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164.知る


「ユラン様は、本当にヴィオレット様の事をよく分かっておられるのですね」


 いくつものハンガーラックと共に戻ってきたマリンは、出迎えたヴィオレットに開口一番そう言って笑った。呆れた様な感心した様な、色んな感情の混ざった表情で。

 何の事かと首を傾げたヴィオレットに、沢山の服と装飾品を見せる。暗い色味が連なって、一つ一つの服にボリュームが少なく感じるのは、自宅のクローゼットを連想しているからだろうか。

 家にあるものは、どれも重くて苦しくて動きにくい。座っているだけで息が切れそうになる。身体のラインを強調するデザインは、似合うかに似合わないかで言えば、とても似合う。それはそれは美しく、見る者の目も心も保養する仕上がりではあるのだろうけれど。だからこそ、見る側の事しか考えられていない機能性で。


「どれも上品で上質で、装飾品も小振りな物ばかりです」


 使い易い様に整理する過程で、一つ一つを確認させる様に広げていく。ほとんどがワンピースで、Aラインのデザインが多くタイトな物は一つもない。パンツスタイルのセットアップも一着だけあったが、外出着というよりルームウェアとしてらしい。靴や鞄も数種類、装飾品は髪飾りばかりでネックレスなどのアクセサリーは無かった。


「下着類だけは私が用意する様にと、資金だけお預かりしてまいりました」


「私も一緒に」


「お使いだと、私も一緒に行くと言い出すだろうから、後程外商員を呼んでおいた、との事です」


「…………」


「ヴィオレット様のなさる事は、全部予測済みみたいですね」


 微笑ましいと語るマリンの視線に、思わず下を向いて誤魔化した。恥ずかしいのはマリンの言葉か、それともユランに全部見透かされている事なのか。きっと両方で、それはそれは恥ずかしいけれど、同時に擽ったい様な幸福感があって。何度目になるか分からない、夢みたいだって気持ちになった。


 知りたいと思うのは、切っ掛けだと思う。知る事は、愛だと思う。知られたいと思うのは、欲だと思う。

 それらを全部ひっくるめて、恋は出来るのだと、思う。


 大好きだから、色んな事を知りたい。好きな物嫌いな物、苦手な事得意な事、したい事、欲しい物。そして同じだけ、知って欲しい。これが好き、あれが嫌い、それは苦手だけどこっちは得意、あれがしたいこれが欲しい。投げ付けるだけで、知られたいだけで、一度目は破綻した。知ろうとしなかったあの時間に、愛はなかった。あれはただの欲だった、正しく、強欲の果ての勘違いだった。

 漸く気が付いて、改めて、掌には別の『恋』が乗っていた。手に入らないと諦めていた、一度は、返って来なかった物。

 知りたいと思った日が遠過ぎて、忘れていた。知っていたから、気付けなかった。知られていたから、抱かなった。


(あぁ──好き、だなぁ)


 毎日、毎秒、思い知るよ。貴方が好き、ずっとずっと昔から、好きだったんだって。


「ヴィオレット様、幾つか試着なさいますか?」

「そうね、サイズも見たいし、着替えようかしら」

「折角だから髪もいじりましょうか」

「任せるわ」

「この機会に、色々試してみましょう。ツインテールとか」

「それは流石に似合わないって分かるわよ」

「似合います、可愛いです」

「マリンもするなら考えてあげる」

「言いましたね?」

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