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113.二度目の世界で


「ヴィオ様、お口に合いませんでした?」


「へ?」


「あまり進んでいない様ですので」


「あ……ごめんなさい、考え事をしてて」


 授業が終わって、昼食の時間。ロゼットと向かい合って座るテラスは、程よく日が当たり温かく心地よい。

 周囲の視線や注目にはそろそろ慣れて来た。勿論周囲が、ではなく、自分達が、だけれど。未だにヴィオレットとロゼットの組み合わせはすれ違う人から二度見をされるくらいには意外らしいけれど、そこは普段から注目されやすい二人、そういった順応も早い。

 二人の前には、少し前に頼んだランチが二人分。といってもヴィオレットはいつも通りランチ少なめデザート多めの仕様だが、どちらにしてもまだ出来立ての名残があるくらいにしか減っていない。小食気味ではあるし、平均よりは遅い自覚もあるけれど、加味した上で食が進んでいないと判断出来るくらいにはお皿の上が充実したままだった。


「何か悩み事でも……?」


「悩み、というか……知らなかった自分の一面に愕然としたというか」


「……?」


 クエッションマークが頭の上で踊っているロゼットには申し訳ないけれど、異性に触れて欲しいと思ったなんて淑女に有るまじき感情を抱いたなんて、信頼の置ける友人であってもおいそれと口に出来る物ではない。ましてやここはどこに耳があるか分からない学園内。万が一にも外に漏れれば、容姿と相俟ってあっという間に尾ひれ背びれが付いた噂が広まってしまう。


「心配を掛けてごめんなさい。でも大丈夫、少し戸惑っただけなの」


「それなら、良いのですが……私でお力になれる事なら、言ってくださいね」


「ありがとう」


 気遣う視線に笑顔を返して、目の前の食事に専念する。元々食欲がなかった訳ではないから、燻っていた混乱を隅に追いやれば簡単に手も口も動いた。フォークに巻き付けたパスタは、オレンジがかったトマトソースに彩られてこちらの食欲を誘ってくる。


「そういえば、ヴィオ様はもうご準備なさいましたか?」


「え?」


「そろそろ、期間に入りますでしょう」


「あぁ……そういえばそうね」


 期間──年に六度のテスト期間。もうすぐその四度目が始まる。ユランのおかげで、一度目以降はクローディアからの協力を得られる様になった。なので一度目より父からの小言も僅かとはいえ減少し、雑音程度の認識で聞き流せる様になった。成長なのか諦めなのかはまた別の問題だが、律儀に傷付いてやる必要もないのだから。


(そっか……もう、そんなに経ったのね)


 四度目のテストという事は、一年の三分の二が終わろうとしているという事で。始まった時は驚きと諦観だけしか無かった『経験したはずの一年』は、気が付くとヴィオレットの知るそれとは大きく変化していた。

 正直、再びあの一年を歩まなければならないのかと、牢獄の方がマシだと思った事もあったけれど。

 あの頃は知らなかった感情、選ばなかった選択。捨てた物も、いらなかったと気が付いた事もあったけど、その何倍も大きな物を得て知った。


 一度目の最後は、牢の中の後悔。

 もうすぐ、二度目の一年が終わる。


「宜しければ、一緒にお勉強しませんか? 放課後、どこかのサロンを予約して」


「あら素敵。でも、お喋りに夢中になってしまいそう」


「……否定は出来ませんね」


「ふふっ、でも凄く楽しそうだわ」


 この一年が終わった時、自分はどこにいて、何をしているだろう。

 漠然と、今のままの日々が続けばいいなんて、考えていた。


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