第6話 ~外界と影~
シンク・バッハ男爵
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ハンク・バッハ男爵へ変更しました。
理由は結構後で解ります。
アホなミスしたなあ。と、反省してます。
長かった。
本当に長かった。
ここに来るまで色んな事があった。
転生したり。人外になったり。チート武器があったり。ソウルやスキルに驚いたり。
色んな事だ。しかし、それらも終わってしまえばあっという間だった。
そう。ここまでの道のりを考えれば。
長かった~……。
ホント長すぎだろこの洞窟。
白魔晶石のとこから歩いて三時間は経過したぞ。
その間、進展一切無し。マジ辛かった。
時々、白魔晶石が洞窟の隅っこにあるだけで、あとはひたすら一本道だ。
あまりにも退屈で発狂するかと思った。
しかーし! そんな退屈はもう終わりだ。
なんたって、今俺の目の前にあるのは間違いなく洞窟の出口である。
やっとだ。やっと出れるよ。
あ、なんか涙出てきた。
駆け出したくて仕方ないが、ここまで来たらゆっくり行こう。
なんだかワクワクして堪らない。
何でだろうか。
きっと、何だかんだ言いながらも期待しているのだろう。
俺だって男の子(?)だ。こうゆうシチュエーションは心躍るものがある。
洞窟を出て、初めて見た景色を俺は忘れないだろう。
何故かそんな確信がある。
そして――
目に飛び込んだのは、空を埋め尽くす満天の星であった。
前世の都会では決して見る事の出来ない絶景である。
「おぉ……」
思わず感嘆の声が出てしまう。
それほどまでにこの星空は美しかった。
有無を言わせぬ大自然の美しき広大さが、そこにはあった。
暫く時が経つのも忘れ見入っていると、正面の空が明るみ始める。
徐々に美しき夜空を塗り替えながら、眩いばかりの太陽が姿を見せる。
……。
……すげぇ。
なんていうか……。
この短時間で、大自然の『スゴ味』ってやつを感じた気分だ。
こんなん絶対忘れられねぇ。
洞窟を出る前の予感は正しかったわけだ。
初っ端からこんな凄いモン見てしまったわけだが、どうしてだかテンションが上がらない。
むしろ恍惚とした感じで、とても落ち着いている。
これはアレですね。
賢者タイムですね。
大自然様にかかれば、人間一人賢者にすることなど文字どおり朝飯前って事ですね。
しかしだ、これから本格的に異世界で生きていく者として、このテンションは危ない。
なんか危険があっても、とっさに回避できる気がしない。
しっかりと気持ちを切り替えていかないと。
ふー……。
よし! 切り替え完了!
バッチコーイ!
とりあえず地形の確認だ。
まず俺が歩いてきた洞窟だが、どうやら山の中にあったらしい。
後ろを振り返れば、かなり上まで斜面が続いている。
俺が歩いてきた距離を考えれば、かなりデカい山なのだろう。
っていうか、俺は夜通し歩いていたのか。
その割には眠気も疲れも無いんだけどね。
バナヴァルムは、頑丈さだけではなく耐久面でも優れた身体を造ったらしい。
話を戻そう。
俺の現在地は、山の中腹よりやや下ぐらいだ。
噴火してできた山なのか、草木一本生えていない斜面が大地まで続いている。
そして眼下に広がる大地はというと、森であった。
右見て。左見て。また右は見ずに正面見て。
全部森であった。
地平線まで全てだ。
……。
…………。
…………嘘だろ?
夜空を見たときとは違う意味で絶句してしまった。
おいおい。
どういう事だってばよバナヴァルムさん?
俺に生きろと言っておきながら、森でサバイバルしろって?
とんだハードモードだな。チキショウめ!
文句を言ったって仕方ないのはわかるんだが、これからこの森に入ると思うとゲンナリしてくる。
先ほどの感動が台無しである。
さてさて。どうするかね?
