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120.背中合わせの同族へ


 その日から、ヴィオレットとユランが顔を合わせる頻度は徐々に減っていった。テストが近付くにつれてお互いに勉学に勤しむ時間が増えたというのも勿論だけれど、それにしても今までのテスト期間中よりも少ないと感じる原因は、みなまで言わずともメアリージュンにあると言えるだろう。

 ユランがメアリージュンと共に勉強している姿を見たのは、一度や二度ではない。といっても二人ではなく、大抵ギアがいるか、名前の知らない数人を含めた何人かで、といった形だったけれど。

 てっきり二人切りだと思っていたヴィオレットにとって、それは思いがけない吉報だった。

 ヴィオレットにとってメアリージュンは、どうしてもコンプレックスを刺激する存在で、二人でいる姿を見た時、本当に今と変わらず強がれるか不安もあったから。


 とはいえ、今までヴィオレットと共にいた時間を、メアリージュン達に使っている事は間違いない。人数が増えた事で予定以上に回数が増えているのも。ある程度覚悟はしていたので、文句を言うつもりもないけれど。

 幸い、ヴィオレットも共に時間を過ごせる友人に出会っていた事もあって、一人時間を持て余す事もなかった。


「ヴィオ様、少し休憩にしませんか?」


「あら、もうそんな時間?」


「集中が切れるには、充分な時間ですよ」


 二人で貸し切ったサロンは、奇しくもユランと最後にゆっくり話した部屋だった。それほど長い時間が経った訳でもないのに、どこか昔を懐かしむ様な気になってしまう。テーブルの上に広がっているのはあの人違って教科書やペンだけれど。


「先ほどティーセットをお願いしたんです。チョコタルトを頼んだので、一緒に食べましょう」


「いつの間に……全然気が付かなかったわ」


「集中していたので、その間に」


 二人分のセットを置いたら一杯になる小さなティーテーブルに移動して、カップに紅茶を注ぐ。ストレートらしいそれにヴィオレットはミルクと砂糖を足して更に甘く、ロゼットはそのままを楽しむらしい。チョコタルトも、生クリームトッピングとベリーソースの二種が用意されていた。当然の様に生クリームの方がロゼットの前に用意されていて、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


「ロゼットもたまには甘いのを食べたくなるのかしら」


「ヴィオ様こそ、そちらはビターチョコのタルトですよ?」


 くすくす笑いながら互いのお皿を交換する。こういった勘違いはいつもの事で、訂正するのも面倒だからと放置して、今ではお決まりの茶番だ。甘い物も可愛い物も、自分よりロゼットの方が似合うなんて分かっているし、自分には縁遠く見えるのだって自覚している。ロゼットも真逆のイメージに同じ事を思っているだろう。

 気にしなくなったのは、それほど最近でもない。二度目の一年を過ごすとなった時、気にするのを止めた。ただそれは所謂諦めるという類の物で、今の様に晴やかな気分の割り切りではなかったけれど。

 生クリームをたっぷり絡めて、甘い甘いチョコレートとサクサクのタルトに舌鼓を打つ。自然と頬が緩むのを感じながら、ふと前にここに来た時の事を思い出した。


「やっぱり、私はこっちが良いわ」


「やっぱり?」


「以前すっごく苦いチョコレートを食べた事があるの。ロゼットと同じで甘い物が好きじゃない人がいて、その人は美味しいって食べてたんだけど……私はダメだったわ」


「ヴィオ様は甘党ですからね」


「私はスノーボールを食べてたんだけど、彼は逆にそっちダメそうだったわ」


「あはは、私はその人の気持ちの方が分かるかもです」


「ふふ、確かに似ているかもしれないわね」


 ロゼットとユラン。一見すると共通点の少なそうな二人だが、改めて思うとなるほどよく似ている。人からの印象とか、それへの対応とか、好みとか悩みとか。ヴィオレットが認識している部分の話なのでもしかしたら勘違いかもしれないけど、二人ともヴィオレットが惹かれた者である事に違いはない。


「彼という事は、もしかしなくても男性ですか?」


「あ……ごめんなさい、異性と似ているなんて淑女に言うべき言葉ではないわね」


「私の趣味が男性的なのは事実ですもの。ヴィオ様のご友人と似ているなんて、嬉しいです」


 むしろ周囲が姫として理想の女性像なんて抱く様な自分の本質を理解してくれている様で、何よりヴィオレットにとって何気ない瞬間に思い出してしまうくらいに馴染んだ友人と似ているという評価は、ロゼットにとって筆舌を尽くした賛辞よりもずっと嬉しい物だった。

 ヴィオレットの言う『彼』が誰なのか、頭の隅では分かっていても。その相手とはきっと、本当の意味で分かり合える日は来ないだろうと、思ってはいても。認めたくはないけれど、実際よく似ているのだろうと、気が付いていても。


「いつか紹介するわね。男の子だから、ロゼットと仲良くなれるかは分からないけれど」


「……是非、私もご挨拶してみたいです」


 甘い甘い笑顔で、ヴィオレットが頷く。胸躍るいつかの日を楽しみにしているのも、それがロゼットを大切な友人として心を預けているからだという事も、分かるから。自分の知るユランという男の事を秘密にして、ロゼットも微笑み返す。


 そのいつかがどれだけ先になるのか──その時この可愛らしい友人は、ユランをなんと称して紹介するのか、楽しみに描きながら。


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