第5話:能力ってなんなんですか?
説明回!
五
「永劫機関所属、依頼を受け馳せ参じました匹乗愛華です。好きな食べ物はハンバーガーで、嫌いな食べ物は生物です!」
何もそんなに元気に嫌いなものを言わなくても…
「マックとか好きだよ。美味しいよね。安いし。ね!」
「あ、はい。僕も結構好きですよ」
「この笑顔100円♪」
「え?」
「この笑顔も100円♪」
ちらっと彼女は尋騎の方を向き目でその先を訴えかけてきた。
「この笑顔…」
「ひゃ、「120円〜♪」」
「…それミスドじゃないですか?」
「あれ?」
素で間違えたのか彼女は少し顔を赤らめる。
「まあ、いいじゃないかー!さっ、次はヒロくんの番だよ。とりあえず高校とクラス出席番号とか言って、あとは好きなもの嫌いなものとか紹介して」
尋騎はとりあえず学校名とクラス、出席番号を言う。
「好きなものは…魚介類が好きです。嫌いなものは納豆です」
「魚だと何が好き?」
「そうですね…サンマとか、ブリとかですかね。あっ、あとアナゴも好きです」
「ふーん」
彼女は自分から聞いといて興味なさげだ。
「なにか聞きたいことはある?」
匹乗愛華はそう言ったが、尋騎は聞きたいことだらけだった。
「えっと…永劫機関ってのは…?」
「永劫機関は能力者による民間企業だよ。依頼を請けて働く、何でも屋って言いかえてもいい。政府非公認だけどね。でも別に悪いことをやってるわけじゃないよ。人殺しとかは請け負ってないし、一応一定の基準を設けてそれに満たないような依頼は断ってるんだ」
「そういう機関はいくつかあるんですか?」
「結構あって、大きなものから小さなものまで全部合わせたら日本だと50はあると思う。中には殺しを専門としているものや、政府の認可を受けているものもある」
「政府公認ってことですか。すごいですね」
「文化存続再現社。通称文化再。唯一政府公認の能力者団体で、政府とグルになってるからかなりでかい。うちは四国を本拠地にしてるんだけど、本州はほとんど文化再の支配下にあるよ。永劫機関と文化再が日本のビック2と言ってもいい。北海道に宴属脳局なんてのもあるけど…、まあ、あれは研究機関みたいなもんだから、能力者の派閥はほとんどこの二つだよ」
永劫機関というのは国の機関に並んでNo.2ということか。なかなかでかいな。
なんとなくだが永劫機関について理解した尋騎は次の質問をする。
「そもそもですけど…、能力ってなんなんですか?」
そう。それが一番聞きたかったことだ。僕や匹乗さんが持ってるというこの能力は何なのだろう。
人間の脳は普段は1割も働いていないという。その脳が完全に使われることで発揮されるとかいう、よくマンガとかであるやつだろうか。
「来ると思っていたよ」
そう聞くと彼女は待ってました!とばかりにバックからメガネと何かの紙を取り出した。
メガネをかけると彼女は
「どーだい、できる女風でしょ?」
と言い、ふふんと鼻をならす。
伊達だけどね、と彼女は言った。
「女教師とか好き?」
「…」
ノーコメントで。…まあ、嫌いではない。
彼女はふふふと笑う。
心を読まれてるんだろうなあー、と尋騎はもう開き直る気でいた。
「そんなことはいいですから、早く能力について教えてくださいよ…」
「ごめんごめん。永劫機関では、能力ってのは意志の力によるものだと考えています。言霊って知ってる?」
「はい」
言葉には力が宿るって考え。最近そんなゲームが出てた気がする。
「その考えは遡ってみると古事記が書かれた時ぐらいにはもうあるんだけど、どうやら本当にあるらしいんだよ」
「はあ…」
彼女はちらちらとカンペのようなものをみながら説明するが尋騎は曖昧な返事しか返せない。
「言霊ってのは、言葉という共通認識の媒体に意志の力がのって影響している力のことで、えーっと?」
彼女はカンペをなにやらめくっている。
「でも、そういうのってプラシーボ効果ってやつじゃないんですか?」
