第4話:×××
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「×××、××××××××××××?」
四
尋騎は目が覚めると共に、今しがた見ていた夢のことを忘れてしまうかのような感覚にとらわれた。
それは、幸せな夢だったはずなのに。
「あっ、起きた?」
かけられた声に目を開くと、とても近くに匹乗愛華の顔が見えた。
彼は匹乗愛華にいわゆる膝枕をされている状態で眠っていた。
どうやら、軽く意識を失っていたらしい。
この状況も夢なら良かったのに。
起き上がると、匹乗愛華が少し心配そうな顔で尋騎を見ている。
「ごめん。そうだね、私の配慮が足りなかったよ。気分はどうだい?」
目ははっきりと覚め頭も冴えている。
「はい。大丈夫です」
尋騎がそう言うと、彼女はほっと胸をなでおろしたようだった。
そして尋騎の顔をまっすぐ見つめ、
「本当に気分が悪かったら無理しなくていいよ。まだ、そんなに急いでるわけではないからね」
と言った。
その心配そうな視線をむける大きな瞳と目を合わせていた尋騎は、まるで考えや心まで全てが見透かされるような気がしてふいっと顔を背けた。
「…だいじょぶですよ」
背けた顔は少し赤くなっている。
ニコッと笑う匹乗愛華を見て、
ああ、この人は、ほんとに考えを見透かせるのだったか。
と彼は今更ながらに思い出し、さらに顔を赤らめた。
決まりの悪くなった尋騎は、
んんっ!
と先ほど匹乗愛華がやったように、少し大げさに咳をすると、誤魔化すように続けた。
「僕のことはいいですから話を続けてください。多分ただの立ちくらみだと思いますから。…何の話でしたか?」
「君の高校で起こったことの話だよ」
そうだった。そんな話をしていたのだった。
「そのことなんですけど、僕まったく思い出せないんです。詳しく教えてくれませんか?」
「そっか。記憶が混乱してるのかもね。うん、落ち着いて聞いてほしい。気分がまた悪くなったらすぐに言ってね」
「はい」
「簡潔に言うとね、その…、君の高校に不審者が入ったんだ。ナイフを持った。それで、全校生徒を皆殺しにした」
×××。
…ナイフで全校生徒を殺すなんて大変だろうなあ。
…ん?全校生徒?
「あ、あの。僕ってもしかして、幽霊だったりします?」
「は?」
「今、全校生徒って言ったじゃないですか。僕はなんで死んでないんです?僕だけは無事だったんですか?」
匹乗愛華は少しポカンとした顔をした後、取りつくろうように言った。
「…あ、ああ。違うよ。君は能力に目覚めたんだ。それも、とびきり凄いのにね」
先ほどのポカンとした態度はすっかり消え、彼女は再び笑みを浮かべた。
「その、能力ってのは…?」
「知りたい?」
彼女はもったいぶるように言う。
そりゃあ知りたいに決まっている。
「教えてくださいよ」
「君の能力、それはね…」
「不死だよ」
ふし?…不死?
死なないやつ?
「そう。死ナ不。って書いて不死。死んでも死なない。殺しても死なない。だから、君は死ななかったんじゃない。死んだけど、死んだ後に生き返ったんだよ。どう?驚いた?」
尋騎も不老不死になりたいと思ったことはあった。
しかし、実際に不死になったと言われても死んだ記憶が無いためその実感もわかず、本当にそうなのかも分からず、ただ、
「はあ、そうなんですか」
と、要領の得ない返事を返すことしか出来なかった。
「えっと…」
匹乗愛華は予想以上に反応の薄い尋騎に不満なのか、少し腑に落ちない表情をしている。
尋騎は鈍感なのか、切羽詰まっているのかその表情に気づかず、思考に明け暮れていた。
聞きたいことはいっぱいあるのだ。
まずなにから聞こうか。
彼がそんなふう悩んでいると、匹乗愛華は切り替えるように
パン!
と手を叩いた。そして続ける。
「まずは、自己紹介から始めようか!私のことをちゃんと知ってほしいし、ヒロくんのことも知りたいしね。どう?」
それもそうか。
よく考えてみると、彼は彼女の名前しか知らなかった。超能力者だとかいう、異常なことを除くと。