#2消極性ソリチュード
そして俺はその神とやらに無理矢理納得させられる形で話は進んでいった。
「あんたが神様ってことはよくわかったが、この俺に何の用だ?」
少し躊躇った後、神は口を開き、
『非常に申し上げにくいのですが、こちら側のミスでアルク様は別の世界に飛ばされることとなりました』
「......あ?」
その時、俺の視界はぐにゃりと歪んでいた。
俺はそのまま10分くらい黙り込んでしまった。
『誠に申し訳ございません。ミスなどで別世界へ転移するというのは今まで見たこともない珍しいケースなのですが...』
「じ、じゃあ俺は一生異世界の住人になるってことか...?」
『いえ、私もそこまで鬼ではありません。こちらはこちらで原因を調査し、アルク様を元の世界へ戻せるようにいたします』
気軽に言ってくれるが、今の俺にはどうすることもできない。今はただ神の話を聞くことしかできなかった。
「...とりあえず飛ばされ先の世界のことを教えてくれ」
『えー、どうやらその世界は人間という種族が他のどんな生物よりも発展し、文明があるような世界ですね」
「人間か...」
腐っても俺はオークだ。人間に対する敵意は本能的に存在しており、人間は狡猾で愚かな種族だと小さい頃から教えられてきた。
『少なくとも別世界の方の人間はまだマシな方で、こちらが何もしなければ特に害はないですよ。』
そうは言うがやはり苦手なものは苦手だ。
『他にはこの世界には無いようなテクノロジーや文化が数多く存在するらしいです。』
今と似たような文章が載った書物を家の書庫で読んだことがある。その人も異世界へ転移し、こちらへ戻ってきたのだろうか?
「そういやあっちの世界でも俺って生きていけるのか?そこ不安なんだけど」
『生活はアルク様の世界と似たようなものです。働き、稼ぎ、食べ、寝る、といった感じです。あ、家はもちろん必要ですよ』
生きる手段さえ見つかれば安心だ。初めに異世界に飛ばされると聞いた時はこれ以上ないほどに焦ったが、ちょうど訓練をやめたいと思っていたところだ。おそらく元の世界よりマシで平和だろう。
『そろそろ飛ばされますね。御武運を』
「最後に俺に伝えておくこととかは無いか?」
『お詫びといってはなんですが、あちらの世界でも生きていけるようにアルク様にのみ見える私の分身を連れていきます』
「そいつは助かる。精々生き延びてやるよ。」
『では、行ってらっしゃいませ』
眩い光が俺を包み、しばらく白い空間がずっと続いていた。
その時俺はずっと不安だった。
転移される先の世界に対する知識は0に等しい。
神もああ言ってはいたが、俺がその世界で死ぬのもあり得ない話では無い。
「けど、もう戻れねぇよな」
そして俺は俺自身の運命と戦うことを決意した。