プラシーボ効果とは、頭が痛い人に小麦粉を頭痛薬だよって飲ませるとほんとに頭痛がおさまるとかいう、脳の誤認作用のことだ。
できるできると言っていると脳が興奮物質などを出し、いつも以上の力を発揮して結果としてできる、というのもプラシーボ効果のおかげだと言われている。ポジティブな言葉を言っていたらいい結果をもたらしやすいらしい。世の中…思ったよりは世知辛くない!(この世の不条理への対抗呪文)
「それは、意志の力を知覚していない人たちが現代科学で説明できるようにつくった仮説に過ぎない。そんなの所詮彼らも立証できないんだし、科学ってのは仮説に仮説を積み重ねていくようなもので、根底から間違ってるんじゃ正解にはたどり着けないだろうね」
「…」
なにやらかっこいいことを言っているがばっちりカンペを見ているのであまりカッコがついていない。
「例えばね、ある人…Aさんが冗談で監視カメラとかも何も無い山の中で女の人を見たと言う。それを聞いた人が他の人にその事を話す。そうやって繋がっていって噂となる。少し経ってAさんはもうその事を忘れていて、自分がその事を話したことすらも覚えていないとする。そしてその噂を聞いたらどう思うだろうか」
「…ふーんって、思うんじゃないんですか」
「まあ、そうだね。そうなんだーっとかって思うんだろうね。そしたらどうだい?その事が冗談だと知っている人はいなくなる。皆、そこには女の人がいたと思っているんだ。はたしてそこに女の人はいたのかな?」
「…?いなかったんじゃないんですか?」
「いたんだよ」
彼女はカンペを見ずに続ける。
「そこには確かに“彼女”はいたんだ。少なくともその人たちの過去にはね。ほら、言霊だけで1人の人間が創り出せた。Aさんの言葉だけで、人が1人創り出されたんだよ」
「???」
…待って、なんか頭が混乱してきたぞ?
“彼女”はいたのか?いや、いなかったんだよな?でもその人たちの中ではいて、Aさんでさえもそれを信じてる…それで…、えっと?
「あれ、わかりづらかった?…おかしいなあ、ボスにこの話された時にはなるほど!って思ったんだけどなー」
彼女はさらに続けようとするがこれ以上話されても頭がこんがらがるだけだと思った尋騎はそれを制して言う。
「…完全に納得した訳では無いですけど、とりあえず言葉には力があるってのはわかりました。けど、それがどう能力になるんですか?」
「うん…、えっとね、言霊ってのは意志の力が言葉によって顕在したものなんだ。だけど、だからといって言葉だけにそれが宿るわけじゃなくて、もちろん表情やジェスチャーにも宿ってくる。そして、それは感情そのものにも宿っている。これ、色々難しい理論があるんだけど、よくわかんないから全部省くと、1人の人間の意志の力はとても微弱だけど、皆のが合わされば大きなものになるって考えらしいよ。そんでその“力”を便宜上三つに分けてて、まず、一番初期の噂や評判などが集まったものを“混気”って言って、一般に良くないものは廃墟とか怪談スポットとか、良いものはパワースポットとか言われてるものがそれだ」
確かに、前に行った廃神社でなにか良くないものを感じたことはあった。
「特定の人間や団体の感情の集まりは“鬼”と呼ばれる。そして、不特定多数の人間の感情。いわゆる都市伝説とか、そういうレベルのものの力の集まりを“怪異”と呼んでいる。それが人間にとり憑くことで能力が使えるようになる、ってかんがえられてるんだ」
なんか、ほんとに小説の世界みたいになってきたぞ。
「取り憑かれる条件は様々で、条件を満たしても基本的には取り憑かれない。運良く…、もしくは運悪く怪異に気に入られると取り憑かれるらしい。かなりの低確率で、日本に1000人いないと言われてる」
「…」
「さっ!どう、だいたい分かった?」
パン!とまたしても彼女は手を鳴らして尋騎に聞いてくるが、
「まあ…」
と、尋騎はまたしても曖昧な答えしか返せなかった。