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114.望むもの一つ


 力は尽くした。結果も付いてきた。

 全てが良い方に向かっていくと、信じていた。



× × × ×



「ユラーン、……何しとん?」


「テストまでのスケジュール調整」


「そんな難しいんか?」


「難しくはない。ただ過去問調達をどうするかによって時間が掛かるから」


「姫さんに貰うんでないんか」


「俺のはな。そのヴィオちゃん用を誰に頼むかが問題なんだろ」


「あーね……今までみたく王子様に頼みゃいいじゃん」


「…………」


「さーせんしたぁ……」


 削ぎ落されて無になった表情で、ハイライトの失った目で見られて、ギアは思わず苦笑いで視線をそらした。思いの他勢いよくユランの地雷を踏み抜いたらしい。空気を読む必要性を感じた事はないが、心に爆弾を飼っている男をわざわざ怒らせる趣味はない。


「……それは最終手段、だ」


 ヴィオレットから聞いた通りなら、二人の間に何のわだかまりもなくなった事になる。ならば、いちいちユランが間に挟まらなくともいいのだ。ヴィオレットが直接クローディアに頼む事も、クローディアが自ら世話を焼く可能性も充分考えられる。

 それでもこうして策を考える理由は偏に、二人を二人でいさたくないユランの我が儘。だからこそこうして知恵を捏ね繰り回し、別ルートの確保に勤しんでいる。結果としては全敗しているので、ギアの目にはさっさと諦めた方がいい様に見えるけど。きっとユランも、他の事であればもっと合理的な考え方が出来るだろう。それがこうして、無駄にしかならない足掻きを繰り返すのだから、この男のクローディアに対する嫌悪感は凄まじい物がある。ある意味、ヴィオレットへのそれに匹敵する執着だ。


(でもまぁ、まだマシな方……か?)


 その金色の目を見ていれば、二人の間の確執は想像に容易い。ギアを『ユランの親友』と判断したお節介が、余計な情報を与えに来るのもあって、今ではその想像が正解であった事も知っている。かつてのギラギラした憎悪も、理解は出来なかったが納得はした。王子様を気の毒に思ったし、ユランに対してより面倒という印象が深まった。

 それが最近は、以前よりも憎悪が和らいで見える様になった。見える様になっただけで、実際は変わらぬ濃度を保ってはいるだろうけど。

 今のユランには、他の事に感情を割いているらしかった。


「…………」


 今にも舌打ちをしそうな目付きで、脳内に描かれた何かを睨み付けている。それが何かを相談する様な男でもなければ、ギアもわざわざ問うてやる人間でもない。人からは親友に見えるらしい距離にいても、心が近いかと言われれば否だ。


 ちらりとこちらに目線を寄越したユランに、ギアは愛らしい顔で笑って見せた。


「なぁ、ユラン」


 互いに干渉せず、過度な期待も信頼もせず、だからこそ己が見た分だけ信用し理解している。

 あの日、直感が告げた最高の玩具。ギアが最も、死ぬほどに嫌う物を、打ち消してくれる友人。


「──退屈、させんでくれや」


 それ以外はどうだっていい。好きな様に、上手く使えばいい。 

 誰が得をし、誰が傷付き、どんな結末になろうとも。ギアにとっては、どうでもいい事なのだから。


「……お前の希望なんぞ知るか」


「そらお前は聞かんやろしなぁ」


 ケタケタと心底楽しそうに笑う表情に、少しの陰もない事が腹立たしい。言っている事の歪みはユランとそう変わらないはずなのに、ギアには鬱屈とした物がまるでなくて。己が欲のまま生きる事への捉え方が、根本から違うからだろう。


「で、こっからが本題なんやが、お客さん来とんぞ」


 苛立たし気に顔を顰めるユランに、今更になって要件を伝える。要件を平気で後回しにするギアもどうかと思うが、頼んだ人物の人選もミスな気がした。そもそも普通の生徒であったなら、ギアに頼み事なんてしないだろう。この国で認識されているシーナの印象として、ギアを受け入れはしても信用はしていない。

 それをわざわざギアを選んだという事は、余程特異か、ユラン相手ならギアが適任だと思ったからか。後者であれば想像が出来て、尚且つ喜ばしい相手なのだけれど。それならギアはお客さんなんて言い方はしないだろう。

 見当が付かず、依頼者がいる扉の方へと視線を向けた。律儀にギアが達成するのを待っていたらしい影は、ユランと目が合って嬉しそうに花を綻ばせる。


 どうやら前者であったらしいその少女は、純白の髪を靡かせて、小さく手を振っていた。


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