第5話 ~スキルと魔力~
「あ~~たたたたたたたたたたたたたたああぁ~~!」
ある洞窟内に小気味よいリズムで響く声があった。
どうも俺です。アランです。
なぜ俺が某世紀末救世主の様な声を発しているかというと、とある発見があったからだ。
その発見とはコレ、爪である。
現在俺の爪は二十センチ程まで伸びており、鋭利な刃物のごとき輝きを放っていた。
どうしてこんな有様になったかというと、時は少々さかのぼる。
――――――――――――――――――――
バナヴァルムのいる最奥より歩き始めて小一時間。
何もねぇ。
分かれ道どころか蝙蝠一匹いやしねえ。
ずっと同じ様な洞窟が一本道で続いているだけだ。
ちなみに俺は今、裸足である。
裸足で歩いて痛くないかと問われれば、答えはノーである。
足の裏の分厚い皮膚のおかげか、ここまで岩肌の上を歩いてきても痛み一つなかった。
ただの人間がここまで裸足で歩いて来れば足の裏はズタボロになっているだろう。
バナヴァルムがこの身体は人間より頑丈に造ったと言っていたが、あながち嘘ではないらしい。まあ、そんなところで嘘を言ってもバナヴァルムの得にはならないだろうしな。
そんなこんなでこの身体の頑丈さ(足の裏のみ)を理解したところで、ちょっと考える。この洞窟、どこまで続くのかと。
さすがに変わり映えのしない景色に若干の不安を感じてきた。
いくらこの身体が頑丈といえど、食事をしなくていいわけではないだろう。
生物の影でもあれば餓死の心配はしなくてもいいのだが、蝙蝠一匹どころか虫すらいない洞窟である。
いや、たとえ蝙蝠であろうと虫であろうと食いたいわけじゃないんだけどさ、餓死に比べればマシってだけだよ? 俺は決して偏食癖ではないということを明記しておこう。
ともかく、早くここから出なければ俺の生命活動に支障をきたす可能性があるのだ。
そうなると呑気に歩いていていいのかという考えがでてきた。
確かにノンビリ歩いていては餓死する可能性がある。
だからといって走るのもどうかと思う。
走れば当然ながら体力を消費する。
この先何があるか分からないのだ。いざというべきに動けるだけの体力は取っておくべきだろう。
歩くのは危険。走るのも危険。
見事に板挟みである。
なら立ち止まる? 当然論外である。
そんなことで俺は歩くのでも走るのでもなく、その中間、小走りを選択したのであった。
洞窟内を小走りで進むこと数十分。
そこには、全身真っ白な半裸男が、抜身の剣を片手に小走りで駆けていく姿があった。
酷い。
これは酷すぎる。
そして、その姿こそが今の我が身だと思うと涙が止まらない。
コレ、ホントどうにかした方がいいよね。
知的生命体がこの姿を見てなんと思うか?
間違いなく”敵”である。
良くて不審者。悪くて処分対象である。
どうしよう。考えれば考えるほど、この世界の人間と仲良くできる気がしない。
そもそもこの世界に人間はいるのか?
