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竜の卵と異世界ライフ  作者: がっぴー
2/8

第2話 ~バナヴァルムと思惑~

遅くなりました。

週一投稿嘗めてました。

仕事が忙しくなりそうなので、不定期投稿とさせていただきます。

 4時間程話し込んだだろうか。俺とバナヴァルムの念話は白熱していた。

 

 (なんだと!では”ひろいん”は他の男の元にいったというのか!?政略結婚が行われてしまったのか!?)

 (いやいや。本当はそうなるはずだったんだが、そこはヒロインも学習していてね。二度同じ轍は踏まないってわけだ)

 (むぅ……だが、政治的にも、金銭的にも逃げ道はないはずだ)

 (確かに。だがそれは、政治と金に囚われている思考だな。思い出してみろ、ヒロインの生まれ故郷はどこだ?)

 (む?たしか、農耕と漁業が盛んな…はっ!)

 (ふっふっふっ。バナちゃんも気が付いたようだな。そう、”食糧”を交渉につかったのさ)

 (なるほど。その手があったか。しかし、それは実現可能なのか?)

 (可能ではあるが、本来なら絶対にしないさ。貿易の要である食糧を閉ざしたら経済面が、国の許可も取らずに貿易を閉ざしたら政治面が危うくなる。だが、この計画の発案者は、数多の貿易商を取りまとめるヒロインの父親だったのさ)

 (な、何ぃ!?なぜだ!そもそもこの政略結婚は”ひろいん”の父親が原因だろう!)

 (最後に父親としての情が出たのさ。厳しくしていたが、大切な一人娘だからな。幸福は無理でも、不幸にはしたくなかったんだろう)

 (ふむ……しかし、いくら”ひろいん”の父親でもいきなり貿易を止めるのは不可能だろう。命令はできるだろうが、素直に従うわけがない)

 (それはヒロインの父親もわかっていたさ。金銭面にも余裕のないヒロインの父親は人情に賭けたんだ。部下はもちろん。貿易にかかわる人間全員に頭を下げたんだ。最初は誰も納得しなかった。しかし人目も気にせず頭を下げ続けるヒロインの父親に、少しだけならと、協力者が増え始めたんだ)

 (あの傲慢な”ひろいん”の父親が頭を……)

 (こうして、ほんの少しだけだが、政略結婚まで猶予ができたのさ)

 (そ、それで、”ひろいん”はどうしたのだ?政略結婚まで時間があるといっても僅かしかない。なにか行動しなければ問題は解決せんぞ)

 (まあまあ。そう焦るなよ)

 (焦るだと?我は焦ってなおらぬ。なにせこの”ひろいん”という人間の雌は、窮地に立たされようとも諦めず、常に状況を打開してきたではないか。我は今回も”ひろいん”が政略結婚という悪質なる罠を華麗に突破すると信じておる!)

 (信じてもらって悪いけど実は――)

 (な、何!?まさか”ひろいん”は政略結婚してしまったのか!?)

 (いや、そうじゃない。実は俺、この先の話を知らないんだ)

 (な、どういう事だ!?)

 (どういう事も何も、知る前に死んだからね。俺)

 (な、なんだとぉ!?これでは生殺しではないか!)

 (ま、そういうわけだから。あきらめたまえ)

 (ぐぬぬぬ……)


 悔しそうに呻くバナヴァルム。

 え?何の話をしてるかって?


 実は最初に、俺がどうやって転生したかの説明をしてくれたんだが、魂の拡散がどうだとか、肉体の形成率がどうだとか、小難しい話ばかりで、理解が追い付かなかったのだ。

 要点だけまとめると――

 

 魂:生命体の核ともいえるもの。とても脆い。普段は肉体と繋がっているが、肉体が死ぬと繋がりが断たれ、大気中に放出される。大気中に放出された魂は霧散し消滅する。

 

 肉体:魂の器。俺の肉体は死に、放出された魂をバナヴァルムが召喚したのだとか。今は新しく造った俺の肉体に魂を入れたそうで、体が動かないのは、魂が完全に肉体に定着してないからだそうだ。


 と、なっている。

 これだけの情報を手に入れた時点で、俺は完全に飽きていた。

 他に面白い話はないかとバナヴァルムにいうと、ブツブツ文句を言いながらも昔話をしてくれた。


 ――姫と悪魔の駆け落ち――


 なんと心躍る話だろうか。これは期待できる。

 今ではお伽噺として伝わっているそうだが、バナヴァルム曰く、千年以上も前に実際にあったことらしい。

 しかも、その話に登場する悪魔と実際に会っているんだとか。

 駆け落ちする前だったらしいが……。

 いやはや、知を司るだとか、原初の竜だとか胡散臭いこと言っていたが、本当かもしれない。もしかして、バナヴァルムって結構大物だったりするのかな?俺の中でのバナヴァルムの評価が若干だが上がったのだった。

 そんなこんなでバナヴァルムの昔話を聞いていたのだが、その話は悲惨なものだった。

 千年以上も前の話だ。内容が多少グロテスクになるのはしょうがない。

 俺が悲惨だといってるのは、バナヴァルムの『語り方』だ。

 普通にお伽話を語ってくれれば良いのに、バナヴァルムの奴、中途半端にその悪魔を知っているからか、話の途中に「などと伝わっておるが、あの悪魔の性格では云々。」だとか「あの悪魔は何々だから、ここでの行動は云々。」などと、話の腰を折っては邪推をいれてきやがる。

