第3話 ~旅立ちと『魂技』~
遅れてすいません!
ポケモン楽しいです(言い訳)
ここは”ガルベルト王国”。
その最東に位置する”ナーバ地方”に、ため息をつく人物が一人。
ナーバ地方を治めるハンク・バッハ男爵である。
引き締まってるというよりは、痩せているというほうが適切な細い身体。しっかりと整えられた短い黒髪。顔には無精ひげが生え、鋭く細められた目には大きな隈ができていた。
「はぁ~……」
彼は再び、大きくため息をつく。
昨夜。通常どうりの業務をこなし、床に就こうとする彼の下に、一通の伝令が届いた。
――竜魔結界消滅――
それは、ナーバ地方に隣接する”リベラの森”。その最奥にある”リベラ山”の主――『純白の叡智』バナヴァルム――の消滅を意味する。
(嘘だろ?!)
沈みかけた意識が完全に覚醒し、彼は飛び起きた。
彼の驚きは当然のことである。
『竜魔結界』とは、数千年前、バナヴァルムがリベラ山を寝床とする際、周囲に張り巡らせた、強力な結界である。結界といっているが、『竜魔結界』は進退に制限を設ける類のものではない。『竜魔結界』の真の力は、結界内に魔素の活性化である。結界内の魔素が活性化したことにより、人間を含む、魔素に抵抗できない生物は生存できない環境となった。そして、魔素に馴染むことができる者――魔物にとっては、心地の良い環境のようで、力の無い魔物達は、バナヴァルムの庇護を求め、リベラの森に集ったのだ。しかし、バナヴァルムは配下を持たぬ主義で有名だった為、リベラの森に集った魔物達は、そこでの生活に従事するに留まった。こうして、リベラの森に、魔物達のコミュニティが誕生した。
そして、なぜ多くの魔物が生息するリベラの森の隣に、人間が国を興せたかというと、これも『竜魔結界』が関わっている。
人間は結界内に入れず、魔物は結界から出る必要がない。必然的に両者が出会うことはほぼ無く、ナーバ地方における魔物の被害は、年に一軒あるかないかである。
当然の備えとして、討伐隊の訓練は怠ってないが、一個小隊で、せいぜい豚人一頭討伐するのが関の山だ。
『竜魔結界』は、魔物達だけでなく、人々の生活にも無くてはならないものとなっていた。
魔物の脅威に怯えるはずの国が、平和ボケするほどに。
そんな中での竜魔結界消失である。
もし魔物達がこの国に攻めてきても、防ぎきるほどの兵力はないのだ。現実となれば、民を避難させ、兵と共に時間を稼ぎ、王都からの救援を待つことになるだろう。しかしそれは、魔物達が徒党を組んだ時の話であり、知能の低い魔物達が集団戦闘など、ありえない話であった。それでも、豚人一頭、否。粘性生物一匹ですら、人間の脅威になることは間違いない。
ハンクは、すぐに周囲の町や集落に避難命令を布き、それと同時に、王都へ戦力要請の伝令を走らせる。その後は、避難民の受け入れ先の手配。現兵力の再編。情報元である魔導観測所の役員との会議。それらが終わる頃には、朝日が昇り始めていた。
そして現在。ハンクは、次々と送られてくる書類を捌いていた。休む暇などあるはずもなく、その顔には、色濃く疲労が現れていた。
そろそろ休息が必要だなと思いつつも、その手は書類を捌き続ける。なにせ、少しでも対応が遅れれば、魔物による蹂躙が民を襲うかもしれないのだ。領主であるハンクには民を守る義務がある。故に休息するわけにはいかない。それに伴い、部下たちも不休で動いてもらっている。休日だった者には悪く思うが、これも仕事だと割り切ってもらおう。
(後で給金弾んでやればいいか)
少々ブラックなことを考えつき、部下への対処法が一区切りついたところで、部屋に扉を叩く音が響く。
「入れ」
書類を捌く手を止めず、部屋へ入るよう促す。
「失礼します」
そう言うと同時に、一人の男が部屋に入ってくる。
「現兵力の再編が終了しました」