いや、いるのか。バナヴァルムが人間の政治や経済について知っているということは、最低限行政が行えるくらいには文明が発達した人類が生息しているということだ。
そこまで発達していれば、自衛の意味も兼ね、軍隊等を保有していてもおかしくはない。
下手をすれば町に入ったとたん軍隊に囲まれてフルボッコもありえる。
うーん。どうにかして受け入れてもらえないかな。
別に有効な関係を築きたいって訳じゃないんだよ。
お互いに無害であること。
味方ではないが敵でもない。
最低限そんな関係を目指したいんだけどなあ。
今後の事を考えながら走っていた。その時――
突然地面が消失した。
踏み込んだはずの足の下から消失する地面。
否。この感覚を俺は知っている。
前世でも何回か体験したことがある。
地面が消失したのではない。
ただ、滑ったのだ。
迂闊だった。
虫一匹出ないせいか、油断していたのだろう。
この洞窟にはなにも無いと。
たとえ目で見えなくとも、周囲には様々なものがあったのだ。
空気が。
酸素が。
湿気が。
たくさんあったのだ。
目には見えないけども見落としてしまった。
見落とした結果が、足を滑らすという現状を生んだのだ。
そして、足を滑らした者の結末は決まっている。
迫りくる地面。
俺はとっさに壁を掴もうと手を伸ばす。
うまく壁を掴めた様で、地面との抱擁を回避することに成功した。
心臓の激しい音を聞きながら身体を起こす。
――俺が転ばずに済んだのは二つの幸運があった。
一つは壁際を走っていたこと。
この洞窟の幅は十メートルを優に超える。
当然中央にいては壁に手が届かない。――
あぶねーと思いながら壁を掴んだ手に目を向ける。
しかしその手は壁を掴んでおらず、指先が壁に触れているだけだった。
不思議な感覚。まるで爪が壁に刺さっているような……。
恐る恐る手を壁から引き抜くように後ろへ下げる。
そして、俺の目に映ったものは――
――二つ目の幸運。それは―
――伸びた爪であった――
―――――――――――――――
そんな事がありまして、現在爪の性能テストも兼ねて遊んで……もとい、休憩中でした。
で、冒頭の声は何かというと、壁に爪を刺しまくっている際に発した声でした。
最初は”オラオラ”でいこうかと思ったが、折角なので”指先一つでダウンさ~♪”を採用した。
いやー、やっぱり男子足る者一度はやりたくなるよね。
既に察しているかと思うが、この爪はものすごい鋭さと硬度をもつ。
プスプスと障子を突き破るかのように簡単に岩壁に突き刺さり、何度も岩壁に突き刺しているのに刃こぼれ(爪こぼれ?)一つしない。
ホント、バナヴァルムは何考えてこの身体造ったんだろうね。
この身体を調べれば調べるほど人外になったことを痛感するよ……。
しかし今回はそこまで嘆くことはなかった。
なんせこの爪、かなり便利である。
考えてみてほしい、この状況は手元に切れ味の良いナイフがあるのと同じなのだ。しかも刃こぼれ無しときた。
まあ、爪が伸び縮みするのが若干気になるくらいか。
あ、言い忘れていたがこの爪、俺の思い通りに伸び縮みする。
最大三十センチ程、最低は元の爪の長さまで。両手両足計二十爪全てを伸ばすことも、一本ずつ個別で伸ばすことも可能だった。
俺が、かる~く念じれば、爪がシャキーン! と出てくるわけだ。
これあれだ、ウル〇ァリンだ。
まさかこんな異世界に転生してアメコミヒーローの気持ちを味わうとは……。
あれ? あいつってアメコミヒーローだっけ?
実はあんまり詳しくないんだよね。
某蜘蛛男や某蝙蝠男は有名だから知ってるんだけどね。
今後見ることもないであろう異国のヒーローを考えつつも、俺は壁にプスプスと爪を刺し続けていた。
性能テストはもういいと思うんだけどさ、わかるかな? この意味もなくプスプスと刺し続けたくなる疼きっていうの? 例えるなら梱包用に使われているあのプチプチを潰し続ける感じ? 壁! 刺さずにはいられない! って感じ?
若干おかしな方向に向かっているこの行為だが、実は性能テスト以外にも目的がある。それは、単純に俺がこの爪の扱いに慣れておきたいのだ。
この爪の発見で解決した問題が一つある。それは、実用性のある武器の入手である。
バナヴァルムから譲られた剣は強すぎる。
あれは実戦向きの武器だ。
軽く振るだけで人が簡単に死ぬ。
俺は護身用に持っていたいだけであって、殺人鬼になりたいわけではない。
何より、素人が振るだけで岩を切り裂き、斬撃を飛ばすような剣を振り回す技量も度胸も俺には無い。
それに対しこの爪は実用的だ。
異常な鋭さはあるものの、長さは俺の意のままにできるし、指先での動きなので剣よりかは扱いやすい。
当然斬撃が飛んだりもしない。
そういうことで、しばらくのメイン武器はこの爪となった。
バナヴァルムから貰った真っ白な剣は本格的に出番が無くなったといえよう。
……ってかいい加減『真っ白な剣』っていうのも面倒だな。
よし。とりあえず『白剣(仮)』と命名しよう。
滑ったおかげで、思わぬ武器が手に入ったことは僥倖であった。
怪我の功名ってやつだな。
少々名残惜しいが、爪の性能テストを終わらして先に進むとしよう。
いい加減、壁も穴だらけになって気持ち悪いことになってるしな。
蓮コラってやつだったか?
