第7話:魄
七
「ここは完全にうちがおさえてるから今はまだ安全だけど、そのうち安全じゃあ無くなる。“不死”ほどのビックネームだ。必ず、文化再が来るでしょう」
先ほど言っていた政府公認の能力者軍団か。
「私達としては、もちろん永劫機関に入ってもらえたら万々歳だけど、依頼は完遂する。君が選ぶんだ。といっても、今の状態じゃうちに入るか文化再に入るかしかない。だから、その選択の幅を広げるためにも君には能力の使い方を覚えてもらいます」
なるほど。
「文化再に入るのもヒロ君の自由だけども、これだけは覚えておいてほしい。永劫機関は能力者が個性を出して働けるところだ。それがボスの方針で、会社の方針だ。ただ、文化再は違う。おそらく嫌な仕事も汚れ仕事もしなければならないだろう。時には殺しだって。でも、うちに来たら必ず殺しはさせない。それだけは約束する。そこも考慮して君にきちんと選んでほしい」
尋騎の目には彼女がとても嘘をついているようには見えなかった。
今はまだ選択するには早すぎるが、彼女のことは信じてみてもいいかもしれない。
彼はそう思った。
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「じゃあ、能力についてざっくりと知ってもらったので、次はもう少し本質的なことについて教えていきます。」
「はい、先生」
匹乗愛華は自分のことを先生と呼ぶように尋騎に頼み込み、ノリノリで教えていく。
「能力ってのは怪異が取り憑いて発現すると言いましたね。その能力ってのは怪異の元となった都市伝説や噂によって決まってきます。例えば、私の能力“黒猫”は一昔前に流行った『黒猫さん』という人の感情を占う遊びが元となっているらしいです」
『コックリさん』は知ってるけど、『黒猫さん』か…
よく知らないな。
「まあ、『コックリさん』と別段かわりはないような、一部の地域でしか流行らなかったたわいもない遊びだよ。それでも学生の好奇心や何かが起こってほしいという思いは凄くてね。こんなもんからでも能力はできてしまう。…黒猫さん黒猫さん、貴方の力をくださいな。七つの一つをくださいな。ここに落としてくださいな…ってね」
なんでも考えるもんだなあ。
「話がそれたけど、この怪異ってのに取り憑かれると能力を使えるようになるだけでなく、取り憑いた人の意志の力を何倍にも、何万倍にも倍増するんだ。それによってこんなことを出来るようになります」
ちょっとそこの石取って、と言われて尋騎は彼女に大きめの石を両手で持って渡す。
「!」
それを匹乗愛華は軽々と片手で持ちあげたかと思うと、
「はっ!」
という掛け声とともに
バゴッ!
と片手で握りつぶしてしまった。
「…すごい」
これには尋騎も感動し驚嘆の言葉がこぼれた。
「これは意志の力によって肉体を強化してるんだ。このような、能力者による倍増された意志の力を“魄”と呼んでいます。まずは君に、この力を使えるようになって欲しい。能力の制御はそれからだ」
そう言うと匹乗愛華はバッグに付いていた棒状の小さなものを外すと、ボタンを押しくるっと回した。すると、カシャッという音とともにあっという間にその棒は黒い刀身の刀となっていた。
「それと同時に、」
ひょいっと彼女は作った刀を投げてくる。それを尋騎は危なげなく拾った。思ったよりもかなり軽い。
「刀の扱いにもなれてもらいます。それは人類の叡智合わせて作られたテフロニア製の刀でとても軽く、折れにくいすごい刀です。切れ味すごいから気をつけてね」
確かによく切れそうだ。
「でもなんで刀なんですか?」
「君は不死だ。その能力を使いこなせば身体の回復もできるようになるだろう。かなりの近距離向きだ。銃でもいいけど、能力者なら弾に制限がある銃よりも刀とかの武器で武装した方が明らかに強い」
なるほど、確かにさっきみたいに身体強化ができるのなら自分で戦ったほうが強いのかもしれない。
「でも僕は刀なんて持ったこともありません。それだったら魄を覚えたあとの方がいいんじゃないんですか?」
「魄には具体的なイメージが大事なんだ。何も持たないで教えるよりもあからさまな凶器を持ってやった方がかなり覚えやすい。時間もあまりあるわけじゃないしね」
「そうなんですか」
そう返事して尋騎は黒い刀身を見つめた。
「よしっ!じゃあ、始めよっか!」