204.宝石の行方
ヴィオちゃんの部屋だよ、と案内されたのは、日当たりの良い、広くて落ち着いた部屋だった。真っ白な壁や柱に、シャンパンカラーのアクセントクロス、レースと花柄とベージュが三枚重ねになったカーテンに大きな窓。実家での部屋は暗い色が多かったから余計に、柔らかな色彩が新鮮だった。
ユランの方も似た様な雰囲気で、違いと言えばシャンデリアとカーテン以外にソファがあった事くらいだ。ユランの着替えが積まれているせいで、二人掛けが一人しか座れない仕様なっているけれど。
マリンの部屋は、ユランの言葉通りヴィオレットの部屋に一番近い所を振り分けられていた。中も程々に広く、三点ユニットバスもついている。家具はシスイと同じ物と言うだけあってシンプルだが、マリンとしても不備なく使えれば充分。
昼食は簡単な物になると聞いていたが、テーブルに並んだ料理はどれもヴィオレットの好物ばかりだった。場所が食堂ではなくキッチンの端だったのには驚いたが、椅子とテーブルが揃っている部屋がここだけだと聞いて納得した。
「お腹いっぱいだわ……」
「沢山食べたもんね。ちょっと作らせ過ぎたかなぁ」
「いいえ、久しぶりにシスイの料理を食べられて嬉しかったから。それにユランとシスイが沢山食べてくれたおかげで残さずに済んだしね」
「喜んでもらえたなら良かった。メニューは彼に全部任せたんだけど、流石だね。ヴィオちゃんの好みをばっちり把握してる」
シスイとマリンが後片付けをしている間、キッチンの裏口を通って庭へとやってきた。綺麗に整備されている場所の先には森の様に木々がぎっしりと植わっているが、そこもこの家の『庭』に含まれているらしい。綺麗に整えられた分だけでもかなりの広さだが、その先も含めて端から端までは歩くと、辿り着くよりも先に日が暮れると聞いた。一度挑戦してみたいけれど、ユランもマリンも心配してしまうだろうか。
広い広い、家。宝石箱の様だと思ったけれど、事実、その通りの場所だ。
「ね、ユラン。聞いても良いかしら」
「ん?」
「答えたくなかったり、知らないならそれで構わないのだけれど」
「──実の、ご両親の事」
一度も聞いた事の無かったし、ちゃんと聞かれた事も無かった。それはきっとユランの配慮で、ヴィオレットにとっては当然の事。ヴィオレットは肉親の存在を思い出したくなかったし、ユランは複雑すぎて口にして良いのかも分からない。
ただ、何となく、この家を見ていて。少しだけ分かった気がした。この家に住んでいた母と、この家を与えた父、──ユランから見た二人は、きっと。
「多分、ヴィオちゃんの想像通り」
緩く、綻ぶ様に笑う。柔らかい印象は何処か中性的で、母親譲りだと言った彼は、それを誰から聞いたんだろうか。
「ここはあの人……俺の母親をしまっておく為の場所だった」