俺は平気だが、駄目な人は結構いるらしいね。
そんなこんなで先に進もうと思ったのだが……。
――――スキル『竜爪』を獲得しました。――――
やったぜ。
って、待て待て……。
え? 今?
うん? ちょっと整理しよう。
とりあえず爪シャキーン!
よし。普通に使えるな。
んで壁にプスッとな。
……うん。問題なし。
ここまでスキル『竜爪』獲得前と同じだな。
スキル『竜爪』というくらいだ。このスキルの獲得で『竜の爪』が使用可能になるのだろう。
俺はソウル『竜人』を獲得している。
このことや身体の状態から推測すると、俺の種族は『竜人』に分類されるのだろう。
色々と言いたいことはあるが、今は置いておこう。
竜人が『竜爪』を使えるというのは、理解できる。
問題はここから。
スキル『竜爪』を獲得した後、実験として爪を伸ばして壁に刺してみた。
結果はスキル獲得前と変わらず。
何も変わらないということは、スキルを獲得しても変化していないということ。
なら、スキル『竜爪』とは何だ?
俺は、この伸び縮みする爪が竜爪かと思ったのだが、これはスキル獲得前から使えていた。
まさか、スキル獲得前からスキルが使えるとは思えないしなあ……。
色々と可能性は考え付くが、どれも根拠に欠ける。
とりあえず、可能性の高そうな案いくつか試してみよう。
まずは、そもそもスキルが発動していない可能性。
防具は買っても装備しなきゃ意味がないぜ。みたいな感じ。
そもそもスキルを発動させるってどうすんだ?
魂の声さんは黙秘してらっしゃるし……。
まさかとは思うが、漫画の主人公みたいに技名叫ばないと発動しないとか?
えー……。マジ?
幸い? ここは虫一匹いない洞窟内である。俺の厨二病爆発なセリフを聞く者はいない。
まあ、モノは試しだ。
「スキル『竜爪』! 発・動!」
誰もいない洞窟内に無駄に勢いのある俺の声が響く。
いいじゃん。折角なんだし。
で、肝心のスキルは発動できたのかな?
そんじゃま、爪シャキーン!
……ふむ。
長さ、変化ナーシ。
色、変化ナーシ。
厚み、変化ナーシ。
はい。何も変わりませんでした。
そりゃ一発で成功するとか考えていませんよ。でもちょっとガッカリ……。
まあ、成功したら成功したで、今後スキルの発動のたびに厨二病発言しなきゃなんないしね。これはこれでよかったのかもしれない。
ふーむ。次は何試そうかな? 実はまだ決めてなかったんだよね。
とりあえず壁にプスッとなー……あれ?
壁に突き刺した爪に違和感を感じ、思考を打ち切る。
んん? 今なんか手応えが無かった気がする。
もう一回壁にプスッとなー。
すると、まるで水に突き刺すかのように何の抵抗もなく爪が壁に吸い込まれていく。
あれ? もしかしてスキル発動してます?
あの厨二病発言が正解だったの?
おーう……。ふぁんたすてぃっく……。
つーかスキル『竜爪』の効果って爪がさらに鋭くなるだけ?
地味だなおい!
ってかスキルって一度発動したらずっと発動してるの?
いや、さすがにそれはないだろう。
たぶんだが、スキルの停止もできるはずだ。
とりあえず、実験も兼ねて今度は心の中で念じてみるか。何度も厨二病発言するのは精神的にも悪いしね。
というわけで、竜爪OFF! と心の中で念じてから爪を壁に突き刺してみる。
すると、障子を破るような感覚が爪から伝わってくる。
あー……うん。もしかして、スキルのON/OFFに厨二病発言っていらなかったりする?
続いて、心の中で竜爪ON! と念じて壁を突き刺してみる。
スッ……っと抵抗もなく爪が壁に入ってゆく。
……どうやら俺の俺の黒歴史にまた新たな記憶が刻まれたらしい。
…………………………………
……よし! 気を取り直していこう!
