193.平和の一歩には大袈裟だけど
「この豆美味しい、当たりだったかも」
「では同じ物をストックしておきます」
「後で持って来させる」
「美味しいの?」
「俺が美味しいって事はヴィオちゃんは絶対飲めないやつだねぇ」
「……分かってるわ」
むすりとしながら、ヴィオレットは自分の分の甘いミルクティーに口をつける。自覚があるので異を唱える気はないが、何となく素直に頷けないのは、やっぱりまだブラックコーヒーをかっこいいと思っているからだろう。大人の証明みたいに感じて、子供が真似をするみたいに飲んだ事もあったけれど。
「調子に乗って買い過ぎたかな。余りそう?」
コーヒー豆と一緒に買い込んだお菓子がテーブルを埋め尽くしている。ケーキスタンドに並んだ美しいスイーツだけでなく、町の子供達が好みそうなお菓子、塩気のあるスナックまで。
心は疲れているが体力は有り余っているせいでストッパーが利かなかったらしい。目に付いた物を色々と買い漁ったらこの有り様だ。マリンを含めた三人で食べるにしても量が多い。
「ふふ、当分はおやつに困らないで済むわ」
山の様になっているお菓子達は確かに多いけれど、おかげで強張っていた体から力が抜けた。清々しいとは言い難いけれど、背負っていた重荷を下ろせた実感はあった。
呼吸がし易い。
「折角だからマリンも一緒に食べましょ。お茶の準備は全部終わったのでしょう?」
「えぇ、ですが……」
「俺は気にしないから、好きにしたらいいよ」
「……分かりました。では、私の分を用意してまいりますね」
持っていたティーポットをテーブルに置いて、自分用のカップを取りに行ったらしい。一応この部屋にもマリンの物は最低限用意してあるので、すぐに戻って来るだろう。
「そういえば、テストの結果はどうだった?」
「前よりは随分と落ちてしまったけれど、想定の範囲内だったわ」
「テスト期間中に大変な事が重なったからねぇ。本当に、今日までずっとお疲れ様」
「ユランも、沢山動いてくれていたでしょう。ありがとう」
「俺のは、自分で決めてやった事だから」
「それでも、ありがとう」
「うーん……どういたしまして? なのかな?」
二人して照れ臭そうにはにかみ、カップに口を付けた。何とも可愛らしい空気が流れている。つい数時間前までとんでもない修羅場を繰り広げていたとは思えないが、既に他人事となった事情に割く感情はない。
少しして、戻ってきたマリンも交えて、柔らかな空気は一層穏やかに花を咲かせた。
「あ、これ懐かしい。まだ売っていたんですね」
「知っているの?」
「私が教会にいた頃、月に一度の贅沢でおやつに出ていたんです。当時は凄く高価な物だと思っていたんですが、今思うと安くて沢山入っているからだったんでしょう」
「色んな店で見るから手に入り易いってのもあったんじゃない?」
「かもしれません。ん、意外と今食べても美味しいですね」
「甘いの?」
「ヴィオレット様が満足出来るかと言われたら微妙な所です」
「ヴィオちゃんは甘ったるいくらいが好きだもんねー」