敬礼をとりながら、ハンクに報告する男。ナーバ地方の兵士たちを纏める戦士長――ビード・フォルク戦士長である。大柄の体躯で、上質な鎧を身にまとっている。彫の深い顔は毅然としており、戦士としての風格を漂わせていた。そんな彼の顔にも、色濃い疲労が見て取れた。
ビードの姿を確認し、彼の報告を聞きながら席を立つと、備え付きのティーポットを手に取るハンク。
「ご苦労だったな。紅茶はいるか?」
「ああ。頼む」
ハンクの問いに軽く答え、ソファーに腰を落とすビード。本来ならば不敬に当たり、問題となる発言と態度だが、ハンクは気にしない。彼らは古い友人同士であり、お互いの理解者でもあった。
「大変な事になったな」
紅茶を淹れるハンクの背に話しかけるビード。それに苦笑いを含ませつつ、振り向くことなく答えるハンク。
「ああ。全くだ。忙しすぎて今にも倒れそうだよ」
「ははは。そしたら、シャロのお説教コースだな」
「それは……勘弁してほしいな」
その状況を脳裏に浮かべ、若干青褪めつつ、紅茶を淹れたカップを机に並べ、ソファーへ腰を落とす。
シャロは生真面目な女性で、物怖じせず、上司であるはずのハンクに様々な小言を言うのだ。
そんな彼女はハンクの副官であり、現在は状況の把握のため、彼方此方から送られてくる情報の処理に追われていた。
(後で彼女も労わなくてはな……)
彼女の場合は生真面目な性格もあり、仕事だと割り切ってしまいそうだが……。
シャロへの労いを考えつつ、紅茶を一口啜る。すると、一気に空腹を感じる。
そういえば朝餉の時間だな。そう思いつつも、食事をとる時間は無い。
「それで? 進展はどうだ?」
空腹に気を取られていたハンクの意識を、ビードの問いが引き戻す。
徹夜のせいか、意識がしっかりしない。
ビードにばれない様に気合を入れ直し、問いに答える。
「進展も何もあったもんじゃないさ。最悪のケースを想定し、打てる手を打っておく。俺にできるのはそれが限界だ」
「ま、それしかないよな」
ビード自身も理解していたのか、あっさりと納得し、それ以上の追及はなかった。
ビードが紅茶で口を潤し、口を開く。
「しかしよ、バナヴァルムの消滅は本当なのか?」
「ん?ああ。お前が言いたいのはアレだろ。”バナヴァルムが意図的に竜魔結界を消した可能性”だろ」
ビードの考えを先回りし、口にするシンク。ビートは片眉を吊り上げただけで、何も言わず紅茶を啜る。
その様子を確認し、ハンクは続ける。
「当然、俺もその考えはあったさ。それで、魔導観測所の役員共との会議の時訊いてみた」
「それで?」
「バナヴァルムの消滅は、あくまで最も可能性の高い推測にすぎない。だとさ」
「はぁ? なんだそりゃ」
怪訝そうに眉を寄せるビード。
だが、そのような反応になるのも無理はない。現在城の兵士達や市民に、領主の持つ強権を発動させ、こき働かせているのはナーバ地方領主であるハンク本人だ。その強権は”バナヴァルム消滅、及び竜魔結界消失による緊急事態”という名目で発動されている。それなのに、ハンクの口からバナヴァルム消滅は可能性の一つ――つまり、バナヴァルムが消滅していない可能性があると告げられたからだ。
もしバナヴァルムが消滅していなければ、ハンクは強権発動の責任を問われるだろう。
「お前なぁ……」
やれやれと呆れたように首を振るビード。なんだかんだ言いながら、ハンクの身を案じているのだろう。昔から粗暴ではあったが、根は良いやつだった。そんな古い友人に感謝しつつ、ハンクも紅茶を啜る。
「仕方ないだろ。バナヴァルム消滅が最も最悪なケースなんだ。言ったろ。打てる手は打つって」
「まったく。だから出世できねーんだよ」
「残念だが、保身しか考えない貴族のバカどもに下げる頭は持ってなくてな」
「お前も貴族だろ……」
再び呆れたように首を振るビード。ついでに空になったカップを振り、紅茶を注ぐように促してくる。上司であるハンクに対し、友人であるとはいえ、なんともふてぶてしい態度である。
