第3話:まずは黙祷を捧げるところから始めようか
今回説明が多いですすみません
三
折神尋騎は覚悟を決めて、その女性と対面していた。
そこには、考えが読まれるというのなら、策を講じたところでしょうがないという諦めの念も混じっていた。
その女性の髪は黒く、肩口に揃えられている。
大きな瞳が特徴的であり、顔立ちは、クールというよりは、活発的な印象を尋騎に与えた。
服装は白のTシャツに黒いジーパン。ウエストポーチみたいなのを腰に付け、何やら黒い棒状のものを引っつけていた。
「…あなたは、誰なんですか?」
「私の名前は愛華。匹乗愛華だよ。宜しくね、ヒロくん」
ひきのり あいか?珍しい名前だ。…というか、なんだか妙に馴れ馴れしいな、この人。
「1匹2匹の匹に車に乗るの乗、ラブの愛に、複雑な方の華で、匹乗愛華だよ。ヒロくんって呼ばれるのは嫌?高校ではなんて呼ばれてたのかな?」
「どうでもいいでしょう。そんなの」
尋騎はぶっきらぼうに答える。
「ああ、そっか、ごめんね、今高校のことを聞くのはアレだったね」
「…?そんなことより、あなたが心を読める超能力者だってのは、本当なんですか?」
「あれ?今までのやりとりでわかったんだと思っていたけど、まだ疑ってたの?」
「…そりゃあ、そんな話、急に信じろと言われても無理ですよ」
口ではこう言ったが、尋騎はほとんど、彼女の能力について信じていた。
今までのどこから聞こえくるかわからない声や、まるで尋騎の心を読んだかのような言動は、最新技術や心理学を使えばできるものなのかもしれなかったが、“黒色”のことがあったり、自分という前例があった尋騎は、そのことをあまり疑っては無かった。
今ではほとんど考えることがない可能性とはいえ、小さい頃には、自分のような人間が他にもいるかもしれないと思うこともあったということも、尋騎を後押ししていた。
しかし、尋騎は匹乗愛華と名乗る女性のことを、未だ信用出来ないでいた。
本当に自分を守りに来たのか、そもそも依頼があったと言っていたが、そんなことを誰がしたのか。
少なくとも尋騎には、超能力者の知り合いを持っているような知人には見当がなかった。
「そうだね、じゃあ、ヒロ君が私をみての第一印象を当ててあげよう。
…目が大きく、クールよりは、活発的な印象。…黒いってのは、私の髪の毛のことかな?」
「!」
当たっている。
尋騎は、ほとんど信じていたとはいえ、やはり自分の考えを言い当てられるのを目の当たりにすると、動揺を隠せなかった。
「そして、なんて綺麗なんだろう!」
匹乗愛華は、ミュージカルのように右手をあげ、大げさな動作で言った。
「えっと…」
…そんなことを思った記憶はない。
尋騎の微妙な視線を感じたのか、それとも、なんだこいつはという感情を読んだのか、匹乗愛華は少し顔を赤らめ、
んんっ!
とわざとらしく咳き込むと、
「まあ、最後のは冗談だけど、どうかな。大体あってたんじゃないかな?」
たしかに、最後のは悪い冗談だとしても、ほとんどあっている。
何より“黒色”のことまで言い当てられては、信じる他ない。
それがなにかはわかっていないとはいえ。
「…。さっ!じゃあ、私の話を聞いてくれるかな!まずは黙祷を捧げるところから始めようか?」
「え?」
「君にとって、そりゃあ辛い経験だったろうからね。それに、私にとっても、前途ある高校生の学校一つ分の命っていうのは、大きなものだよ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
尋騎は、まったくなんのことだかわからない。
「いったい、なんのことをいってるんですか?」
「…、うん?そりゃあもちろん」
「君の高校の、全校生徒が殺された件だよ」
尋騎の脳を、黒いもやが包んでいった。
暗転。
次の話からは、少し説明が多くなるかもしれません。
あと二、三話で物語が転がり始めると思うので、しばらくお付き合い下さい。
ちなみにこの真面目な話をしているときにも、尋騎くんはI♡factoryのTシャツを着ています。