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29. そしてご近所へ

 邪神を倒し、十数日が経過していた。

 まあ倒したといっても五百年とかの時間が経てば、また儀式で復活できるような状態になってしまうみたいだけれども……


 邪神を復活させた組織も、なんかボスが死んだみたいで勝手に瓦解したとか盗賊フェアリーが言っていたな。

 蛇が自分の尾っぽをくわえたようなマークをシンボルに使う集団で……、この集落のフェアリーも、あの組織を追いかけていたみたいだ。


 俺は邪神を倒したことで、『竜血』の上位版の能力みたいなのも手に入れていた。

 魔法で調べてもらい、性的能力、相手に快感を与える能力も高まっているということがわかった。

 試していないのでわからないが、媚薬を飲まずとも集落の女性を全員相手にできるぐらいの力もあるそうだ。


 今いるのは、長老の小屋。

 もうすぐ俺が長になるので、少し経てば『俺の小屋』になるかもしれない場所だが。


 後ろにはノエルとエクスタが控えていて……

 前には袋を両腕に抱える長老、それと彼女のお付きをしているエクスタ似のフェアリーがいた。


 エクスタ似のフェアリーは、長老が邪神にとり憑かれていたときに近くで倒れていたフェアリーだな。

 ホムンクルスとかいう、魔法によって作られた生物……アンドロイドみたいな存在らしい。

 長老が、いたく彼女を気に入ってしまい、フェアリーの集落の一員して面倒を見ている。


「ファーライン、これが『イリカの花』だ……」


 長老が、袋に入っているらしい花を差し出す。

 受け取る、俺。


 彼女の顔が赤いな……

 目があうとツイっとそらされてしまった。


 スキル『フェアリーの王』の影響だろう。


 男性が持つことで強いスキルになるんだそうで、支配下のフェアリーは、俺の顔を見るとときめきを覚えるんだそう。

 態度がいつもと違う。

 常に仁王立ちしているようなフェアリーだったので、微妙に違和感があった……


 長老からこのスキルをもらったせいで、集落のフェアリー全員が俺の支配下に入ったみたいだ。

 スキルの返還もできず……そのため、恋する乙女的な態度を見せるフェアリーが、ちょぼちょぼいた。

 長老によると、オスでありさらに強い力を持つ俺を、スキルが気に入ってしまったんだろうとのこと。


 スキルで得た愛ってのは素直に喜べないからな。

 年齢が近い、ノエル、エクスタあたりのフェアリーの様子が変わっていないのは幸いだった。

 どうも、もともと俺への恋愛感情が強かったフェアリーは、態度があまり変わらないらしい。


 ちなみにノエルの母、ミュッカさんもスキルの影響を受けていた。

 『なんかファー君がおいしそうに見える!』とか言っていたから。

 何で、あのフェアリーはいつも斜め上に飛んでいくんだろうな……

 寝ている間に食べられてしまわないかと心配している。(かみちぎられる的な意味で)


「ありがとう」


 花を受け取った俺。

 もじもじしている長老にお礼をすると、彼女が、にへらーっと笑顔を見せた。


 長老が採って来た『イリカの花』。これはアリスが欲しがっていたものだった。

 彼女の弱い皮膚を傷めない毛染め薬、それを作るために必要なのだとか。


 フェアリーの集落でもハチのエサとして育てていたらしいが、邪神が復活したときに全部しおれてしまったらしい。


 同じように、ここらへんの木や草花も黒くしなびれてしまったそうだからな。ハチが蜜を集められず、けっこう大変だ。


 まあ、邪神の復活によるフェアリーの死傷者が少なかったのは幸いだったが。

 例の、罪人が当たると塩になってしまう光の柱……。あれで集落を攻撃されたようだが、被害者も一体だけだったとか。


 同じように光の柱を当てられた人間の町では二百、三百の単位で被害が出ているようなので、彼女達が他人にするイタズラも、そう大したものではないようだ。


「それじゃ、花を渡してきます」


 俺はノエルやエクスタと一緒に、アリスと彼女の父が泊まっているはずの小屋へと向かう。

 人間が使える、客人用の建物だ。


「おーい、アーリスー! アリスの父ー! いるかー?」


「あっ、ふぁーちゃん!」

「おーう!」


 彼らが出てきた。


「ほら、アリスが探していた『イリカの花』だぞー」


 花がぎゅうぎゅうに押し込まれた小袋をアリスに渡す。


「わあ、ありがとう!」


 袋の中身を見て、アリスが笑顔になった。

 少ないんじゃないかと思っていたんだが、問題なかったようだ。


「これからも花は増やすつもりだから、定期的に届けるよ!」


 彼女は、邪神と一緒に戦ってくれた仲間だからな!


「それで……」


 俺は改まって、彼女と彼女の父を見る。


「俺、この集落の……他のフェアリー達と一緒に暮らそうと思っているんだけど……、良いかな?」


「うん……さびしいけど、しょうがないよね……」


 アリスが下を向く。

 彼女の肩を抱くアリスの父にも聞く、俺。


「アリスの父も……良いよな?」


 彼の答えが大切なのだ。


「ああ……俺達が、何かを言える立場じゃないからな。……だが、アリスが(さみ)しがるから……ときどきは顔を見せてくれよ!」


 イエス(言質)を勝ち取った俺は、後ろに立っていたノエル達のほうを向く。


「よし、家主から許可はいただいたぞ! フェアリー族、全二百八十三名! 集落の大移動を開始する! 新しい集落の場所は、アリスの家、ないし、その周囲の森だ!」


「えっ?」

「うん?」


「イエッサー!」

「こ、これで良いんでしょうか……」


 アリス達の疑問の声と、ノエルとエクスタの返事をする声が重なる。


「さあ、がんばるぞー!」


 家主から『(アリスの家で)他のフェアリー達と一緒に暮らす許可』をもらった俺は、気合を入れて集落のほうに飛び立つ。

 まあ、アリス親子は『(俺が、この集落で)他のフェアリー達と一緒に暮らす許可』だと思ったのかもしれないが。


 今、俺達が暮らす集落の状況は最悪で……


 周囲の草木が邪神のせいで黒くしおれてしまい、元に戻らない。

 ハチのエサとなる花も育てにくくなってしまった。


 魔物も呪いをかけるやつとかが出るようになって、解呪のできる『神官』や『僧侶』のいない我らがフェアリー族には、とても危険な土地になってしまったのだ。

 呪いにかかっても、強い祝福を持つ長老や俺がしばらく抱き枕になってあげたりすると解呪できるそうだが……、毎回そんなことをするのは面倒だしな。


 魔物があまり出ない土地を見つけるのも作るのも大変で、そういうわけでアリスの家周辺に集落を移動することにした。

 アリスの家は、とある人間の村近くに建っているため、魔物の出現もほとんどない理想の土地なのだ!


 少しいたずら好きな問題はあるけれど、幸運の運び手と言われるフェアリーが三百体ほど家の周りに住み着くことになったんだから、村の人間達も喜ぶと思う。

 アリスとも別れずに済むから俺も喜ぶし、みんなハッピーだな!


 長となる俺の家は、風雨を最もしのぎやすい、アリスの部屋の中に建てようか……

 体が弱い彼女のため、寒い日でも暑い日でも快適な場所に、彼女の部屋は作られているから。


 ――こうして俺達フェアリーは、集落を移動することになった。

 そうして三ヶ月後……


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