黒歴史は……時間が解決してくれる!
とりあえず進もう。
現在は洞窟内を歩いて移動中だ。
走るとまた転びそうだからな。
歩きながらも、スキルについて検証していた。
その結果分かったことは以下のとおり。
・スキルはONとOFFがある。
・スキルは念じればONとOFFに切り替えられる。
・念じない限りは常時発動か、常時停止状態である。
・スキルは複数発動可能である。
とりあえず理解できたのはこの四つである。
上二つに関しては俺の黒歴史に触れるので割愛する。
三つ目と四つ目に関しては俺のもう一つのスキル、『竜眼』が証明してくれた。
俺は検証中に竜眼の存在を思い出し、ONと念じたのだが何も起こらず、逆にOFFと念じた瞬間洞窟内が真っ暗になったのだ。
正確には、この洞窟内は元々真っ暗であり、俺は竜眼の魔素を見る能力で周囲を把握していたにすぎない。
俺さっきまで竜眼の存在を忘れていたのに、竜眼は常に発動していた。このことから三つ目が証明できるわけだ。
四つ目は竜眼と竜爪を同時に発動できただけだ。もしかしたら発動できる数に制限があるかもしれないが、現在の俺にはこれが精一杯である。
そして『竜眼』と『竜爪』についてわかっていることは以下のとおり。
・『竜眼』……魔素が見える。
・『竜爪』……爪が鋭利になる。
もしかしたら他にも能力があるかもしれないが、今はこれが限界である。
現在は『竜眼』をON。『竜爪』をOFFで運用している。
『竜眼』は発動してなければ視覚を確保できないので発動する以外選択肢はない。
『竜爪』はとりあえずOFFだ。
正直『竜爪』が無くてもこの爪はかなり鋭い。たいていの事はこの爪だけで何とかなるだろう。
なので、『竜爪』はいざという時まで温存である。
それでも駄目なら『白剣』の出番である。
出番がないほうが個人的には嬉しいんだけどね。
そうそう、白剣で思い出したのだが、コイツの鞘、どうしよう?
バナヴァルムのとこでは白剣は地面に刺さっていただけで、鞘なんてどこも無かったし……。
今は抜身のままでも問題ないが、さすがに外に出たらマズイだろう。
とはいっても白剣の切れ味を抑え込めるような鞘なんてあるのかね?
コイツの切れ味ならちょっとした衝撃で鞘ごとスパッといきそうだよ?
うーん……。どうしようか?
白剣も竜爪みたいに出したり消したり出来たら楽なんだけどなー……。
なんて考えていたら……。
フッ……と剣が消えた。
…………。
いやいやいやいやいやいやいやいやいや。
え?
どゆこと?
いらない子みたいな扱いされて拗ねたの?
落ち着け。落ち着くんだ俺。漫画でもこういう展開は何度もあっただろう?
となれば、考えられるのは白剣もスキルと同じようなものということ。
つまり――
「いでよ剣」
そう言うと俺の手元に剣が出現する。
持ち手から刃まで真っ白の剣が俺の手に握られる。
…………。
フ……フフフ……フゥゥゥハッハッハッハッハッハッ!!
なんだナンだ何だ!? なんだコレ!?
剣が消えては現れたぞ! しかも俺の意思で!
こんなんまるでファンタジーじゃねーか!
そりゃあここは異世界だけどさ、それでもこんな世界中の男子が夢見るような現象が目の前で起きたらテンション上がりまくりですよ! 高笑い三段活用だって出ちゃいますよ!
解る! 今なら解るぞ!
モヒカン共がバイクに跨り、ヒャッハー! と叫びたくなるあの気持ちが!
今の気分は世紀末! モヒカン共! ともに叫ぼうではないか!
ヒャッハー!! 汚物は消ど――(※しばらくお待ちください)
――――――――――――――――――
ふー……ふー……。
いやースンマセン。
またまたお見苦しいとこをお見せしました。
でも俺悪くないよね?
あんな厨二心くすぐる剣が出てきたら皆テンション上がるよね?
まあ、ハシャギ過ぎたとは思ってるんだけどね。
しかーし! ただハシャいでいたわけではないのだよ!