なんの目標も無く森に入るなんて自殺行為と同じだ。
せめて目印になる物があればいいんだが……。
もう一度、グルリと森を見渡すが、一面の緑が輝くばかりであった。
こういう時、前世では星座などを目印にしたりするが、この世界の星座が前世と同じとは限らない。そもそも、現在は早朝で、星座を確認するためには半日ほど待機する必要がある。流石にそこまでして星座を確認したい訳では無いので、この案は却下である。
しかし、天体を利用するのは良い案だ。
常に同じとは限らないが、しばらくの目安にするには問題ないだろう。
そういうわけで、俺は目の前にある天体こと、太陽を目印にすることに決めたのだ。
正確には、太陽自体を目印にするにではなく、太陽の出てきた方向を目安とするのだ。
この世界の天体の動きなんて知らないが、前世の知識を引用すると、ほぼ同じ方角から太陽が昇るだろう。ならば、その方角に向かって歩けば、森の中で迷うこともない、という算段だ。
問題点はいくつかあるだろうが、正直これ以上の名案は俺には思いつかない。
まあ、ここでいつまでも立ち止まっているよりかはマシだろう。
少々不安ではあるが、俺は森へ向かって山を下っていったのだ。
―――――――――――――――――――
颯爽と森を駆ける影が一つ。
その影は、まるで森の事を熟知しているが如く、凄まじいスピードで移動していた。
そして、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
うまくいった。
単独での作戦であり、事前準備もしていなかったが、こうもうまく事が運ぶとは思わなかった。
ここまでくれば、高みの見物と洒落込めるだろう。
後は勝手に潰し合ってくれる。
そう思うと笑い出したい衝動に駆られる。
なんと愚かな奴等だ。
このような低俗な輩に手を拱いていたとは……あの御方は随分と心配性なのだろう。
しかし、ここまでお膳立てすれば、いくらあの御方でも動かざるおえない筈だ。
その行動には自分たち一族の命運が懸けられているのだ。
そして、それは同時に自身の悲願でもある。
この作戦は何としても達成する必要があった。
すでに状況は覆らないと確信しているが、手を抜く必要はないだろう。
事実、気がかりなことがあった。
本当に些細な事ではあるのだが、念には念を入れておくべきだ。
そう思うと同時に影は速度を上げる。
小さな懸念を払拭する為に。
彼の知る、最も愚かな者達の下へ……。
―――――――――――――――――――――
リベラ山。
それがあの山の名前らしい。
そして、森の名前は”リベラの森”というらしい。
ここに来るまでに『魔書作成』で判明したのはそれだけであった。
現在、俺は山を下りきり、森へ入ろうとしている。
近づいたことで分かったのだが、この森、かなり鬱蒼としている。
森林以上、密林以下って感じだ。
当然、道なんてあるはずもなく、これから生い茂る草木を掻き分けながら進むわけだ。
気が滅入るって話じゃねーぞ。これ。
白の魔力で魔素化しながら進める分、まだ良い考えるべきか。
という訳で、白の魔力で草木を消しつつ、『魔書作成』で解析しながら進もうとする。
――――解析完了。名称:ララカ草。花粉に微弱な麻痺毒を有する。――――
――――解析完了。名称:ヒード草。解毒作用のある草をもつ。薬の材料として用いられる。――――
――――解析完了。名称:ビビース草。種子に睡眠作用のある毒をもつ。―――
――――解析完了。名称:不明。花に多量の蜜を蓄える。蜜には解毒作用、滋養強壮の効果あり。一部の昆虫類が好んで捕食する。名称不明の為、名称の登録が可能です。名称を登録しますか? YES/NO――――
――――解析完了。名称:スモールビー。別名『小さな大群』。女王を頂点とする群れを形成して生活する小型の昆虫魔類。微量の出血毒を放出する針を持つ。雑食だが、甘味を好んで捕食する傾向がある。――――
――――解析完了。名称:不明。一部の者達からは『白竜樹』と呼ばれている。周囲の魔力を取り込みながら成長する為、魔力濃度の高い魔樹となっている。また、樹木内の魔力を果実に集める性質がある。名称不明の為、名称の登録が可能です。名称を登録しますか? YES/NO――――
うるせえええぇぇぇぇえええ!!
悪かった! 俺が悪かったから、ちょっと黙ってくれませんかね『魔書作成』さん?
そりゃあ、一度に魔素化して、一度に取り込んだのは俺だよ?
でもさ、報告は一つずつでいいじゃん。
なんで全ての解析結果を同時に報告するかね?