 俺はその悪魔とやらを知らないから反論もできず、「ああ、うん。そうなんだ。」と、適当に相槌をうっていた。

 終いには「というような話が伝わっておるが、あの悪魔が人間と結ばれるなどありえんだろうから、この話は作り話であろうな。」なんて言いやがった。

 俺の中で若干上がったバナヴァルムの評価が一気に下がっていった。

 かなり期待して聞いてたからか、内心煮え切らない思いでいっぱいだ。

 そして俺はお返しとして(決して憂さ晴らしではない。いいね?)、完結していないコッテコテの恋愛マンガ(少女マンガ)の内容を語ってやったのだ。

 

 ――そして今に至る。

 話していてわかったが、バナヴァルムは良いやつだった。自分の話を優先させるとか言いつつ、俺の為に昔話をしてくれるし、今もこうして俺の話に付き合ってくれてる。バナヴァルムの名前がいいにくいからとあだ名を付けた時も、一悶着あったが、なんだかんだで了承してくれた。

 言葉使いは偉そうだが、知らない事や知らない言語がでてくると、何だ何だと興味を示してくる。

 物心がついたばかりの子供を連想させるほどのはしゃぎっぷりである。

 そして驚いたことに、バナヴァルムは人間の政治や経済を理解していた。

 「簡単な事だけだがな」とバナヴァルムは言っていた。

 やけに人間に詳しいが、この世界では竜が人間を理解するのは普通の事なのだろうか。

 俺の中で消えていたはずの『バナヴァルム人間説』が浮上してきた。

 バナヴァルムが竜という証拠はないからな。実際にその姿を見ることができたらいいんだけど……俺の魂はいまだ体には定着しない為、目はいまだ利かず、あたり一面は暗闇のままだった。

 目を動かすことはできるんだけどね。

 どうにかならないかと思いながら体を動かそうとしてみると――


 カリッ


 爪がなにかを引掻く感触。手の指がわずかだが動いたのだ。

 

 (おお!おい、バナちゃん。やったぜ!指が動いた!)


 動かないと思っていた体が動き、つい身近な人物(竜物?)へ報告する俺。体が動くって素晴らしい。

 なんとも喜ばしい俺の近況だが――


 (何?動いたのか?)

 (ああ。ちょっとだけだけどな)


 そういうなりバナヴァルムは黙り込んでしまう。

 え?なんかマズった?

 もしかして魂の定着ミスった?それはやばい。バナヴァルム曰く、うまく定着できなかった魂は歪み、なんらかの異常が表れるんだとか。

 最悪の場合、肉体から魂がはじき出され、霧散し消滅する。つまり死ぬ。

 バナヴァルムが最初の説明で「そんなことはないだろうがな」とか言うから、楽観視していた。

 気まずい沈黙。数分程しかたっていないはずだが、随分と永く感じる。


 (お、おーい。バナちゃーん?バナヴァルムさーん?聞こえて――)

 (貴様。本当に体が動いたのだな?もう一度動かせるか?)


 沈黙に耐えられず、話しかけた俺の言葉を遮るようにバナヴァルムが質問してくる。

 声の調子から先ほどまでの余裕が消えていた。むしろ緊張感が漂っていた。

 どうやら真面目モードに突入したらしい。ここは俺もふざけずに真面目に答えるとしよう。

 

 カリリッ


 再び指を動かしてみると、同じように動いた。しかも若干動かしやすくなっている。


 (動くみたいだ。しかもさっきより楽に)

 (むぅ……)


 またしても黙り込んでしまうバナヴァルム。

 勘弁してほしい。なんだかんだ言いながらも現状ではバナヴァルムだけが頼りなのだ。こんな状況でバナヴァルムが黙り込むとか不安で仕方がない。


 (おいバナヴァルム。黙り込まないで説明してくれ。もしかして、魂の定着がうまくいってないのか?)

 (うまくいっていなのではない、うまくいきすぎておる(・・・・・・・・・・)のだ)


 はい?”うまくいきすぎている”ってどういうことだ?

 

 (計画の前倒しだ。これより全ての計画を進める。志して聞くがよい)


 理解できない俺を置いて、どんどん話を進めていくバナヴァルム。


 (ちょ、ちょっと待てって。一体どうしたんだよ)

 (本来魂の定着には十日程かかる見込みだったのだ。指先ひとつ動かすにも五日はかかるだろうともな。 その為、我等(・・)は十日かけて貴様にこの世界を理解させる算段だったのだ。

 しかし貴様は、半日と経たずに指先を動かせるようになった。

 このままでは二日と経たずに全身を動かせるようになるだろう。

 故に我は計画を早め、一日で貴様にこの世界を理解させるつもりだ)


 俺の疑問に対しに答えてくるバナヴァルム。つまり予定よりも早く魂の定着が進んでいて、バナヴァルムは焦っているわけか。でもそれって――


 (別に急ぐ必要ないだろ。俺の魂の定着が終わってからでも説明はできるだろ?)

 (それでは駄目なのだ。我は貴様の魂の定着が終わるまでに事を成す必要がある)


 どうやら何か予定があるらしい。それも”計画”の一部だろうか。


 (計画っていうのも説明してくれるのか?)

 (無論。そもそもこの計画は貴様が核となる)

 (は?俺?)