昔からのことなので、今更気にしないのだが……。
ビードのカップに紅茶を注ぎつつ、ハンクは考える。
(最悪の可能性か。それは、バナヴァルムが攻めてくる事だろう)
そう思いつつも、口には出さない。たとえこの可能性を危惧しても、対抗策など無いからだ。
『七色の王』の一光。
『純白の叡智』――バナヴァルム。
正真正銘の化け物なのだ。
『魔王四影』という強い力を持つ魔物の王がいるが、彼の者達でさえ『七色の王』の足元には及ばないだろう。もちろん『魔王四影』の一柱でさえ、人間国家には脅威に違いない。
それほどまでに『七色の王』は強大な者達で構成されているのだ。
そんな規格外の力を持つ『七色の王』の中でも、最強と謳われているのが、『純白の叡智』バナヴァルムなのである。
そのバナヴァルムが小国であるガルベルト王国に攻めてくる。
笑えない冗談だ。ハンクは心の中で苦笑する。もしそうなれば、一夜と経たず、ガルベルトは無に帰すだろう。
故に対抗策は無意味。あるとすれば「逃走」だろう。それでも、数百人逃げれるかどうか。
そこまで考え、ハンクは思考を打ち切る。どうせ考えても無意味なのだ。ならば、今できる事をやろうと思考を切り替える。
ハンクには、領主として民を守る義務がある。たとえ、友の命を危険にさらそうとも。
「ビード。頼みがある」
「引き受けた」
内容も訊かずに即決するビード。自分には真似できない豪胆な決断をする友に、心の中で賛辞を贈る。
「いいのか?詳細も聞かずに簡単に引き受けて」
「他でもないお前からの頼みだ。この状況を打破するか、改善する為に必要な事なんだろ? だったら断る理由はねえな」
真顔でそう言ってくるビード。
「かなり危険な頼みだ。お前にも拒否権が――」
「いいつってるだろ。危険は承知の上だし、俺がいなくても兵の指揮は問題ない。なにせ、俺には優秀な副官がいるからな」
ビードはハンクの言葉を遮り、強引にハンクの頼みを引き受けようとする。さらに、自分がいなくなった後の兵の指揮を気にする辺り、ビードもハンクの頼みに検討がついてるようだった。
そんなビードに呆れ半分、尊敬半分の念を抱くハンク。
どこまでも頼りになる男だと思い、笑いだしそうな自分を抑えるため、紅茶を口に含む。
自分を信じてくれる友の為、ハンクも意を決する。
「わかったよ。指揮は大丈夫そうだし、お前に頼むよ。お前も察していると思うが、頼みたいのは、リベラの森の魔物の動向の調査と、バナヴァルム消滅の真偽だ」
「了解」
内容を聞いてもビードの決意は変わらず、快く了承する。
「わかってると思うが、くれぐれも無茶はするなよ。王都からの増援も、到着まで十日はかかるだろう。それまでに少しでも情報を持ち帰ればいい」
「わかってるって。出発は明日でいいよな? さすがに今からはきついぜ」
「ああ。後の事は俺に任せて、明日に備えて休んでくれ」
「おう」
今後の方針が決まったとこで、ビードはドアの前で直立の姿勢をとると、
「失礼しました」
そう言って部屋を出ていった。
最後はきっちり締めるのも、昔からであった。
ビードが去り、静かになった執務室でハンクは紅茶を飲み干す。
ガルベルトでは紅茶葉を生産している。しかし、需要を満たすことは常に無く、紅茶は貴重品として扱われている。
貴族であるハンクにも簡単に手が届く物ではなく、月に一回のお茶会を開くのが限度である。
そのため、残った紅茶を捨てるのも惜しみ、最後の一滴まで飲み干そうとする。
(そういうケチな発想するあたり、俺は貴族に向いてないな)
自虐混じりな考えをすると同時に、紅茶を飲み干しカップを片付けていく。
本来、非常事態であるこのタイミングに、戦士長兼、ナーバ地方の最高司令官であるビードを危険な任務に就かせるなど、ありえない愚策である。
しかし、こんな状況だからこそ、ビードに動いてもらうしかないのだ。
理由は二つある。
一つ目は、情報の不足である。
