第8話:エクスプローション
八
その日は刀の握り方や振り方を教わり、刀を振り回してるだけで終わってしまった。
「まあ、今日はこんなもんかな。明日からは魄についてもからめてやっていくよ」
カキンッと刀を地面に刺し、彼女は言う。
ただ言われるままに刀を振っていただけだが、尋騎は結構疲れていた。
「…あれ、でも僕これからどうすればいいんですかね。家に帰るんですか?」
「いやいや、もちろん家に帰ってもらったら困るよ。泊まる場所は心配しないでいい」
ちょろっとおいで、と言われて彼女について行くと大きなコンテナの前に着いた。
彼女はコンテナの扉をガバッと開けると、手探りでスイッチを押す。カチッという音とともに明るくなる。
すると中には…
「…すごい」
またもや感嘆の言葉を述べた尋騎だったが、中はなんとちょっとしたホテルの一室のようになっていた。
ただ、壁はコンテナそのものなので秘密基地と言った印象だ。床には絨毯が敷かれ、小さなソファが二つと簡易的なベッドに小さな棚、丸テーブルがあった。
小ぶりの冷蔵庫らしきものまであるということは、ここには電気が通っているのだろう。
「ヒロくんにはここに泊まってもらうね。冷蔵庫の中に缶詰めとかあるから、とりあえずそれ食べよっか」
「はい」
実はかなりお腹が空いていた尋騎だったが、彼女にはすべてお見通しということなのだろう。敵わない。
「何食べたい?魚が好きなんだよねー。サバにサンマにマグロにクジラ!なんでもござれだよー!」
鯨は食べたことが無いなあ。
「鯨食べてみてもいいですか?」
「もっちのろーん!」
はいほー、という掛け声とともに彼女は缶詰めを尋騎にぽーんと投げてきた。それキャッチした尋騎だったが…
「私はなににしよっかな。カレーでもいいな…」
「あの…すみません」
「よし、キミに決めた!うん、どうした?」
「缶切りが無いんですけど…」
「…あっ」
そう、缶詰めはぱっかんと出来るタイプのものではなく、缶切りが必要なタイプのものだったのだ。しかし、缶切りは見る限りない。
「あちゃー、缶切りかあ。微妙なところで気がきかないよなあ…」
ちょっと待っててね、と言って彼女は食器類をとって戻ってきた。
「まあ、しょうがないからこれで開けちゃおっか」
そういうやいなや彼女はコンッ、コンッと子気味良い音をたててスプーンで対角線上に穴を二つ開けた。
そして深めのお皿に汁をダババと出すと、手でガパッと蓋を開けた。同じく中身もお皿に入れる。
「はい、クジラ」
彼女はどうぞ、とばかりにクジラの入ったお皿とフォークを机の上に置く。
「棚にウェットティッシュがあるからそれで手ー拭いて食べな」
「ありがとうございます」
言われた通り棚からウェットティッシュを出して手を拭く。
「引乗さんもどうぞ」
彼女は丁度2個目の缶詰めを開けたところだった。
「うん、ありがと。あと、呼び捨てでいいよ」
「いや、そんなわけには」
「私はヒロくんって呼んでるのにさん付けで呼ばれてたら、なんか私が嫌われてるみたいじゃん。愛華でいいよ」
「…愛華さんでもいいですか?」
「うーん…あいちゃんでどう?」
「愛華さんでいいですよね?」
「…まあ、いいよ。うん」
彼女は渋々といった様子で頷いた。
「ご飯もあるけど、どんぐらい食べれそう?」
「結構食べれそうです」
「そっか、じゃあ3個ぐらい開けるか」
ご飯は缶詰めではなく蓋をベリっと開けるプラスチックに入ったタイプのものだ。
しかし…
「あ、これチンするやつだけどレンジないじゃん」
レンシレンジがなかった。
「まじかー。どうするかなあ…」
「別に無くてもいいですよ、ご飯」
「うーん」
またもやちょっと待ってね、と言い残し彼女は外に出ていく。
するとバキッ!と大きな音がしたので何事かと思って出ていくと彼女は木片を集めていた。さっきの音は大きな木材を小さくした音だろう。
そしてそこに黒いラベルの何らかの液体をかけ、バックからこれまた黒いラベルの缶を取り出すとシュッと木片にかけた。
すると、ボワッ!と木片が燃えだした。
「ちょっと火加減強いかもだけど、これで焼けんだろ。焼いちゃお焼いちゃお!」
木片は見る見るうちに燃えていく。
「これ大丈夫ですか!?」
ちょっとした子供の背丈ぐらいの高さまで炎はあり、どう見てもこれで簡易ご飯を炊くと、成功しても全部おこげになるだろう。
しかし彼女は持ってきたご飯を容赦なく炎の上に持って来て熱し始めた。
「だいじょぶだいじょぶ!なんくるないさー!」
ボッ!