 

 突然の指名に戸惑ってしまう。

 しかし、考えてみればそれもそうだ。何の理由もなくバナヴァルムが俺を召喚するとは考えにくい。

 となると――


 (最初から俺は計画の一部か……)

 (そうだ。故に貴様は聞かなくてはならぬ、我の目的を)

 

 どうやら逃げ道はないらしい。

 そもそも体が動かないし、生殺与奪はバナヴァルムが握ってるものだしね。

 ここは言うことをきいておこう。


 (しゃーねーな。わかったよ。協力すればいいんだろ。それ以外選択肢はなさそうだしな)

 (理解が早くて助かるぞ。ではまず我の目的だが、それは”転生”することだ)

 (転生?俺と同じように?)

 (貴様のとは違うな。最初から説明しよう。まず、我はすでに寿命を迎えておる。)

 (え?お前死んでんの?)

 (話を最後まで聞かんか。


 

 ――百年程前、我は自分の死期を悟った。

 太古に生を受け、今に至るまであらゆる知識を蓄えた。

 我は自分の生に満足していた。このまま我も世界の理に従い生を終えるのだろうと。

 しかし我は出会ってしまった。

 貴様と同じ異界人に。その者は『サクラ マイ』と名乗り、我に接触してきた。

 そしてマイは我にこういった。「世の理を知らぬ哀れな竜よ。私の話を聞きなさい」と。

 我は困惑した。そもそも我に近づける人間などおらん。そのうえ我、『純白の叡智(アカシックブラン)』のバナヴァルムに向かって世の理を知らんとほざく者など、この世にはおらんからだ。

 最初は自殺志願の魔人かとも思うたが、それは間違いであった。

 なんとマイは我しか知らぬであろう世の理を語りだしたのだ。

 ただの魔人、否。魔王でさえ知らぬであろう世の理を。

 我は困惑すら忘れ、マイの話に聞き入っていた。

 これが我と”マイ”の出会いだった。

 それからというもの、マイは我に多くのことを語った。

 異世界のこと。人間のこと。この世界に生きる小さき者達のこと。

 我は知らなかったのだ。そして知ってしまった。この世にはまだ知らぬことが多くあると。

 我は嘆いた。あと百年と待たず朽ちてしまう我が肉体がなんと恨めしいことかと。

 そんな我にマイがある計画を持ち掛けてきたのだ。

 それは我の”転生”であった。

 魂に刻まれた知識と共に、我の魂を新たな肉体に憑依させるものだ。

 数多くのリスクと制約があるが、我に迷いはなかった。嬉々としてその計画に賛同したのだ。

 そして我は、マイと共に転生の準備をはじめたのだ。

 術式はマイが、必要な素材と魔力(エネルギー)は我が準備した。

 しかし問題が生じた。

 我の肉体の再現が絶望的なまでに不可能だったのだ。

 我が肉体は魔素で構築されておる。長年利用した我が肉体は我自身の魔力に完全に馴染んでしまっておった。そして我が魂も我が肉体に馴染んでおった。

 つまり我が魂は、新しく造った我が肉体には馴染まなかったのだ。

 新しい肉体を我が魔力に馴染ませるには多くの時を要する。

 そしてその時には、我等に時間は残されておらんかった。

 計画を変更するしかなかったのだ。

 そこで我は肉体を持たず、魂のみを固体化したもの、『竜核』となることにした。

 しかし、この状態になれば我は一切の行動を封じられ、戦闘能力はおろか、意識すら失ってしまう。

 『竜核』さえ無事ならば、時と共に我が肉体は形成され、意識を取り戻してゆくだろうが、それがいつになるかは解らぬ。

 そして『竜核』が無事である保証はないのだ。

 我とマイは苦肉の策として、一つの術式を作り上げた。

 それが貴様をこの世界へと呼んだ術式、”異次元転移門(ディメンションゲート)”だ。

 そして貴様の使命は、この世界にて”生き延びる”こと。

 『竜核』となった我が再び肉体と意識を取り戻すその日まで、我を守り抜くことだ。

 それが――



 ――それが貴様を呼んだ理由だ)

 (……)

 (……)

 (……ZZZ)

 (って、おい!貴様ぁ!静かに聞いておると思えば寝ておったのかぁ!)

 (え?ああ。大丈夫大丈夫。ちゃんと聞いてたよ。うん)

 (嘘をつくではない!現に貴様は――)

 (大丈夫だって。要は俺が死ななければいいんだろう?)

 (むぅ。そうではあるのだが……)

 

 なにやら釈然としないバナヴァルム。

 しかし『サクラ マイ』か――まさか俺を異世界に呼んだ元凶は俺の同郷者だったとは。

 漢字にしたら『佐倉 舞』かな?

 バナヴァルムの説明だけでは解らないけど、恐らく日本人。それも百年前の。

 どのようにしてこの世界にきたのだろう。

 俺と同じ様に召喚されたのだろうか。

 だとすればこの世界には同郷者が何人かいるかもしれない。

 身体が動くようになれば探しに行くのもいいかもしれないな。

 さて――バナヴァルムは一日でこの世界を理解させるといってたな。

 ならば残りは――

 

 (お前の目的はわかった。で、残りは俺の疑問に答えてくれるんだな?)

