメリアが必要だ」
「本当……?」
「ああ、シャーロットだと揶揄いがいかない」
「何、その理由……」
私はむくれて、そっぽを向く。テオドールはいつもそうだ。私の手を引き遊びに誘う。今日は隠れんぼ。だが、私はすぐにテオドールに見つかってしまう。まるで私が何処に隠れるのか見ていたように。そうして二人で遊んでいると、出かけていた両親が顔面蒼白で帰ってきた。
「お、お帰りなさい。お父様、お母様」
「うるさい!!何故お前じゃなかったの!!何故アメリアが生きていて、シャーロットが死ななきゃいけないの!!アメリアだったら良かったのに!!」
お母様は発狂した様に叫び私の頬を打つ。私とテオドールは呆然とし、使用人達に部屋へと通され事情を聞かされる。
シャーロットは遊んでいるうちに、道端に飛び出してしまい馬車に跳ねられ即死だったそうだ。
それからはお母様は私に憎悪を向けてくる。シャーロットの葬式でも、何故私が死ぬのでは無くシャーロットなのかと泣き叫んでいた。
痛い。苦しい。悲しい。
私はお母様にそこまで嫌われていたの?お母様はそれからというもの、私を見れば暴力を振るい、お父様は見て見ぬ振りだ。
だから私は『シャーロット』になった。
「アメリア!!その顔を見せるのは辞めて!!」
「お母様!!どうしてそんな事言うの!?私はシャーロットよ!!死んだのは『アメリア』よ!!お母様どうしちゃったの?」
「シャーロット……ああ!!シャーロット!!そうよね!!死んだのはアメリアよね!!そうよ、今までが悪夢だったんだわ……」
お母様は涙を流しながら私、いや、『シャーロット』を抱きしめる。
痛い、痛いよ。
それからというもの、私はシャーロットを演じる。本当に私が死んでしまったかの様に。最初は屋敷の皆んなが不気味がっていたが、シャーロットの様に愛嬌を振りまけば、すぐ慣れていった。
私はシャーロットを演じ続け、もう五年も経ってしまった。屋敷の皆は私をシャーロットと呼ぶ。
私の本当の名前はテオドールしか呼ばない。シャーロットと呼んでと頼んでも、テオドールは頑なにそれを拒んだ。
今日はテオドールがお茶会に来る日だ。私はテオドールの顔を真っ直ぐ見つめる事が出来なくなっていた。
「シャーロット様、テオドール様がいらっしゃいました」
「ありがとう、貴女もご苦労様」
ゆったりとした動きで温室のテラスへ向かうと、白金の髪を伸ばし、横に垂らして結ぶ美の結晶と言っても過言ではないテオドールが優雅に紅茶を飲んでいた。
キリキリと心が悲鳴をあげる。私はシャーロット、誰にでも愛されるシャーロット、死んだのは本当の私。
「久しぶりだな、アメリア」
「テオドール様、私はシャーロットです」
「まだお前はシャーロットを演じ続けてるのか。もう辞めろ、お前の心が死んでいく」
「何を仰っているのですか?五年前死んだのはアメリアの方なのです。誰もアメリアが生きている事は望んではいない」
「私がアメリアを必要だと言っただろう!!もうシャーロットの影から抜け出せ!!アメリアはアメリアだ!!」
「……もう思い出せないのです。アメリアはどんな子だったのか……」
私はシャーロットを演じ続け、自分を殺し続けた。もう私はどんな人間だったのだろうかと考える。
「アメリア、私と結婚してくれ。シャーロットの仮面を被るお前じゃ無く、本当のアメリアに私は求婚する」
「……もう、シャーロットじゃ無くて良いの?……シャーロットじゃないと私を愛してくれる人なんていないのに」
「馬鹿か、今求婚してるだろう。正真正銘の『アメリア』に」
その言葉に私は涙を流す。私はアメリアで良いのだ。シャーロットでは無くても私を愛してくれる人がいる。ただ一人でも私を愛してくれる人がいるなら私はやっと前に進める。