今回も検証を実施しましたよ。
分かったのは以下のとおり。
・念じれば収納と出現が可能。
・収納と出現は手元のみで可能。
一つ目はそのまんまである。
俺が念じるだけで白剣を収納する事、及び出現させる事が可能である。
ただ、この剣がどこへ収納され、どっから出現するのか等の細かいことは分かっていない。
一応収納時に何らかの制限が掛かる可能性があったので、いろいろと検証してみたが、身体、及びスキルに制限等の影響はみられなかった。
二つ目は収納と出現の制限である。
意味としては読んで字の如くだが、正確に記すならば”手元”ではなく”掌”である。
収納は掌の一部分でも触れていれば収納可能である。
出現する際も掌付近限定なのだが、念じ方で出現時の剣の向きが変わるのだ。
逆手に持てるように出現させることもできたりする。
まあ、ちょっと便利かなってぐらいだ。
白剣に関して分かったのはこのくらいだ。
ただの剣ではないと思っていたが、まさかこんなロマン武器だとは思わなかったよ。
切れ味に関しては相変わらずのチートっぷりだけどね。
とりあえず、この危険極まりない武器を持ち歩かずにすんで一安心であった。
そんなこんなで、予期せぬ魔法武器の入手にハシャギつつも、洞窟内を進んでいたわけだが……。
……長い。長すぎる。
いろいろあったが、歩き始めて二、三時間は経過しているぞ。
どこまで続くんだ、この洞窟……。って、ん?
なんだ?
変わり映えのしない洞窟に気が滅入り始めた俺の目に入ってきたのは、洞窟内の隅で薄く輝く光であった。
おおっと! マジか! 新展開キタコレ!
すぐに駆け寄りたい気持ちはあるが、決して走ったりはしない。
滑ったら危ないからね。俺は失敗から学ぶ男なのだ。
焦る気持ちを抑え、光の下へとたどり着く。
光を放っていたもの。それは白い鉱石だった。
ま・た・白・色・か・よ!
ホントどうなってんだこの洞窟!
白色はバナヴァルムに関与するものだけかと思っていたが、まさか洞窟まで白色を推してくるとは。
なんなの? 今流行のトレンドは白色だったりすんの?
実は俺って流行に乗ってたりすんの? 街に出たらJKに囲まれたりすんの?
…………それはいいな。
って違う違う!
あまりの白推しに混乱してしまった。
冷静に考えれば白い鉱石なんて前世でもあっただろう。
石英とかね。
とにかく、今はこの光を発する鉱石についてだ。
ふーむ。見た目はただの鉱石……というよりも水晶に近いか?
もしかして宝石?
だとしたら無一文の身としては是非とも回収しておきたい。
ちなみに宿無しでもあるんだよね。
はは。泣けてくるぜ……。
今後の生活の為にも、有益なものは確保しておきたいんだが……。
いかんせん情報が足りない。
使えるかどうかも分からない鉱石を持って、先の見えない洞窟を進む勇気は俺には無い。
これはあれか? ついに出番か?
お忘れかもしれないが、俺には異世界に転生して手に入れた新しい力がある。
ソウル『魔書作成』である。
『魔書作成』の能力を簡単におさらいすると、周囲の魔素を取り込み、解析することが出来るのだ。
使い方はシンプル。
目標をセンターに入れてスイッチである。
この表現は冗談などではなく、取り込みたい魔素を決め、念じるだけで取り込むことができる。
解析は念じるまでもなく完全自動で行ってくれる。
楽チンである。
射程距離は俺を中心に半径十メートルほど。
一度に取り込める魔素は、半径十メートル内ならどこでも、いくらでもだ。
ちなみに、洞窟内の魔素を解析して、少しでも情報を手に入れようと試みたのだが……。
――――解析完了。洞窟内の魔素――――
以上であった。
……まあ間違いではないんだけどさ。
せめて、どこの洞窟内の魔素ぐらいかは解ってもよかったんじゃないかな。
と、何とも悲しい結果だけが残ったのであった。
そして今にいたるのだが、目の前にあるこの鉱石。
薄く発光しているように見えるが、竜眼をOFFにすると一切発光していないことが分かる。
このことから、この光は魔素かそれに準ずるものだと推測できる。
たぶんだけど、鉱石からあふれている魔素じゃないかなと思っている。
そして、魔素となれば『魔書作成』の出番である。
さあ! 初仕事だぞ『魔書作成』!