 (そうだ)

 (ならさっきの説明の補填から始めるか。あれだけじゃ全然理解できんからな)

 (貴様。やはり寝て――)

 (寝てないから。お前の説明だけじゃ繋がりがわかんないんだよ)

 (繋がり?どうゆうことだ)


 バナヴァルムの話は繋がらないものがある。

 それは――

  

 (転生さしてもらってなんだが、俺を召喚する理由がない)

 (む?だから我が『竜核』を守る為と――)

 (それだ。『竜核』を守る為というが、俺を召喚する必要性がない。なぜなら、他の者、つまりこの世界に生きる者で代用できるからだ)


 そう。『竜核』を守りたいというのなら、この世界を何も知らない初心者である俺よりも、この世界を熟知している既存の者達に頼むべきだろう。

 わざわざ異世界人を召喚しても、すぐに死んでしまっては意味がない。

 ”生きる”という目的を達成するならば、既存の者達のほうが圧倒的に有利のはずだ。

 そこまでバナヴァルムに説明すると――


 (確かに貴様のいうとおりだ。だが異世界人でなくてはいけぬ理由があったのだ。たとえば貴様なら、自身の命を他者に預ける場合、どのような事を危惧する?)


 自分の命を他人に預けるときに危惧すること?

 そんな状況になったことなどないので、少々考え込んでしまうが、やっぱりまず――


 (裏切り――かな)

 (そう。裏切りだ。我はそれを危惧したのだ)


 おっと。まさかの正解であった。

 しかしまだ解らない。なぜ裏切りと異世界人の召喚が繋がるのだろうか。

 

 (何で裏切りと俺の召喚が繋がる――)


 バナヴァルムにその疑問を投げかけたとき、俺は閃いた。

 俺は元の世界で肉体が死んで、魂だけがこの世界にやってきた。

 そのやってきた魂は間違いなく俺だ。

 確証はないが、”我思う、故に我在り”という言葉があるとおり、俺という意識が在るからには、俺は俺だ。偽りであろうと関係ない。

 だが肉体は?

 この世界に俺の肉体は存在しない。

 それなのに俺の魂が消滅しないのはバナヴァルムと、恐らくは舞さんが俺の新しい身体を造ってくれたおかげだ。 

 肉体を造ってくれたことには感謝している。命の恩人(恩竜?)みたいなものだしね。

 だが、肉体を造ったということは、細工することだって可能なはずだ。

 たとえばそう、<呪い>をかけたり。

 生前では鼻で笑っていたものだが、この世界ではそうもいかない。

 なにせ竜(未確認)や魔法が登場する世界だ。呪いがあっても不思議ではない。むしろあって当然だろう。

 そして、俺が素直に言う事をきかぬ可能性がある以上、呪いをかけるのは必然。

 バナヴァルムの奴め……今までの念話で、話好きの気さくな竜だと思っていたが、とんだ間違いだった。

 長く生きてきたというのは伊達ではないようだ。こんな狡猾な罠を仕掛けてくるとは。

 バナヴァルム許すまじ。

 しかし悲しきかな。呪いの可能性に気付いたものの、俺は呪いに抗う術はないのだ。

 だがそこで諦める俺ではない。

 俺は一度死んだ身。バナヴァルムの呪いに屈するくらいなら、潔く死を受け入れてやる。


 (俺はお前の呪いには屈しないぞ!さぁ早く殺せ!)


 姫騎士も笑顔でうなずくであろう見事な「くっ殺!(屈殺!)」であった。

 しかし、そんな俺の覚悟を嘲笑うかの様にバナヴァルムが――


 (ん?呪い?ああ。確かにマイが呪いをかける案をだしたが、我の想いとは反するものでな。故に貴様に呪いはかかっておらん。安心するがいい)


 と、いった。

 え?呪いかかってないの?それが本当だったら今の俺ってものすごく恥ずかしいんじゃ……。

 だ、大丈夫。まだバナヴァルムが嘘ついてる可能性があるし。

 幸いにもバナヴァルムは俺の内心には気付いていない。

 まずは当初の疑問を答えてもらおう。

 きっといつかボロが出るさ。

 

 (え、えっと。呪いがないのはわかった。けど、何で裏切りと俺の召喚が繋がるんだ)

 (ふむ。それは貴様の今の状況に関係する。今の貴様は魂の定着の最中。肉体を貴様の魂で満たしておるのだ。言い換えれば、今、貴様の肉体には隙間があるのだ。)


 俺の期待(願望)とは裏腹に、まともな答えを返してくるバナヴァルム。

 うん。もう認めよう。俺が間違っていたって。

 そしてバナヴァルムの話をちゃんときこう。

 人間、反省と切り替えが大切である。

 

 (『竜核』とは我が魂を固体化したもの。つまりは”物質”なのだ。過度な衝撃を加えると簡単に砕けてしまう。そこで我は、魂と肉体の隙間に『半竜核』として憑依することにした。そうすれば我は一つの魂として存在できる。しかし問題がある。それは、肉体に魂が定着していると憑依できんということだ)

 (ああ。なるほどね。魂として肉体に憑依してしまえば裏切りも関係ないってことか。で、一日っていうタイムリミットは、俺の身体に憑依する為の時間だったのか)

 

 納得である。なにせ裏切り=自分の死である。よほどの事情がない限りは裏切りのメリットが発生しないだろう。

 そして一日間というタイムリミットの理由もわかった。

 バナヴァルムは、俺の魂が身体に定着するまでに、魂と身体の隙間に憑依するつもりなのだろう。

 物質になってしまう『竜核』の弱点と裏切りを、見事に回避した素晴らしい策であった。

 さっきは酷いこといってごめんね。

 心の中でバナヴァルムにこっそり謝罪しておく。


 (これで異世界人である貴様を呼んだ理由がわかったな?。我の『竜核』の器として、そして我の復活までの『守人』として貴様は呼ばれたのだ)

 (ふーん。とりあえず俺は自由にしていいんだよな?)

 (構わん。ただし死ぬことは許さん)

 (まあ極力死なないようにはするけどさ、俺はただの人間だぜ?死ぬときは簡単に死ぬし、寿命だってある。あんまり期待しないでくれよ?)