副官であるシャロや諜報員たちに情報を集めてきてもらっているが、それでも足りないのだ。
そもそも、彼女たちが扱っている情報は、避難の進展や、それに伴う問題などだ。
正直いって、自分たちの事で手一杯なのが現状だ。
足りない情報は多い。
その中でも、最も重要となるのが、ビードに頼んだ、リベラの森の魔物の動向である。
今は兵士たちによって、リベラの森周辺を警戒させているが、これは戦力の分散になってしまう。
ただでさえ魔物は人よりも強いのだ。
周辺を警戒させていれば発見は早まるかもしれないが、防御が薄くなる。そこを魔物たちに攻められれば、突破される可能性は高い。
魔物の動向さえ分かれば、兵士たちを集め、守りを厚くすることができる。故に魔物の動向を調べるのは重要な事なのだ。
では、何故ビードでなくてはいけないのか。
それは二つ目の理由が答えとなる。
魔物の動向を調べるということは、当然だが、森の中に入るということである。
森に入るといっても簡単な事ではなく、『竜魔結界』の影響もあり、千年以上も人が入っていない未開の地となっている。古い文献に森の様子が書かれたものがあるが、役に立つとは思えない。
そんな危険区域から情報を持ち帰るならば、それ相応の実力が必要となる。
森で生き残る為の知識はもちろん、いざという時の戦闘力も必須となる。
そんな実力を備えた者は、ハンクの知る限り、ナーバ地方にはビードしか適任がいなかった。
彼の持つ戦士長の肩書は伊達ではない。
確かな実力と経験を持つ、ナーバ地方最強の戦士。それがビードである。
ビードならば、たとえ豚人数頭に囲まれようとも、討伐は無理でも逃走はできるだろう。
そもそも今回の目的は討伐ではなく調査だ。情報さえ持ち帰る事ができたら、勝利といっても過言ではない。
それでも、危険であることに変わりはない。
豚人の討伐経験があるからこそ、ビードは豚人と戦えるのだ。逆をいえば、戦闘経験のない蛙人や小鬼には、苦戦を強いられるだろう。
だが、ビードほどの猛者ならば、一度の戦闘でコツを掴むはずだ。
未知の敵を学習し、対応する。
そんな天才的戦闘センスこそが、ビードを強者たらしめる理由である。
しかし悲しきかな。ビードほどの強者が苦戦する豚人や蛙人等の魔物でさえ、森の中では下位種族である。
森の奥深くに生息する上位種族には、戦闘どころか、逃走も許されないかもしれない。
バナヴァルム消滅の真偽を確かめるならば、森の奥にあるリベラ山に向かわなければならない。それは、森の上位種族たちの生活圏を横切る必要がある。
当然、集団での行動はできない。
必然的に単独での行動となる。
故にビード単独の任務となったのだ。
「は~……」
もはや何度目かわからないため息をつくハンク。
正直にいえば、バナヴァルム消滅の確認は無理だと思っている。
危険性もあるが、十日という時間制限もある。
十日後にやってくるであろう王都からの増援を迎える際、戦士長であるビードが不在なのは、さすがにマズイ。片道五日でリベラ山まで行くのも不可能だろう。
王都から派遣される増援も、バナヴァルム消滅の真偽を訊いてくるだろう。
ここはもう、ハンクが責を負うしかない。
強権を発動したときから覚悟はしていた。
ビードも理解しているだろう。
だからこそ、何も訊かずに任務を受けたのだ。
後は信じるのみ。
そして、自分は出来る事をやるだけだ。
ハンクがそう結論付け、書類を片付けようと机に着くと同時に、ノックが響く。
「入れ」
言うと同時に扉が開かれ、シャロが――書類を山のように抱え――入るのを見て――
「はぁ~~……」
と、今日最大のため息をついたのであった。
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―――目が覚める。
ん?ここはどこだ。何やら地面がゴツゴツするし、天井は岩だらけ。
我が愛しき布団は何処へ?
