序章 ~死亡と転生~
初投稿
読書好きとファンタジー好きが昂じて投稿しました。
間違い等多々あると思います。広い心で読んでいただければ幸いです。
とある秋の夕暮れ時。日課の散歩をしている俺の後ろを、二つのモフモフがついてくる。
薄茶色の毛皮を身にまとう我が家の愛犬、「藍菜(愛称:アー)」と「涼蘭(愛称:スー)」である。
二年前、捨てられていた彼女たちを拾ったのが出会いだった。(ちなみに二匹ともメス)
独身貴族の俺に癒しを与えてくれる、我が家の大切な家族だ。
そんな可愛らしい彼女達がトコトコ追従する人物。俺こと「新城 正人」は考える。とはいってもその内容は…
(今日の晩飯どーすっかなー…)
という至極ありふれたもので、ほぼ毎日考えるであろうその問いに、今日もまたコリもせずに答えをさがすのであった。
そんな日常の一風景。だが、そんな平和を貪る俺に接近する異質。
否。それは異質でもなんでもなく、歓喜していようと絶望していようと、退屈であろうと臨時であろうと、何時いかなる時でもすぐそばにあるもので……
「ワンワンッ!!」
突然吠えだした藍菜に驚き振り向く。なにせ彼女達は全くといってほど吠えないのだから。
「どうし――」
そういって藍菜の見ている方へ視線を移すと…
「あ――」
場所は大通りの交差点。そこで信号待ちをしている俺達の横から、大型バスがこちらに突っ込んでくる。
速度は法で定められたモノを優に超えている。理解は一瞬。死ぬと。
人の頭は不思議なもので、危機に直面すると短い時間が長く感じるという。だからだろうか、俺は死ぬまでの数秒で様々な情報を手に入れる。
意識を手放した運転手。焦りと恐怖に包まれた客席。そして俺に飛び掛かる涼蘭。俺を突き飛ばそうとしたのだろう。だが現実は非情である。涼蘭の体躯では俺を突き飛ばす事はできず、ただ体制を崩しただけ。そんな俺に駆け寄る藍菜。
世界は合理の塊だ。全ては繋がっていて、一つの結果となる。そして結果は収束し、新たな結果を創る。
誰が悪いかなんて関係ない。不変であり、絶対だ。それは今、俺に迫る鉄塊が証明している。
そんなことは…
(そんなことは知ってるんだよ!けど…納得はしたくねぇ!)
納得して、受け入れてしまえば、目の前の家族はどうなる?
(せめて…コイツ等だけでも!)
しかし世界の合理に俺の思いは与されない。
そして、激痛を伴い俺の意識は呆気なく途絶えたのだった。
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ずいぶんと長く眠っていた気がする。体が重い、というより動かない。目は開けているはずだが光が入ってこない。俺はどうなった?生きているのか?藍菜と涼蘭は?無事なのか?ここは?病院?いや、背中にゴツゴツした感触。地面か?事故直後?普段聞こえる喧噪が聞こえない。鼓膜も破れたか?だが痛みは感じない。一体どうなっている?
数多の疑問に押し潰されそうな俺に…
(……ん?……ほぉ…クハハッ…初めての試みだが、うまくいったようだな)
そんな≪声≫が聞こえてきた。
声といっても、空気を伝わり鼓膜を震わす声ではなく、体の内部から響いてくるような不思議なものだった。
そんな常識では理解できない現象にでくわし、今まで俺を押し潰さんとしていた疑問はすべて吹き飛んだ。
(…えっ?はっ!?えっ!?)
(体にはまだ慣れんか?混乱もしておるようだな。まずは落ち着くがよい)
再び声が聞こえてくる。なにやら俺に落ち着くよう促しているようだ。
いやはや。どうやら頭を強く打ったようだ。事故を生き残ったはいいが、幻聴が二度も聞こえてくるとは…。もしや後遺症になっていないだろうか。今後の生活が心配である。
(……この状況で我を無視するか。しかも我を幻聴よばわりとは…。肝が据わっているというべきか、ただの阿呆か…)
ははは。幻聴が呆れてやがる。こりゃ重症だな。
それか、実はもう死んでいて、今話しかけているのは天使だったりして。なんか偉そうな話し方だし、神様の可能性もあるな。地獄かもしれないって?俺のような善良な一市民が地獄に堕ちるわけがないのだ。日頃の行いなのである。
(貴様…。いつまで我を無視するつもりだ?そもそも我は幻聴ではない。
知を司りし原初の竜。
世界を彩る『七色の王』の一光。
『純白の叡智』の『バナヴァルム』とは我のことよ!!)
現実逃避をしていた俺に、幻聴さん(仮)がシビレを切らしたようだ。自己紹介までしてきたよ。
……なんとなくだけど理解してたよ。これが現実だって。でも、少しくらい現実から目を背けたっていいじゃない。人間だもの。
それで?竜?バナヴァルム?無視するなとも言ってたが、口が動かなければ会話もできん。
(会話など念じれば可能よ。さっきからしているであろう?)