 

 バナヴァルムは生き延びることを前提で話を進めているが、たとえ転生しようと俺はただの人間。

 前世では大きな鉄塊を避けれずお陀仏した男だ。正直異世界でまともに生きられる自信はない。

 それに寿命もある。俺の寿命が尽きる前にバナヴァルムの意識が戻るとはかぎらないのだ。

 そういえば、バナヴァルムの魂が憑依したまま寿命が尽きたらどうなるんだろう。

 そんな考えが頭を過ったとき、バナヴァルムの哄笑が響いてきた。


 (クッハハハハハハハ!安心しろ。そこは我等とて考えておる。貴様の肉体は人間とは比較にならぬほど頑強にできておる。そんじょそこらの雑魚共には傷一つつけられんほどにな。無論、寿命も延びておるはずだ。)


 お、おう。急に笑い始めたから吃驚してしまった。

 しかしバナヴァルムは自慢げに話ているが、俺としては聞き逃せない情報だ。

 人間とは比較にならないほど頑強にできている、だと?

 それって、俺の身体は人間じゃないっていってるようなものじゃないか!

 そもそも人型なのか?

 そう思い身体の状況を確認する。

 どうやら魂の定着は順調に進んでいるらしく、上半身の触覚、つまり地面との接触は感じることができた。

 触覚から推測するに、上半身は人型をしているようだ。

 よっかた。心から安堵する。

 でも、問題は下半身なんだよなぁ……。

 いまだに触覚一つ感じられない。

 頼むから蛸みたいな触手がいっぱい生えた足とかやめてくれよ……。

 そんなことを願いつつ、俺の身体の製作者であるバナヴァルムに、身体の全貌をきいてみると――


 (む?恐らくは人間と同じ姿をしているはずだ。すまぬが、我は貴様の肉体を実際には見ておらんのだ)

 

 そんな答えが返ってきた。

 あん?どういうことだ?俺の身体の製作者が俺の姿を見ていないだと?

 俺が疑問を抱えると同時に、バナヴァルムが答えをいった。


 (実は貴様の肉体を造っている最中に我の寿命が尽きてな。今の我は肉体を変質させ、魂の器としての機能に特化させた肉体に留まっておる。マイの魔法での補助もあり、我は魂だけの状況で生き永らえておるのだ。当然、外の状況を確認する術はない。貴様の肉体が完成したということだけは、マイからきいておったのだ)


 なるほど。最初に言っていた寿命を迎えているというのはそういった事情があったのか。

 それにしても、一応は人間として身体は造ってくれたらしい。

 とりあえず一安心。

 そういえば――


 (なあ、マイさんって今どこにいるんだ?)

 (ん?マイか?それは知らん。我の転生の準備が終わってからは会っておらんからな。自室に籠っておるのか、それとも旅に出たのか。どちらにせよ生きてる確率は低いだろう。人間として生を終えたいと言っておったからな)


 ふむ。確証はないが、やはり死んでいたか。そりゃあ百年前の人だもんね。

 低い確率で生きているかもしれないらしいが、まあ、俺には関係ないことだ。

 

 (さて、時間も無くなってきた。我からはあと二つ説明したいことがあるのだが、貴様は問題ないか?)

 (え?もうそんな時間?まあ、お前の話優先って約束だったしな。細かいこと訊きたかったけど、しゃーない)


 どうやら俺が気付かないうちにかなりの時間が経ってしまったようだ。まだまだ訊きたいことがあったんだけどな。恐らく最初の雑談がなければもっと訊けたんだろうけど、過ぎてしまったことはしょうがない。

 バナヴァルムの話を聞くとしよう。


 (ふむ。では、この世界の力の一つ、『魂技(ソウル)』についてはなそう。『魂技(ソウル)』とは、いわば一つの能力。個々が持つ魂の力だ)

 (ん?ごめん。よくわからない)

 (では質問だ。魚は空を飛ぶか?)


 んん?訳が分からないぞ。いや、質問の答えが解らないわけではなく、質問の意味が解らない。

 そりゃあ魚は空を飛ばないだろう。厳密にはトビウオのような魚もいるが、ここは素直に答えるとしよう。


 (まあ、空は飛ばないな)

 (そのとおり。では鳥は?)

 

 バナヴァルムは何がいいたいのだろうか。とりあえずここも素直に答えよう。ダチョウとかは無視していいんだよな。


 (飛ぶな)

 (そのとおり。つまり生物には可能な事と不可能な事が存在する。しかしこれを覆すのが『魂技(ソウル)』だ。『魂技(ソウル)』の力があれば、魚は空を飛び、鳥は水の中で行動できるようになる)

 (え。凄くね。それ)

 (当然、簡単に獲得できるものではない。明確な条件は不明だが、強い思いや、経験が鍵となって『|魂技』を獲得できるのだと我は推測しておる)

 (はえぇ……)


 なかなか凄い話を聞いて若干放心してしまった。

 いやはや。本当に凄い。なにせ、”不可能を可能にする力”なのである。凄くないはずがない。

 折角異世界にやってきたのだ。俺もその『魂技(ソウル)』と獲得してみたいものだ。

 しかしバナヴァルム曰く獲得はかなり難しいとか。

 まあ、生きていればそのうち獲得できるかもしれないし、気長に待っておくとしよう。


 (人間はそのほとんどが『魂技(ソウル)』を獲得しておらん。そういう点では貴様は幸運だろう。なにせ、その身体には我の魔力(エネルギー)が大量に使用されておる。我の力の一端を引き継ぎ、魂の定着と同時に『魂技(ソウル)』を獲得できるであろうからな)


 遠くを見据えはじめた俺に、爆弾発言をかましてくるバナヴァルムさん。

 マジかよ。人類が待望する不思議パワーが、寝て起きれば手に入るという。

 もしかして『魂技(ソウル)』って、あまり希少なものでもないのかな?

