第4話 ~人外とチート武器~
洞窟内に絶叫が響いてから数分後。
はい。落ち着きました。
いやー失敬失敬。
お見苦しいところをお見せしました。
まあ、自分の手足が鱗に覆われてたらそりゃ驚くわな。
誰だって驚く。俺だって驚く。
しかし、どれだけ驚こうとも現実は変わらない。
認めたくない現実を受け入れつつ、身体の状態を確かめてみた。
まず鱗だが、色は白で、ツルツルとした触感だ。逆撫でしても引っ掛かる感じは無く、同様にツルツルしている。
それが手の平と足の裏を除く手足全体を覆っていて、そのまま流れるように身体の側面を覆い、顔の横まで覆われていた。
次に鱗に覆われていない場所だが、確認できるだけで身体の中央――正中線が人間の皮膚と同じ触感をしていた。
ただし、皮膚も鱗同様真っ白だった。
何コレキモイ。
鱗が生えてたりするのはアリだとしてもコレは無いでしょー。
カレーうどん食べれないよー。
……いやホントマジで無いだろ。
それともこの世界ではこれが普通だったりすんのか?
……ないわー。
この問題は考えてもしかたないので先送りにして、身体のチェック再開。
どこまでやったっけ?
ああ、鱗に覆われていない部分の確認だった。
手の平と足の裏は鱗に覆われていないが、分厚い皮膚が覆っていた。
触覚は人間と変わらない程度。
ちなみに皮膚の色は相変わらずの白である。
頭皮も鱗に覆われおらず、髪が生えていた。
肩くらいまでの長さで、数本抜いてみたところ全て白髪だった。
ここまで真っ白だったことを考えれば、髪は総白髪となっていることだろう。
目、鼻、口は触った感じ人間と同じだった。
違いがあったのは歯と耳だ。
歯は鋭くなっており、耳は長く尖っていた。
漫画やアニメに出てくるエルフみたいな耳だといえばわかりやすいか?
目で確認ができないが、顔も真っ白なのだろう。
とりあえず確認できることはこのくらいだろう。
ちなみに、バナヴァルムのいってたとおり俺は人の形をしていた。
できれば「形」じゃなくて「姿」にしてほしかったなー。
これ、絶対見た目で苦労するぞ。
あいつ変なとこで準備不足なんだよな。
服装に関してもそうだ。
現在俺は一枚の布を腰に巻いているだけだった。
絹のような肌触りの分厚い布だ。
カラーリングは相も変わらずの真っ白ですよ奥さん。
この布一枚で異世界スタートしろって? アホかっ!
鱗の生えた全身真っ白の半裸男なんて、事案通り過ぎて処分直行だ!
人前に出る前に何とかしないとな。
このままじゃ冗談抜きで変態一直線だ。
まさかのノーパンスカート状態だよ。
こうゆうのはカワイイ女の子がやるからこそ価値があるのだ。むさい男がスカートはいたって殺意しか湧かない。
この問題は必ず迅速に対処するべきだ。
まあ、現状どうにもできないから、とりあえず保留だ。
…………
チラっ
うん。今日も息子は元気だ。
真っ白だったけどな。
……泣きたい。
で、まあ、そのー、気付いてたよ? 気付いてたけどさ、ほら、俺異世界に来たばかりじゃん? まだ右も左も解らないわけよ。そうなるとさ、自分の事で手一杯なわけよ。だからさ、さっきから視界の端でチラチラ見えててもさ、無視しちゃてもしかたないかなーって。
アホな事を考えつつも、無視していた現実に目を向ける。
俺が目覚めた場所は、縦横数十メートルはありそうな巨大な洞窟だった。
そんな巨大な洞窟の中央にソレは鎮座していた。
見る者を圧倒する巨大な体。
捕食者であることを象徴するような恐ろしい牙と爪。
この洞窟ですら窮屈であろう広大な一対の翼。
振れば空気を切り裂く長く強靭な尻尾。
目の前に、竜がいた。
いやービビったビビった。
目が覚めて自分の手足に驚愕してたら目の前に竜がいるんだもん。
チビるかと思った。
で、なんで竜を無視していたかというと、この竜、一切動かないのだ。
最初一目見たとき、なんとなくだが、無害だっていうのが分かった。
実際自分の身体を確認している間も一切動いていない。
しかもこの竜、全身が錆びていた。
爪先から眼球まで隈なく錆びていた。
まるで放置された機械の様に止まっていた。
未来永劫動かないような一種の寂しさを漂わせていた。
いや、きっと永遠に動かないのだ。
この竜は生物だ。
生物だった。
空っぽだ。
もう死んでいる。
そしてこの竜を、俺は知っている。
「……バナヴァルム」
そう、バナヴァルムだ。
俺をこの世界に転生させた張本人。
そのバナヴァルムの死体がそこにあった。
全身錆びていて、純白とは程遠いが、間違いなくバナヴァルムだ。
確証となる物は何も無いが、バナヴァルムが俺に憑依しているせいか、はたまた俺がそう思いたいだけか、俺の中では目の前の竜=バナヴァルムで確定している。
うーん。この言葉では表現しきれない確信っていうの?絆ってやつなのか? どうしてだか、俺は目の前の竜をバナヴァルム以外には思えないんだよなぁ。
なんて一人で感傷していると、バナヴァルムの足下でキラリと光るものがあった。
目を向けると、地面に剣が刺さっていた。
あれって、バナヴァルムが餞別にくれるって言っていた武器か?