なんて思っていると、頭が覚めてくる。
ああ。思い出した。確か俺、転生したんだ。
バナヴァルムと色々話して、魂の定着を待つ間に一眠りしたんだ。
夢じゃなかったんだね。
悲しいような、安心したような、よくわからない気分だ。
なんて、意味の無い感傷に浸ってると――
――――魂の定着を確認。
『魂技』――『魔書作成』を獲得。
『魂技』――『従犬守護』を獲得。
強力な魂を確認。
『仮魂技』――『白』を獲得。
竜種の魔力を確認。
『魂技』――『従犬守護』が進化します。
『魂技』――『竜人』を獲得。――――
いきなり心の中に声が響く。
なるほど。これが”魂の声”か。
事前にバナヴァルムが教えてくれたおかげで、戸惑うことなくスンナリ受け入れられたよ。
でも、問題がない訳では無いんだ。うん。
『仮魂技』? 『魂技』の進化?
ははは、バナヴァルム。『魂技』の事しか言ってなかったよな?
聞いてねーぞ! チクショウめ!
やっぱりバナヴァルムは肝心なとこで抜けてやがる。
仕方ない。こればかりは自分で解明するとしよう。『魂技』の使い方は簡単に解るとバナヴァルムも言ってたし。
それで?『魂技』の使い方はいつ解るんだ?
なんて思うと同時に、『魂技』の使い方が頭の中へと流れ込んでくる。
おお。なるほどなるほど。確かに、”教わる”というよりは”思い出す”といったほうが正しい感覚だな。
まるで、過去に実際に経験していた様な感じ。
で、解ったことは――
『魔書作成』
『書棚』:周囲の魔素を取り込み、保存が出来る。
取り込んだ魔素は任意にて解放可能。
許容量有。
『読込』:取り込んだ魔素を解析する。
量、及び質によって解析時間が異なる。
『創作』:保存した解析済みの魔素を統合する。
統合した魔素は『魂技』――『魔書』となる。
統合する魔素には条件有。
『竜人』
『加護』:自身に忠誠を誓う者の強化を促す。
『崇拝』:『加護』の影響下にある者の力を行使可能となる。
こんな感じ。
ぶっちゃけよく解らない。
まともに使えそうなのは『魔書作成』の『書棚』と『読込』ぐらいかな。
この世界を知らない俺にとっては、『読込』の解析能力は重要だろうし。
ちなみに、『従犬守護』に関しては何も解らなかった。『竜人』に進化したからだろうか?まぁ、使えもしない『魂技』を知っても意味はないだろうし、良しとしておく。
『竜人』に至っては全く使えない。
なにせ、俺に忠誠を誓う者なんていないからだ。
一般ピーポーである俺に忠誠を誓うなど、狂気の沙汰である。
何やらカッコイイ名前の『魂技』を手に入れたと思い、ワクワクしていたが、拍子抜けだ。
なんか損した気分……。
まあ、微粒子レベルで俺に忠誠を誓う者がいるかもしれないし、頭の片隅に入れておくとしよう。
で、『仮魂技』――『白』については――
『白』
『白色』:白の魔力が使える。
と、なっている。
なにこれ?