 とにもかくにも、バナヴァルムには感謝しなければ。

 ん?それなら、もしかして――


 (なあ。マイさんって『魂技(ソウル)』獲得してたのか?)

 (そうであろうな。でなければ我の前でおきた現象の説明がつかん。よほど恵まれた『魂技(ソウル)』を獲得しておったのだろう)


 やっぱり。もしかして俺の魂を呼んだ術式とかも『魂技(ソウル)』によるものだったのかな?

 どちらにせよ、マイさんにも感謝しなければ。


 (さて、『魂技(ソウル)』についてはもうよいな?次は――)

 (あ。ごめん。一つだけいい?)


 さっさと次の話題に移ろうとするバナヴァルムを止める。

 『魂技(ソウル)』については訊きたいことが色々あるが、重要な部分をきいていない。


 (さっき魂の定着と同時に『魂技(ソウル)』を獲得できるっていったが、やっぱり使用法は自分で研究とかしなきゃダメか?)


 たとえどんな便利能力を持っていても、使えなければ意味がない。

 ある日突然人間が空を飛ぶ力を得ても、力を手に入れたことや、使用法が解らなければ空は飛べないだろう。


 (案ずるな。『魂技(ソウル)』の獲得と使い方は魂が答えてくれる)


 どうやら『魂技(ソウル)』の獲得時に、念話とは違う内側から響く声が聞こえてくるんだとか。

 聞こえるというよりも”思い出す”という方が正しい感覚で、原理などは解っておらず、とりあえず”魂の声”と呼称されているらしい。

 『魂技(ソウル)』の使い方も自然と理解できるというが、なにそれ凄い便利。

 最新の家電を買ったはいいが、使い方が解らずに四苦八苦していた生前とは大違いである。

 

 (もうよいな?次は”魔素”についてだ。魔素とはこの世界を覆う力だ。用途は多岐にわたり、この世界において魔素は重要な役割を担っているともいえる)

 (あーなるほど。魔法とかに使うやつね)

 (……やけに理解が早いではないか)

 (え。ああ。俺のいた世界って魔法とか竜とかの伝承が沢山あるんだよ。転生もその一つだな)

 

 ゲームやマンガではお決まりであろう”魔素”。

 正確には魔法の元になるエネルギーってやつかな。MP(マジックポイント)ってやつだろう。

 マンガやゲームをやりこんだ俺には、もはや常識と言っていいレベルだ。

 まあバナヴァルムには、ゲームやマンガの知識だといっても理解できないだろうし、伝承ということで誤魔化しておいた。実際に魔法や竜等は伝承によって伝わっているし、あながち嘘というものでもないしね。

 バナヴァルムも、「マイが、理解は早いだろうと言っておったのはこういうことか…」と、勝手に納得してくれたようだ。


 (ふむ。少々時間が余ったな。貴様。身体はどこまで動くようになった?)

 (ん。そうだな――)


 どうやら俺の理解が早いことで時間が余ったらしい。

 バナヴァルムが身体の具合を訊いてきた。再び身体へと意識を移し確認する。

 

 (お。足の方に感覚が戻ってきてる。動きは――全身が少し動く程度か。口とかはまだ動かないな。)

 (なるほど。そこまでいけば一晩で魂の定着は完了するだろう)

 (一晩か。長いような短いような)

 (阿呆。本来なら十日かかる見込みだったのだぞ。貴様の異常な適合速度で我が苦労しておるわ)


 なにやら怒られてしまった。別に俺が何かやったわけでもないんだがな。

 しかし後一晩かかるとなれば少し暇だな。

 

 (せめて周囲が見えたらな……)

 (ん?おお。忘れておった)

 

 おっと。思考が漏れてしまった。

 バナヴァルムと雑談したおかげか、思考と念話の区切りがつくようになってたのだが、少々気が緩んでしまったようだ。

 しかしバナヴァルムが何か思い出したようだ。


 (貴様に『魔力反響』という技術を教えよう。これは周囲に自身の魔素を放出し、周囲を把握するというものだ。異世界人なら解るであろう?音の反射――超音波のようなものと考えればよい。もっとも、『魔力反響』を使うには魂の定着が完了してからだがな)


 俺の周囲が見たいという要望に応えようとしてくれたのだろうか。バナヴァルムが『魔力反響』という周囲を把握するための技術を教えてくれた。

 教えてくれたのはありがたいが、あくまで魂の定着が完了するまでの暇つぶしとして、視野を手に入れたいのだ。

 多分。バナヴァルムは今後のことを想って教えてくれたんだろう。善意で教えてくれただけに否定しずらく、お礼だけ言っといた。


 (それと、似たものとして『竜眼』があるが、これは目が動かなければ話にならんな。そもそも貴様に使えるとは思えんしな)


 俺の礼に気をよくしたのか、まくし立ててくるバナヴァルム。てか、後半俺のこと貶してない?

 『竜眼』。字面からして竜しか使えそうになさそうだ。

 一応目は動くので試してみよう。


 (『竜眼』ってどうやるんだ?駄目元でやってみたいんだけど)

 (なに?貴様は我の話を聞いておらんのか?駄目元であろうが、目が動かなければ話にならんと――)

 (動くよ)

 (ん?)

