表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来予報  作者: ミズノ
12/12

エピローグ

 スマートフォンの画面を覗く、最終下校時刻の三十分前だった。むき出しになった部室棟のコンクリート壁に背中を預けて待っていると、昼間に吸い上げた熱が伝わってくる。七月の空はまだ青い、僕がひとつ伸びをしたところで、部室棟の影から、見知った姿が顔を出した。

「何してんの?」

 心臓が飛び跳ねた。水谷と陸田だった。

「鳥羽ちゃん待ち?」

「そうだよ」

「私は帰るよ。ね、陸田くん」

「今回は何もしねーよ。もう刺されたくないからな」

 二人は僕を残してさっさと歩いていく。

「応援はしてるよ! 応援は!」

 水谷が遠くで手を振った。僕も手を振り返す。

 壁からちょっと顔を出して部室棟の表側を覗く。練習を終えたサッカー部員たちが、ボールの入った籠を部室に押し込んでいるところだった。

 頭上から部室のドアの開く音。バドミントン部員がぞろぞろと出てくるところだ。わいわい騒ぎながら階下へ降りてくる。複数の足音が階段を鳴らす。

 僕の傍らを、部活を終えた彼女らの姿が通り過ぎる。三人組、二人組、四人組……別々のコロニーを作って歩いていく。

「お待たせ」

 後ろから声をかけられた。鳥羽の声だった。振り向く。

「なんでわざわざ遠回りしてくるんだ」

「驚くかなあと思って」

 鳥羽に対してい感じていた嫌な気分は、今の僕にはもうなかった。それにとって代わって、別の前向きな感情が自分の中に生まれつつあることを、僕は自覚していた。

「帰ろうぜ」

 僕が促しても、鳥羽はその場所に立ったところだった。

「言いたいことがあるなら、ここで言ってよ」

 僕は鳥羽と正面から向かい合った。鳥羽がそうするのと同じように、相手の目をまっすぐに見つめてやる。

 言いたいことはたくさんあった。「夏の大会応援してる」とかでもいいし「あの時に何も言わなくて悪かった」ことだって言わない溶けないし、いっそ「大好きだ!」でもいいかもしれないし「バドミントン部に入る」でもいいかもしれない。だけど僕は何も考えていなかった。

「なんの用だった?」

 僕は伝えられるだろうか。自分の中のもやもやした思いを、適切な言葉で。そして、受け入れてもらえるだろうか、そんな、何の準備もしていないこの上京で。

 それでもいいかと思った。。先の未来はまだ見えない。今から僕は、そいつを、自分の五感で捕まえに行くのだ。後のことなんて知らない。ただ、お腹の奥から飛び出してくる言葉に全部任せたらいい。僕は、大きく、胸いっぱいに息を吸い込んだ。

 七月の熱気を帯びた大気が肺を満たす。今年の夏が、今、これから始まるような気がしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