剣だったのね。
そう思いバナヴァルムの足下へと移動する。
死んでいるとはいえ、巨体のバナヴァルムに近づくのは勇気がいる。
おお、怖い怖い。
あって無いような勇気を振り絞りつつ、剣の元へとたどり着く。
…………
いやいやいや。まさかねぇ。
とりあえず引っこ抜いてみるか。
折角だし某緑の服をした勇者風にやってみるか。
テレリラ♪テレリラ♪テレリラ♪テレリラ♪…………ごまだれ~♪
よかった、普通に抜けた。
選ばれた者しか抜けません。みたいな王道RPG展開とかじゃなくて一安心。
んで、剣を見た感想だが。
……いやもう何も言えねえよ。
ここまで徹底されたら脱帽だわ。
まさか剣まで白いとは……。
持ち手から刃の部分まで真っ白だよ。
なんなんコレ?
鈍だったりしない?
実用性あるのかこの剣?
とりあえず重さは十分。
片手でも両手でも振れる重さ。
大きさも十分。
装飾は無し。
地面に刺してあったが刃こぼれや錆びも無し。
ふむ。
シンプルで扱いやすそうな剣だ。
問題は切れ味だ。
できれば何かで試し切りしたいのだが、周りにあるのは岩とバナヴァルム(死体)だけである。
岩であろうとバナヴァルムであろうと、剣の素人である俺に切れるとは思えない。
仕方ない。試し切りはお預けだ。
でも、素振りくらいはしとこうかな。
そう思い俺はその場で剣を振る。
俺は素人だ。
当然まともな形で振ることはできない。
せいぜい中学校で習った剣道の型を真似るくらいだ。
そんな俺が無造作に剣を上から下に振り下ろす。
俺はもう少し考えるべきだったのだ。
なぜ剣がここにあるのかを。
なぜバナヴァルムのような巨大な竜が剣を保有していたかを。
俺は浮かれていたのだろう。
異世界にやってきて、少なからず興奮していたのだろう。
俺の頭にこの剣が「危険」である考えは一切なかった。
そして剣は振り下ろされた。
その剣から、斬撃が飛んだ。
斬撃はバナヴァルムの尻尾を切り飛ばし、地面に大きな裂け目を創りながら消えていった。
……え? え、ええ?
な、何だ? 何が起きた?
え? 剣を振ったら? 尻尾が飛んで?
お、落ち着け。落ち着くんだ。
素数を数えろ。
素数は孤独な数字。俺に勇気を与えてくれる。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10
だめだ! これ正数だ!
うん。ちょっと落ち着いた。
ありがとう正数。
とりあえず状況を整理しよう。
Q、今何をした?
A、剣振った。
Q、何が起きた?
A、斬撃が飛んでいろんなモンぶった切っていった。
Q、お前斬撃飛ばせんの?
A、出来るかボケぇ!!
だめだ。整理しても行動と結果が繋がらない。
マジでどうなってんの?
俺素人だよ?
うーん。ホント、どうなってんだろう。
よし。次は可能性を整理しよう。
可能性①
・転生したことにより俺の剣の才能が目覚めた。
可能性②
・この新しい身体が剣を振るだけで斬撃を飛ばせる程パワフルだった。
可能生③
・この実用性を疑われた剣の秘めたる性能。
可能性④
・なんか色々ミラクルがおきてあの時だけの現象だった。
ざっと思いつくだけでこんなもんか。
まず①から。
これは無いかなー。
なんかこう、身体が自然と動くとか、剣を振る道筋が見えるみたいな天才補正が全くないしな。
そもそも俺は「剣よりも拳」って性質だからな。
人斬るよりも殴り倒す方が性にあってんだよね。
そういう訳で才能云々は無いと思う。
まあ、無自覚の才能とかあるし、完全には否定できないんだよね。
せめて比較対象があれば良かったんだがなあ…。
続きまして②です。
無い。
無いわー。
提案しといてなんだが無いわー。
物理法則的に無いわー。
凄い力で剣を振ったら斬撃が飛んだ?
