序章
一
ピーポーピーポーという音が聞こえる。ここは、どこなのだろう。
折神尋騎が目覚めたのは、けたたましい音を鳴らしながら走る救急車の中だった。
彼は下半身だけ制服のズボンを履いており、上半身裸の状態で仰向けにねむらされている。
「血が足りない!あちらにちゃんと連絡して…」
頭の上で誰かが何かを喚いているが、尋騎にはその意味を理解することができなかった。
救急隊員達は、どうにかして尋騎の命の鼓動を延ばそうとしていたが、それも、もうすぐ意味を無くしそうだ。
尋騎は黒い靄がかかったような意識をさ迷わせていた。
そういえば、文夏に何かを頼まれてたんだった。なんだっけ…?
彼のお腹には大ぶりのナイフが突き刺さっている。誰がどう見ても致命傷だった。
そうだ、先輩を誘って本屋に行こう。先輩の好きな人の新刊が出てたんだよな…。
ゴポッという音とともに、尋騎の意識にかかる黒い靄がいっそう重くなっていった。
じん…にせん…とい…に…
………、
ああ…、なんだか、眠くなってきたな…、
…、
……、
………、
…………………、
キィィィ!
急ブレーキ音がし、ガタン!と急に車が止まった。
「なんです!?どうしたんですか!?」
突然のことに慌てふためく隊員が運転席に聞くが、返事はない。
何が起きたのか、不穏な空気が漂う中、バタン!と後ろの扉が突然開いた。
そこには、一人の女性が立っていた。
「こんにちは。迎えに来たよ」
折神尋騎の意識は深い、深い、闇の中へと落ちて行った。
二
折神尋騎が自分の力が異質であることに気づいたのは、小学二年生のときだった。
彼には、心の動きを“視る”ことができた。
正確には、「感情を色として視る」ことができたのだ。
人を見ると、首元にうっすらとだが、その人が考えている感情の色を見ることが出来た。
だから尋騎は、魂は首元にあると思っていて、何故人が心臓にあるなどというふうに思っているのか、理解が出来なかった。
自分と家族の色は見ることが出来なかったが、そういうものだろうと思っていた。
親にこの能力のことについて聞いたこともあったが、親は、子供の戯言だと思ったのだろう。聞き入ってくれなかった。
そんな彼も小学二年生のとき、もはやなんの話だったかも忘れてしまったが、自分の持っている力が、他の人間にはないものなのだと知った。
彼は自分の力が特別だとわかったとき、周りの子供たちに大層興奮した様子で自慢した。
しかし、返ってきたのは彼が期待した、尊敬や畏怖の眼差しではなく、異端者への暴力だった。
意味がわからないものは排除する。
当たり前の人間の心理のもとに、彼は自分の能力が特別なんかではなく、異質なのだと知った。
それ以降、彼はこの能力を人に話すことは無く、自分の特技のようなものだと思って生きてきた。
この力は特別なんかじゃない。ただ、人間観察が得意なだけだ。
だから僕は、異端じゃない。
そう思って、彼は17年間生きてきた。
そんな日々も、終わりを告げる。
読んで頂きありがとうございます
「ヒーローアンドヒーロー」始めたいと思います
至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願いします