え? 洞窟内の魔素? あれは練習みたいなものです。
ノーカンです。ノーカンノーカン。
『魔書作成』に魔素を取り込めと念ずると、一瞬で鉱石の周りが暗くなる。
これは『魔書作成』が魔素を取り込んだ事で周辺の魔素が無くなり、竜眼で視覚を捉えられなくなったからだ。
――――解析完了――――
取り込んでから一秒と経たずにそう告げられた。
洞窟内の魔素の時もそうだったが、解析がかなり早いんだよねコイツ。
マジで優秀である。
――――名称:白魔晶石。微力な白の魔力が結晶化したもの。破魔の力を持つ――――
やっぱり鉱石から流れ出た魔素だったらしい。きちんと鉱石について解析してくれたようだ。
で、この鉱石――白魔晶石だったか?
破魔の力はまだ解る。
魔除けとか悪魔祓いみたいなモンだろう。
解らないのは白の魔力である。
俺も、サブソウル『白』で白の魔力というのは使えることになっているのだが、何故かソウルと違って使い方が解らないのだ。
いや、使い方自体は解るのだ。
しかしその方法が、「魔力に混める」である。
魔力。
魔力……ねぇ。
どうゆうモノかってのは前世の知識で何となく分かるんだけどね。
使い方が分かんないと意味がないんだよなあ……。
どーすっかね?
定番でいえば、指先に力を集める感じで使えたりするんだけど……。
やる?
やっちゃう?
魔貫〇殺砲みたいな感じでやってみる?
という訳で、レッツチャレンジ。
ググ~っと指先に力が集まる感じをイメージ。
……
…………
………………
暫く頑張ってると、指先に白いモヤが掛かってきた。
お? 成功?
と思いつつも気を抜かずにさらに力を込める。
すると、モヤが濃くなりつつ指先から広がり始める。
多分だけど、このモヤみたいなのが魔力でいいのかな?
竜眼OFFにすると見えなくなるしね。
あ、『魔書作成』で取り込んでみればいいのか。
そうすれば色々と分かるかもしれない。
そういう訳で『魔書作成』を発動する。
あれ?
なんか指定した範囲の魔力が残ってる?
手全体の魔力を取り込むように指定したんだがな……。
なんか半分くらい残ってる気が――
――――異常発生――――
え?
――――異常発生異常発生異常発生異常発生異常発生異常発生異常発生異常発生――――
う、うわああああああああぁぁぁぁぁぁああああああ!?!
――――異常発生異常発生異常発生……………異常復帰の為、取り込んだ魔力を削除します。……失敗しました。続いて、異常復帰の為、取り込んだ魔力を排出します。……成功しました。……復帰完了。正常です――――
…………え?
えーと……。
だ、大丈夫? なんだよね?
……ビ、ビビったぁあああああ!
ホント吃驚した!
急に頭の中で異常発生って鳴り響くんだぞ?
そら吃驚するに決まってるでしょうな!
ホントに大丈夫なんだよな?
『魔書作成』も正常だっていってたし。
オレハ ショウキニ モドッタ。
とかはやめてくれよ? それアカンやつだからな?
とりあえず『魔書作成』の動作確認だ。
目の前にある白魔晶石の魔素を取り込んで解析してみる。
うん。ちゃんと取り込むし、解析もできてる。
現状『魔書作成』に異常は無しっと。
さてさて。
問題はコイツだ。
『魔書作成』に異常発生を起こした張本人。
はい。俺です。
正確には俺の魔力。
この手を覆う白いモヤが俺の魔力だ。
『魔書作成』がサラッといっていたが、このモヤは魔力で間違いないみたいだ。
ふむ。
これが魔力か。
なんかアッサリできるようになったけど、そんなんでいいんかね?
もっとこう……修行の果てに手に入れた力! みたいなのではないのかね?
まあ、楽して使えるならそれでいいか。
むしろ苦労はしたくないで御座る。
魔力を使えるようになったのはいいんだが、結局、白の魔力ってのは何なんだ?