(……ソーデスネ。それで、結局あんたは誰なんだ?さっき竜だとか”七色の王”とかいってたけど?超能力者な医者で異常思考ってのは勘弁な)
(?医者はわかるが、超能力者?異常思考?それは異世界の言葉か?なかなか興味の尽きぬことをゆうではないか!やはり異界人はおもしろい!)
なにやら俺の言葉に興味を示しだした幻聴さん。しかし異世界に異界人、ね……。
(なぁ、えっと……、バナナルムだっけ?おれは――)
(バナヴァルムだ。間違えるではない)
訂正された。しかもちょっと怒ってる。
茶々はよしたほうがいいかな。
(バナヴァルム。質問がある)
(本来ならば我が説明してゆく手筈なのだがな。まぁ、大して変わらんだろう。時間もまだある。知っている限りでは答えようではないか。)
(じゃあ単刀直入に聞くが、おれは『転生』したのか?)
そうバナヴァルムに問いをなげた。しばしの沈黙。そして――
(…………驚いたぞ。貴様、自身が転生したのを理解したのか?どうやって?貴様本当に異界人か?まさか術式が失敗?…いや……しかし……。ならば再度……。だが時間が……)
俺の問いに驚き、なにやら考え込むバナヴァルム。
俺が転生を理解した理由だが、簡単なことだ。
我らが祖国。日本が世界に誇る娯楽の頂点。そう、『聖書』である。(注:個人の感想です)
独身貴族の俺は、藍菜達を愛でながらも、聖書を読み耽っていた。
そして今回の場合――
なんらかの理由で死亡
↓
死んだはずなのに意識を取り戻す
↓
竜とかなんかあり得ないものがでてくる
↓
異世界や異界人とかの呼称
つまり、物語における『お約束』なのだ!
最初は奇跡的に生き残り、意識はあるが体が動かない状況のところを、不思議パワーをもった医者が冗談半分で話しかけた(我ながらアホなこと考えるな…)のを警戒したが、エスパーが通じなかったり、異界人という単語。確信した。
間違いない。
そう――ここは――
(異世界だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!)
(ぬわっ!?ど、どうした。突然叫びおって。ただでさえ貴様の存在で困惑しているというのに、これ以上我を驚かすではない!)
(あ、ごめん)
感動のあまり思わず叫んでしまった。心の中で。
しかしバナヴァルムにも聞こえたようで、少々驚かしてしまった。
むぅ。この念話というもの、頭での考えと心で念じるものの線引きが中々難しい。最初からだが、思考がちょくちょくバナヴァルムに漏れてしまっている。何とかしなければ、俺のプライバシーが丸見えになってしまう。
なんて考えていると――
(ぐぬぅ…これ以上疑問を抱え込んではキリがないわ。時間も惜しい。貴様、これよりは我の話のみ聞くがよい)
随分とまぁ上からものを言ってくる。ちょっと浮かれすぎたか?仕方ない、少々癪だがその提案に乗るとしよう。
(別に構わないけど、その前にさっきの質問、答えてくんない)
(ふん。確かに貴様は”転生”しておる。何故転生したことを理解したのか、それも含め答えてもらうぞ)
(やっぱ転生してたのね。俺。知ってたけどさ。そうそう、あと一つ質問いい?)
(構わん)
(俺と一緒に死んだ奴ってどうなった?)
(我が召喚したのは貴様のみ。共に死んだ者など知る由もない)
……そうか。転生したのは俺だけか。
つまり、藍菜達は――
不思議と悲しくはない。ただ、胸を虚無感が埋め尽くす。
悲しいはずなんだけどな。起き上れば彼女達が駆け寄ってくる気がするせいかな。そんな事はもうないのに。
なんだかなぁ……。
(おい。なにを呆けておる。死んだ者の中に番でもおったか?)
(いや、そんなんじゃぁないんだけどね…)
(違うならば何だ。呆けていては我が困るのだ。貴様には我の意思を理解してもらわなければならないからな。ほれ、しっかりせんか)
まったく、人の気も知らないで……。
仕方あるまい。藍菜達のことは置いとくとして、今は目の前のことに集中するとしよう。なにせ、目も利かず、体も動かないのだ。できる事といえば、バナヴァルムとの念話くらいだ。
(はいはい。わかりましたよ。話を聞けばいいんだろう。ただし、質問はさせてくれよ?お前の話聞いてるだけで全部理解できるとは思えないからな)
(構わんぞ。しかし我の話を優先させてもらう。よいな)
(まぁ、さっきから時間気にしてたしな。できればでいいよ)
(うむ。では最初に――)
こうして、突然始まった異世界での、俺の第二の人生の幕は開けた。
私と仕事の気分にもよりますが、週一投稿を目指します。(信用しないで)
間違い等ありましたらご指摘いただけると、幸いです
今後の糧とします