斬撃の前に剣がぶっ壊れて飛んでくわ!
仮に剣が折れなくても、一方向にエネルギーが収束して発射されるなんてありえん。
それこそ次の可能性③の影響を受けているとしか考えられん。
というわけで③。
これが一番あり得る。
てかコレしかない。
いや、①を完全には否定できないんだけどさ。
それでの他の可能性よりはずっと現実的だ。
なんせ竜が保管していた剣だ。
何らかの不思議パワーがあってもおかしくはない。
むしろそうじゃないと説明がつかん。
結果:剣の不思議パワーのおかげでした。
よし、とりあえず謎は解けた。
え? ④?
……知らない子ですね。
冗談はともかく、④は簡単に証明できる。
あの時だけのミラクルだというなら、もう一度剣を振ればいい話だ。
という訳で剣を振ってみる。
今度は壁に向かって真横に一閃。
スパッッ!
剣を振った途端、触れてないはずの洞窟内の壁に切れ目が走る。
うん。飛んだ飛んだ。
飛んだので④は無し。
しかしこの剣、なんつー切れ味だ。
軽く振っただけで岩壁切り裂くだけでなく斬撃まで飛ばすとか、危険極まりないな。
まず攻撃以外の要素には使えねえぞ。
草を切ろうとして木の幹バッサリとかな。
強力過ぎて使えない。
前世でゆうところの核みたいなものか。
バナヴァルムの奴め、護身用かと思ったらとんだチート武器置いていきやがった。
しかしこの武器は心強い。
異世界に一人放り出された身としては、自分を守れる強い武器はありがたい。
でも威力が問題なんだよねえ…。
多分だけどコレ、真面目に振れば鉄も切れるよなあ…。
脳内シュミレートなう
街道を一人歩く俺。
↓
目の前に三人の山賊が!
↓
剣を横薙ぎに払う。
↓
三つの身体が六つになったよ。
だめだコレ。
過剰防衛すぎる。
よし、この剣封印しよう。
余程の事がない限りは振らないようにしよう。
一応威嚇用として持ってはいくけどね。
ところでさっきから何か忘れている気がする。
うーん。なんだっけ?
…………
あ! バナヴァルムの尻尾!
いくら死体とはいえ、切り飛ばしてそのままというのも後が悪い。
あーあ。どうすっかね?
そう思いながら切断面に目を向ける。
って、おや?
どうなってんだ?
てっきり骨と肉のぐちょりとした誰得な断面図があると思っていたのだが…。
そこには骨の白色も、血と肉の赤色もなく、錆色がだけがあった。
もしかしてバナヴァルムって中まで錆びついているのか?
なんだ、心配して損した。
元々死んでるから心配もなにも無いんだけどね。
とりあえずバナヴァルムの死体は問題ないだろう。
そう考え、俺はググッと伸びをする。
うーーん。
少し考えすぎたかな? 若干頭が痛い。
まあ、起きたら人外になってて、目の前に竜(死体)がいて、チート武器手に入れたら、そら頭つかいますわぁ~。
しかし考えなければならない事はまだまだある。
が、とりあえず保留にしよう。
とりあえず外に行こう。
ずっと洞窟にいたせいか、なんだか息が詰まる感じだ。
考えるのは歩きながらでもできるだろう。
そう考え俺は歩きだす。
どうやらここが最奥らしく、道は一つしかない。
バナヴァルムに背を向け、歩いてゆく。
本当はもっと考えるべきなのだろう。
身体の事。
剣の事。
この世界の事。
『魂技』の事。
しかし考えるだけじゃ始まらないのも事実だ。
今は十分考えただろう。
答えがでないのが大半だが、そんなのは後々考えればいいだけだ。
とりあえず歩こう。
考えた後は歩くのだ。
そうすれば新しい考えが生まれるかもしれない。
俺はバナヴァルムの死体を残し、外へと歩きだしたのだった。
参考までに私の執筆環境ですが、風呂上りにヘッドホンを着け、爆音で「U、Nオーエンは彼女なのか?」のアレンジメドレーを聞きながら、午後ティー(ミルク)を飲んで執筆しております。
故に超変な深夜テンションでの執筆作業なので、時折「何言ってんだコイツ?」という場面がでるかもしれません。指摘していただくと幸いです。