#1俺に力仕事は似合わん
「お前ら今日はこれで終わりだ!!」
怒号かのような大声とともに今日も訓練は終わった。
俺たちはオークであり、いつこの村が襲われてもいいように毎日朝から夕方まで体を鍛えていた。
その中でも最強ではないが、俺は誰よりも成績は優秀だった。
俺は他のオークとは違い、理知的でネガティブなところがある珍しい個体だ。サボることはなくても、毎日陰鬱な気分で訓練を受けていた。
「なぁ、これってなんか意味でもあるのか?」
『意味があるからやってんじゃねぇの?』
「ここ数十年一度も襲われたことがないんだろ。」
『まあでも、もしものことってのもあるしな。しょうがないんじゃねぇの?』
そのもしもってのはみんなの妄想だろ、と心の中で呟いた。
「そうだとしても、だ。流石にやりすぎじゃないのか?」
『今の世代の隊長もバカ真面目だからなー。俺たちの村の歴史にガンガン影響されてらぁ。』
この村にはもともと軍隊という武力は存在しなかった。領土も今よりかは小さかったが、それでも皆平和に暮らしていた。
平和というのがそいつらの【常識】だった。しかし、5年経ったある日、その【常識】は壊れた。
どこから来たのかわからないような種族の連中が村を侵略し始めた。
戦い方も知らないような奴が突然「戦え」と言われてもまともにやれるはずもなく、村の人たちはただ逃げているだけだった。
村の人たちが8割近く殺されたとき、一人だけ立ち向かった奴がいた。それが先代の隊長にあたるわけだ。
そいつはたった一人で敵の軍隊を壊滅させ、撤退まで追いやったその姿は【英雄】そのものだった。
それ以来敵は攻めてこなかったが、あの悲劇を2度と起こさないように今日まで鍛えていたという。
『あっそうだ。今夜飯行かね?』
「いや、俺は行かねぇ」
俺は性格の差により皆とは孤立しており、今日も不機嫌な顔で一人で帰っていき、簡単な夕食を済ませ、すぐさま寝床に仰向けになった。
「はぁ...こんなことなら女に生まれた方がよっぽどいいや」
誰かに聞こえるはずもないような愚痴がふとこぼれ、そのまま眠りについた。
眠ってからしばらくしたあと、ふと目を開けると謎の女性が目の前に立っていた。
「どうやらここは現実世界ではなく、夢の中か」
即座に状況を確認すると、その女性は口を開いた。
『初めまして、アルク様。お待ちしていましたよ。』
「...なぜ俺の名前を知っている?」
『簡潔に申し上げますと、【神】ですから。』
「...今なんつった?」
さすがの俺でも理解が追い付かなかった。というか誰でもそうなると思う。
『私は【神】だと』
「バカなんじゃねぇの?」
『初対面でバカって言われたのあなたで初めてですよ』