初陣の林
あれ、奏太郎どこ行ったのー?奏太郎ーー!!!さっき、彼の身体は光りながら消えてしまった。私は飛騨高山でただ1人、まだ動いていると思われる敵を倒さなければならないという使命におびえながら突っ立っていた。
〈奏太郎は体力回復の為、一旦預からせて貰った〉
右腕の歯から磯部さんの冷淡な声が聞こえた。
「また、戻ってきますよね?」
〈左様。10分ぐらいで元通りになるぞ。それまでお前が足止めをしておいてくれ。お前の鮫の歯の霊力は・・・林だ!〉
「は、林というのはどのような霊力ですか?」
〈木が何本も生えていると相手に錯覚させる力だ。もちろん切り倒して敵に当てることもできるが、単体での効き目が少ないのが弱点だ。取り敢えずは奏太郎が戻るまで待っておけ〉
「わ、わかりました」
今のところあの悪霊は動き出す気配はない。でも、悪霊とを隔てる宮川を越えないほうがよさそうだ。しかし、宮川の橋の手前までは行った。そこで気を集中させながら奏太郎を待つことにした。
「琴音、今戻ったぞ!」
「もう、奏太郎!突然消えちゃって!!心配したんだよ!!!」
「すまねぇ。なら行くか!」
「じゃあ奏太郎、行くよ!ハー!!!」
私が鮫の歯に念を込めると、何本もの細く鋭い木が悪霊の目の前に飛んで行った。私より頭がいい奏太郎は、素早く悪霊の向こう側まで走って行くと、念を込めて鮫の歯から疾風を発した。すると悪霊の肉体は疾風の圧力で林に押し込まれ、まるでところてんのような無残な姿になって出てきた。ついに骨肉喰らいは敗れた。
「「ヨッシャーーー!!!!!」」
叫ぶ間に、その悪霊の残骸は消えていった。
「お前達、よくやったな」
「磯部さん!?」
「久しぶりの街も楽しいな」
磯部さんの声が明るく聞こえた。巫女さんの格好ではなく和風の柄のロングスカートと淡い水色の上着の組み合わせだったので、街中にいても違和感がなかった。
「戦も終わったことだし、飯でも喰いに行くか」
「「ヨッシャーーー!!!!!」」
「この地方のラーメンは絶品だぞ」
「「うおおおおお!!!」」
こうして、私たちは高山ラーメンという戦利品を食べに行った。細めの縮れ麺に、しつこくない味のスープが絡みついてまるで天にも昇るような心地だった。お腹も満たされたところで、磯部さんが声をかけてきた。
「お前達、まだ高校の制服のままじゃないか。制服だと動きづらいだろう。ほら、1人1万ずつやるから服買ってこい。帰還時刻は夕方6時だからな。その時間になると容赦なく洞窟の家に戻されるから覚悟しておけ!」
私は目を輝かせて感謝の言葉を伝え、乗り気でなさそうな奏太郎とともに午後の高山の街へと出向いた。