どういう効果があるのかはサッパリだ。
『魔書作成』も解析できないみたいだし。
しょうがない。こればかりは自分で調べてみよう。元々そのつもりだったし、『魔書作成』ばかりに頼ってもいられないだろう。
そうなると、やっぱり大きな町とかに行きたいな。図書館とかで調べられればいいんだけどね。
白魔晶石は……よく分からないからとりあえず置いていこう。
必要になったらまた取りに来ればいいしね。
とりあえず、街を目指してこの洞窟を脱出しなければ。
の、前に、このしつこく手に纏わりついてる魔力どうするかね?
そう思い、手をクルクルと回してみる。
最初は手全体を覆っていたんだが、『魔書作成』が半分取り込んだので、今は手の甲のみを覆っている。
一度出した魔力って、引っ込めたりできないのかね?
さっきから色々念じてみたりしてるけど、一向にうまくいかない。
なんかこう、霧散するような感じで無害化してくれませんかね?
俺のイメージだと魔力って自然に散っていくモノって感じだったんだがなぁ……。
『魔書作成』で取り込む訳にもいかないし……。
……もういいや。メンドくさい。
壁に擦り付けちゃえ。
という訳で壁にゴシゴシっと。
え? なんか汚い?
失礼な。汚れ一つない俺の魔力ですよ。
でもなんか汚く感じてしまう。
これは俺が元日本人だからか?
生前は確かに綺麗好きだったけどさ。
なんて考えていると、魔力を擦り付けた壁がボンヤリ光り始めた。
え? え? 何だ何だ?
汚いとか言ったから怒ったの? オコなの?
よく見ると、擦り付けた壁が無くなり、壁のあった場所で魔素が輝いていた。
ん~? どうゆう事だ?
魔力を壁にこすり付けた
↓
擦り付けた壁が魔素になった
↓
考えられる可能性は?
魔力……だよなぁ……。
とりあえず壁の魔素を『魔書作成』で取り込む。
――――解析完了。名称:魔石。高濃度の魔素に長時間触れていた岩石が変質したもの。触れていた魔素によって多様の性質を持つ。なお、取り込んだ魔素に該当する魔石は破魔の力を持ちます――――
やっぱり。
どうやら魔力を押し付けた壁が魔素になったらしい。
これってさぁ……白の魔力のせいかなぁ?
再び手に魔力を集め、今度は白魔晶石に触れる。
すると、魔力に触れた白魔晶石が消え、消えた部分には多量の魔素が残されていた。
『魔書作成』で取り込んでみると、間違いなく白魔晶石の魔素であった。
もしかして、白の魔力の効果って、『触れたものを魔素に変える』こと?
こ、こえええええ!!
何だよそれ! 触れたモノみな傷つけるってレベルじゃねーぞ!
冗談抜きで世界征服できるぞ!
何で小市民である俺がこんな危険な魔力持ってんだよ!
バナヴァルムは何なの? 俺に世界でも征服しろって言いたいの?
馬鹿なの? アホなの? 死ぬの?
あ、もう死んでたわ。
とにかくだ!
こんな危険なモノ、白剣同様、使用は禁止します。
って、ちょっと待て。
おお! 閃いたぞ。ピカンときたぞ!
『竜眼』、『魔書作成』、『白の魔力』。
この三つって、メチャクチャ相性良いんでない?
白の魔力で解らないものを魔素に変え、魔書作成で取り込み解析。補助として魔素を見れる竜眼。
素晴らしい!
何このお得な三点セット!
こんなコンボを見つけてしまった以上、白の魔力を使わざるおえないな。
え? 危険なんだろって?
ほら、毒は薬にもなるっていうし。
使い方間違えなければ平気でしょ。平気平気。
そうと決まれば話は早い。
白の魔力と魔書作成でガンガン解析していこう。
そう思うと、行き先不安だった俺の異世界ライフに希望が持ててきた。
よーし。
この調子で洞窟も進んでやるぜ。
今の俺に怖いモノなんて無いぞ……多分。
そろそろ外に出れると思ったか? 残念! まだ洞窟だよ!
はい。サーセン。次話で外に出る予定です。
今後も生暖かい目で見守ってください。