とか言ってるそばから彼女の手に持ったご飯が引火し火を立てた。なんくるないさーの“く”のあたりの出来事だ。
「やっぱりー!」
「ぅあ!」
びっくりした匹乗愛華はそれを咄嗟に投げてしまう。そして運悪く、飛んでいった火種の先には絨毯があって…
ボワア!
「燃えたーー!!!」
絨毯に燃え移りコンテナの中1面が火の海になる。
…やばい、まじでただの火事になってきた。愛華さんもやっべえ…みたいな顔をしている。
「愛華さんどうすれば!?」
「とりあえずコンテナ占しめて!」
言われたとおりコンテナをバンッ!と勢いよく閉める。
火は酸素がなければ燃えることは出来ない。空気の出入りを無くして窒息消化しようというのだろう。しかし…
「…燃料中に置いてきたな…」
「まじですか!?」
コンテナの中からポッポッポッポッとなにかの音が不規則に聞こえる。…もしかして、エクスプローションですか?
パキッ
「ヒロくん跳んで!」
コンテナとは反対方向に全力で跳ぶ。
すると次の瞬間、
ボッゴオォォォォォォォォ!!!!!!!!!
コンテナが大爆発した。
「ふぐえあぁぁぁぁぁっ!」
爆風で彼は吹き飛ばされそのまま壁にぶつかる。
「げこっ!」
背中から壁に叩きつけられ、口から潰れたカエルのようなこえがでる。どうせならもう少しましな呻き声をだしたいものだ。
シャコッ!
何かが顔のすぐ左に刺さった音がしたので肩で息をしながら顔を向けると、刀の柄が壁から生えていた。爆風で飛ばされ、突き刺さったのだろう。
…あっぶねえええええええええええええ!!死ぬところだったああああああ!!!!!!!!!!!
ぜはぜはと息を荒らげ立ち上がる。
「…?」
あれだけ強く壁に叩きつけられたのに目立った傷は無い。
「ヒロくんだいじょうぶ!?」
匹乗愛華が尋騎に駆け寄ってくる。
「はい、なんとか」
「けがは…なさそうだね!」
「はい。あんだけのことがあったのに…」
「その名の通り、火事場のバカ力だね」
「え?」
「おめでとう。それが魄だ。君の意志の力が君を守ったんだよ」
「これが…」
今思い出してみると、確かにコンテナを閉める時や跳ぶ時など、あきらかにいつもの自分以上の力が出ていた気がする。
夢中で気づかなかった。
「…!まさか、さっきのはこれのために…?」
「へ?あ、うん、そうだよ?」
あっ、これ違うわ。絶対狙ってやったんじゃないわ。
さっきの完全にただの火事じゃん…。
「まあ、無事でよかったです。」
「うん!そうだね!終わりよければ全てよしだね!」
そうですね、と完全に棒読みで返す。
「ところでさ…」
「はい?」
「ご飯どうする?」
…え、ご飯どうすんの?
この話から二日目に入る予定だったのですが、引乗さんが火事を起こしたので入れませんでした。ごめんなさい。