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98.当事者不在


「は……?」


 問われている意味が上手く理解出来ずに、乾いた声が二人の間に転がった。

 偶然以外の、なんだと言うのか。仮に偶然で無かったして、ヴィオレットとて子供ではない。立場を背負って生まれた令嬢としての経験値もある。もしロゼットが何かを企んでヴィオレットに近付いていたとしても、欠片も気付かずに掌で転がされる様な事にはならないだろう。どちらにしても、ユランがここまで警戒する必要はどこにもない。


 あまりにも過剰な保護で、干渉ではないのか。


「彼女がクローディア王子を慕っていた事、知らないはずありませんよね」


 ヴィオレットの歪んだ恋については、学園中の人間が知っている。それにクローディアが辟易していた事も……唐突に変わったヴィオレットの態度についても。家の事でそれどころではなくなったのではと、あながち間違いでもない憶測から本人に確かめる者は居ないが、かつてのヴィオレットがどんなだったかなんて説明するまでもない。

 ヴィオレットにとってロゼットは、本来恋敵と言うべき相手である。勿論公式に発表された訳ではないのでヴィオレットが知っているはずはないけれど。ロゼットの方は、全てを知った上でそこにいる。ヴィオレットと話し、笑い、友人としての地位を確立しつつある。


 そこに何の思惑もないと思えるほど、ユランの警戒心は薄くない。殊更ヴィオレットに関しては強固さが増すのだ──異常なほど、過剰に。


「何が言いたいのか、よく分かりませんけれど」


「そう答える時点で、理解している証拠ですよ」


「…………」


「慎重になられるのは結構ですが、俺が貴方に辿り着いた時点で無駄な抵抗だとは思いませんか?」


 不気味だと、率直に思った。こちらの一挙手一投足を観察して、一番嫌な所を的確に付いてくる。ゆっくりと、でも着実に、崖際に追いやられている様な気分だ。優しく柔らかく問うのは声と口元だけで、棘だらけの目と言葉が降り注ぐ度に腹立たしくて堪らない。

 分かりやすい警戒と不信、配慮も遠慮も無く土足で踏み荒らして行く真似の全ては、誰かに対する大きな感情故だと、愛情故だと分かるのに。そのやり方があまりにも身勝手で、自己完結で。


 独り善がりの暴走に、ヴィオレットを付き合わせている様に見えて。


「言い方を変えます──貴方に話す事は、何もありません」


「…………」


「私とヴィオ様の事です。何を思い、何を話し、どんな関係を紡いでも、それは私達だけのもの。貴方には関係の無い事ですわ」


 恋路の邪魔が野暮ならば、友情だってそうだろう。心配も不安も、大切な程に大きくはなるけれど、だからといって立ちはだかっていい理屈はない。察する事を美徳とする物も多いが、どれだけ気を回した所で当事者の声がないそれは、自己解釈の域を出ない。貴方の為に価値が付くのは、偶然と幸運が味方した時だけ。

 危険、不信、不釣り合い……どんな理由も、第三者が持ち出した時点でただの予想で想像で、真実は無い。


「何をしようと、何を思おうと、それは貴方の勝手ですし興味もありませんけれど……ヴィオ様を、貴方の支配欲に巻き込まないで頂けて?」

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