 (だから。目。動くって)

 

 そういえば、バナヴァルムには目が動くこと言ってなかったな。

 バナヴァルムに最初から目が動いていたことを伝えると――


 (貴様は馬鹿か!なぜもっと早くいわんのだ!)


 怒られた。

 どうやらこの世界でも社会人の基本、『報・連・相』は大事らしい。


 (だって何も見えないし……)

 (当然だ。ここは洞窟の奥。肉眼で見える光など無いわ!)


 えぇ…。当然とかいわれたよ。

 そもそもここが何処だか教えてもらってないんだが。

 あまりの理不尽に、怒りを通り越し呆れてしまう。

 しかし、ここは光も届かぬ洞窟の奥とは。

 そこで一つの疑問が頭を過る。


 (なあ、バナヴァルム。俺の魂の定着が終わったとして、俺はどうやってこの洞窟から出ればいいんだ?)


 恐らく『魔力反響』はすぐに使えるようなものではないはずだ。

 全くと言っていいほど視覚がつかえない状況で、どのように俺は外界に出ればいいのだろう。

 まあ、用意周到なバナヴァルムのことだ、今回も何か脱出路を確保しているであろう。


 (…………)


 待て。何故そこで黙る!?

 まさか――


 (わ、我は悪くないぞ!マイがこの計画(プラン)を考えたのだ!)


 どこぞの親善大使みたいなこと言い出したぞこの竜。


 (おいおい。どうすんだよ。まさか、『魔力反響』を習得(マスター)するまで洞窟に籠ってろ、なんて言うなよ?)

 (そ、それも一つの手ではあるが……。そ、そうだ!貴様。目は動くのであろう。『竜眼』は使えぬか?)


 冗談で言ったつもりだったのだが、一つの策として採用されてた。恐ろしや。

 そして苦し紛れに『竜眼』を使えるか訊いてきた。

 いや。駄目元でやってみたかっただけだよ?

 そもそも『竜の眼』が人間に使えるとは到底思えないしなぁ。


 (使えるかどうかの前に使い方が解らねーよ)

 (そ、そうであったな。ううむ…しかし、実は我は使い方など意識したこと無いのだ。なにせ、何時の間にか自然と出来るようになっていたからな)


 肝心なとこで抜けてんな、この竜!

 しかし、バナヴァルムに当たっても現状は変わらない。

 どっちにしろ苦労するのは俺なのだ。どうにかして視覚及び、視覚に準ずるものを確保しなくては。

 とりあえず、『竜眼』にチャレンジしてみる。

 目に力を入れてみたり、遠くを見ようと、色々試してみる。

 すると、今まで暗闇しか写さなかった俺の目に、キラキラする砂のようなものが現れた。

 なんだ、コレ?


 (おい。なんかキラキラする砂のようなものが見えたんだが?)

 (なんだと!まさか、貴様本当に『竜眼』を?他には何か見えぬか?)

 

 とりあえず、現れたキラキラを凝視してみる。

 すると、少しずつだが、キラキラが増えだし、洞窟の天井と思わしき岩肌が見えた。


 (おお!天井が見えたぞ!)

 (やはりか!貴様が見たのはこの空間に漂う魔素だ。魔素どうしの反響によって、一部だけだが天井が見えたのだろう)

 (えっ。ってことは――)

 (貴様は間違いなく『竜眼』を保有しておる。『竜眼』は魔素や魔力を見ることができ、真実を見抜く力を宿しておる)


 なんということでしょう。無理だと思っていた『竜眼』が、簡単に手に入ってしまいました。

 これで最低限の視覚は確保できた。諦めずに挑戦してよかった。

 まさかバナヴァルムの不手際で、ここまで大事になるとは。

 当のバナヴァルムは「ま、まあ。計画通りだ。クハハ…」と言って誤魔化している。

 結果論だが、何とかなりそうだし良しとするか。

 

 (魂の異常な速さの定着と『竜眼』の保有。貴様は我が永き時の中でも、最も理解の及ばぬ存在だ)

 (褒め言葉として受け取っとくよ)

 (抜かせ。阿呆が)


 バナヴァルムの呆れた声。それでいて、どこか嬉しそうであった。

 さて、そろそろかな。

 そう思うと同時にバナヴァルムが告げる

 

 (時間だ。これ以上は憑依が厳しくなるであろう)

 

 とうとう時間がきたようだ。もう少し、このどこか抜けた竜と話ていたかった気もするが、引き留めるのも悪いだろう。

 

 (そんじゃ、サクッと憑依してくれ)

 (随分と軽いな。我としては、貴様に命を預けるのが心配になってきたぞ)

 (心配になったとこで、他に選択肢もないんだろ?だったら気負わずにサクッと終わらそうぜ)

 (焦るな。最後に我から二つほど餞別をやろう)


 おや。バナヴァルムが何かくれるらしい。

 

 (まず一つ目は、魂の定着が完了してからだが、我の身体の近くにある武器を持っていくがいい。我には無用の長物だったが、貴様の役にはたつだろう。二つ目が貴様に”名”くれてやろう)

 (名前?名前ならもうあるぞ)


 そういえば、バナヴァルムに名乗ってなかった。

 ずっとバナヴァルムが”貴様”と俺をよんでいたのは、そういうことだったのか。

 そこで俺は改めて自分の名前――「新城 正人(しんじょう まさと)」――を名乗ろうとして――


 (それは前の世界の貴様の名であろう?前の世界の貴様は死んだのだ。ならば、この世界での名前を名乗らなくてはなるまい)