別に聞き取れないって訳じゃないんだよ。
どういう事かは解らないが、ちゃんと全て理解できていた。
それでもだ、頭の中に無機質な音声が何重にもなって響くのは結構な苦痛なのだ。
十人の声を同時に聞き分けたという前世の偉人は、これ以上の苦痛を味わっていたのか。
先人の方マジパネェっす。
突然響いた報告の嵐に痛む頭をおさえつつ、解析結果を確認しようとしたところで、すぐ近くの樹木からメキメキと嫌な音が響く。
恐る恐る目を向けると、その樹木の幹が、半分以上削り取られたようにポッカリと失われていた。
そういえば解析結果の中に樹木も含まれてましたね……。
当然、支えが無ければ樹木は倒れてしまうわけで……。
現状を理解するなり、俺は真横に跳ぶ。受け身も何も考えていない全身ダイブだ。
俺が大地にその身を打ち付けると同時に、さっきまで俺がいたとこに樹木が倒れ込む。
……あ、あぶねぇ……。
あと一歩遅れていたらペシャンコになるとこだった……。
心臓の動機が未だに収まらない。
まさか初っ端から命の危機に遭遇するとは、俺も運がない。
いや、違うな。
さっきのは俺の不注意による自滅みたいなものだ。
不用意に白の魔力を使ったからだ。
これは教訓だ。
これから森へ入る俺の心構えになってくれる。
思えば、俺は初めから浮かれていたのだろう。
異世界に転生して、強力な能力を得て、凄い武器を手に入れて。
前世で憧れていたものが目の前に存在して、まるで自分が主人公の様で。
ここにくるまでに気持ちの切り替えはしてきたつもりだ。
それでも甘かった。甘すぎたのだ。
現に俺は自滅しかけた。
自分の能力で自分を殺しかけた。
なんと滑稽なことだろう。
こんなアホな奴が主人公だと? 笑わせる。
思い出せ。前世で森や山がどれほど危険だったか。
いつもなら他人事の様に流しているが、残念ながら今は当事者である。
しかも、いざとなれば救援の来る前世とは違い、ここは孤立無援の異世界の森である。
一人だ。たった一人で生きるしかないのだ。
本来なら素人である俺には無謀な話だろう。
だが、俺には『魔書作成』がある。
こいつを最大限利用できるなら、森での生存確率がグッと上がるだろう。
ならば、多重報告で頭が痛いなどと甘いことは言ってられない。
そうと決まれば、まずは解析結果の確認だ。
毒や薬になる草、これは前世にも似たようなものがあったからいいとして、気になったのは名称不明というものだ。
これはどういう事なのだろうか?
単純に名前が付けられていない、ということなのか?
しかし、樹木のほうは白竜樹と呼ばれているのに名称不明なのだ。
名称が決まるのに何か条件があるのだろうか。
とりあえず、名称がないのは不便なので、蜜を作る花を『蜜花』。樹木の方を、そのまま『白竜樹』と登録した。
それと、分かったことがもう一つ。
白の魔力が生物にも有効だという事。
全く気付かなかったのだが、スモールビーという昆虫を解析できたのが証拠だ。
恐らくだが、人間とかにも有効なんだろうな。
便利ではあるが、かなり危険な魔力であることを再認識したのであった。
さて、足を進める前にもう一つ確認したいことがある。
不幸中の幸いか、白竜樹が倒れてくれたおかげで見つけることが出来た。
白竜樹の木の実である。
林檎のような形をしており、色は真っ白。
複数個あったので、一個を『魔書作成』で解析する。
――――解析完了。名称:不明。一部の者から『白竜の実』と呼ばれている。白竜樹の果実であり、栄養が豊富。白竜樹の取り込んだ魔力を多分に蓄えている。尚、取り込んだ魔素に該当する果実は”聖属性”を含んでいます。――――
聖属性?
なにそれ?
属性っていうと、ゲームとかにでてくる火属性とか水属性みたいなの?
多分だが、そのうちの聖属性ということでいいのだろう。
ふーむ。
実は今、悩んでいることがある。
それは、この果実が食糧に適しているかどうかだ。
『魔書作成』曰く、毒等は無いようだが、聖属性というのは気になる。
まさかとは思うが、食べた瞬間、天に召されるなんて事があるのだろうか?
でも、聖属性って前世のイメージでは回復系の印象なんだよね。
さて、どうしよう?
できるだけ危険な橋は避けて通りたいが、ずっと避けていては前に進めない。
ええい、ままよ!
覚悟を決め、俺は果実に齧り付く。
シャリシャリ……。
ふむ。
サッパリした甘味の中に僅かな酸味……。
うん。美味い!
桃と林檎の中間のような味と食感だ。味は桃寄り、食感は林檎寄りだ。
これなら十分に食料として適しているだろう。
問題は聖属性だが……。
食べてから暫く経ったが、身体に異常は診られなかった。
遅行性ってこともないと思うし、大丈夫だろう。
俺はそう判断し、果実を三つ捥ぐ。これが当面の食料となるだろう。
食料も手に入れて一安心したところで、ふと上を向く。
どうやら、ここら一帯は白竜樹の群生地らしく、あたり一面に白竜の実が生っていた。
わざわざ捥ぐ必要はなかったなぁ。ちょっと後悔。
食料も手に入ったし、進むとしよう。
進み方は変わらない。
白の魔力で道を切り開いて、『魔書作成』で解析していく。
頭の中でガンガンと解析結果の報告が行われるが、我慢して少しでも情報を得る。
頭が痛いからと、解析を怠ったりはしない。
苦痛ではあるが、耐えられないほどではない。
疲れてきたら、白竜の実を食べてちょっと休憩。
栄養が豊富なだけあって、食べると頭がスッキリする。
……あれ? なんかヤバいような?
まあいいか、美味いし。
若干の不安を抱えつつ、俺は森の奥に進むのであった。
主人公真面目モード。
続くといいね(フラグ)