白の魔力が使えるってのは分かるんだが、そもそも白の魔力とは何なんだ?
しかし、いくら考えても答えは解らない。
仕方あるまい。検証あるのみだ。
できれば魂の声が教えてくれれば楽だったんだが、さすがに甘えすぎか。
今の情報だけでも十分有難いのだ。後は自分の努力しだいである。
そして『仮魂技』を獲得した事についてだが、実は予想がついている。
『仮魂技』獲得の際、魂の声が「強力な魂」と言ってたが、それはバナヴァルムのことではないだろうか。
あいつ、自分の事『純白』とか言ってたし。俺にバナヴァルムが憑依していることも考えれば、十分に可能性はあると思う。
まあ、俺が不利になるような事がないなら問題は無い。
結局のところ、全ては身体が動くようになってから、と思い『魂技』の確認と考察を終えたところで、俺は気付く。気付いてしまった。
俺、天井見えてんじゃん……。
真っ暗なはずの洞窟で、はっきりと天井を映す俺の目。
そういえば、目が覚めて最初に天井がみえたなぁ……。
なんで気が付かなかったんだろう。
ほら。あれだ、寝起きだったし。寝ぼけてたんだよ。うん。
誰か見てるわけでもないのに、言い訳をする。
言い訳した事で、自分の中でこの失態を無かった事にし、ちょっと考えてみる。
なんで天井が見えるんだろうと。
確か眠る前に、バナヴァルムと『竜眼』に挑戦したが、あの時は天井の一部が見えるだけだった。しかも集中しないと見れなかったはずだが……。今は全く集中してないし、目に映る範囲に天井が見えている。
うーん。どうなってるんだ?
――――スキル『竜眼』を獲得しました。――――
あ、はい。
悩んでいたら、魂の声が答えを教えてくれました。
どうやら『竜眼』を完全にモノにしたらしい。それで意図せずに周囲が見えるようになったのか。
てか”スキル”ってなんだよ。
バナヴァルムの奴、説明不足にも程があるだろ。
あ、でも、一応十日かけて説明する予定だったんだっけ。
予定が早まったから、必要最低限しか教えられなかったのか。
いや、でも、俺悪くないよな?
元々バナヴァルムの計画なんだし。
うん。そういうことにしておこう。
結論:全部バナヴァルムが悪い。
よし。悪者も分かったことだし、俺は俺のことに集中しよう。
で、スキル『竜眼』?
『魂技』とは別物っぽいけど、何だこれ?
確かバナヴァルムが言ってたな、魔素が見えるようになるとか何とか。
まあ、使い方は魂の声が教えてくれるし、考えるのはその後だ。
と、思い、少々待ってみるが――
…………
………
……
あれ? 魂の声が聞こえない。
もしかして、使い方教えてくれんのって『魂技』だけ?
つかえねー!!
仕方ない。これも要検証だな。
検証するにも身体が動かさなければならない。
魂の定着は終わったみたいだし、そろそろ動けるかな?
そう思って上半身を起こそうとすると、何の抵抗もなく身体を動かせた。
すると、当然だが自分の脚が見える。
見えるはずだった。
「…………」
あまりの事に呆然としてしまう。
なんだコレ?
いやいや、目の前にあるのが俺の脚なのは解ってるんだ。
ただ、なんで真っ白な鱗に覆われているんだ?
まるで蛇の様に鱗に覆われた脚。
思わず手で触ろうとする。
しかし、その手も俺の視界に入った途端停止する。
手から肩にかけて、脚と同様の鱗が覆っていた。
「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
※H29.2.5
シンク・バッハ男爵
↓
ハンク・バッハ男爵
以上の様に変更しました。
理由はしばらく先で分かると思います。