 

 そういって、俺の考えを否定した。

 なるほど。確かにそのとおりだ。前の世界での俺――「新城 正人」は死んだのだ。そして転生した。いわば、記憶を持ったままリセットしたのだ。それならば、新しい名前も必要だろう。

 強くてニューゲームである。

 そう考えると、何故だかヤル気が湧いてきた。


 (確かにな。なら、ここは一つ頼むぜ。あ、変な名前はやめてくれよ)

 (安心しろ。まともなのを考えておる)

 (ホントか?どんなのだよ)

 (焦るではない。それに関し、一つ頼みがあるのだ)


 なにやら勿体ぶるバナヴァルム。

 ちょっと怖くなってきたぞ。

 そして頼みってなんだ?

 

 (貴様と同じく、我も転生する身だ。そこで、我の転生が完了しだい、我にも新たな名を授けてほしいのだ)

 

 ああ。納得。俺が新しい名を名乗るなら、バナヴァルムも新しく名乗る必要があるのか。

 まあ、大した頼みでもないし、時間もありそうだから大丈夫だろう。 


 (わかったよ。いつになるか分からんが、それまでに何か考えとくよ)

 (頼んだぞ。それと、名付けの時の注意点だが、転生してすぐに、貴様自身が直接名付けるのだ。間違っても、貴様以外の者に名付けさせるではないぞ)

 (ん?なんで?)

 (本来、ある程度の魔力を有する者同士での名付けは、一種の契約のようなものなのだ。主に主従の関係を確立するときなどに利用されておってな。貴様以外の者が、転生したての我に名付けを行うと、我は名付けを行った者に、強制的に主従の関係を結ばされるかもしれんのだ)

 

 ほう。これはおもしろい話を聞いた。

 どうやらこの世界では、名付け一つにも色々と効果があるらしい。

 

 (って、ちょっと待て。主従の関係だと?それだと俺がお前の従者になるじゃねーか!冗談じゃないぞ!)

 (心配するな。それはある程度の魔力を持っておるもの同士での話だ。貴様は魂が肉体に定着しておらず。我は魂が肉体から離れようとしておる。どちらも魔力など無いも同然よ)

 

 そういって、バナヴァルムはクハハと笑った。


 (でも、お前はいいのか?)

 (ん?なにがだ?)

 (だって、転生したお前に、俺が名付けるんだろ?それだと――)

 (ああ。そのことか。案ずるな。我は貴様に名を授けた。その事実があれば、逆に貴様から名付けされようとも、主従の関係は成立せんのだ)

 (あ。そうなんだ。転生してすぐにってのは?)

 (名付けとは、魔力が大きい者が小さい者に行うのが道理なのだ。転生時ならば、我の魔力も無いも同然だろうが、時間と共に我本来の魔力を取り戻していくだろう。いつかは貴様の魔力を追い抜いてしまう。そうなってしまえば名付けが行えなくなってしまう。と、いうわけだ)


 別に魔力差関係なしに名付けたらいいんじゃねーの?と思ったが、たぶん出来ない理由があるのだろう。そうじゃなきゃ、こんな長々と説明しないだろうし。


 (さて。もうよいな。では!貴様に名を授けよう!

 貴様の名は、我が二つ名である『純白の叡智(アカシックブラン)』より『アラン』の名を!

 そして我が名より『バルム』を与える!

 これより貴様は『アラン=バルム』を名乗るがいい!)


 アラン。

 アラン=バルム。

 それが俺の名前。

 名前を付けられた瞬間、心の奥でカチリと何かがハマったような気がした。


 (アラン、か。うん。いいね。気に入ったよ)

 (クハハ。当然であろう?)


 してやったり、とバナヴァルムがこちらに問いかける。

 そして俺の答えを待たずに続ける。

 

 (では改めて。アランよ。我が魂、貴様に託すぞ)

 (さっさと転生しろよ?ずっとお前のお守をするのは勘弁だぜ?)

 (無論だ)


 その言葉を最後に、バナヴァルムとの念話は途切れてしまった。

 当初の目的どうりに、『半竜核』になり、俺に憑依したのだろう。

 おしゃべりな奴だったので、いなくなると少し寂しくなってしまう。まあ、転生が終わればまた会えるのだ。しばしの別れだと思い、気にしないでおこう。

 さてと、話し相手がいなくなり、本格的に暇になってしまった。

 とりあえず『竜眼』の練習でもしようかと思ったが、急激に襲い掛かる強烈な眠気。

 そういえば、こちらに転生してから、緊張してばかりだった。

 肉体は動かずとも、精神は疲労していた。

 だからなのか、暇という心の余裕が生まれたことで、緊張の糸が緩み、眠気が襲ってきたのだろう。

 どのみち、身体が動くようになるまで一晩かかるのだ。ならば、今のうちに休息をとるのも悪くないだろうと、俺は襲い掛かる眠気に、その身を委ねたのだった。



 

 最古より存在する竜――”純白の叡智(アカシックブラン)”バナヴァルムの消失は、世界に激震をもたらした。 

 そして、それら全てを巻き込み、世界を翻弄する存在が生まれたことを、知ることができた者はいなかった。

 もっとも、そのような存在が生まれたことを知ったとして、現在、とある洞窟の奥で爆睡している者と結びつけることは、不可能に近いだろう。

導入部終了です。

次回から検証&探索編です。

気長にお待ちください。

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