魔女の孫と僕の初恋
短編『異世界の王子と私の物語』の番外編のようなもの?
短いです。
魔女の~だけでも読めると思います。たぶん。
誤字脱字あると思いますが、文章・表現などとくに気にせず、
軽く読んでいただけるとありがたいです。
町外れにある森の奥深くに、魔女が住んでいると言われる家がある。
小学生の頃に友達3人でその家をこっそり見に行ったけど、どこかのアニメで見たことがあるような、あるいはヨーロッパの古い街並みの中に建つような、どこか懐かしい感じのする洋風建築の小さな家だった。
無断で敷地内に入り家の中を覗こうとしていた僕たちは、ちょうどその家から出てきた女の人に驚き、僕を残して二人の友達は脱兎のごとく走り去って行った。
逃げ遅れた僕は青ざめながら女の人にごめんなさいと謝った。
女の人はくすくすと笑いながら、ちょうどお茶にしようと思っていたのよ、と言って僕を裏庭に案内した。そこにはテーブルの上にお茶やお菓子が並べられていて、僕の6歳になる妹と同じくらいの年の女の子が椅子に座っていた。
足をパタパタさせながら、おばあちゃんまだ?と振り返った女の子はとても可愛いかった。
よくよく見ると女の人もとても綺麗な人だった。おばあちゃんと呼ばれているのが信じられないくらいに若く見える。うちのママより若いと言われても信じたくらいだ。
女の子が僕に気付いて首を傾げ、おにいちゃんはだあれ?と聞いてきた。正直に不法侵入者と答えるわけにもいかないので、通りすがりの小学生ですと答えておいた。
女の子は目をぱちくりさせながら僕の顔をじっと見つめてくる。その表情があまりに可愛すぎて僕は頬が緩むのを止められなかった。
僕が微笑んでいることで警戒心をなくしたのか、女の子はパアッと明るい顔をして瞳を輝かせながら、おにいちゃんに私の大好きなクッキーあげるねと言って僕の方へお菓子がのったお皿を差し出した。僕はありがとうと言ってそれを受け取る。
そんな光景を見ていた女の人が、あらあらマナはおにいちゃんが気に入ったのねと言って穏やかな表情で微笑んだ。
僕は顔が熱くなるのを感じて俯きながらクッキーを咀嚼した。
女の子はマナと言うらしい。彼女に似合った可愛らしい名前だと思った。
お茶を飲み干したのでそろそろ立ち去ろうかと腰を浮かせた時、先に椅子から降りて立ち上がっていたマナちゃんが僕の服を引っ張り、一緒に森へ行こうと言ってきた。戸惑いながら女の人を見ると、いいわねいってらっしゃいなと笑いかけてきた。
にこにこ笑いながらはしゃぐマナちゃんに引っ張られながら、僕は森の中へと入っていった。
この町に住んでいて森に入って遊んだことがない。幼少の頃から大人たちに森に入ってはダメだと教わって来たからだ。私有地っていうのもあったけど、なにより怖いイメージが強かった。
子供たちにとっては魔女住む森だったから。
だが、今日初めてその魔女と噂される(子供たちにだけ)女の人に会ったけど、全然そんなことはなく、とても綺麗で穏やかな優しい人だった。
僕は、子供の噂って怖いなと思った。
森の中をしばらく歩いていると、マナちゃんが急に駆けだした。慌てて追いかけると、少し開けた場所に出た。そこにはたくさんの小さな白い花が咲き誇っていた。まるで白い絨毯が敷き詰められているかのように一面真っ白だった。
すごいな…。
惚けているとマナちゃんが、おにいちゃんこっちだよと手招きしていた。近付くと花冠を作っていたようで僕に屈むようせがむと、はいと言って頭に載せてきた。
男の僕が花冠というのもなあ…と微妙な気持ちになりつつもマナちゃんに、すごい上手だねありがとうと言って微笑んだ。マナちゃんははにかみながらもじもじしている。
ああ、なんて可愛いんだろう。そう思いながら僕はぎゅっと彼女を抱きしめて頬にキスをした。そして自分の行動に驚愕した。
僕はいったい何をしているんだ!?
マナちゃんも驚いて僕を見つめていた。
慌てて、ごめんねと言うとマナちゃんは首を傾げ両腕を広げて僕に抱きついてきた。驚いて彼女の顔を見るとにこにこしながら、おにいちゃんにもチュウしてあげると言って僕の頬にキスをしてくれた。
僕はなんだかほわほわした気分になりマナちゃんの頭を撫でまわした。マナちゃんといると心が温かくなって嬉しくなる。そしてもっと一緒にいたい、もっと彼女の事を知りたいと思えてくる。この気持ちが何のか。
それを知るのは何年も先のことになるのだが。
その日は夕日が沈む前に自分の家に帰ることが出来た。あのまま不思議な森の家に居ついてしまいたくなりそうな自分を叱咤して別れてきたのだ。
別れ際にマナちゃんと女の人に、また来てねと言われたけど今度行ったら二度と帰りたくなくなるんじゃないかと思って、あの日以来行っていない。
会いたいけど行ってはいけない気がする。
それから何年も経ち、僕は中学生になった。中学に入って数か月後には彼女もできた。とても可愛い子だと思う。彼女が出来て初めて、あの時マナちゃんに抱いた感情が恋だったのだと気が付いた。僕の初恋はマナちゃんだったのだ。
何年も経ってから気が付くとは我ながら笑える。
でも、甘酸っぱくてなんだかくすぐったくなるような、とても不思議で素敵な思い出だと僕は思った。
お読みいただきありがとうございました。
ほんわかしたものが書きたくて…。